種をまこう(改)

三陸高校合唱部シリーズ第8章

(たねをまこう)
初演日:0/0 作者:月舘 壽晃
    
      『  種 を ま こ う 』
                   2011・11作
          第 1 景

殺風景な入院病棟の一室。上手奥に病室の入り口、ドアは開けてある。下手に大きな窓、カーテンが閉まっている。ベッドがふたつ。
幕があがると、掃除婦がカーテンをあけ、手際よく清掃をしたり、ベッドメイキングをしたり。

  (純也の声、ナレーション)あれから10年くらいも経ったろうか、ボクは時々背中が痛くなり、その治療のために何度か入院をしていた。この前、休み時間にクラスの友達と廊下でふざけっこをしていた時のことだった。いきなりズキーンと背中が痛くなって、また入院することになってしまった。今度の治療は、何だか・・・チョッと・・・大変らしい。       
                                            
清掃婦とすれ違いに、純也が背中の痛みをかばいながら、看護婦とともに入ってくる。
純也  いてて。
初美  大丈夫、大丈夫。
純也  痛いのはボクなんだからね。
看護婦 慌てなくていいよ。ゆっくり。
初美  (やっと横たえた純也に毛布をかけると)すみません。
看護婦 間もなく先生も来ると思いますので。
初美  はい。(窓の向こうから合唱部の発声練習の声が小さくきこえてくる)合唱部か。わりと近くなんだね、高校。母ちゃんも父ちゃんも、由香里叔母ちゃんもあの高校に行ったんだよ。
純也  へえ。
初美  合唱部は結構有名でね、いろんな賞を取ってるんだよ。由香里叔母ちゃんはその合唱部の部長さんだったんだよ。そん時、全国大会にも行ったんだよ。
純也  へえ、叔母ちゃんすごいんだね。
初美  純也が生まれたばかりの頃だった。
     医師が入ってくる。バインダーのデータをみながら。
医師  お母さん、ちょっとよろしいですか。(純也から離れて)前回もお話したと思いますが、白血病は通常、進行はかなり遅いものです。
初美  はい。
医師  純也君の場合、今回の検査でリンパ節からの、いわゆる被爆が見られました。
初美  え!だって・・・。
医師  ええ、放射線の影響があったことは否めません。
初美  だって、ここはかなり距離が・・・。
医師  確かに。『ホットスポット』というのを聞いたことがあると思います。単純に距離だけじゃなく、地形や風向きによって、極端に蓄積濃度の高いポイントがあったのでしょう。純也君はそのせいかと。
初美  そんな。
医師  思わぬところに転移、進行を早める場合があります。右足に黒ずんだアザがみられますね。やはりそうでした、白血球や血小板の減少が進行した時にみられる内出血の痕です。変化を注意深く観察する必要があります。お母さんも大変でしょうが・・・。
初美  純也が・・・先生。
医師  大丈夫です。予断は許しませんが、今すぐ命にどうこうと言うことではありませんから。
初美  お願いします、先生。(もう一度確かめるように)お願いしますよ。
医師  (黙ってうなづく)どうだ純也君。
純也  さっきよりは。
医師  そうか。クスリで落ち着いているうちはいいが、また痛くなったり、吐き気がしたり、気分が悪くなったら教えるんだよ。じゃ。(退室)
看護婦 何かあったら、どうぞこのボタンを押してください。ナースセンターがでますから。(退室)
     正江と由香里が突然入ってくる。
正江  純也が、純也が倒れたって?
初美  (冷静に)お母さん。
由香里 とりあえずの着替えとか。
初美  由香里ちゃん、ありがとう、助かる。
正江  純也!
初美  大丈夫ですって、お母さん。
正江  よかったあ。純也、婆ちゃん心配させんな。
由香里 ほら、だから。いっつもそうなんだから。
純也  婆ちゃん、うるせええなあ相変わらず。
正江  うるせえとは何だ、うるせえとは。婆ちゃんこんなに心配してんのに。
由香里 (純也に)婆ちゃんは、勝手に思い込んで一人で大騒ぎしてんだからなあ。
純也  大丈夫だよ婆ちゃん。またすぐ退院できるよ。
初美  (気づかれないように首を横にふり)油断は禁物。先生も言ってたろ、今度はねえ、ちゃんと治るように、検査とかもいろいろやるみたいだから、しっかり頑張んないとね。
正江  純也には婆ちゃんがついてる。(初美を手招きして)で、どうなの?
初美  少し悪くなってるみたい。・・・被爆・・・だって。
由香里 (小声で)え!
初美  放射能。
正江  (思わず口を両手でおさえ)こんなに離れてるじゃないか。それも随分昔のことだろうよ。
由香里 そんな。(純也をふりかえる)
初美  (首を横にふり)どうして・・・。
純也  由香里叔母ちゃん。叔母ちゃんもあの高校だった?
由香里 (窓の外をみやり)ああ、そうだよ。あ、案外近くなんだ、真正面だ。
純也  叔母ちゃん、合唱部の部長さんだったって?
由香里 そうだよ、随分昔だけどね。やってる、やってる、懐かしいねえ。・・・純也。でもねえ、その『叔母ちゃん』てのはやめてくんないかなあ。『お姉ちゃん』なんだから。
純也  だって、父ちゃんの妹だから・・・。
由香里 そうなんだけど、そこはほら、気持ちの問題で。『お姉ちゃん』は嫁入り前なんだから。
正江  30にもなって、嫁入り前とは。
由香里 29ですう!
正江  同じようなもんだろ。
由香里 その差は大きいって。
     看護婦に連れられて、もう一人の患者が入ってくる。その子は頭にネットを被っている。
看護婦 早絵ちゃんはこっちよ。
母   (初美たちに軽く会釈して、早絵に毛布をかけながら)何か飲み物でも買ってこようか。
早絵  (ぶっきら棒に)いらない。
初美  私たちも、今日からここへ。
母   そうですか。
由香里 (正江に)さあ、帰るよ。
正江  今来たばっかりじゃないか。
由香里 純也の顔見て安心したろ?
正江  ええ!
由香里 あたしは仕事抜け出してきたんだから、早く戻んないと。
正江  (周りを気にして)また来るからね。
純也  うん。
正江  何かあったら、遠慮せんで電話ずんだよ。
由香里 いいから、母さん。じゃ。(退室)
母   (しばらく沈黙があって)あのう・・・そちらは・・・。
初美  白血病です。
母   そうでしたか。うちの子もです。
初美  はあ。
母   大学病院に・・・。ドナーの連絡があるまでの間、こちらで検査とかしておくということで。
初美  うちは、もう何度かこちらに。純也、中田純也っていいます。小学6年生です。
母   じゃあ、早絵の方がお姉ちゃんだ。中学2年です。
初美  (早絵に)よろしくね。
早絵  (無愛想に)はい。
初美  おたくも長いんですか。
母   ええ。小学校あがって、間もなくですから・・・。
早絵  もう、いいよ!
母   これ!すみません。・・・病院暮らしも長くなると・・・偏屈にばっかりなって。(毛布をかぶってしまう早絵にため息)ごめんね。・・・純也君、兄弟は?
初美  一人っ子です。この子がまだ1歳に満たない時、父親を亡くしましたから。
母   あ、いや、すみません。
初美  いえ。津波で・・・あの時は大勢がそうでしたから、私たちばかりじゃありませんから。

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