トランプシエンカ

(とらんぷしえんか)
初演日:0/0 作者:宮下直樹
「トランプシエンカ」

 人物:上谷雪也(うえたに ゆきや) 二十三歳。社会人。老けた見た目・話し方、白髪交じり。スーツ。
    飯利和佐(いいとし かずさ) 二十歳。大学生。ザ・大学生みたいな感じ。
    綾次佳歩(あやじ かほ)   二十歳。大学生。バイトで喫煙所の清掃をしてい    る。エプロン的な清掃員的ものをつけてほしい。
    綾次木音(あやじ このね)  二十二歳。大学生。和佐の彼女。不審者みたいな恰好で登場させたい。アニメ的メンヘラ。

 舞台:喫煙所。舞台中央に大きな灰皿があり、舞台奥の壁には手すりがあり、上手下手にはベンチがある。

 小道具:煙草、トランプ、名刺、スマホ二つ。

 音響:着信音。他自由。

 照明:夜明かり(一幕)、朝明かり(二幕頭)、通常明かり(二幕、三幕)。他自由。

■一幕
 幕が上がると、深夜の喫煙所である。そこでは、一人の男、上谷雪也が煙草を吸っている。ゆっくりと、味わうように、煙草を吸う。スマホの着信音が鳴り、スマホの画面を見るが、それをしまい込んで、もう一度煙草を味わう。しかし、煙草を口から放すと、それを睨み、灰皿へ押し込む。ため息を一つ。

雪也:ああ、嫌な世の中になったもんだよ。煙草一つロクに吸えやしない。やりたいことすらできないなんて、嫌な時代に生まれたもんだ。

 懐から、もう一本の煙草を取り出して咥え、火を点けようとする。そこに、飯利和佐が転がり込んでくる。

和佐:ここなら、大丈夫だよね。

 雪也、和佐を見て驚くも見て見ぬふりをして、煙草に火を点けようとする。

和佐:あ、待ってください!
雪也:……ん?
和佐:どうか、煙草を吸わないでもらえないですかね?
雪也:はあ?
和佐:いや、俺、煙草の臭い、めちゃくちゃ苦手で、だから、嫌だなあ。って。
雪也:……君、ここがどこだか分かってるのか?
和佐:喫煙所です。
雪也:喫煙所は何をする場所だか分かってるのか?
和佐:煙草を吸うところです。
雪也:それで、君がさっき言ったこともう一度言ってみなさい。
和佐:煙草を吸わないでください!
雪也:……馬鹿なのか?
和佐:バカじゃないです! 俺は、東大に入れるくらいの頭脳の持ち主なんですよ!

 雪也、和佐を見て、しばらく呆気にとられるも、煙草に火を点けようとする。

和佐:ああああああ! (雪也の煙草を取ろうとして)やめてください! つけないで! 吸わないで!
雪也:何をするんだ! やめなさい! 離しなさい!(和佐を突き飛ばす) 何なんだ君は!
和佐:飯利和佐、二十歳です。
雪也:そういうことじゃない!
和佐:じゃあ、なんですか!
雪也:何がしたいんだ君は!
和佐:ここにいたいんです!
雪也:私だって、ここに居たいんだ。
和佐:じゃあ、勝手にしてください。
雪也:勝手にしたいのに、君がさせてくれないじゃないか。
和佐:だから、居たいならいればいいじゃないですか。俺は、出ていけなんて言ってません。
雪也:煙草を吸うためにここに居たいんだ!
和佐:でも、俺は、煙草を吸って欲しくないんです。
雪也:だから、何がしたいんだ!
和佐:そんな怒らないでくださいよ。煙草の吸い過ぎで、イライラしてるんじゃないですか?
雪也:煙草じゃなくて、君のせいだ!
和佐:俺のせいだって言うんですか? 年寄りはみんなそうだ。何かあると、すぐに若者のせいにする。若いから堪え性がないだの、ゆとりだから根性がないだの、そんな風に育てたのは、あんたたち年寄りじゃないですか!
雪也:なんで君が怒るんだ。それに私は、二十三だ!
和佐:……え?
雪也:だから、二十三歳だ。君と三つしか違わない。年寄り扱いするな!
和佐:だ、だって、すごい、白髪な混じりなところも似合ってるし。
雪也:……ただ似合う人なんだ。
和佐:煙草吸うのも似合ってるし。
雪也:……ただ似合う人なんだ。
和佐:すごい、こう、おじさんみたいな話し方も似合ってるし。
雪也:だから、ただ似合う人なんだって!
和佐:……なんか、すみませんでした。
雪也:はあ。私だってゆとりだし、若いんだ。むしろ、君みたいな人間がいるから、私たちゆとり世代が文句を言われるんだ。
和佐:俺は、ギリギリゆとり世代から外れてるんで、責任転嫁も甚だしいですよ。
雪也:ゆとりという言葉を使ったのは君じゃないか! ……もういい。帰る。
和佐:行かないでください!
雪也:はあ?
和佐:俺と一緒にいてください。
雪也:さっき勝手にしろと言ったじゃないか。
和佐:ここにいるのは勝手にしてくださいって言ったんです。出ていけなんて言ってない。むしろ居てください! お願いします!
雪也:なんだ、その新しいわがままは。
和佐:お願いしますよ! 俺のために!
雪也:私がここにいることで、何が君のためになるんだ。
和佐:俺、ここに逃げてきたんです。
雪也:逃げてきた?
和佐:はい。今、人に追われていて、その人、俺が煙草嫌いだってこと知ってるし、その人も煙草嫌いだし、ここに逃げ込んだら、絶対見つからないかなって。
雪也:それで、ここに私が残ることになんの関係があるんだ。
和佐:ほら、誰もいない喫煙所なら、隠れてそうってなるじゃないですか。でも、知らない人がいたら、煙草の匂いもしそうだし、いるってバレないと思うんです。ほら! おじさん、煙草臭そうだし。
雪也:帰る。
和佐:ああ! 待ってください!
雪也:煙草臭そうってなんだ! 人にものを頼むときの言葉かそれが! おじさんじゃないし……。
和佐:実際そう見えるからいいじゃないですか。
雪也:私だって、年相応に見えないことを気にしてるんだ!
和佐:いいじゃないですか! ほら、大人っぽくて!
雪也:……もうなんでもいい。それで、君はなんで追われているんだ。
和佐:ええー。プライベートなことを見ず知らずの人に話さなきゃいけないんですかあ?
雪也:私の時間を奪ってるんだ。それくらい話してくれたっていいじゃないか。
和佐:わがままだなあ。
雪也:どっちがだ!
和佐:まあ、いいですよ。実は、俺、二股しちゃいまして。
雪也:クズだな。
和佐:ひどい! 聞いといてそんな言い方ないでしょう!
雪也:だって、そうだろう。二股なんて創作物の中でしか許されない。
和佐:そんなことないですよ! 一夫多妻制の国だってあるじゃないですか。
雪也:ここは、日本だ。
和佐:ええ、堅いなあ。今時そういう風習に縛られるなんて、古いですよ。時代は、グローバルなんですから、それに合った形で俺たちも変わっていかないと。
雪也:そういう型を破ろうとする考えも古いと思うのだがな。それで、二股がなんだって。
和佐:まあ、二股かけてたのバレまして、それで、女の子に追われてるわけなんですよ。
雪也:思ったよりもどうしようもない理由だったな。
和佐:こっちは真剣なんですよ!
雪也:ああ、そうかそうか。
和佐:聞いてくださいよ! 助けてくださいよ!
雪也:私がどうにかできる話しじゃないだろう。その、なんだ、その二股かけた二人に謝るしかないんじゃないのか?
和佐:嫌だなあ……。
雪也:本当のクズじゃないか。
和佐:だって、俺は二人とも好きなんです。それは、恥じることでもなんでもないでしょ。好きって気持ちに悪いなんてことはないんだから。
雪也:なんだ、良い台詞みたいに言って。悪いことだから、今君は逃げることになっているんだろうが。
和佐:なんだそれ! 人の心がないのかあんたは!
雪也:私に怒ったところで、何も変わらんだろうが。
和佐:じゃあ、誰に怒ればいいんですか!
雪也:なんで、誰かに怒ろうとしてるんだ。
和佐:そんなわけで、ここに置いてくださいよ。
雪也:なんでもいいが、煙草を吸わせてはくれないか。
和佐:嫌です。
雪也:即答か……。
和佐:お願いしますよ! ねえ! 俺を助けると思って! ねえ! ねえったら! ねえねえ!
雪也:ああもう! わかった! わかったから。ここにいてやろうじゃないか。
和佐:え、いいんですか!?
雪也:いいと言わなければ君がずっとうるさいだろう。もううるさいのは嫌なんだ。
和佐:やった! ありがとうございます!
雪也:はいはい。じゃあ、これで大人しくしてくれ。

 黙り込む二人。両者椅子に座り込むが、和佐はそわそわしている。

和佐:ねえ。
雪也:……。
和佐:ねえったら。
雪也:……。
和佐:ねえ! ねえ! ねえ!!
雪也:なんだ! うるさいな!
和佐:なんか、話してよ!
雪也:静かにしてくれと言ったじゃないか。
和佐:でも、暇なの! なんか話してよ!
雪也:話すって何をだよ。
和佐:えーっとね、じゃあ、なんで、煙草吸おうと思ったの?
雪也:急にどうしたんだ。
和佐:だって、気になるんだよ。どうして、煙草なんて吸いたがるのかなあって。
雪也:君には関係ないだろう。
和佐:そっちだって、俺のこと聞いたじゃん。いいじゃん、教えてよー。
雪也:別に大した理由じゃない。
和佐:大した理由じゃないなら、いいじゃん。
雪也:いいだろ。私のことは。
和佐:いいじゃん! ね? いいじゃん、いいじゃん! 話しちゃえばいいじゃん。じゃんじゃん吐き出しちゃえばいいじゃん!
雪也:じゃんじゃんうるさい!
和佐:じゃあ、教えてよ。
雪也:……大した理由じゃない。何もすることがないから、吸ってるだけだ。
和佐:することがないから?
雪也:そうだ。大学卒業して、就職して、まあ、平凡な人生だ。趣味もない、彼女もいない、だが、少しだけ金がある。だから、吸うんだ。暇つぶしだ。
和佐:なんで、暇つぶしが煙草なの? 別に他にも暇つぶしがあるじゃん。
雪也:こう、なんて言えばいいのか、好きなんだよ、このよくわからん味が。自分の体を蝕んでるというのは、わかるんだが、なんというか、生きてるって感じがするんだ。
和佐:え?
雪也:何の色もない人生で、こいつだけが、私の人生に彩りをくれるんだ。吸って、味わって、吐き出す。ゆらゆらと口から出る煙は、私がこの世界に生きてることを示してくれる。いや、自己証明というよりは、現実逃避だな。私みたいな何のとりえもない人間でも、生きてて何かできるんだという見栄を張って、逃げてるだけなんだよ。
和佐:……思ったより重い話だった!
雪也:聞いたのは君だろうが。
和佐:だって、そんな人生に彩りとか自己証明とか現実逃避とか、ポエマーのツイートみたいなこと言われると思わなかったから。
雪也:別に私は詩を詠む趣味はない。
和佐:でも、俺たち似てるね。
雪也:何がだ。
和佐:逃げてるってところがさ。
雪也:逃げてるものが違うだろう。君は女の子から、私はつまらん現実から逃げてるんだ。
和佐:同じだよ。女の子に追われなきゃいけないつまらない現実から逃げてる。
雪也:そういう状況にしたのは君だろうが。
和佐:つまらない現実にしたのもあんたでしょ。
雪也:……君は、痛いところを突くな。
和佐:不満なんて結局自分のせいだよ。自分のせいでなってるんだから、自分じゃ直せないよ。だから、逃げてるんだよ。
雪也:君の方がよっぽどポエマーじゃないか。
和佐:俺、文学好きなんで。
雪也:そうか。私は、本は読まん。
和佐:そうなんだ。

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