七夕
7月 七夕

登場人物
 志々雄
 蟹江

 志々雄、中央に座って短冊を書いている。腹が減っている様子。骨落ちている。
 蟹江、部屋に入ってくる。

蟹「だめだ。都内にちょうどいい竹なんて落ちてやいないよ」
志「おい〜、竹がないと短冊を吊るすところないじゃないか」
蟹「めんごめんご。それはそれとして、志々雄は願い事何書いたの?」
志「いやあ、それは恥ずかしいなあ」
蟹「恥ずかしがることもないでしょ。ちょっと見せなさいよ」

 蟹江は、志々雄の短冊を取る。

志「あ、やめろよ」
蟹「”ごちそうが食べられますように”。…しょうもない」
志「いいだろう、そんなこと」
蟹「今日び、小学生でもそんなこと書かないわよ。あたいたち大人なのよ」
志「そんなこと言ってもよ」
蟹「ごちそうって言ったって、この骨」
志「おととい良い牛肉を手に入れたから食べたんだ」
蟹「ごっつい牛肉食べてるじゃないの。ごちそうって何よ」
志「お前を食べてみたいんだ(言ってからハッとする)」

 蟹江は射手にハートを撃ち抜かれる。そんな音がこだまする。

志「え、なに、どうした。大丈夫?」
蟹「(大人の色香をふんだんに出しながら)おい、先にシャワー浴びてこいよ」
志「なんでお前がそっち側なんだ」
蟹「じゃあ、あちき先にシャワー浴びてくるね」(行こうとする)
志「いや。水道管が壊れていて、数日間は断水状態なんだ」
蟹「!そんな。さすがにシャワーを浴びずに…。それはそれで、それはそれでアリ」
志「(話題を変えるように)お前は何書いたんだよ」
蟹「いや、それは本当に無理(トーンを変える)」
志「いいじゃねえか。人の見といてそりゃないぞ」
蟹「本気(マジ)なヤツなのよ!」

 志々雄は圧倒される。

志「…ええ?分かったよ、裏山から竹取って来るから待ってろ」

 志々雄は出ていくが、戻ってくる。
 蟹は待っている間、悩みながら自前のイエス/ノー枕をイエスにする。とか。

志「そうだった!」
蟹「ど、どうしたの」
志「この部屋、扉も窓も全部壊れていて、内側からは開かないんだ」
蟹「はあ!?あたいが来た時に外から開けたじゃないの。その時言ってくれれば」
志「忘れてた」
蟹「単純に頭が弱すぎよ!そもそも、水道管もそうだけどボロすぎないこの建物」
志「渋谷で4万のアパートなんだから仕方ないだろう!!」
蟹「なんでそんなに安いのよ」
志「前の住人が白骨死体で見つかったっていわくつきのアパートなんだとよ」
蟹「またなんでそんな場所を借りようと思ったのさ」
志「駅から徒歩10分、目の前にはコンビニ。かわいい乙女ばかりが働くカフェもあるとなれば、どんな物件と天秤にかけたってここを借りるさ」
蟹「とりあえず、誰かに電話でもして開けてもらいましょう」
志「デンワ?」
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