死刑台へいらっしゃーい

(しけいだいへいらっしゃーい)
初演日:0/0 作者:月舘 壽晃

      『死刑台へいらっしゃーい』
                  2012・3 作

      静かに幕があく。舞台はまだ暗い。死を思わせる陰鬱な音楽が流れる。・・・突然のスポットライト。目を大きく開け、口を大きく開け、舌を出した人。首にはロープ。首吊りの死刑囚だ。台車に乗せられた箱の中から首を出している。・・・明転。

看守  (敬礼をして)これを以って終焉といたします。
執行人 ハイ、撤収!(台車で運ばれる死体を見送って、チーンと音、拝んで)ご苦労さまでした。今日は混んでるなあ。(予定表を確かめて)あと一人、これで最後だ、ヨシ。気合を入れていこう、気合を入れて。ハイ、最後の方・・・(出て来ない)最後の方、どうぞ!(出て来ない)お待たせしました、どうぞ。
死刑囚 そんな呼び方ないでしょ。
執行人 ああ、そうでした、スミマセン。
死刑囚 (力なく)私は死刑になるんですよ。
執行人 (あっさり)そうでしょうね。
死刑囚 そうでしょうねって、何て軽い言い方。
執行人 ポンポーンといきましょう、ね。ポンポーンと。
死刑囚 ポンポーンって、あなたね。
執行人 私は急ぐんですよ。チャッチャとやっちゃいましょ、ね。
死刑囚 もう少し、命の尊厳とかを考えて重々しくとか、荘厳にとかできませんか。・・・ま、そういう私も殺人の罪で、こうなってしまったわけで、偉そうには言えませんけど。
執行人 スミマセン。毎日やってるもんで、つい。スミマセン。
死刑囚 頼みますよ。
執行人 いやあ。じゃ、入って来るところから、もう一回やり直しましょ。いやあ、スミマセン。(死刑囚を押し戻す)
死刑囚 先ずは、その適当な話し方、何とかなりませんか。(退室)
執行人 それではお待ちかね、死刑囚の方です。死刑囚、いらっしゃーい!
死刑囚 (音楽)はい、神奈川県から来ました、死刑囚の鈴木タカシです・・・って、おいコラ!
執行人 さっき丁度見てたもんで。わかりました、ちゃんとやりますんでスミマセン。
死刑囚 お願いしますよ、本当に。もっとこう、重厚な感じで。
執行人 重厚にね、重厚に。・・・それでは、これより死刑の執行です!死刑囚入場です。(音楽)
死刑囚 (勇ましく入場、観客にアピール)ちょっと!
執行人 ヨ!いいぞ。やっちまえ!
死刑囚 やっちまったから、ここにいるんです、私は!
執行人 スミマセン、つい。
死刑囚 ったく!
執行人 (押し戻して)わかりました、わかりました。ちょっと華やかでしたね。静かにいきましょ、静かに、ね。・・・(音楽、小声で)おい、こっちだ。(二人、抜き足差し足)絶対見つかるんじゃねえぞ、そうっとだ。
死刑囚 ヘイ・・・って、ドロボウに入るんじゃなくて!・・・あなた、ふざけてるでしょ。
執行人 スミマセン、つい。
死刑囚 もういいですよ。
執行人 あれえ?あなた、逃げたのに戻って来た人ですよねえ。
死刑囚 え?ええ。
執行人 折角ここから脱獄したのに、律儀にもヒョッコリ戻って来て、また捕まっちゃった人ですよねえ。
死刑囚 脱獄だなんて、違いますよ。一時避難ですよ。
執行人 地震のとき「全員避難してください、逃げてください」って言ったら、本当に逃げちゃって、落ち着いたら1ヵ月後にヒョッコリ戻って来て、また捕まっちゃった、ですよねえ。
死刑囚 ええ。
執行人 バカですねえ、そのまま逃げればよかったのに。無期懲役でしたっけ?
死刑囚 本来ならね。逃げたことで、更に罪が重くなり・・・死刑ですよ!
執行人 「全員逃げろ」ったって、本当に逃げる人も珍しい。普通、牢屋の人は「逃げろ」には含まれないでしょ。しかも避難所閉鎖とともに戻って来る。
死刑囚 ああ、今思えばなんてバカなことを。
執行人 ねえ、本当にバカ。ハハハ・・・スミマセン。ま、こうなっちゃったんですから・・・ねえ。・・・あ、こちらに掛けてください。(椅子へ)・・・ええと、死刑執行の前にカンタンな聞き取り調査がありますので、御協力お願いします。
死刑囚 あ、はい。
執行人 ええと、こちらへは初めてですか?
死刑囚 ええ・・・当たり前でしょ。2回来た人、いるんですか?
執行人 一応念のためです、念のため。・・・ご家族は。
死刑囚 いません、誰も。
執行人 何か言い残すこととか、伝えたいこととか。
死刑囚 いえ、特に。天蓋孤独ですから。
執行人 そうですか。やり残したこととかは?
死刑囚 いえ、ありません。
執行人 遠慮しないで、なんでも言ってください。よくあるんですよ、未練を残してしまうと、あとからグジュグジュ出てくるヤツが。
死刑囚 これといって、ありません。
執行人 ないですか?
死刑囚 強いて言うと・・・。
執行人 ほら!それですよ、それ。無いとかいっておきながら、実はってのが。あ、わかった。死ぬ前に一度食べてみたがったものがあるとか。食べ物の恨みは怖いですからねえ。いいですよ、向かいの定食やに注文すれば、すぐ来ますから、言って下さい。何が食べたいですか?ん?
死刑囚 オムライスと・・・って、あのね!
執行人 卵がお好きなんですか。でも卵はやめた方がいいですよ。もしジンマシンかなんか出たら大変ですから。死んでから、かゆくてかゆくて、死んでる場合じゃなくなりますからねえ。・・・え?そうじゃなく・・・ちがう・・・スミマセン。ほかにアレルギーは?あ、いや、ほかに言っておきことは?・・・じゃあ、こちらにサインして。
死刑囚 (用紙を覗き込み)何ですか、この「もし万が一の場合でも当方では責任を終えません」って?
執行人 万が一は万が一。
死刑囚 死ぬこと以上の万が一って何ですか。
執行人 さあ?でも想像もつかないことだから万が一って言うんじゃないですか?まあ一応サインを。
死刑囚 (頭をかかえて)何でこんなことになっちまったんだろうなあ。
執行人 (なだめて)まあ、これも運命ですよ。もう決まったことですから、逃れられませんよ。ま、突然何かの理由で中止になることもないとは・・・。
死刑囚 あるんですか?突然中止になることってあるんですか?
執行人 恩赦とか特赦とか、急に連絡が来れば。
死刑囚 連絡が来るんですか?今までにもあったんですか?
執行人 ・・・いえ。(突然、携帯がなって)あ、はい・・・え!中止?中止なの?間違いない?大事なことだよ、間違いなく中止?
死刑囚 やったー!あるもんですね、奇跡ってあるもんですね。
執行人 そうですよ、今日奇跡をおこすはずだったんですよ。
死刑囚 奇跡がおきたんですよ、とうとう。

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