あしたの海

三陸高校合唱部シリーズ第6章

(あしたのうみ)
初演日:0/0 作者:月舘 壽晃

          『あしたの海』
                   2012・4 作
 
      漁港際、上手に直売所、「太田浜直売所」の看板、「新鮮」「安全」などの張り紙もある
      下手奥から防波堤が手前に伸びる
      下手が船着場になっているようだ
          第 1 景

正江  (直売所の奥で電話をとっている)はい、はい。え?聞こえない。え?助かった?助かった。(皆を見回す)ふん、ふん。真ちゃんも、良ちゃんも。(安堵を伝える)ふん。中央病院?ふん。はい、はい。(受話器をおく)
由香里 助かったって?
光子  いや、よかったあ。
正江  海上保安庁から。二人とも無事救助だって。
由香里 (両手で顔を覆い)本当に心配させあがって!
光子  第5福竜丸転覆って聞いたときは、ええ!って思ったけど、ああ、よかったよかった。
伝次郎 だから、海あまく見るなって言ったんだ。
咲枝  そりゃそうだけど。
伝次郎 いくら磯が凪いでても、嵐のあとだ、沖はうねってるって。素人じゃあるめえし。
正江  んだ、二人だって素人じゃねえ。まあ覚悟で出たんだろうけど。
伝次郎 んでも。
光子  よっぽど悔しかったんだろうねえ。
咲枝  そりゃそうさ。
正江  出漁停止。
伝次郎 何が安全基準だよ。もう何年になる、こうやって検査のための漁しかできねえ。本来ならキンキンだのメヌケだの浜あふれるくれえに捕ってきたもんだが。
咲枝  (正江を振り返り)漁労長の修造さんが生きてれば、もう少しなんとかなったんだろけど。
伝次郎 近海ものだけじゃ、稼ぎにならん。
咲枝  「検査に必要な分だけでいいんだから」ってあとは沖に捨ててくるんだろ?
光子  「もういらないから出漁しなくてもいい」って。
咲枝  そりゃ頭くるよなあ。「じゃあ安全だってこと、オレたちが捕ってきた魚で証明してやる」って出たんだろ?
伝次郎 油代も上がって、どうにもなんねえ。仮に捕ってきたところで、三陸ものだって言うだけで、気味悪がって誰も買ってくれねえ魚、下ろす市場もねえ。どうにもこうにもなんねえ!
由香里 風評被害ってやつ?
正江  しょうがない。こうやって少しあがったものを直売していくしかないだろう?
光子  そうさねえ。
正江  自分たちの海のもんは、自分たちで売る。挫けててどうするって、先祖から引継いだ海、私たちが守らんで誰が守る。
咲枝  良ちゃんなんか、あん時の海見て「オレがもとの海に戻す」って東京から帰ってきて頑張ってたのに。
光子  組合長ももう少し頑張ってくんないかねえ。
正江  いやあ、頑張ってる方だと思うよ、光っちゃん。こやって直売所開けるのも組合長のおかげだし。ねえ咲ちゃん。
咲枝  わざわざ東京まで行って、お客さん連れて来るんだろ。安全をアピールするとかで。
      下手より靖子
      靖子は目が悪い、やっと右目が見える程度
靖子  おばちゃん!
由香里 やっちゃん!
靖子  お姉ちゃん。
正江  やっちゃん。よかったねえ、よかった。
靖子  うん。兄ちゃんたち助かったって。
咲枝  心配だったねえ。
靖子  ついさっき、連絡が。
正江  うちにも、たった今。
咲枝  よかったねえ。
靖子  命に別状はないって、でも念のために中央病院に運ばれたって。
正江  ねえ・・・今バスのお客さん来るところなのよ、それが終ったら一緒に病院まで行ってみましょう。奥でちょっと待ってて。
靖子  はい。(奥へ行こうとした時、電話)あ、はい太田浜産直所です。あ、はい。ちょっと待っててください。おばちゃん、お客さんから注文の電話。
正江  ありがとう。・・・はい、お電話ありがとうございます・・・。
靖子  (由香里の格好を見て)あれ?お姉ちゃんは。
咲枝  今日はその中央病院。
光子  新採用の看護婦さんの説明会があるんだって。
咲枝  由香里ちゃんも、いよいよ看護婦さんだ。
光子  由香里ちゃん、頑張ったねえ、頑張った。
由香里 いやあ、まだ、看護学校卒業したばっかり。やっと見習いってとこかな。(靖子に)4月から正式勤務なんだけど、今日はその説明会。
靖子  そうなんだ。
伝次郎 いやあ、由香里ちゃんに注射っこ、チクッとされてみてえもんだなあ。
光子  バーカ。どれ、あたしが太いとこ、やってやるか?
伝次郎  いいや、結構です。さあ、稼ぐとするかな。
正江  (電話を切って)ホヤ送って頂戴って。
光子  ホヤ?
正江  去年注文してくれた方から。夏に送ったホヤ、美味しかったって。
伝次郎 捕って捕れないこともないが・・・。
咲枝  そんなの送れないよ。身入りの悪いもん送ったって、がっかりするよ。
正江  ホヤ酢しか食べたことがないって言うから、焼いても食べられるって言ったら、早速バーベキューでやったらしいんだよ。そしたらこれが大好評で、会社の花見でやりたいからって言うんだよ。
伝次郎 食い方も知らねえんだよな、まったく。
正江  (心から)いやあ、有難いことじゃないの。こうやって注文をしてくれる。応援してるから、頑張ってくださいって言ってくれる。・・・いい加減忘れられてるんじゃないかと思っていたが、まんざらでもないんだ。・・・時期になったら、またってことにして、岬ツブを送ることにした。
咲枝  そりゃいいや。
伝次郎 岬ツブはうめえぞ!酒の肴にはもってこいだ、花見にはピッタシってもんだ。
光子  早速、仕込んでくるか。
正江  光っちゃん、頼むわ。
靖子  あれ?バスが来る。
咲枝  え?
靖子  ゴロゴロって、坂を下って来るバスのタイヤの音。
光子  え?
正江  (奥の時計を見て)あら、本当だよ。もうこんな時間。大至急準備!
      いつもの様に慌しく店の準備を始める。
正江  由香里、あんたも。初日から遅れなさんな。
由香里 (時計を見て)あ、いっけない!
正江  (由香里の身づくろいをして)しっかりおやりよ。
由香里 解ってるって。(靖子に)じゃあね。
靖子  うん、あとで靖子も行くから。
咲枝  やっちゃん。由香里ちゃんの看護婦さん姿、見られるかな。
靖子  うん。
咲枝  カッコいいよ、きっと。
正江  あんたたち本当の姉妹みたいだね。ちょっと待ってて。おばちゃんも一緒に行ってやるから。
靖子  はい。
      由香里はでかける
      奥へ引っ込む靖子
咲枝  (見送って)これから、どうすんだろ、あの兄妹3人。
光子  ほんに、船も失ったって、ことだろう?
咲枝  やっちゃんの目の手術も受けさせたいって、頑張ってたのになあ。
正江  やっちゃん、目の手術?
咲枝  手術すれば、右目は、もう少し見えるようになるかもしれないんだって。
正江  へえ。
光子  赤ん坊の時に熱出して、それで見えなくなったんだろ?
伝次郎 良一が帰って来た時、瓦礫だらけの海を見て「オレの海はこんなんじゃねえ、目をつぶれば思い出すオレの海はこんなんじゃねえ」って。「靖子の目が見えるようになったら見せたい海は、もっとキレイな海だ」って黙々と頑張ってた。
咲枝  その日の生活もままならないのに「手術の費用稼がなきゃ」ってピチピチと貯めてるって言うじゃないの。
光子  ちょっと、あんた聞いてる?呑んでる場合じゃないんだよ、二人を見習ったらどうなの。
伝次郎 何でとばっちりが、こっちに来るのよ。
光子  せめて二人の助けにでもなってやりなさいってことよ。
伝次郎 おう。
正江  悔しいねえ。手足もがれた上に、命綱の船まで失うとは。
咲枝  何とかしてやりたいよねえ。
光子  ほんに。
      (防災無線の声)住民の皆さんにお知らせです。本日、夜7時より、太田生活館におきまして、高台への集団移転についての、説明会が行われます。どなたさまも、御参加くださいます様、お願いいたします。繰り返します。本日、夜7時より太田生活館におきまして、高台移転についての、説明会が行われます。どなたさまも、御参加くださいます様、お願いいたします。
光子  高台移転か。
正江  いよいよか。
伝次郎 浜、捨てろってか。・・・国も県も何にもやってくれねえじゃねえか。あれやっちゃダメ、これは決まってない。法律だ予算だ、なんだかんだ理由をつけて、結局見殺しだ。絆だなんだっていいこと言うが、カッコばっかり。本当に心から思ってるわけじゃねえんだ。
咲枝  「頑張れ」ったって、所詮は他人事だ。
正江  復興ったって、何にも前に進んじゃいない。
咲枝  一体、どうなっちまうんだろうねえ。
光子  ほんに。
      皆、無線の聞こえてきた方角の空を見ている
          暗転

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