アテルイ

(あてるい)
初演日:0/0 作者:月舘 壽晃

          『 ア テ ル イ 』

    舞台中央だけが明るい。登場人物はその光の中へ立ち代りにやって来て物語は進行する。
    具体的な舞台装置などは必要ない。

     〜大墓(たも)〜
アテルイ (下手からやって来て)ダダ様、アバ様。アテルイが今、戻りました。
      村人たちが兵士を出迎える。涙ながらに抱き合ったり、喜び合ったり。
アテルイ そう、うな垂れるな!ワーたちは大和に勝ったんだぞ。(兵士の手を取り)ほら、もっと嬉しそうな顔をしろ。
母   アテルイ!(両手を取って無事を喜ぶ)
父   よう戻った。(大きく頷く)
アテルイ 只今戻りました。(父、大きくまた頷く)
アヅミ アテルイ。
アテルイ 今戻ったぞ。
アヅミ  はい。よう御無事で。
母   アヅミは心配しておったぞ、もう見てはおれんくらいだった。
父   アテルイ、アテルイってな。
アヅミ  (照れて)ダダ様ったら、アバ様も。
アテルイ ああ。
母   大和の軍は多勢とか。
イナミ なあに、いかに多勢とは言えワーらにかかれば他愛ないもんさ。
母   さあさ。(家の中へと促す)
アテルイ (兵士たちに)ナーたちも安心して、ゆっくりと休め。なにしろワーたちは大和を打ち破ったんだからなあ。帰って、たっぷりと自慢話でもしろ、な。
母   ナーもアヅミに自慢話のひとつも聞かせろや。
アテルイ アバ様まで。
父   (真顔で)アテルイ。
アテルイ ああ、解ってる。このイクサの勝利、マグレかも知れん。
父   これで終わったわけでなない、大和はきっとまた来る。
アテルイ おそらくはな。
父   いや、間違いなく。
アテルイ ああ。
イナミ 何がマグレなもんか、実力実力。なあサナミ。
母   イナミは、いっつも調子がええのう。
父   それにしても、よう戦った。
サナミ 大和など、この森に一歩も入れてなるものか。
イナミ 聞けば、大和の攻め込んだ尾賀の里は畑も踏み潰されて、村も山も焼き討ちにあったと言うではないか。
サナミ 大墓は、そうはさせねえ!せっかく開いたワーらの里を。ほうら、蕎麦の花が一面に咲いておる、皆で耕した畑でねえか。
母   おうとも!
アヅミ 秋には実を扱いてカッケ鍋を作ろうて。
母   カッケ鍋は、うまいぞ。
イナミ 楽しみじゃ。
サナミ ワーの大好物、大和なんぞに踏み潰されてなるものか。(笑い)
父   よう戦った。
アテルイ (淋しそうに)ああ。
父   どうした。ナーこそ浮かない顔をして。イクサに勝利した大将の顔ではないぞ。
アテルイ 怖いんだ、自信がないんだ。最後まで大和に勝ち抜けるかが。ダダ様の言うとおり、大和はまた来る。今度は必ずや勝つために、兵を何倍にも増強して。そしたらワーたちは、また戦わねばならない、そしてまた勝たねばならない。
父   アテルイ。
アテルイ 大勢のもんが傷ついた。戦いながら考えた。なんでワーらはこんな思いをしなければならんのか、そうまでしてなんでイクサなんかしなければならんのか。
アヅミ 意味のないイクサ。
アテルイ そうさ、ワーたちにはイクサをする理由がない。ただ攻め込まれたから戦っているだけさ。
母   何とかイクサをせんで済む手立てはないものか。
アテルイ それが解らん。解らんからイクサをするしかないんだ。
母   イクサとなれば、この畑だっていつかは、そうならんとも限らん。
アテルイ ワーたちの何が憎くて、こんな目に合わせるのか・・・勝つしかないんだ、大和に勝つしかないんだ。
      皆、伴って上手へ下がる。

        〜奈良〜
 それと交互して桓武天皇、下手奥より出て中央より前へ進む。下手より駆け込むように大和軍の大将を勤めた陸奥の介(むつのすけ)がやって来て膝まづく。後からモレ。
桓武  何と言う恥さらしな!それでよくおめおめと戻って来たものじゃ。
陸奥  はは、全く面目もございません。
桓武  当たり前じゃ。どこに負けイクサの言い訳があろうものか。よいか、2000の兵を引き連れて、わずか400の蝦夷(えみし)に敗れたと言うのか。何をやっておるのじゃ・・・それとも何か、蝦夷とはソチの5倍もある大男であったとでも言い訳をする気か。
陸奥  馬にございます。
桓武  馬?
陸奥  はい、馬にございます。あの荒くれの馬に敗れたのでございます。
桓武  (イヤミ)蝦夷は馬の姿をしておるのか。
陸奥  蝦夷のあやつる馬は、森の向こうより疾風の如くに現れ、縦横無人に暴れまくるのです。我が兵は余りの凄さに仰け反り、その上を容赦なく踏みつけて行くのでございます。これでは槍を突く間もないのでございます。
桓武  ソチの言い訳を聞いている間はないのだ。程なく都は完成する。それまでに何としても蝦夷を平らげるのじゃ。
陸奥  はは。
桓武  程なく都は完成する。それまでに何としても蝦夷を平らげるのじゃ。
陸奥  重々に。・・・それとアテルイと言う男。
桓武  アテルイ?
陸奥  はい、アテルイにございます。その蝦夷を束ね、大和に歯向かう者にございます。
桓武  (モレに)そのほうも蝦夷であったのう?知っておるか、そのアテルイと言う者。
モレ  胆沢の奥、大墓という里の者であったかと。
桓武  どんな男じゃ。
モレ  いえ、顔は。
桓武  そうじゃろう。見たことがあれば覚えておるはずじゃ。何せ蝦夷は馬の顔をしておるそうじゃからのう。
陸奥  (下手へ立ち去る天皇を見送り、地面を踏んで悔しがる)ううん!どうしてくれよう憎っき蝦夷!・・・いやあ困ったぞ、帝(みかど)は本気でお怒りじゃ。どうすれば・・・。(モレに)おい!オヌシたちもイクサに加勢せよ。
モレ  はあ?
陸奥  こうなったら、圧倒的な数で勝負じゃ、それしかない。
モレ  お待ちください、それでは約束が違うではありませんか。
陸奥  約束?
モレ  大和に協力すれば、里を安堵すると。
陸奥  それが?
モレ  ワーらが里を襲うとは。
陸奥  つべこべ言うな、見たか帝(みかど)のお怒り様を。こうなったら蝦夷をもって蝦夷を制すだ。おお!これは妙案だ。
モレ  ちょっとお待ちください、それは・・・。(後を追うように下手へ消える)
田村  (上手より)アテルイと言うか。
和気  田村麻呂様、こちらでしたか。
田村  清麻呂殿、はかどりはいかがして。
和気  高千穂よりの資材の件、お力添えのほど、ありがたく。
田村  いやいや、伽藍の御柱の整然と並びたる姿、誠にもって素晴らしく。
和気  いかにも。
田村  にも増して、私の感嘆したのはそれを運ぶ人々の顔。
和気  みな、この労働に携われることを苦と思うどころか、むしろ喜びとしている。
田村  それも、清麻呂殿への畏敬かと。
和気  そうでばございますまい。
田村  すべては順調にと。
和気  東堂の築材の到着、今しばらく滞っております。
田村  それはマズイ。東堂は伽藍の要。急がねばならぬのに。
和気  北方よりの荷が、未だ到着せず。
田村  蝦夷の地か。
和気  日高見の湊より、船が出せないとかで。
田村  早くイクサを終えてもらわねば・・・。よし解った、舎利殿の方はいかがか。
和気  はい、ご覧を。
      二人、上手へ

     〜アテルイの家〜
      囲炉裏を囲み軍議をしている
サナミ これからが正念場じゃ。
イナミ なあに何度やって来ようとも、また蹴散らしてやるだけのことうよ。のうアテルイ。
アテルイ ああ。だが侮るな。大和は強大だ、今度は何を仕掛けるか解らん。
サナミ そうさ、尾賀の里の事もある。大和の兵を見たか。皆、黒い鉄の衣を着ておってヨロイと言うそうじゃ。
    アヅミが来て、皆に茶などを配る。
イナミ おう、あれにはたまげた。はじめは夜に紛れるために墨でも塗っておるのかと思った。
イナミ 大和では皆、あんなものを着て暮らしておるのかのう。
カムリ 重かろうて、そんなもん着ておって野山を走り廻れるか。
イナミ ほんに。
父   大和には鉄と言うものがあるそうじゃ。何でも木を切るのも土を耕すのも、その鉄を使えば、ほんの一時で片付くとか。
カムリ ほう!それはすごい。
アヅミ 一時で?
父   だから、大和にはワーらが見たこともないような、大きな建物が山よりも高くそびえておるそうじゃ。
イナミ どんだけ太い柱を使えば、そんな高い建物が建てられるんじゃ?
父   大人4、5人が手をつないで、やっと囲めるほどの柱じゃ。
サナミ そんな大木を、その鉄で切り倒すのか。
カムリ ふええ!鉄とは大したもんじゃ。
アテルイ その鉄を自在に操る大和、心せねばな。
父   その通りじゃ、アテルイ。
カムリ 猪でも鹿でも仕留めるこの弓矢で、やっつけるまでのことよ。
サナミ カムリは弓矢の名手だからのう。
カムリ おうとも。
イナミ その弓矢で何人の大和の兵を仕留めた?
カムリ そうさなあ、ざっと3、40人は下らん。
サナミ そんなにか!
アヅミ カムリ殿は、ほんに達者なことで
カムリ こいつで、その鉄のヨロイも射抜いてやったさ。
イナミ 鉄より強いカムリの弓矢か。
カムリ おう!
サナミ ダダ様は、大和を見たことがあるのか?
父   いいや、聞いた話じゃ。日高見の湊に来た商人から聞いた。
サナミ 毛皮や砂金を都に持って行って商いをしておるんじゃろ?
父   ああ。
カムリ 大した羽振りが良くてのう。白い絹と交換してくるとか。あとは彫り物じゃ。仏とか言う。
イナミ なんじゃ?うまい食い物か?
サナミ ばーか!イナミは、何でも食い物のことばかり。
カムリ 日高見の湊にいた商人が持って来た物を一度見せてもらったことはあるが、人のような形をしておって、煌びやかな飾りを沢山つけておる。それに祈れば何でも願いを叶えてくれるとか、苦しみから救ってくれるとかで、都では大した重宝がられておるそうじゃ。
サナミ そんな都合のいいもんがあるってか。
イナミ ウチのカカアなんか、いっくら頼み込んでも小言しか帰って来ん。
サナミ 何でも言う事を聞いてくれるその仏と、イナミのカカアと、どっちが強いかのう。
アテルイ そりゃあ、やっぱり。
カムリ イナミのカカアだべ。(笑い)
イナミ おい。
アテルイ 大和か。
サナミ どうしたよ。
アテルイ 大和とは、一体どういうところなんだろう。
サナミ ううん。
アテルイ 敵のことを知るのも大切じゃ。
カムリ  おい。
父    アテルイ。
アテルイ 行ってみたいとは思わんか。
サナミ よせ、殺されるぞ。
カムリ そうさ。都ではワーらのことを蝦夷とか言って、鬼か蛇のように語っておるそうじゃ。
アテルイ 都が見てみたい。

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