ラ・メール

三陸高校合唱部シリーズ第7章

(らめーる)
初演日:0/0 作者:月舘 壽晃

      『 ラ・メール 』
                2013・1 作
      
      海を見下ろす高台の喫茶店。
      3組のテーブル、上手にカウンター。
      戸棚の片隅に女性の写った小さな写真盾。

      第 1 景

      スポットライト。
      中央の窓辺のテーブルで由香里が真二からの手紙を読んでいる。
      真二の声がスライドする。
ナレーション 拝啓 はじめて手紙を書くんで、なんて書いたらいいかわからんけど、何故かどうしても書きたくなった。お前は元気か、オ
レは元気だ。ここ石巻に来てからもう7ヶ月。遠洋からやっと戻って来たところだ。マグロ延縄なんてはじめてだったけど、なんにも
わからなくて怒鳴られてばっかだったけど、本当はいい人たちで、あっという間だった。あちこちからやって来た、被災者同士という
こともあるのだろうけど、みんなで力を合わせて同じ仕事をするってのは楽しい。お前のことが何故か気になったんだ。何だかわかん
ないけど、それで。あの時の貝殻、ポケットにいれてあるよ。お守りだからな。次も持って行くさ。看護士の仕事には慣れたか、頑張
れよ。
暮れには帰るつもりだ。じゃあな。真二・・・
      明転
      上手のカウンター前のテーブルでマスターが職員と話している。
      ミサエは宅急便の荷物を受け取り、捺印をして話に加わる。
      配達員は帰る。
マスターそりゃあ、わかりますが。
職員  是非ご理解の上、ご協力のほどをお願いいたします。
ミサエ (顔を見合わせて)ねえ。
職員  いい話だと思うんですよ、駅前のモールならここよりも客足は見込めるし、商売にはもってこいかと。
ミサエ (下手のテーブルにいた生徒たちが会計をする)はい、ありがとう。(見送って)真っ直ぐ帰りなさいよ。
マスター別に私らは儲けようと思ってやってるわけじゃありませんから。
職員  そんな事はないでしょう。・・・じゃあ防災都市計画の書類、置いてきますから後で目を通しておいて下さい。(小銭入れを出す)
マスターいいですよ。
職員  あ、そうですか、では。宜しくお願いします。
ミサエ はあ。
マスター考えてはみますけど。
ミサエ (職員を見送って)どうする?
マスターどうするって、急に言われてもなあ。
由香里 どうしたんですか?
ミサエ 区画整理にひっかかったのよ。
マスターそこに防災施設が建設されるらしい。それで道路を拡張するとかで。
ミサエ 3メーターも削られるんだって。それじゃなくても小っちゃい店なのに。
由香里 3メーターって・・・。
ミサエ 防災施設には賛成よ。でも、いざ自分とこがひっかかるとなると・・・。
マスターもし、そうなったら・・・。
ミサエ ねえ。
由香里 どうするんですか?
ミサエ さあ。どうしたらいいと思う?由香里ちゃん・・・て聞かれても、わかんないか
由香里 もしかして、無くなっちゃうんですか、この店。
マスター実際問題、そうなるかも。
由香里 ええ!ヤダ。
ミサエ (近寄って)て言うか、由香里ちゃんこそどうしたのよ。
由香里 え?
ミサエ 最近、またここ来るようになったのはいいんだけど、窓の外ばっかり、ぼんやり見てるし、それに・・・真二君からの手紙でしょ?
それ。
由香里 (慌てて手紙をしまう)いえ。
ミサエ どうしたの?変よ。
マスターこれ!お客さんのプライバシーに首つっこまない。
由香里 ・・・私、看護士辞めようかと思って。
ミサエ え?・・・だってあんなに張り切ってたじゃない。ガムシャラに頑張れる仕事を見つけたって。
由香里 うん、そうなんだけど・・・。
マスター何か、辛いことでもあったのかい?人間関係とか?
由香里 ううん。・・・この前、担当していた患者さんが亡くなったのよ、お爺ちゃん。一人暮らしだったらしいんだけど。本当は私の担当
じゃないんだけど、私のこと、孫かなんかに思ってるみたいで。「どうですか?」って声をかけると、待ってましたと言わんばかりに、
長々と愚痴こぼすのよ。
マスター頼りにされてんだ。
由香里 それ別にイヤってわけじゃないんだけど(静かに)誰も来ないのよ、身内の人。
ミサエ ええ!
由香里 ずっとよ。それも心細いと思うんだ。
ミサエ それもまた。
マスター治るもんも治らんよなあ。
由香里 たまには見舞いぐらい来てもいいじゃないのよねえ、誰もよ。辛かったと思うわ、病気だけじゃなく。
マスター入院してること、知ってんだろ?うちの人。
由香里 たぶんね。「大丈夫よ、元気出しなさい」って励ましてはみたものの、何だかそそれも虚しくて。
ミサエ そんな。
由香里 決まりきったことしか言えない、自分が虚しいのよ。
ミサエ それは、しょうがないじゃない。
由香里 それしか出来ないんだもん。・・・そのお爺ちゃん、亡くなったのよ、誰にも見取られずに。・・・直りたいって思っていたのか、死
にたいって思っていたのか。
ミサエ 由香里ちゃん。
由香里 医療って、直すのが仕事でしょ?でも、それって・・・何か。
ミサエ そう言わず、頑張んなさいな。
      入り口の扉が開き、彩の顔がのぞく。
彩   こんちは・・・。
マスターおお!(懐かしい笑顔になる)
彩   御無沙汰です。
マスター彩ちゃん!
彩   覚えててくれた?嬉しい!
マスター覚えてるもなにも。え?どうしたの。
彩   由香里、ごめん、待った?
由香里 ううん。
彩   (マスターに)ちょっとね。
マスター待ち合わせかい?由香里ちゃんと。
彩   ちょっと話しがあって、待ち合わせと言えば、やっぱここかなって。
マスターへえ、そう。
彩   私たちの共通の場所といえば、ここしかないでしょ。
ミサエ 元気そうじゃない。
彩   元気元気!
ミサエ 由香里ちゃん、元気ないのよ。ちょっと勇気付けてやってちょうだいな。
彩   え?
由香里 ううん。・・・あ、彩。この店、無くなっちゃうかもしれないんだって。
彩   え!ヤダ。
由香里 でしょ?
彩   ここが無くなったら、帰って来るとこ無くなっちゃうじゃない。この懐かしい青春の隠れ家。(キッパリと)ダメですよ、無くしち
ゃ。
マスターそりゃ・・・。
由香里 ここ、お店出してから何年くらいなんですか?私たちの時よりも、ずうっと前からあるみたいですけど。
マスターそうだねえ・・・あれからだから・・・(カウンター脇の小さな写真盾を覗くミサエに)よせよ。(ミサエ、小さく頷く)あと、誰だ
っけ?お前たちといつも一緒にいたもう一人の・・・あの、ほら臥体のいいのがいたろ、自衛隊向きの・・・ほら男みたいな・・・誰
ったっけ。
美里  (いつの間にか扉の前で)誰が男みたいだって!

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