いつかの夏を思い出と呼ぶ頃
いつかの夏を思い出と呼ぶ頃



夏。昼過ぎの日の光が差す小さな部屋。
整った身なりの男。本を読んでいる。
ノックの音。軽く返事をしながら男はドアを開ける。
ドアを開けると、帽子をかぶり、花を持った青年が立っている。


男    …どちら様かな?


声をかけられて何か応えようとするも、言葉が見つからない青年。
すると、男は青年のかぶっている帽子を見て気がつく。


男    ジョバンニくんかい?


驚いた様子の青年。
男が「ほら」と帽子を指さすと、慌てて帽子を脱ぐ青年。


男    久しぶりだね


男は、カムパネルラの父である。


父    元気だったか?ジョバンニくん


ジョバンニと呼ばれた青年は小さくうなずく。


父    …その花は
ジョバンニ  あ、カムパネルラに…
父    そうか。ありがとう


父、花を受け取ると、ジョバンニを中に入るように促す。


父    どうぞ、入って。そこに座って


ジョバンニ、遠慮がちにイスに腰を掛ける。
その間に父は花を花瓶にいけ、部屋の隅に飾られた写真立ての前に並べる。


父    見ない間に随分大きくなったなあ。今、いくつになったんだい?
ジョバンニ  二十歳です
父    もうそんなになるんだね。いや、そうか。背もすごく高くなって、声も低くなって男らしくなった。昔はもっと幼くてあどけなかったもんなあ。ああ、すまない。気を悪くさせたかな
ジョバンニ  いえ、全然
父    でも、本当にすっかり大人という感じだね。ジョバンニくんだって最初気がつかなかったよ


ジョバンニ、少しばつの悪そうな顔。

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