オオカミの耳はロバの耳

(おおかみのみみはろばのみみ)
初演日:0/0 作者:青川 十三
○登場人物○
狼父さん
王の遣い
王様
マッカ




○森の中の狼父さんの家
   森の獣たちの声、木々のすれる音。
   赤ん坊の泣き声がし、狼父さんが『とおりゃ
   んせ』を鼻歌う声がする。
   薄暗い舞台中央に椅子。
   暫くして赤ん坊が泣き止むと、鼻歌も終わる。
   ドンドンドンと扉を叩く音。
   
王の遣いの声 おたのもうします。扉を開け
   て下さい。王の遣いで参りました。扉を開け
   てください。
   
   下手から王の遣いがやってくる。
   
王の遣い あのー、入っちゃいますよー。
   ・・・ここかぁ・・・。
   
   王の遣い、店内を嬉しそうに見回し、椅子に
   座ったりする。
   
狼父さんの声 アー、プチトマト! またや
   られた! 無い! プチトマトがプチトマト
   が!
   
   王の遣い、その声の方に寄っていく。
   
王の遣い あのー。
狼父さんの声 プチトマ、アッ。
   
   背中に赤ん坊を背負った狼父さん、意味不明
   な言葉を言いながら武器(箒など)で襲い掛
   かる。
   
狼父さん ○×□△○×。
   
   王の遣いはびっくりして逃げ回る。
   
王の遣い ウワー、ちょっと待って。何です
   か。
狼父さん おりゃああああ。
王の遣い ちょっと待って下さい。
狼父さん 待て待てって、こっちゃもう数ヶ
   月も待ってたっぺよ。
王の遣い はぁ?
狼父さん それなのにお前たちゃ、出来上が
   ったそばから!(襲う)
王の遣い (逃げる)なんなんですか一体。
狼父さん 裏の畑のプチトマト。お前ら取っ
   たっぺな。やっとこさつぼみになったっての
   に、朝起きたら、今日も見事に荒らされてた
   っぺよ。(襲う)
王の遣い (逃げる)知らないですって。ち
   ょっと。
狼父さん 逃げるな。逃げるなって。(襲う)
   畑の肥料さしてやっから。おりゃぁぁ。
王の遣い ちょっと待って下さい。畑、畑っ
   て。ここは床屋じゃないんですか?(と床屋
   の椅子をアピール)
狼父さん トコヤ?
王の遣い そう聞いてきたんですけど。
狼父さん 床屋に来たっぺか。
王の遣い 違うんですか?
狼父さん 床屋に用があるっぺか?
王の遣い んだ。んだ。
狼父さん (武器を放る)ようこそいらっし
   ゃいました。
王の遣い え?
狼父さん さあ、どうぞどうぞ。
王の遣い ちょ、ちょっと、何ですか。
狼父さん どうぞどうぞ(座らせる)今日は
   どんな?
王の遣い え?
狼父さん 床屋が「どんな?」って聞いたら
   髪型のことでございましょう。
王の遣い (立ち上がろうと)じゃ、貴方が?
狼父さん (座らせる)何をご希望です? 
   アイパーですか? パンチですか? その不
   細工な顔には何をやっても同じだと思います
   が。(自分の頬を叩き)あああああ。また悪
   いことを言ってしまいました。お願いですか
   ら他の人には言わないでください。
王の遣い 言いはしませんが、ちょっと待っ
   てはくれませんか。
狼父さん じゃあカットでございますか。ど
   んな? さあ、どんな?
王の遣い いや、だからちょっと待ってくだ
   さい。(立とうとする)
狼父さん (立たせない)ええ。待つのは得
   意です。お客さんを一年待ちましたから。
王の遣い 大変申し訳ないんですが、私は客
   ではありません。
狼父さん 客でない? 客でないっぺか。
   
   と狼父さん、武器を拾い襲い掛かる。
   
王の遣い ファンなんです!
狼父さん (止まり)ファン?
王の遣い 狼少年ですよね。ほらっ、あのっ
   、狼来たって嘘ついて、ほんとに来た時には
   誰にも信じてもらえなかった。あの狼少年で
   すよねっ。
狼父さん (頭を下げ)その節は。
王の遣い 頭を上げて下さい。
狼父さん いえ、本当にご迷惑をおかけしま
   した。
王の遣い いいんですって。ほら、あの名台
   詞を聞かせては貰えませんか?
狼父さん 名台詞?
王の遣い 名台詞っていったら、あれでしょ
   う。「狼が来たぞー。狼が来たぞー。狼が来
   たぞー」
   
   狼父さん、耳をふさいで怯え出す。
   
王の遣い どうしました。
狼父さん 辛いんです。痛いんです。その言
   葉を聞くと胸が締め付けられてたまらないん
   です。私もあれで嘘がいけないことだと学び
   ました。
王の遣い そうでしたか、すみませんでした。
狼父さん はいっ、ふざけるなプチパイと思
   っています。
王の遣い (傷ついている)プチパイ・・・。
狼父さん ああああああ(頬を叩き)また悪
   い事を言ってしまいました。人には言わない
   で下さい。私はあれ以来、嘘がつけなくなっ
   てしまいました。思っていることが口に出て
   しまうタチになってしまったのです。
王の遣い 思っていること・・・。
狼父さん あああああ、またやってしまいま
   した。ですから時々失言致しますが、ご了承
   ください。
王の遣い ・・・そうですか・・・。(懸命
   に立ち直り)しかし、あの狼少年が、
狼父さん いや、あの、父さんです。
王の遣い 父さん?
狼父さん (背中の子供を見せ)はい。今は
   一児の父、狼父さんです。
王の遣い その狼父さんが、何故こんな森の
   奥深くで床屋をしているんですか。
狼父さん 父が羊飼いのかたわら床屋をして
   いたものですから。羊の毛を刈るのも人の毛
   を刈るのも一緒というわけです。
王の遣い こんな森の中でお客さんなんか来
   るんですか?
狼父さん ウッセー、ブス。(パチンと叩き
   )お黙りください。醜いお人。私は嘘がつけ
   ず、村から追い出されてしまったのです。人
   の世というのは、難しいものです。嘘をつい
   ても、つかなくても、爪弾きでございました。
王の遣い そうですか。
狼父さん あれ? でもなんで知ってるんで
   すか?
王の遣い え?
狼父さん あの事件の後、私がこの森の中で
   暮らすようになったことは世間の人は知らな
   いはず。
王の遣い あ、それはですね。
狼父さん やっぱり怪しいっぺ。(目を細め
   て)そういえば、胸にプチトマトを詰めてる
   ような。
王の遣い (わなわな)どうみても自前じゃ
   ない・・・。
狼父さん やっぱりプチトマトだ! そんな
   所に隠してたっぺか! プチトマト! 返せ
   ! プチトマト!
王の遣い プチプチプチプチ言うなー!
   
   王の遣い、逆切れして狼父さんに襲いかかる。
   そして追い詰めたその瞬間、赤ん坊が泣く。
      
狼父さん (胸に抱き)おおよしよし、泣く
   な、泣くな。よしよし。
   
   王の遣い、泣き止まない赤ん坊にあたふたし
   て「とおりゃんせ」を歌い出す。
   
   ♪とおりゃんせ とおりゃんせ 
   ♪ここは どこの ほそみちじゃ
   ♪てんじんさまの ほそみちじゃ
   ♪ちょっと とおしてくだしゃんせ
   ♪ごようのないものとおしゃせぬ
   
   赤ん坊泣き止む。
   狼父さん、最初は驚いていたが一緒に歌い出
   す。
   
   ♪このこのななつのおいわいに
   ♪おふだをおさめにまいります
   ♪いきはよいよいかえりはこわい
   ♪こわいながらも
   ♪とおりゃんせ とおりゃんせ
   
王の遣い 懐かしい歌です。マッカおじさん
   が子守唄代わりに歌ってくれた童謡ですね。
   
狼父さん マッカおじさん?
王の遣い ええ、私もマッカ園出身なんです。
   私も貴方と同じ孤児だったんです。ですか
   ら小さい頃からお噂はよく。
狼父さん 何だ。そうでしたか。
王の遣い 可愛いですね。
狼父さん そうでしょ。可愛いでしょう。
王の遣い この子のお母さんは?
狼父さん ・・・・・・この子・・・母親、
   いないんです。
王の遣い ・・・あ、そうだったんですか。
   すみません。私、余計なこと・・・。
狼父さん 宅急便で送られてきたんです。
王の遣い 宅急便!
狼父さん チャクバライって言われました。
王の遣い そんな馬鹿な!
狼父さん まさかコウノトリがペリカンだっ
   たとは・・・。
王の遣い 貴方勘違いしてますよ。その前に
   何かしたでしょ、女の人と、裸で。
狼父さん 女の人? 裸?
王の遣い ほらっ、めしべと。
狼父さん はい。
王の遣い おしべが。
狼父さん はい。
王の遣い こうあって。
狼父さん はい、あります。
王の遣い それがこう。
狼父さん はい?
王の遣い だから、そういうのしたでしょ。
   こう、ほらっ。
狼父さん あっ。
王の遣い それだ!
狼父さん でもお金をとられて終わりでした
   から。
王の遣い 売春じゃないですか!
狼父さん ルールが良く分らないですけど、
   そんなもんかなって。
王の遣い じゃあ、この子貴方の子じゃない
   かもしれないじゃないですか。
狼父さん 何言ってんだこらぁ! 可笑しな
   こと言ってんじゃねぇぞ。
   
   赤ん坊が泣き出す。
   
狼父さん おお、よしよし。お前じゃないん
   だよ。ごめんごめん、大きな声出して。(泣
   き止み)この子は、私の子です。私の子です
   。私の子なんです。・・・私はね、今までず
   っとあの嘘の罪を背負い、こんな森の奥深く
   で一人寂しく暮らしてきたんです。でもこの
   子が来てからというもの、今までの人生では
   味わったことのない、とても暖かい暮らしが
   始まったんです。やっと私は罪を償うことが
   できたのだろうか、やっと私にも幸せになる
   資格が出来たのだろうかと、そう思えるよう
   になったのです。この子は私の子なんです。
   私はこの子を命をかけて守ると、そう誓って
   生きてきたんです!
王の遣い そうだったんですか。変なこと言
   ってすみませんでした。あのぉ、その子、抱
   かせてもらっても宜しいですか?
狼父さん ええ。どうぞ。
王の遣い (抱き)子供って温かいもんなん
   ですねぇ。心の中までポカポカして、自分の
   子供なら、尚更なんでしょうね。
狼父さん 貴方にも恋人くらい、いらっしゃ
   るでしょう。当然。
   
   王の遣い、ズーンと沈む。
   
狼父さん ああ、すみません、すみません。
   あの、あのあの、用事、あったんじゃないで
   すか? マッカさんから何か?
王の遣い (立ち上り敬礼する)ビバ王様!
    実は私、第21代国王、バロイカ3世陛下
   からの勅命をうけたまわって参りました。ビ
   バ王様!
狼父さん (も敬礼し)ビバ王様! そのご
   命令とは?
王の遣い 森の中にたった一軒あるという、
   床屋。その者を王付きの床屋に任命致す。
狼父さん ハハー。お金がタンマリ、有難き
   幸せでございます。
王の遣い ご承知とあらば、早速、
狼父さん (髪切る準備をしようとする)ハ
   イッ、すぐに。
王の遣い 早速私と一緒に城へ参りましょう。
狼父さん え? 城? 私が?
王の遣い 当然です。
狼父さん ええええっ。私が行くんですか?
    ちょっと待った。この大自然の中で美味し
   い空気を吸いながら髪を切られたいと、そう
   いう趣向じゃないのですか?
王の遣い ぜーんぜん。
狼父さん じゃあ、なんで私などをお選びに
   なられたんでしょうかねぇ。他にいくらでも
   いるでしょう。町に行きゃ、カリスマ美容師
   さん達が。そちらに頼んで下さいよ。わたし
   ゃ、町へはちょっと・・・
王の遣い ちょっと何です?
狼父さん 私は、あのぉ、町へは・・・人々
   から追い出された身ですし。他の方に頼んで
   ください。
王の遣い 貴方しかいないのです。
狼父さん そんな、買いかぶらないで下さい。
   私はしがない狼父さんです。
王の遣い いえ、そうではなく。この国に床
   屋がいないのです。
狼父さん ハ?
王の遣い 貴方はご存じないかもしれないが、
   この国には床屋はもう貴方以外、いないの
   です。
狼父さん 何言ってんだブス。(頬を叩く)
   すみません。
王の遣い 王の髪を切った床屋は皆処刑され
   、次第に数が減ってしまったのです。
狼父さん 処刑?
王の遣い はい。王の髪を切って、首を切ら
   れました。
狼父さん 行がね。おら行がねぇぞ。(椅子
   にしがみ付く)
王の遣い 王のご命令です。
狼父さん ご命令でも・・・。
王の遣い 王に逆らうのですか?
狼父さん 逆らうも何も。命あってのものだ
   ねでしょう。
王の遣い それならばこの子は死ぬことにな
   りますよ。
狼父さん (色めき立つ)何?
王の遣い 人質です。この子を預かります。
   城に来なければ殺します。来ていただけます
   ね。
狼父さん ふざけやがって、返せ野郎。
   
   王の遣い、合図をする。
   周りを囲まれる音がする。
   
王の遣い 来ていただけますね。
狼父さん お願いですから、その子だけは、
   お返しください。お願いします。お願いしま
   す。
王の遣い お返しすることはできません。
狼父さん 私にはその子しかいないんです。
   それなのに連れて行くっていうんですか? 
   何でもしますから。そうだ。犬になります。
   貴方の犬になりますから。その子だけは。
王の遣い それならば、城にお越しください。
   先に待っていますから。
狼父さん 犬がよっ! お前こそ犬だ! 王
   の犬だ!
王の遣い そうですよ。私はあの方のためな
   らば、何でも出来ますから。
狼父さん いかねぇぞ。
王の遣い 貴方は守るべき家族がいらっしゃ
   る。それだけでも幸せにお思いになられた方
   がいいのではないですか?
狼父さん 何?
王の遣い それに貴方は来ます。嘘のつけな
   い方ですから。さっきこの子を命がけで守る
   とそうおっしゃいましたから。
   
   音楽が鳴り響く。
   狼父さん、客席へ行き怯える。(街へ出かけ
   て行った)
   マイクを持ってマッカ登場。
   
マッカ 大変長らくお待たせいたしました。
   これより、我等がバロイカ3世国王陛下のご
   入場でございます。せんべい食ってるあなた
   も、湯豆腐箸で食べようと、苦労してる貴方
   も、枝豆噛んだら中が入ってなかった貴方も
   、これだけは目ん玉ひんむいてよーく見てい
   て頂戴よ。それでは我等が王様のおなーりー。
   
   王様登場。頭に頬かむりを被っている。
   王の遣い、マッカ、跪く。
   王様、椅子に座る。
   三人で子供をあやしているところに、狼父さ
   んが舞台上に戻ってくる。(城にやって来た)
   
狼父さん (子供に気づく)あ!
マッカ お久しぶりね。オオの字。随分立派
   になったじゃないの。
狼父さん マッカさん! お久しぶりです。
マッカ 大きくなったわねぇ。嬉しいわ私。
   あの頃はまだ、ちっちゃかったから、男とし
   てはアウトオブ眼中だったけど、いい男にな
   って。今はインよ、度イン。
狼父さん ドイン? 
マッカ やだっ、ボインだなんて、やだアン
   タ。エッチな目で見ないでよ。男ね。もう立
   派な男の目じゃないのもうっ。
狼父さん マッカさんは相変わらずオカマな
   んですね。
マッカ マッ。何よアンタ、失礼ね。2度美
   味しい女って言って頂戴。とにかく今度、マ
   ッカ園に遊びにいらっしゃいよ。全然顔見せ
   ないんだから。
狼父さん はい。
マッカ でも夜来るのよ。こう、忍び足で私
   のベッドまで見事たどり着いて、「お寝坊さ
   ん」って口付けで私を優しく起こして頂戴。
狼父さん 昼間に行きます。
マッカ いいから夜来るの! 来て! 夜来
   て! 昼来たら殺すわよ!
狼父さん あのぉ、とりあえずその子、僕の
   子なんで返しても貰っていいですか? 本当
   にありがとうございました。(とりに行こう
   とする)
マッカ オカマクラッシュ!
   
   マッカのオカマクラッシュで吹っ飛ぶ狼父さ
   ん。
   
王様 子供は髪を切ってからだ。
マッカ ごめんなさいねオオの字。貴方のた
   めなのよ。この子はちゃんとマッカ園で預か
   ってるから安心して髪を切って頂戴。
狼父さん 分りました。それじゃあ切らせて
   いただきます。ちゃんと返して貰えるんです
   よね。
マッカ 当たり前よ。王様は嘘はつきません。
   さ、準備して頂戴。
狼父さん わかりました。
   
   狼父さん、準備する。
   
マッカ (王の遣いに)それでは貴方も。
王の遣い はい。王様、頬かむりを取らさせ
   てもらいます。(と頬かむりを触ろうとする)
マッカ オカマクラッシュ!
   
   マッカのオカマクラッシュで、王の遣いは吹
   っ飛ぶ。
   
マッカ (王の抱いている赤ん坊を取って下
   手へ投げる)貴方はあっちへ行ってなさい。
   
王の遣い うああああー。
   
   王の遣い、驚いて子供を追いかけて退場。
   
狼父さん (見咎める)何やってんですか!
   
マッカ それでは髪切りタイムにまいりまし
   ょうか。さあ、王様、前へ前へ。
   
   ドラムローが鳴り出す。
   
マッカ (頬かむりに手をかけ)オオの字、
   それではよーく見ていて頂戴よ。
狼父さん はい?
マッカ 貴方の人生を左右する衝撃の一瞬で
   す。髪を切るのが先が、首を切られるのが先
   か。この一瞬で決まります。いい? それじ
   ゃ行くわよぉ。王様の耳、カモン。

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