卒業
3月 卒業

 浮浪者のような格好の主人公が出口に立つシステムに歯向かうもボコボコにされる。
 それを見ている浮かない顔の者。
 そんなところに、おしるこが放り投げられてくる。

主「お、新入りかい?よろしくな」
し「こ、ここは。やけに寒いな」
主「なんだ、状況を理解していないのか。あんたも、荷台に積まれてやってきたんだろう」
し「ええ、確かにそうですが。あなたは?」
主「俺はここ一番の古株だよ。分からないことは何でも聞くといい」
し「あの、ここの人たちは、どうしてこうも浮かない顔をしているんですか」
主「そりゃ、よりにもよってこんな山奥に連れられたからだろう。なかなか卒業できやしない」
し「卒業?」
主「ここから出る唯一の方法さ」
し「その、卒業するにはどうすればいいんですか」
主「お金でもって、わが身を買ってもらうのさ。それがこの狭い箱から出る唯一の道だ」

 ピッ。システムが奥にいる者を差す。

者「え、いいのかい?本当に、俺でいいのかい」
シ「ピッ」
者「は、はは。俺もついに出られるんだ。はっはっ、やっと出られるんだ」

 者、システムの脇を抜けて去っていく。

主「ちょうど一人、買われていったな」
し「あんな風に、買われることが喜びになっていくのですね」
主「もちろん。ここにいてもただただ冷えていくだけだからな。一刻も早く飛び出したくもなるさ」
し「まさか、まさかこんな過酷な場所に自分が来ることになるなんて」
主「自分だけはない、なんて思っちゃいけねえ。これが山奥の、人通りの少ない自動販売機という世界なのさ」
し「噂には聞いていたが、まるで地獄じゃないか」
主「凍えるように寒いこの箱の中で、たまに来る消費者さまが自分を選んでくれるのをじっと待つ。競争率は麓の比じゃないぜ。天気の悪い日なんか、一人も客がないなんてざらだ」
し「そんな」
主「さっき売れたあいつ、巷じゃ知らない人がいないってくらい有名な炭酸飲料だ」
し「それでいてあの喜びよう。僕なんか、一生かかっても出られやしない」
主「かくいう君は何者なんだ?」
し「僕は、おしるこです」
主「なんだ。この時期、あたたかいしるこは需要が高い」
し「いいえ、それがそうもいかないんです」
主「何だって?…ま、まさか」

 主人公、おしるこに触れる。

主「もう冷却が始まっているじゃないか。確かにここは“つめた〜い”のフロアだが、なぜこの時期に“つめた〜い”おしるこを」
し「この競争率の中、つめたいおしるこに興味のある人なんていませんよ」
主「それでも君を飲みた…い?いや、食べたいと思う人が」
し「ほうらね、あなたもそうだ。飲み物なのか食べ物なのか、その認識さえ不安定。ドリンク界にあるまじき認識じゃありませんか」
主「いや、それはすまない」
し「ああ、いっそのこと、おでん缶に生まれたかったなぁ」

 ピッ。
 次にシステムが差したのは、なんとおしるこだった。

し「…え?」
シ「ピピッ」
し「そんな、僕なんかが出たら消費者を後悔させてしまいます」
シ「ピューイッ!」
し「そうだ、何かの間違いですよ。隣のぷるるんグレープゼリーさんと押し間違えたのです」
シ「ピュイッピュイッピュイッ」
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