花火と盆
 舞台上に男が座っている。
 場所は山中の墓地であり、地元の子供たちからは花火大会の穴場とされている
 男の奥には墓石があるが、男に隠れて良く見えない
 そこに女がやってくる

男 おう、遅かったじゃんか
女 ごめん。混んでてさ、道。高速も人が一杯で。
男 こっちも混んでたけど、おかげさまで無事にこれたよ。

 間

男 ありがとうな、毎年。
女 約束したのはあたしだし。
男 そりゃそうなんだが。

 間

男 どう?仕事は。
女 もうしんどいよー。なんせ上司と折り合い悪くてさ。同期とか、先輩がフォローしてくれるからあそこいられるもん
男 仲間に恵まれたんだ
女 そう。あの人たちいなかったらとっくにやめてたね。給料もそうでもないしー。

 男、笑って

男 お前、高校の時も似たようなこと言ってたよな。バレー部の顧問と折り合い悪くて
女 そうそう。同期や先輩後輩と協力しながら戦ったっけ
男 その割には俺に泣きついてくること多かったけどな
女 もういいじゃん、その話は。
男 そうだな。うん。そうだ。お前の周りは良いやつばっかりだ。俺も含めてな
女 うぬぼれんじゃねー

 笑いあう二人。間が空いて

男 なぁ
女 何?
男 あれからどうよ。新しい良い人は――
女 やめて

 間

女 言わないで、その先は。
男 俺のこと気にしてるんなら見当違いだぞ
女 そうじゃない。そうじゃないんだけど
男 なんだよ歯切れ悪いなぁ。
女 そんなに聞きたいの?私の話
男 そりゃ、このタイミングでお前と会ってんだから、気になるさ
女 もう……

 間があいて、女が何か話そうとした瞬間、打ち上げ花火の音がする

男 お、始まったな
女 昔っからそうだけど、打ち上げ花火はここから見るに限るわ
男 俺もそれを見越してここにしてもらってるからな
女 好きなの?花火
男 嫌いな奴がいるか?
女 男の人って嫌がりそうなものだけど
男 いやなのは人ごみの方だよ
女 そうなの。
男 そうなの。だから、ここから見るのは別なの。
女 人ごみじゃないから?
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