恋文代筆社

(こいぶみだいひつしゃ)
初演日:0/0 作者:響 奏子
 『恋文代筆社』 (コイブミダイヒツシャ)
  
       作  響 奏子(ヒビキ カナコ)
  
  
    ■登場人物
  
    高場 符良礼(タカバ フラレ)……男子高校生
    窓野 杏(マドノ アン)……女子高校生
    加賀 美穂(カガ ミホ)……恋文代筆社の女社員
    箔愛 恋(ハクアイ レン)……恋文代筆社の男社員
    須井 真純(スイ マスミ)……恋文代筆社のパート、おばあちゃん
    茂木 はな(モテギ ハナ)……恋文代筆社の隣にある本屋の娘、小学6年生
  
  
  
   【以下、本文】
  
  
  ■プロローグ
  
   
     真っ暗な舞台に、高場が浮かび上がる。手紙を読み上げる。
  
  M高場 俺は、恋とか愛とかいうものについて真剣に考えたことはなかった。
      多分、17年間生きてきて、初めて真剣に考えた。その結果、
      俺の中で恋というものは、当たり前のように近くにあって、
      ふとした時に見つかるささやかな幸せだと思った。例えば、
      雪解(ゆきど)けの頃に顔を出す花。それまで雪で覆われて見えなかったけど、
      案外近くにずっとあったんだなって微笑んでしまうような。例えば、
      ずっと昔に大好きだった本。忘れて本棚にしまっていたそれを再び手にした時、
      昔得た高揚感や満足感を思い出す。そういう、小さいけどすごく大切な、
      大切にしたい思いっていうのが、俺の思う恋。俺は、そんな想いを君に抱いていたことに気付いたんだ。
      俺も、君の花や本でありたいと思った。俺は、なれるかな。なってもいい?
      好きです。俺は、君のことが好きです。
  
    高場、照明が消える。別の場所で加賀に照明。
  
  M加賀 恋文代筆社。それは、お客様の心に寄り添い恋をサポートする会社。
      私達は、お金を貰って愛を育む、いわば恋のキューピットなのです。
  
  
  ■1
  
     恋文代筆社、事務所。デスクが2つ。中央にテーブル、それを囲むように二つのソファー。ゴミ箱や、ファイルの入った棚などがある。
     バランスボールがあり、くつろげそうなスペースもある。
     事務所の扉をノックし、おそるおそる高場が顔を出す。
  
  高場 「あのー、すみませーん……?…………すみませーん」(途中、反応がなくて戸惑いつつ)
  須井 「はぁい?はいはいはい……(奥からダスターを持って出て来る)あらぁ、お客様かしらぁ。
      どぉぞぉ、今ね、綺麗にしたばぁっかりだからねぇ。お入りくださぁい」
  高場 「は、はあ。ええと、ここ、恋文代筆社で合ってますよね?
      ラブレターを、代わりに書いてくれるって聞いたんですけど」
  須井 「はい、そぉですよぉ」
  高場 「ホントに!?本当に、書いてくれるんですか?ラブレターを???」
  須井 「そぉですよぉ。何かおかしいことがあるかしら?」
  高場 「え……いやぁ……今までそんな仕事があるって知らなかったもんで」
  須井 「さあ、そこに座って座って。今お茶を淹れますからねぇ」
  
     高場、促されソファーに座る。
     須井、衝立の向こうに消える。お茶を用意する。
  
  高場 「おばあさん……か。こんなおばあさんがラブレター代筆すんの?
      やべぇ、絶対やべぇぞこれ……ババ臭いラブレターでヤブレターとかヤだぞ……?(客席に向かって)
      あの〜……(須井に向かって)」
  須井 「はぁい?」
  高場 「ここって、どういう会社なんですか?ぶっちゃけ、ラブレターの代筆なんて
      仕事として成り立ってるんですか?」
  須井 「ええ。恋文の内容を一緒に考えたり、持ち込んでいただいた恋文の添削もやってますよぉ。
      ああ、最近はええと、何だったかしらねぇ、携帯の……なんとかインとかで伝える告白のお手伝いもしていますねぇ」
  高場 「LINEですね?」
  須井 「そうそれよぉ。ちゃんと仕事として成り立ってますよ。お客様いっぱいいますしねぇ」
  高場 「へえ……?それは意外かも……。ええと、代筆は、その……貴女が?」
  須井 「いいえ、私はここの雑用をしているだけだからぁ、やるのは社員さんよぉ。
      今ね、社員さんみぃんな喫茶店にお昼食べに出ちゃってるからぁ、
      けど、もうすぐ帰ってくると思うわ。あら、噂をすれば……」
  
     勢いよく扉を開け、漫画片手にズカズカと入ってくる茂木。
  
  高場 「!?えっ、え、え???コド……え!?コドモ……」(茂木を指さしながら)
  茂木 「あ?誰あんた」
  高場 「お、お前こそ何だよ、いきなり入って来て……あ、もしかして貴方のお孫さんですか?
      それともここの社員のお子さん?」
  茂木 「は?違うし。つーかそこ邪魔」
  
     茂木、高場の座るソファーに乗っているクッションを取ろうとする。高場、退く。
     茂木、当然のようにクッションを取るとバランスボールの近くでくつろぎ始める。
     高場、不審な目を茂木に向ける。
     事務所の扉を開け、男女が入ってくる。
  
  加賀 「ただいま戻りました」
  箔愛 「ただいまで〜す」(機嫌よく)
  須井 「お帰りなさい、加賀さん、箔愛さん。お客様がお見えになっています」
  加賀 「!お待たせしてしまい申し訳ございません」
  高場 「あ、いえ……!」
  加賀 「わたくし、恋文代筆社の加賀美穂と申します。どうぞ宜しくお願い致します。
      ところで、お客様、本日はどのようなご用件で?」
  
     加賀、高場の向いのソファーに座る。
  
  高場 「えっと、ラブレターの代筆をお願いしたくて。……できますか?」
  加賀 「畏まりました。恋文の内容はお考えになっていないということで宜しいですか?」
  高場 「ああ、はい、そうです。まだ何も」
  加賀 「分かりました。では、これから簡単に質問をさせていただきます。
      硬くならずに、素直な気持ちでお答えください。箔愛、用紙持ってきて」
  箔愛 「はーい、加賀さん♪あ、初めまして。僕は箔愛恋といいます、よろしくね。
      君のお名前は?」
  高場 「高場です。高場符良礼……」
  茂木 「フラレ……?フッ」(嘲笑)
  高場 「な、何笑って……ていうか君、誰なんだよ。子供がこんなところにいていいわけ?」
  茂木 「あんたこそ、いっちょまえに色気づいてこんなところに来ていいわけ?」
  高場 「ハァ!?何で初対面のお前にそこまで言われなきゃならないんだよ?!何様だお前」
  茂木 「……フッ。別に」
  須井 「こぉらぁ、はなちゃん、お客様にそんなこと言わないの。静かにね」
  茂木 「はいは〜い」
  須井 「ごめんなさいねぇ。この子はねぇ、隣の本屋の娘さんなのぉ。
      茂木はなちゃん。たまにここで預かってるんですよぉ」
  高場 「ああ、茂木書店の……」
  加賀 「箔愛」(目で合図)
  箔愛 「はい。……フラレ君、だったね?早速で悪いんだけど、ラブレターを出したい相手の名前、
      年齢、職業、性別を教えて。あっ、個人情報を悪用する気はないよ。
      ラブレターを書くのに必要になるだけだから」
  高場 「はあ……ええと、名前は諸星愛、俺と同じ高校二年生、17歳かな。
      女……ていうか性別聞く必要あります?」
  箔愛 「え?超重要でしょ。うちでは、男から男に宛てたラブレターも取り扱ってるから。
      君が男の子に恋をしている場合だってあるだろう?」
  高場 「いやないです、違います。へえ……そういうのってちょっと想像できない……。
      この仕事ってやっぱ大変ですか?ほら、男から男に、だったりとか」
  箔愛 「大変?そんなことないよ。どの仕事も等しく楽しいよ。素晴らしいことじゃないか。
      一人の人間が全く別の人間を好きになって、その想いを伝える。感動的だ。
      そのお手伝いができること、僕は誇らしく思うよ。
      どんな人がどんな人に宛てたものだろうと関係ないさ」
  高場 「はぁ……?」
  加賀 「話が逸れてる。箔愛、次」
  箔愛 「(咳払い)フラレ君はその諸星さんのどんなところが好き?」
  高場 「うーん、可愛くて、いつも笑ってて明るい感じがいいなと思う、かな。
      みんな男子は諸星さんが好きっていうくらい人気者だし。そんなとこですかね」
  箔愛 「恥ずかしがってちゃ駄目だよ、思ってることを思ってる通りに言って
      くれなきゃ。もっとあるでしょう?溢(あふ)れ出る諸星さんへの気持ち、
      秘めた思い、ときめき、きらめき!」
  高場 「え……いや、それくらいです、本当に」
  箔愛 「そうですか?では、どうして諸星さんのことを好きになったんでしょう?
      きっかけを教えてください」
  高場 「きっかけ?えーと、何だったかな。大したことじゃないんですけど」
  箔愛 「はいはい」(うきうきしながら)
  高場 「友達と彼女ほしいって話してて、クラスで一番可愛いのは誰かって話になって、
      俺含めて皆がほとんど諸星さんって言ったんですよ。
      で、諸星さんは彼氏いないらしいって話を友達から聞いて、もしかしたらいけるんじゃないかって」
  箔愛 「ん〜……つまり、お友達と話している時に諸星さんが好きだと自覚した、ということかな?
      それまでに諸星さんと話したことは?」
  高場 「んー、そんなには。あっ、でも、最近席が近くなって、掃除当番一緒です」
  箔愛 「なるほど!?では、掃除の時はどんな話を?」
  高場 「これといって特には」
  箔愛 「本当?勿体ない!なら、掃除する時に手伝ってあげたりとか、
      優しくしてあげたことくらいはあるよね?さりげない気遣いで、彼女の心を射止めようと!」
  高場 「うーん、あからさまにアピールしてもカッコ悪いかなと思って、そんなにこっちから働きかけることは……。
      正直、脈ないですし」
  箔愛 「えー……」
  茂木 「脈がない……死んでる」
  箔愛 「はなちゃん、死んでるのは僕の頭だよ。こういう時ってどうしたらいいと思う?」(げんなりして)
  茂木 「笑えばいいと思うよ」
  箔愛 「笑えないよぉ……ごめんね、フラレ君。
      僕ではフラレ君のラブレター代筆できないかもしれない!」(泣きそうになりながら)
  高場 「ええ!?何でですか!?」
  箔愛 「何でって……分からない!僕だってこんなにイマジネーション湧かないの初めてだもの!
      何も思いつかないんだ!ああ、僕の愛の泉は枯れ果ててしまったのか!?加賀さん、僕
      辞表を出さないといけないのかもしれません!」(大袈裟に泣きながら)
  高場 「そこまで!?」
  加賀 「落ち着きなさい、箔愛。貴方は何も悪くありません」
  箔愛 「か、加賀さん……!」
  加賀 「高場さん。ハッキリ言わせていただきます。貴方の話から私は、諸星愛という女性が
      どのような人物なのかサッパリ読み取ることができませんでした」
  高場 「ええ?そんな、名前とか簡単なことしか聞かれてないんだし当然じゃないか。実際に見てるわけでもないし」
  加賀 「そうですね。では訂正いたします。私達が知りたいのは、高場さん、貴方から見た諸星愛さんです」
  高場 「俺から、見た……?」
  加賀 「貴方の目、貴方の脳を経由した諸星愛という存在。貴方の思う諸星さんを知りたいのです。
      貴方の愛する諸星さんのことを」
  高場 「あ、愛する……」
  加賀 「先程までの答えの中で、我々は貴方の中の諸星愛さんを理解することはできませんでした。
      これでは、恋文を書くことはできません」
  高場 「そ、そこをなんとかするのが貴方達の仕事じゃないんですか!?」
  加賀 「交際。それはいわば自分と相手で交わす契約の上で成り立ちます」
  
     加賀、棒を持つ。須井、箔愛がホワイトボードを持ってくる。
  
  加賀 「ラブレターとは、全国の就活生が頭を悩ませしたためるエントリーシートや履歴書と同じ。
      企業はそれらによって就活生を知り、選び、ゆくゆくは社員として雇用、契約をし、お金を払う。
      つまり、高場さん、貴方は諸星愛という会社に就職したいと考える就活生と同じなのです」(ホワイトボードを指しながら)
  高場 「あの、すみません、まだ高校生なんで、就活とかちょっとよく分かんないです……。
      エントリーシートと履歴書って何か違うんですか?」
  加賀 「履歴書はその名の通り、履歴を書きます。つまり、今まで自分がどのようなことをしてきたか、
      ということです。エントリーシートはどちらかというとこれからどうするか、ということ、
      会社に入って何がしたいか、どのような自分になりたいかなどを書きます。
      ラブレターにはその二つの要素が必要になります」

面白いと思ったら、続きは全文ダウンロードで!
御利用機種 Windows Macintosh
E-mail
E-mail送付希望の方は、アドレス御記入ください。


ホーム