暗闇はそこにいる

(くらやみはそこにいる)
初演日:0/0 作者:ガッショーブ
『暗闇はそこにいる』
作:ガッショーブ

登場人物
遠藤直子(えんどうなおこ):心霊ルポライター。実は偽の心霊写真や心霊体験をでっちあげている。
宮楽晴雄(みやらくはれお):今回の仕事から遠藤のもとにやってきた新人の助手。
神鈴御奈(かみすずみな):依頼人。ある写真を撮影してから心霊現象に悩まされている。
須田時音(すだときね):遠藤の元助手。ある仕事がきっかけで遠藤のもとを離れた。

※この脚本はスクリーンを使用することを前提に書かれています。


第0章
暗転した舞台で須田にスポットライトが当たる。

須田 「これは…先日精神病院で死亡した、遠藤直子氏のパソコンに書かれていたとされ
     る文章です。私はある使命により、この文章を遠藤直子氏の最後の記事として全
     世界に公表するに至りました。この記事の内容は、皆様にとっては信じられない
     ような、衝撃の内容のものかもしれません。ですが、遠藤さんの名誉に誓って言
     います。遠藤さんは嘘を書いていたわけでも、おかしくなってしまったわけでも
     ありません。この記事は…全て真実なんです。」

第1章
暗転中にスクリーンに時間が映る(この先も同じ)「9月17日 13:00」
明転
神鈴の住むマンションの一室にて、遠藤と神鈴が打ち合わせをしている。

遠藤 「えーっと、神鈴御奈さんでしたよね。本日はよろしくお願いします。」
神鈴 「はい…わざわざお越しいただき、ありがとうございます。」
遠藤 「いえいえ、とんでもない。こういった取材がルポライターの大切なお仕事ですか
     ら。こちらこそありがとうございます。」
神鈴 「まさか遠藤さんのような有名な方が引き受けてくださるなんて思いませんでし
     た。」
遠藤 「いやあ〜有名だなんてそんな。」
神鈴 「この間心霊番組のコメンテーターをしていらっしゃったの、観ましたよ。遠藤さ
     ん、色んな方から一目置かれてましたよね…。この界隈なら知らない人、いない
     と思います。」
遠藤 「アハハ、いやあね、こんな界隈で有名になっちゃうのも困りものなんですよ〜。
     なんせ取り扱ってるのが物騒な題材でしょ? だからね、男が怖がって全然寄り
     付きゃしないのよ〜。アラサーだってのに婚期逃しまくりよ、もう。」

遠藤がおしゃべりモードになる。

遠藤 「それでもどんどん仕事は入ってくるでしょ〜? 寄り着いてくるのは幽霊ばっか
     かってのって話よお。まあジャニーズ入れるくらいのイケメンの幽霊とかだった
     ら大歓迎なんですけどね、お姉さんが成仏の手助けしてあげますよ〜って。あ〜
     そんな案件私のとこ来ないかしら。あ、みなさんお待ちしてます〜、このアドレ
     スにドシドシ送ってくださいね(観客の方見ながらさもテロップが出ているかの
     ように)、アハハハハ。」

遠藤はめっちゃ笑ってるけど神鈴は無反応。
自分しか笑ってないことに気付いた遠藤は咳払いしつつ話を本題に戻す。

遠藤 「すいません、緊張を解こうと思って…。」
神鈴 「…大丈夫です。」
遠藤 「じゃ、じゃあ本題に入りましょうか。」
神鈴 「はい…。」

神鈴が4枚の写真を取り出す。

神鈴 「この写真です。」

スクリーンに心霊写真が映る(遠藤が写真をめくるたびにスクリーンの写真も切り替わる)。
写真はどれも自室にて神鈴が写っているというもの。
所々に赤い線や靄のようなものが写り込んでいる。

遠藤 「ふんふん…。」
神鈴 「前もってお伝えしてある通り、この写真にはありえないものが写ってるんで
     す…。」
遠藤 「ありえない、もの…。」
神鈴 「写ってるでしょ…分かりませんか?」(気のせいか少し威圧的)
遠藤 「ああ、はい。この赤いこれのことですよね?」
神鈴 「…。」
遠藤 「はい、はい、はい…。」

遠藤は写真を見ながら自分のノートパソコンに色々書き込む。

神鈴 「この写真を撮ってから、この部屋でずっと心霊現象が起こってるんです…。何か
     気配を感じたり…、突然音や、声が聞こえたり…。」
遠藤 「声、ですか…。具体的に何を言っていたか分かったりします?」
神鈴 「『暗闇はそこにいる』」
遠藤 「暗闇?」
神鈴 「『暗闇はそこにいる』 私が聞いた声は、いつもそう言っていました…。」
遠藤 「なるほど…。」
神鈴 「最初は気にしないようにしてたんです…でも、日を追うごとにどんどん、ひどく
     なっていくんです。得体の知れない何かに、少しずつ浸食されていくみたいな、
     そんな感じ…。もう、正直…限界なんです…。」

神鈴は震えながら俯く。

遠藤 「心中ご察しします。大体何が起こってるかは分かりました。とりあえず、調査が
     必要ですね。」
神鈴 「それで、依頼文には書いてないんですけど…相談があります。」
遠藤 「何でしょう?」

神鈴は顔をグイッと上げ、遠藤をじっと見て言う(ゾッとするくらい真顔)。

神鈴 「しばらくこの部屋で生活してもらえませんか?」
遠藤 「…と、言うと?」
神鈴 「どうせ調査するなら…ここを拠点にして…生活してもらって…実際に体感してい
     ただきたいんです。この部屋で、何が起こっているのか…。そうやって、この部
     屋も写真も徹底的に調べ上げてほしいんです…。」
遠藤 「はあ…でも、よろしいんですか、そこまでして?」
神鈴 「書きたくないですか…? 心霊現象が起こる物件での生活の記事…。」

神鈴の顔がずいと遠藤に迫る。

遠藤 「まあ、確かにそんな記事が書かせていただけるなら、ルポライターとしては願っ
     てもないことですよね。」
神鈴 「この部屋の事、全部記事にしてください。もうこの物件で…私と同じ思いをする
     人が出ないように…。」

遠藤は少し考えるような素振りをするも、決断する。

遠藤 「分かりました、お任せください。できる限り調査して良い記事にできるよう善処
     します。原因など全てを解明はできなくとも、とりあえず心霊現象が証明されれ
     ばそれだけでも対策はうてますから、ご安心ください。」
神鈴 「ありがとうございます、遠藤さんならきっと引き受けてくださると思っていまし
     た。」

初めて神鈴が笑う(ニターッと)。
遠藤にスポットライトが当たり、パソコンに書き込みながら喋る。

遠藤 「こうして、私はこの依頼を引き受けました。神鈴御奈の部屋、心霊現象が起こる
     という部屋での生活。これはまたとない記事が書けるかもしれない。最初はそん
     な軽い気持ちで調査に臨みました。最初は…。」

暗転

第2章
時間「9月18日 20:00」
明転
神鈴の部屋にて遠藤が作業している。

遠藤 「さてと、大体ざっくりとは見たかしらね。」

チャイムが鳴る。

遠藤 「お、来たな…。はーい。」

宮楽晴雄登場。

宮楽 「どうも、初めまして。」
遠藤 「はいはい、君が新人の子ね。」
宮楽 「はい、今日から遠藤さんの助手を担当させていただきます、宮楽晴雄です。よろ
     しくお願いします!」
遠藤 「宮楽…変わった名前ねえ。」
宮楽 「あはは、よく言われます。」

遠藤に促され部屋に入ると、宮楽は部屋をキョロキョロしながら歩き回る。

宮楽 「ここが問題の部屋ですか…こうして見ると普通そのものですけどねえ。」
遠藤 「やあね、お化け屋敷に来たわけじゃないんだから。」
宮楽 「いや、お化け屋敷みたいなもんでしょ、実際に心霊現象が起こってるわけなんだ
     し…。」
遠藤 「お子ちゃまねえ…。あ、そっちの空いてる机、宮ちゃんの作業スペースにして
     ちょうだい。」
宮楽 「あ、ありがとうございます。」

宮楽は自分の荷物を机に置く。

宮楽 「俺、遠藤さんとの仕事、すごく楽しみにしてたんです。」
遠藤 「あら嬉しい、私にもようやく男運回ってきたかしら。」
宮楽 「あ、いや、そういうことではなく…。」
遠藤 「冗談よ、私もっと可愛い顔つきの子がタイプだから。」
宮楽 「あ、そっすか…じゃなくて!!」

宮楽は鞄から雑誌を取り出して遠藤に記事を見せる。

宮楽 「遠藤さんの書いたこの記事、これに感銘受けたんですよ。遠藤さんの調査力が
     光ってますよねこれ!!」
遠藤 「あー、懐かしいわねこれ。もう3か月前くらいになるかしら。結構反響大きかっ
     たのよね。」

スクリーンにこの記事に乗っている心霊写真が映る。
薄暗い風景の中に赤ん坊のようなものが写り込んでいる。

宮楽 「この投稿された心霊写真の考察、よくできてますよねー。この場所で起こった過
     去の事件や事故、諸々の因果関係が事細かく調査されてますからねー。そしてそ
     の事実関係から導き出された、写り込んだ赤ん坊についての背景の物語。これが
     また映画みたいなストーリーになってるんですよね、まるでよくできた脚本みた
     いに。こんな記事まとめ上げるなんて本当すごいと思うんですよ。」
遠藤 「すごいとかよく出来てるとか、月並みな褒め方ねー。ルポライターの助手なら
     もっとボキャブラリー豊富に褒めなさいよ。」
宮楽 「まあ、俺新人ですんで…。」
遠藤 「それと、その記事の内容についてだけど…もう、あんまり触れないでくれる?」
宮楽 「な、何でですか…? ま、まさか、あんまりこの記事に踏み入りすぎると、祟り
     があるとか…。」
遠藤 「…違うわ宮ちゃん。その記事に書かれてる内容そのものはね、この舞台において
     そんなに重要ってわけじゃないの。この舞台の脚本書いた作者も深く考えてそれ
     作ったわけじゃないから、ボロが出る前に早くそれ閉じなさい。」
宮楽 「は? 舞台の脚本を書いた、作者?」
遠藤 「いいから。」

訳が分からない様子の宮楽。何を思ったか記事を音読しだす。

宮楽 「ええー、この写真に写り込んでしまった赤ん坊は〜(アドリブで色々言って良
     い)」
遠藤 「閉じなさい!」

宮楽の頭をしばく遠藤。

遠藤 「いいこと? この記事は、あんたがこれを読んで感銘受けて、私と一緒に仕事し
     たいと思うようになったっていう設定の理由付けのためにあるの!! 中身なん
     て最初から無いわ。これ以上私にメタ発言をさせないでちょうだい!!」
宮楽 「あ…はい、すいません。」
遠藤 「ったく、アドリブでベラベラ読みやがって…。」

宮楽はすごすごと雑誌を片付け、遠藤は仕切りなおす。

遠藤 「では早速ですが、宮ちゃんに最初のお仕事を与えようと思います。」
宮楽 「ああ、はいっ!! 張り切ってやらせていただきます!!」
遠藤 「確か、フォトショとイラレ使えるんだったわよね。」
宮楽 「得意っすよ、任せてください。」
遠藤 「じゃ、まずこの写真なんだけど。」

遠藤は宮楽に神鈴の用意した写真を見せる。
スクリーンにも写真が映る。

宮楽 「うわ、怖っ!! 心霊写真の現物生で見たの初めてっすわ…。」
遠藤 「この写真にそれぞれ赤い靄とか線が写り込んでるわよね。」
宮楽 「はい、うわー何だこりゃ、不気味ですねー…。」
遠藤 「といってもこれ、このままじゃちょっと地味でしょ? だからもうちょっと見栄
     え良くというか、ダイナミックというか、読者にウケそうな感じに加工してちょ
     うだい。」
宮楽 「お安い御用っすよ、パパッとやっちゃいますからね〜!!」
遠藤 「お、頼もしいわね〜。」

宮楽は自分の机に戻ろうとするが、途中で立ち止まる。

宮楽 「んんん〜〜〜〜〜〜???」
遠藤 「あら、どうかした?」
宮楽 「ちょっと、よく聞き取れなかったなー…なんて。もう一度仕事内容言っていただ
     いてよろしいですかあ?」
遠藤 「もうしょうがないわねえ、今度はちゃんと聞くのよ。宮ちゃんには心霊写真の合
     成とか加工とか差し替えを行ってもらいます。」
宮楽 「はい、ちゃんと聞き取りました〜…ってちょっと待てえええええええ
     い!!!!」
遠藤 「おお、元気なノリツッコミね。」
宮楽 「ちょっとお尋ねしてもよろしいですか?」
遠藤 「どうぞ。」
宮楽 「俺がやるのって、心霊写真特番とかでよくある『お分かりいただけただろう
     か?』ってやつの後に出る拡大写真を作るとかじゃなくて、合成? 加工? 差し
     替え!?」
遠藤 「そうよ。」
宮楽 「インチキじゃねーかそれ!!!!」
遠藤 「そうよ。」
宮楽 「そうよじゃないでしょおおお、何考えてるんですかーーー!!!?」

遠藤が呆れながら立ち上がる。

遠藤 「あんたねえ、今更何言ってんのよ。今時インチキのない心霊記事や特集なんてあ
     るわけないでしょ?」
宮楽 「ええちょっと待って、マジで言ってんすか?」
遠藤 「そりゃそうでしょ、心霊現象とか正直全部気のせいだし、ましてや幽霊とかいる
     わけないんだし。」
宮楽 「ええええーーーーー、この舞台始まってまだ10分くらいなのに根本を覆しにき
     やがったこの人おおおお!!?」
遠藤 「宮ちゃんあんたどこまでピュアなのよ、先が思いやられるわ。」
宮楽 「もしかしてこのインチキって…今に始まったことじゃないとか…?」
遠藤 「あんたが感銘受けたっていうこの記事ね…全部私が考えたデタラメよ。」
宮楽 「何いいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!?」

宮楽、そこらじゅう跳ね回りながら驚く。

宮楽 「じゃあ、この写真の場所の過去の事件とか事故って…?」
遠藤 「うまーい具合に繋ぎ合わせた嘘八百です。」
宮楽 「写真に写り込んだ赤ちゃんは!?」
遠藤 「合成です。」
宮楽 「事実関係から導き出されたこの写真の背景の物語は〜!?」
遠藤 「私が深夜テンションで考えました〜。」
宮楽 「ぎゃああああああああああああああああ!!!!!!」

のたうち回る宮楽。

遠藤 「さっき言ったでしょ、中身なんかないって。全部デタラメだもの。だから舞台美
     術的にも脚本的にも、この記事を作り込む必要なんてないってわけ。メタ発言し
     てまで説明してやってんだからありがたく思いなさい。」
宮楽 「もう信じない…信じないぞ人間なんて、ちくしょう…。」
遠藤 「初日から幻滅? ひどいわねえ。」
宮楽 「うるさいうるさい、俺の尊敬の念を返してくれえ…。」
遠藤 「誤解しないでもらいたいのはさ、こういうことやってるの、私だけじゃないから
     ね? 心霊ルポライター名乗ってる人はみんなそう。ありもしないことでっちあ
     げて記事にしてんの。」
宮楽 「なんだそりゃあ、みんなして読者を騙してんのかよ!? 遠藤さんは何とも思わ
     んのですかい!?」
遠藤 「あんたが年齢不相応にピュアってだけの話よ。実際のところ、読者にとって記事
     の内容が本当か嘘かなんてどうでもいいの。いかにリアルな記事で読者を楽しま
     せるか、それに尽きるわ。」

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