職員室戦争(ウォーズ)

(しょくいんしつうぉーず)
初演日:2015/7 作者:北森耕太郎
職員室戦争(ウォーズ)
作・北森耕太郎

○舞台 職員室/部室
○登場人物
掃除部部員
★美里マミ(みさとまみ・マミ) 二年生。掃除部部長。
 掃除部を一手にまとめる健気な部長。廃部の危機に立ち向かう。
★清水キヨト(しみずきよと・キヨト) 二年生。
 職員室呼び出しの常連。お調子者のいじられ役。
★川澄ワタル(かわすみわたる・ワタル) 一年生。
 気が弱くておとなしい一年生。掃除を学校生活の生きがいにしている。耳がいい。 

職員室の先生
★生駒カツエ(いこまかつえ) 英語。教務主任。五十代。
 全ては生徒のためを信条に、今日も職員室に騒音を撒き散らす。掃除部の顧問。
★三輪ケイコ(みわけいこ)/化学。四十代。
 生駒の騒音に正面から立ち向かう。が、性格はかなりルーズ。
★若草シズカ(わかくさしずか)/美術。二十代。
 職員室の騒音被害者。影は薄いが、掃除部の活動を誰よりも暖かく見守っている。
★葛城ツヨシ(かつらぎつよし)/体育。三十代前半。
 空気の読めない超元気な体育教師。煮干は欠かせない。
★二上ユイガ(ふたがみゆいが)/日本史。三十代前半。
 授業そっちのけでクロスワードに情熱を傾ける。

掃除部ヘルパーズ
★川澄ヒカル(かわすみひかる・ヒカル) 高校二年生。ワタルの姉。
 職員室呼び出しの常連2。弟のワタルとは似ても似つかない勢いのよさ。 

美術部員
★魚住ミツル(うおずみみつる・ミツル)
 職員室呼び出しの常連3。力仕事とピッキングが得意。鍵屋の息子。
★水野セイヤ(みずのせいや・セイヤ)
 職員室呼び出しの常連4。
★浅野カオリ(あさのかおり・カオリ)
 職員室呼び出しの常連5。かわいいものが大好き。


シーン1A
【清水・生駒・三輪・若草・葛城・二上】
   (職員室。三輪はだるそうに、若草は黙々と採点をして、葛城はジャージ姿でせわしなく体を動かして、二上はクロスワードのを解いて。)

   (生駒、大きな声で清水を説教する。清水、黙って説教を聞いて。)
生駒  清水くん、いったい何回言わせるのよ。そんなルーズなことじゃ社会に出てから通用しないの。期限はしっかり守るのは当たり前のことでしょ。今回だけじゃないのよ、これで20回目。人間は学習する動物なの。あなたはちっとも進歩してないの。いい? 学校っていうところは言われたことをきちんとこなす。それが基本なの。私だってあなたのためにこんなに時間を割いてる暇はないのよ。それなのに毎日毎日、なんで呼び出されてるか分かってるの? 時間をもっと有効に使おうとしないから、こんなことになるんじゃないの。生活習慣をもっと見直さなくちゃダメなの。みんなは来月もう三年生なの。あなたも一緒に3年生になりたいでしょ。それにしては自覚ってものがないんじゃない? 清水くん、聞いてるの! 本当にあなたって人は……。

   (生駒の説教は続く。三輪、あきれて。)
三輪  毎回よくあんなに大きな声出せるわねぇ。職員室の元気を全部吸い取ってるんじゃないの。

   (若草、うんざりして。小声で。)
若草  ……頭が痛い。
三輪  若草先生、風邪ですもんね。これじゃ、治るものも治らないわ。

   (若草に向かってなれなれしく。大声で。)
葛城  風邪だって? 情けないなぁ。健康管理は教員の基本ですよ。先生、普段から少食だって言ってたよね。それじゃ元気は出ないに決まってる。僕は朝から丼メシ三杯は食わなきゃ昼までもたないからね。それに乾布摩擦だって欠かしたことないよ。風邪なんて生まれてこの方ひいたことがない! 少しは見習ってほしいもんだなぁ。……
っは、はっ……。

   (葛城、若草の耳元で大きなくしゃみ。)
  はーっくしょん!
若草  ……もう嫌だ。
二上  うるさい! 職員室を何だと思ってるんだ!

   (一同、驚いて二上を見る。)
     これじゃ集中できないですよ。

   (生駒、気まずそうに。)
生駒  二上先生、ごめんなさい。つい大きな声になっちゃって。
二上  あのね、クロスワードってのは奥が深いんですよ。直感と集中力が勝負なんですから。
生駒  先生、仕事してると思えば、何をやってるんですか。生徒のいる前で示しがつかないと思わないんですか。
二上  何をって、クロスワードは勉強ですよ。さまざまな知識が試される、まさに知の結晶。生駒先生にはこのすばらしさが分からないかなぁ。
生駒  分かる分からないの問題じゃなくて、勤務時間中にやることじゃないってことですよ。教育的に悪影響です! 
二上  僕は生駒先生のヒステリーの方がよっぽど教育的に良くないと思いますよ。清水くん、でしたっけ? さっきからよく我慢して聞いてると思いますよ。
生駒  何ですって! 私はこの生徒を少しでもいい方向へ導いてあげようと必死なんです! これが教育的じゃなくて何だって言うんですか。
二上  あのね、生徒はバカじゃないんです。一度ビシッと指導すればそれで済むことを、ネチネチともう何十分もしつこいんですよ。
生駒  この子はバカなんです! だから何度も言い聞かせてあげてるんです!
若草  ……問題発言。

   (葛城、笑顔で。)
葛城  まあまあ、生駒先生も二上先生も熱くならないで。カルシウムが足りないんですよ。

   (葛城、ポケットから煮干を取り出して、生駒と二上に無理やり渡す。)
     ほら、煮干食べて、煮干。
生駒  先生、これ湿ってるし、糸くずがついてるんですけど。

   (三輪、やりとりを見て苦笑。)
葛城  あー、洗濯したジャージに入ってたからだ! 栄養素は変わりませんから大丈夫。問題ありませんよ!
生駒  先生にはデリカシーってものがないんですか! 三輪先生もニヤニヤ笑ってないで、これ食べてください!

   (三輪、困惑して。)
三輪  え、ええ。……若草先生、風邪には煮干がいいの。これ、食べて早く治さなくちゃだめよ。
若草  ……三輪先生まで。
葛城  そうそう、風邪には煮干。

   (葛城、ポケットを探って。)
     お、まだ入ってた。ほら、若草先生、これ食べれば風邪なんてすぐ治る治る!
若草  ……帰りたい。

   (清水、呆然と教員のやりとりを眺めて。タイミングを見計らって。)
清水  ……ってことで、僕はこのあたりで……。
生駒  清水くん、待ちなさい。あなたにはまだ話さなくちゃならないことがあるんですよ!
清水  そろそろ部活なんで、失礼しまーす!


   (清水、そそくさと退場。後を追うように若草、咳こみながら退場。生駒、不満顔で採点。三輪、机に枕を置いて寝る。葛城、ラジオ体操を始める。二上、クロスワードを続ける。職員室が静かになる。)



シーン1B【美里・清水】
   (清水、部室の前の要望箱の中身を確認する。要望箱を持って部室に入る。)

   (清水、要望箱を机に置いて。)
清水  いやー、ひどい目にあったよ。
美里  本当にひどいね。
清水  でしょー。
美里  キヨトの点数のことよ。数学12点、現文14点、古典10点、日本史15点、化学が7点。本当に3年になれるの?
   
   (清水、驚いて。)
清水  ……ちょっと、何で知ってるの!
美里  職員室に行くって言ってカバンを放り投げてったでしょ。
清水  うん。
美里  そのカバンから学年末テストの結果がなだれ落ちてきたんだけど。
清水  そんなぁ……。
美里  だいたい、アンタがそんなだから掃除部の信頼が落ちちゃうんだから。どうにかしてよ。
清水  どうにかって言っても。
美里  とにかく。今はこんな話をしてるヒマはないの。ほら、ワタルくんがいないでしょ、気づかない?
清水  あ、たしかに。
美里  校長先生の犬の散歩と教室の蛍光管の交換に行ってるの。アンタの仕事もまだ残ってるんだからね。
清水  今日の仕事は何だっけ?
美里  先生方のおやつを買ってくる係。お金は預かってるから、すぐに行ってきてよ。あ、この前みたいにお煎餅ばかり買ってこないでよ。井上先生は歯が弱いし、正木先生は塩分控えてるんだから。あと、生駒先生からのリクエストでスルメってのがあったからよろしく。
清水  スルメって、お酒のツマミじゃないんだから。
美里  イライラする時には噛む物がいいんだって。それに生駒先生をイライラさせてる張本人はアンタでしょ。
清水  ……はい。
美里  分かったらすぐに買いに行く。おやつは職員室まで届けに行ってね。
清水  職員室かぁ。
美里  当たり前でしょ、ウチらが食べる訳じゃないんだから。
清水  少しくらいいいんじゃない?
美里  だーめ。 つべこべ言わないで行ってくるの。少しでも掃除部の名誉を回復しなくちゃならないんだから。
清水  で、誰に渡せばいいの?
美里  生駒先生。

   (清水、嫌そうに。)
清水  えー。マミ、仕事交換しない?
美里  私は来月の掃除のシフトを組んでるの。ヒマをしてる訳じゃないんだから誤解しないでよ。
清水  また生駒先生のとこに行かなきゃならないのかぁ。気が重いなぁ。あ、そうだ。要望箱、何通か入ってた。
美里  じゃあ目を通さなくちゃ。一通り確認したら買い物に行ってよ。
清水  了解! さてさて一通目は……。

   (清水、要望箱の中に手を入れて、ごそごそと一通を手に取る。要望書をDJ風に読み上げる。)
     「化学室のスポンジにカビが生えている。交換してほしい。1年5組・赤松アヤカさんからのメッセージ、センキュー!

   (清水のふざけを無視して。)
美里  スポンジは清掃用具庫の三番目の棚のいちばん手前にあと5つ残ってるはず。後で持っていってあげて。
清水  はいよー。お次は……、2年1組・早川リョーコさん。「教室の鍵が壊れているので直してください。」
美里  これはワタルくんにやってもらおうかな。修繕仕事にも慣れてもらわなきゃならないし。
  
   (DJ風に。)
清水  ワタルくん、大仕事がやってきたね! 活躍、期待してるよ!

   (美里、ふざける清水を睨みつけて。清水、しおらしくなって。)
美里  えーと、次は。
     「体育館のトイレの電球がいきなり切れた。びっくりして漏らしそうになった。1年1組・落合アツシ」
清水  漏らしてもいい場所なんだけどな。

   (美里、あきれて。)
美里  アンタさぁ、掃除部の品位を下げないでよ。電球交換もワタルくんにやってもらおう。
     はい、次。
清水  「ルーンバ買って。2年2組・沖田チホ」

   (しばし間。美里、肩を震わせる。清水、怖がって。)
     ……ど、どうした。マミ。キ……キツネでも取り憑いたのか。
   (美里、怒って。人格を変えて。)
美里  掃除ってのは、人の手でやってこそ掃除なんだよ。それをルーンバ買ってだぁ? ゲスの極みもいいとこじゃねえか。相手は誰だって容赦しねぇ。その捻れた根性を叩きなおしてやる! キヨト、とっととコイツを引きずり出してこい!
清水  ……次いこうよ、次。

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