風に燃やそう

三陸高校合唱部シリーズ第5章

(かぜにもやそう)
初演日:0/0 作者:月舘 壽晃

    『 風 に 燃 や そ う 』
                    2011・7 作
          第 1 景

     幕があく
まだ薄暗がりの中、課題曲「風がひとひら」が流れる。やがて救急車の遠ざかる音が重なる。
明転
     中央奥やや下手よりにキーボード、上手側にいくつかの机や椅子たち,寄せられてはいるが少し乱雑にある。奥には書庫。トロフィや賞状なども飾られてある。
     三月、あれから一年。沙耶香たちも3年になろうとしている。
     合唱部、部室。合唱部員が次のコンクールの課題曲に目を通している。
     日千花が音叉を持って、一年に発声を指導している。

         風がひとひら、茅萱をゆらして
         足もとにふれた時、君のこえ聞こえた
         ・・・・・

酒井  (譜面をみながらの初鍵)シンコペーションは1拍目にアクセントをもってきが
 ちだけど、むしろ前拍をていねいにね。「かぜー」の「ぜ」じゃなくて「か」ね。
     それから「君のこえ」の「こ」、「聞こえた」の「こ」。どちらも2拍め。 今日はここまでにしておこうか。1年生はいいわよ、2年生はチョッと新年度の打ち合わせしましょう。
1年  お先に失礼しまーす。
梢   じゃあね。お疲れ。
里紗  今日は、アタシも・・・。
沙耶香 里紗は何で。
里紗  あのね実はね、塾の実力テストが散々の結果でさ。「部活なんかやってる場合じゃないでしょ!」って・・・あさって追試があるのさ、ちょっと気合いれないと、マズイことになっちゃうわけ。
沙耶香 ええ!じゃあ、いつ行くのよ。
梢   どこへ?
沙耶香 ラ・メール。パフェ食べに。
千秋  この寒いのにか。バッカじゃねえ。
沙耶香 里紗に教えてもらって食べてから、もうト・リ・コ!
里紗  (顔をみあわせ)ねえ!
沙耶香 あの芳醇な甘さとボリューム!みんなも一度ご賞味あれ!
千秋  結構です。
沙耶香 いつ行けるのよ。また一緒に行こうっていったじゃん。
里紗  追試おわったら必ず、だからゴメン!(急いで立ち去る)
梢   おいおい、たのむよ。
千秋  これじゃ、練習になんねえじゃねえか、ただでさえ人数減ってんのに。
酒井  私も、ごめんなさい。亜由美さんの様子みに行かなくちゃいけないから。(帰り仕度を始める)
梢   あ、そうだよ。急に「おなか痛い!」って倒れて、保健室はこばれたかと思ったら救急車。ビックリしちゃったよ。
酒井  大したことなければいいんだけどね。
千秋  小巻とおんなじ病院だよねえ。
梢   うん。小巻、今回の入院、いままでよりも少し長くない?
沙耶香 先生、私も病院いってみる。
日千花 賛成のひと!
酒井  そうねえ、でも理事長先生に様子を報告しに戻ってくるから、みんなにはその時。なるべく早くもどるけど。その間に、練習のスケジュールも組んでみてくれる?今度の曲は手ごわいから。抒情歌が課題曲なんて初めてじゃない?
梢   いつものパターンじゃないよね
沙耶香 でも、ちょっとイイ感じじゃない。
日千花 死んだ初恋の人を思う歌。
千秋  はあ?
梢   遠くの親友から送られた、励ましのエールの歌でしょ。
千秋  ええ?
梢   千秋は何の歌だと思った?
千秋  秋のおとずれのさびしさ・・・
沙耶香 ええ?
酒井  あら!それはマズイわね、みんなの解釈がバラバラじゃ。
梢   それ、ちょっと問題!
酒井  同じ思いをこめて歌えなきゃ・・・(窓からみおろして)慌てない!気をつけて帰るのよ。大丈夫、バス間に合うから・・・。
梢   ねえ、ちょっと。確かに、いろんな取り方ができなくもないけど・・・。
千秋  少なくとも「女の友情」って線はねえな。
梢   そうかなあ。
千秋  女で友情はありえねえだろ。
梢   じゃあ、何よ。
沙耶香 男が友情で。
日千花 女は同情?
梢   せめて愛情ぐらいにしといてよ。
千秋  お前たちは食欲!
日千花 ヒド!失礼ね。(沙耶香に)ねえ。
千秋  何か、大変なことになりそうだ。
梢   解釈だけじゃなくて、みんなの気持ちもバラバラな感じしない?
沙耶香 こんなんで、いいのかなあ。
千秋  (しょげている梢をみて)梢のこと言ってんじゃないよ。
酒井  そうよ。
梢   やっぱ、私じゃ部長はムリだよ。まとめるどころか、部員も段々へって行くし。
千秋  梢のせいじゃないって。
日千花 (書庫から見つけて)あ、昔のアルバム!
梢   ええ!
沙耶香 見せて、見せて。
日千花 随分昔のじゃん、古!
梢   『伝統の軌跡』ってわけか。
日千花 よし!予定を変更して、今日はアルバム鑑賞会といきますか。
梢   ダメだよ。みんなでミーティング・・・日千花、どこ行くの。
日千花 チョッと、お菓子でもつまみながらと思って。美味しいのがあるのよ!
千秋  なに学校に持ってきてんだよ。お前らの頭は食欲しかねえのか。
梢   ねえ、チョッと。真面目にやろうよ。
酒井  相変わらずね。
日千花 (廊下に出たが、すぐ駆け戻って)みんな、ニュース、ニュース。
千秋  ほら、始まった。日千花の『ニュース』。
由香里 (入り口からのぞきこむように)こんちは。(彩、美里も)
酒井  あら!
彩   チョッと遊びに来ちゃいました。
由香里 元気してるかなあと思って。
日千花 (お菓子の缶をもってきて)先輩もどうぞ。
美里  お、気が利くねえ。
千秋  (一人白けて、小声で)懐かしがって、来るんじゃねえよ。
酒井  由香里さんは看護学校だったわよね。
由香里 美里の勤めてるお店に行ったら、偶然、帰省してる彩と会って。
酒井  彩さんは仙台の大学だったわね。
彩   はい。
沙耶香 由香里部長!
由香里 もう部長じゃないって。
沙耶香 やっぱり由香里部長は部長でしょ。
由香里 なんだよ、それ。梢が次の部長だって?
梢   私、そんなのムリって言ったんだけど。
彩   大丈夫だよ、やれるよ。
沙耶香 (はりきって)私がマネージャー。
由香里 みんなで協力すれば、うまくやって行けるよ。
梢   どうやってまとめて行けばいいのか・・。
美里  お前一人でまとめようとするからだろ。
由香里 まとめるんじゃない。一緒にやるだけ。
沙耶香 (真似をして)一人じゃ何もできない、そして一人欠けても何もできない。ただ、みんなでおんなじ方向をむいて進むだけだ。(照れる由香里を彩たちがはやす)
彩   あ、アルバム!
美里  懐かしい。
日千花 へえ、昔はこんなにいたんだ。
由香里 48人の大編成、混声3部。
沙耶香 すげえ迫力だったんだろうなあ。
由香里 私たちの時で24人、半分。
彩   それで全国大会行ったんだから、まさに奇跡だよね。
由香里 やることはやったもん。
美里  富田先生だ。
由香里 先生、今頃どうしてんだろ。
美里  奥さんの実家の方に行ってたんだったね。
彩   おっかなかったなあ。
由香里 (真似をして)1年、声が前に出てない!観客や審査員には、1年だから2年だからってハンディはないぞ。
美里  岬まで走って、体育館で筋トレやって、それから発声練習。
由香里 ほとんど運動部のシゴキだったよね。
彩   今も走ってる?
梢   いいえ。
美里  チョッと甘いんじゃないの。彩なんか富田先生にショッチュウ怒鳴られて泣きながら発声練習してたもんな。(泣きまねをして)「ハイ、ハイ」って。
沙耶香 今、そんなんしたら、部員、また減っちゃいますよ。
由香里 そんなことじゃ、減らないよ。
彩   むしろ「負けるもんか」って気になるよ。そんなもんだ。
梢   へえ、そうですか・・・。
美里  走れ走れ、いいぞ!
千秋  そうだねえ(段々に話のペースに巻き込まれて)アタシらもまた走るか。(ボソリと)
日千花 ええ!
千秋  ええじゃない。あと、先生もだかんね。

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