三面記事の三人

(さんめんきじのさんにん)
初演日:2008/3 作者:よしりん
『 三面記事の三人 』  作:よしりん



  ■ シーン1


          開幕

          場所は、公民館の会議室のような何の変哲もない一室
          中央に円卓と、それを囲む何個かの椅子

          そこに、向かい合って座る二人の男

          神妙な表情
          手にしたアタッシュケース

          一体何が始まるのか?

          その内の一人が、おもむろに口を開く


一条   只今より、「三面記事同好会」を開催します。お互いに礼!


          それを合図に、謎の儀式が始まる


二宮   先手! 一条ヒロト!


          一条 呼びかけられると、アタッシュケースから
          一枚の紙切れを取り出し、静かに読み上げる


一条   『プッチンプリンを食べたくて。無職 43歳 逮捕』

二宮   む〜‥。


          どうやら新聞の見出しを切り抜いたものらしい
          何とも意味不明な文章であるが‥

          二宮 感に堪えぬといった面持ちでその言葉に聞き入る


一条   後手! 二宮タカシ!


          二宮 呼びかけれると、同じように切抜きを取り出し、
          書かれた文章を読み上げる


二宮   『都会でツチノコ発見か! 正体は巨大なタクアン!』


          一条 それを受け、更に次の手を打つ


一条   『失くした指輪 チクワの中から発見!』


          二宮 負けじと応戦する


二宮   『上司一喝! 営業マン タイで武者修行!』

一条   『女子高生の間で流行? これが噂の「もっくりさん」!』

二宮   『飲んだら飲むな 乗るなら乗るな! 日本一呂律の廻らない警察官!』


          激しい攻防が続く


一条   『究極のエコ! 走らない車!!』

二宮   『シリーズ堂々完結! 「ランボー 怒りのホットヨガ」』

一条   『人気ゲーム 海賊版にご用心! 「パチモン ゲットだぜ!」』

二宮   『イナバ物置、101人目の男現る!』

一条   ‥‥。

二宮   ‥‥。


          謎の押し問答が終了
          二人 姿勢を正すと‥


一条   結構なお手前で‥。(ぺこり)

二宮   恐れ入ります。(ぺこり)

一条   さて。


          ここで格式ばった雰囲気が一変


一条   モノも揃ったし。そろそろ‥‥いいかな?

二宮   いいんじゃね? いっちゃいますか。

一条   よし! じゃあ、始めるか!


          二人 そう言いつつ、テーブルの上を片付け始める



  ■ シーン2


二宮   しっかし、今日もなかなかいいネタが集まったな。面白くなりそうだ。

一条   だな。大いに期待できる。まずは‥ コイツでどうだ。


          などと言いつつ、新聞の切り抜きの中から一枚を選ぶ


二宮   『プッチンプリンを食べたくて。無職 43歳 逮捕』。

一条   どう思う?

二宮   どうって‥。とりあえず、43歳で無職はヤバイだろ?

一条   確かにヤバイ。まぁ、人生いろいろだからな。それは可能性として十分ありうる。しかし、だ。

二宮   逮捕っつ〜のがねぇ。

一条   そう。そこが引っかかる。

二宮   プリンで逮捕? 何だろね?

一条   とにかく、「プッチンプリン」と「無職」の因果関係、そして何故「逮捕」に至ったのか? その辺を
     我々で掘り下げていこう。

二宮   掘り下げる ‥か。


          二宮 しばらく考えてから口を開く


二宮   無職だからなぁ。シチュエーションとしては‥ やっぱ「包丁持ってコンビニ強盗」かな?

一条   まあ、王道といえば王道だけど‥。

二宮   無一文でさ。店員に包丁突き付けて、「金を出せ!」‥‥ではなく。もう刑務所入りを覚悟してたん
     だろうな。金より何より、彼が愛してやまなかったプリンを‥。

一条   ‥というトコロか。

二宮   だね。

一条   いやいやいや。普通に考えていけばそうなるんだけどさ、やっぱりもう一捻りほしいな。それじゃあ、
     ちょっと普通過ぎる。

二宮   そうかぁ‥。じゃ、じゃあじゃあ、こういうのはどうだ?

一条   よし、聞こう。

二宮   え〜とな。まず、この男には病弱な母親がいるんだ。

一条   病弱な母親! 来たね〜。

二宮   寝たきりでさ。男が無職なのも、介護と仕事の両立に疲れててさ。ある日うっかりミスをやっちゃっ
     て、運悪くリストラされちゃったんだな。

一条   ほうほう。

二宮   こんなご時世だ。そう簡単に再就職なんてできるはずもなく‥。スーパーの試食品で空腹をしのぐ日
     々‥。

一条   うおっ‥。悲しすぎる‥。

二宮   そんな彼の目の前に、山積みされた特売のプリンが‥!

一条   ここでプリン登場か。

二宮   男はそれを見て思ったんだ。「かあちゃん、痩せたなぁ‥」って。

一条   ‥‥。

二宮   「最後にまともな食事を食べさせてあげたのは、一体いつだったっけ? それなのに『かあちゃん、も
     うおなかいっぱいだよ』なんて見え見えの嘘ついて‥。たまにはかあちゃんに腹いっぱい食べさせて
     やりてえ‥」 気が付くと男は、プリンを片手に店を出ていた‥。

一条   うわぁ‥。やっちゃった‥。

二宮   男は我に返った。無意識だったとはいえ、万引きは犯罪。許されるものではない。かといって、今更
     戻る訳にも‥。

一条   悩ましいな。

二宮   「大丈夫、バレてない」 男は自分にそう言い聞かせ、帰り道を急ぐ。

一条   大丈夫か? 大丈夫なのか!

二宮   (ガラガラッ)「かあちゃん、ただいま」 「あらコウチャン、おかえり‥ゴホゴホ」 「無理するな
     って。寝てろよ」 「すまないねぇ」 「そうだ。かあちゃん、これ‥ 買ってきたんだ。食べなよ」
     「お前は本当に、やさしくて親孝行な息子だねえ」 「待ってな、かあちゃん。今プッチンするからな」
     ‥と、皿の上にプリンを構えたその時!

一条   その時!

二宮   (ピンポーン♪)「あら、誰かしら?」(ガラガラッ)「警察の者ですが」 「え?」 「万引きの現
     行犯で逮捕します。機動隊、突撃―!」 「うわーっ!」


          二宮 何十人もの機動隊員に取り押さえられるイメージ


二宮   「かあちゃーん!」 「コウジー!」 「かあちゃーん‥!」 「コウジー‥!」男はそのまま連行され
     ていく。病弱の母親を残して‥。『プッチンプリンを食べたくて。無職 43歳 逮捕』。


          ここで二宮の妄想完了
          現実世界に戻ってくる


二宮   ‥っていう話はどう?

一条   う〜む‥。

二宮   結構自信あんだけど、どうよ?

一条   確かに力作だ。その点は手放しで評価したい。

二宮   だろ? だろ?

一条   母にプリンを食べさせられなかった息子と、息子を目の前で逮捕された母親の対比。まさに悲劇。な
     かなかのテクだ。

二宮   わかる? わかるぅ?

一条   しかし、だ。惜しむらくは、致命的なツメの甘さがあるという事だ。

二宮   え、マジで?! カンペキじゃん、今の! どこがマズイのよ!

一条   (つっと切抜きを差し出し)見出しをもう一回読んでみろ。

二宮   ?

一条   『プッチンプリンを食べたくて。無職 43歳 逮捕』。 「食べたくて」だ。

二宮   ‥あっ!

一条   今の話だと、プッチンプリンを「食べさせたくて」じゃなきゃ不自然だろう?

二宮   あ‥ あ〜‥。(何度も読み返し) ‥だよなぁ。「食べさせたくて」だよなぁ‥。

一条   なまじ話のデキが良かっただけに、残念だよ。

二宮   くそ〜‥。じゃあよ、お前ならどう解くんだよ!

一条   オレか? ちょっと待て。オレだったら‥。


          一条 少し考えたあと、口を開く


一条   そうだなぁ。まずはもう一回、見出しを見てみよう。

二宮   ほう。

一条   短い文章だが‥ 「プッチンプリン」と「43歳」というヒントが二つも隠されている。

二宮   ヒント? そうか?

一条   でだ。確か、プッチンプリンの出始めが〜‥。


          一条 目をつぶり、記憶をさぐる


一条   確か、1972年。

二宮   おいおい。そんな事まで憶えてんのかよ?!

一条   知識の蓄積は推理の基本だからな。で、男が43歳で1972年という事は〜‥。

二宮   発売当時、8才くらいか。

一条   そう。8才といえば、そういう新しいオヤツを食べたい盛りだ。しかし、家庭の事情でプリンの味を
     知る事もなく、そのまま大人になってしまった訳だ。

二宮   ほうほう。

一条   そんな彼が43歳という働き盛りの時期にリストラ。その絶望感から生きる気力を失い‥ 彼は富士の
     樹海に向かったんだ。

二宮   樹海きたー! それでそれで?

一条   地方の廃れたローカル線。樹海行きの切符を片手に、男は駅のホームに佇んでいた。

二宮   ‥‥。

一条   そんな時、ふと目に入る駅の売店。そして、たまたま見つけてしまった「プッチンプリン」。男は思
     った。「プリンの味さえ知らずに、俺の人生は終わってしまうのか‥」 男はプリンを食べてみたい衝
     動に駆られた‥。しかし、なけなしの全財産は切符を買うのに使ってしまっている‥。そして、ゆっ
     くりと近づいてくる電車‥。

二宮   ‥‥。(ごくり)

一条   男は覚悟を決めた。そして動く! 電車のドアが開くタイミングに合わせて、プリンを強奪! そのま
     ま電車に飛び乗った! 閉まるドア! 迫り来る追っ手をシャットアウト!

二宮   何という知能犯!

一条   ガラガラの席に腰を下ろして一息つくと、ゆっくりと蓋をはがし、そっとプリンを口に含んだ‥。す
     ると‥。

二宮   すると‥?

一条   「う ま い !」

二宮   てーれってれー!(※今の若い人は「ねるねるねるね」のCMを知らないかもしれません)

一条   男はかきこんだ。この世にこんなに美味い物があったのかと。その蕩けるような甘さと柔らかな喉越
     しは、乾ききった男の心を潤した。そして‥ 「生きたい」という感情が芽生え出したんだ!

二宮   ほほ〜う。

一条   途端、死ぬのが馬鹿らしくなった。リストラされたくらいで、何をそんなに思いつめたのか? そんな
     自分を笑い飛ばせるほど、男は蘇った!

二宮   おめでとう!

一条   「何故死ぬ事がある! また一から始めよう!」 そんな決意とともに駅に降り立ち‥‥待機していた
     鉄道警察とご対面。『プッチンプリンを食べたくて。無職 43歳 逮捕』 ‥っていう話はどう?

二宮   おお〜、パチパチパチ。(感嘆)

一条   ストーリーとしてボリュームもあるし、矛盾点も少ないと思うんだけど‥。

二宮   もうこれで決まりだろ?

一条   そうかい?

二宮   いや、ホントにスゲーわ。完成度高ぇ〜し。あと、プリンの発売日と男の年齢を絡めた辺りは流石と
     思ったわ。あれは真似できねえ。

一条   推理がこの会の醍醐味だからねえ。限られたヒントから、うまく読み解いていかないと。

二宮   なるほどな〜。え〜と‥ 「発言者 一条ヒロト」「プリン食べて、人生再出発」 「時代考証が大事」
     ‥ っと。


          などと、議事録のようなものに書き綴る


二宮   ふん。こんな感じか。で〜‥ 次は? どれいく?

一条   じゃあなぁ〜‥。これとかどうよ?


          一条 切抜きの中の一枚を差し出す


二宮   『失くした指輪 チクワの中から発見!』 ‥か。何かイイねえ。「指輪」と「チクワ」で微妙に韻踏
     んでる辺りが。

一条   やっぱり見出しには、そういう語呂の良さとか語感のセンスも求められるからな。その意味でも、な
     かなかクオリティが高いといえる。

二宮   しかし、チクワの中から指輪か‥。これまた奇っ怪だな。どういうシチュエーションだぁ?

一条   確かにこれは難しいな。

二宮   う〜ん‥。

一条   う〜ん‥。


          二人 しばらく沈黙
          ややあって


二宮   はい!(挙手)

一条   どうぞ。

二宮   指輪の持ち主がさ、チクワ工場で働いてる訳よ。気付かない内に指輪を材料の中に落としちゃってさ。
     そのまま出荷しちゃうのよ。で、持ち主がたまたま自分のトコの製品を買って食べたら、何と中から
     指輪が〜! ‥ってのはどう?

一条   ‥‥。

二宮   ダメ?

一条   う〜ん‥。まず、無理があるな。チクワって練り物だろ? 材料の中に落としたら、練り工程で粉々に
     なるはずだ。

二宮   あ〜‥。

一条   それに、チクワ工場で失くしてチクワから見つかるって、そのまま過ぎるだろう。もうちょっと頑張
     ろうよ。

二宮   だよな〜‥。

一条   ‥‥。

二宮   ‥‥。



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