ちくたい!

(ちくたい)
初演日:2017/7 作者:露見良

ちくたい!

露見良(つゆみりょう)

■ 登場人物
翔子(しょうこ)・・・高校3年生女子。演劇部副部長。主人公。漫画家志望。
遙(はるか)・・・高校3年生男子。演劇部部長。
未那(みな)・・・高校2年生女子。翔子の幼なじみ。
橋本(はしもと)・・・高校2年生女子。放送部と演劇部を兼部。眼鏡をかけている。

■舞台
基本は高校の演劇部室。後半、地区大会会場の客席に場面展開する。パイプイスに厚手の布をかぶせるなど工夫すれば安価かつ簡単に再現できると思われる。

■照明
地明かりが基本。ホリ幕を使用。通常は夕方の雰囲気で明るめのオレンジ系でホリを染める。途中シルエットの指示があるが、ホリの数値を上げ、地明かり、フロントを消すことでシルエットになる。

■音響効果
BGMは特に指定なし。後半、地区大会のアナウンスを放送で使う。あらかじめ録音したものを使用してもよいし、袖で舞台監督等がマイクを持ってしゃべってもよし。

1 金曜日
 薄暗い部屋。中央に鏡がある。鏡の前にめがねの少女が立っている。鏡にその姿が映っている。

少女(橋本)「あーあ、結局今日も誰からも相手にしてもらえなかった。私って根暗でブサイクでオタクだから、だれからも相手にしてもらえない。」

 どことなく棒読みっぽいような、練習中のような台詞の言い回し。
 少女はがっくり肩を落とす。鏡の像も同じように肩を落とす。

少女「こんな私生きててもしょうがないよね。死のうかな。」
鏡の少女(未那)「ちょっとまった!」
少女「え? だれ?」
鏡の少女「死ぬことないよ、生きていようよ!」
少女「え? もしかして鏡の中の私?」
鏡の少女「そう、僕は君。鏡の中の君だよ! 君とは正反対の存在なんだ! まずめがねをかけてない!」

 そういって鏡の少女(未那)はめがねを捨てる。

鏡の少女「性格はネアカでボーイッシュ、一人称は私でなくボク、おまけにオタクじゃないよ。見た目は君と同じだけど、みんなからかわいいと言われる人気者!」
少女「えー! 私そっくりなのに私と正反対の性格!」
鏡の美少女「名前だって正反対だよ、君はこのはでしょ、ボクは、はのこ!」
少女「はのこちゃん! 私のそっくりさんの名前ははのこちゃん!」
鏡の少女「今日から僕が君の代わりに学校に行ってあげる! そして君を人気者にしてあげる!・・・って、もうやだ、こんな脚本!」

 一気に周囲が明るくなる。そこは演劇部の部室。演出の女生徒(翔子)がイスに座っている。

翔子「はい、ストップ。ちょっと、未那、まじめにやって。」
未那「まじめにやれないよ、こんな脚本じゃ。無理無理無理!」
翔子「今さら何? 地区大会まであと3週間あるかないかなのよ。まだいっぺんも通し稽古できていないのよ、大ピンチなのよ」
未那「こんなしょうもない脚本を上演する方が大ピンチだよ! ねぇ橋本さん、なんとか言ってよ、橋本さんもいやでしょ、これ。『ワタシ・イン・ザ・ミラー』。」
橋本「えーと、えーと、なんというか、あの、正確には2週間ちょっとです。」
翔子「未那、わがままはやめて。あと、幼なじみでも部活ではちゃんと敬語使って。」
未那「ふん、わかったよ、敬語使うよ。」
翔子「使ってないじゃない!」
未那「敬語使うよ、です!」
橋本「そういえば部長はどうしたんですか?」
翔子「遙? 遙は顧問の坂本先生に呼ばれて職員室に行ったよ。そういえば、もう1時間になるわね。長いな。どうしたのかな?」
未那「あ、部長帰ってきたよ」

 遙が部室に入ってくる。

橋本「あ、部長、おはようございます。」
翔子「遅かったね。何かあったの?」
遙「まあな。実は大問題が発生した。」
翔子「大問題?」
遙「結論から言うと、上演許可が出なかったんだよ。」
遙以外「えー!」
橋本「どういうことなんですか?」

 遙、荷物を置いてイスに座る。

遙「この脚本は我が校演劇部OBの作品と言うことは知っているよね。」
橋本「はい。たしか山本さんという人が高校時代に書いた脚本という話でした。」
未那「顧問の坂本先生がその山本さんて人に連絡したんですよね。だよね、翔子?」
翔子「そうよ。連絡取れなかったの?」
遙「いや、連絡は取れたんだが・・・上演を拒否されたそうなんだよ」
遙以外全員「えー! 」
遙「何度メール送っても返事が来ないから、先生電話かけたそうなんだよ。そしたら、この作品は闇に葬った作品だから許可は出せないって言われたそうなんだよ。」
橋本「闇に葬ったってどういうことですか?」
遙「先生が聞いたところによると、この脚本、山本さんが10年前に地区大会用に書いたものらしい。」
橋本「結構昔ですね。」
遙「山本さんの脚本は地区大会候補として最終選考まで残ったらしい。」
未那「へー。」
遙「で、ある既成脚本と最終選考を戦ったんだって。」
翔子「既成脚本?」
遙「そう。既成。高校演劇セレクションに載っている『ラーメン屋、故郷に帰る』だよ。」
翔子「え? あの『ラーメン屋、故郷に帰る』?」
橋本「確か、15年前くらいの全国大会最優秀作品ですよね?」
未那「結構昔の脚本だよね。小道具の携帯がガラケーだったりするもん。でも去年どっかの高校が地区大会でやっていたよ。確かにあれ面白かったよ。」
橋本「最後のシーン感動的ですよね。『妙に優しいわね、私に惚れた?』」
遙「『フ、何言ってんだ。おまえこそ俺に惚れたんじゃねーのか? 』」
橋本「『恋愛か。そうね、悪くないわね。でも、とりあえず、今は豚骨ラーメンに命をかけるわ。』」
翔子「あれはよくできた脚本よね。2人芝居だからウチみたいな弱小演劇部でも上演できるし。ただ大道具は大変そうよね。ラーメン屋のセットと電車のセットがいるもんね。」
未那「ラーメン屋とタワシ・イン・ザ・ミラーだったら、ラーメン屋だね。」
橋本「未那ちゃん、タワシじゃなくてワタシ。」
遙「確かに、脚本のできは雲泥の差だ。誰が見たってラーメン屋の方ができがいい。」

 一瞬、奇妙な間。

遙「ということで、当時の部員たちも同じようにラーメン屋を選んだんだ。ただ、その時の選考過程がかなりえげつなかったらしくてね。」
橋本「どういうことですか?」
遙「山本さんによると、最終投票の前に、それぞれの脚本の長所と短所をみんなで出し合おうということになったらしい。」
翔子「全国大会最優秀作品と、この脚本を比較したの? それはちょっときつくない?」

 一同うなづく。

遙「そういうこと。結局山本さんの脚本に対する悪口大会になってしまったらしいんだな。」
橋本「つらいですね・・・」
遙「その結果口論が発生、売り言葉に買い言葉で山本さんは演劇部を退部したそうなんだよ。」
翔子「あーなんかわかる。ありそう、そういうの。」
遙「で、山本さんはそのときに脚本を全部捨てたそうなんだよ。」
翔子「え? 全部廃棄?」
未那「それ違うよ、1冊だけ部室にあったよ。だから今回選ばれたんだよ?」
遙「そう。だから山本さんも驚いていた。たぶん、たまたま廃棄を免れたものが残っていたってことなんだろう。それはともかく、そんなわけことだから、山本さんは上演を許可するどころか、今ある脚本は全て捨てて欲しいと坂本先生に言ったそうだ。」
翔子「・・・」
未那「えーじゃあ、どうすんの?」
橋本「部長、こっそり使っちゃいましょうよ、題名変えればバレませんよ?」
遙「橋本、お前しれっと恐ろしいこというな。
翔子「橋本さん、著作権侵害やると、最悪複数年の出場禁止もありうるんだよ。」
橋本「え! そうなんですか?」
未那「そうなんだって。」
翔子「仕方ないね、もう一度脚本選定からやり直しね。今部員4人だから、当日の音響・照明のオペ考えるとやはり2人芝居に限定されるかな。」
遙「2人芝居ってなかなかないんだよなあ。」
橋本「部長、当日のオペだったら、私放送部からヘルプ呼べます。」
未那「あ、そうか、橋本さん放送部にも入っていたっけ。」
橋本「うん。放送部の子だったら音響機器の扱いに慣れているし、照明だってプランさえこっちで考えれば当日の操作は簡単だからね。」
未那「よかった、橋本さんが放送部兼部で。」
遙「となると、最大4人まで役者可能か。新入部員が入ってくれてたならなあ・・・。」
翔子「仕方ないじゃない、ウチの学校運動部強いし。」

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