ヒメゴト(60分バージョン)

(ひめごと)
初演日:2010/10 作者:穂村一彦
『ヒメゴト 60分バージョン』

【配役】5人(男1 女3 不問1)
1A.王女 :ナツノ・ヴァーゲン。ポルテ王国の王女様。気品があり礼儀正しい。
     一人称は私(わたくし)
1B.姉  :佐藤ミユキ。ニート。王女と顔がそっくり。いいかげんでわがまま。
2 .兄  :佐藤アキヒロ。三兄弟の一番上。まじめなサラリーマン。
3 .妹  :佐藤サクラ。三兄弟の一番下。ちゃっかりしている。
4 .メイド:マリア。王女に仕えている。
5 .犯人 :男女不問。王女誘拐をたくらむ悪者。

(※王女と姉は顔がそっくりという設定のため、一人二役で演じる)

【上演時間】50〜60分

【あらすじ】
 高貴にして高潔。外に出たことのない王女様
 怠惰にして自堕落。社会に出たことのないニート
 決して出会うはずのない二人が出会ってしまい……?
 顔がそっくりな二人が入れ替わるドタバタコメディ。

【備考】
 実際に公演したときの衣装は、姉のふりをしている王女はジャージ、
 王女のふりをしている姉は着脱しやすいドレスにしました。
 出番のないときに着替えられるよう台本を設計してあります。

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<開幕>

(三兄弟の家の居間。王女が中央に座っている)

妹  「ただいまー」
王 女「……っ!」
妹  「あっつーい。もーお姉ちゃん、一日家にいるんだから窓くらい開けといてよ〜」
王 女「あ、あの……」
妹  「麦茶麦茶〜、あれ、ないじゃん。ねー、お姉ちゃん、買い置きどこだっけ?」
王 女「あの……!」
妹  「ん? なに?」
王 女「その……はじめまして。えーっと……わたくしの妹……サクラ様、ですよね?」
妹  「……は?」
王 女「お初にお目にかかります。わたくし、ポルテ国第一王女ナツノと申します。」
妹  「…………は?」

(中央スポット。王女、客席に向かって一人芝居)(妹はストップモーション)

王 女「マリア! どこですか、マリア!
    ふぅ……困ったわ。見知らぬ異国で一人きり。王室は一体どこかしら……
    あ、そこの方、ちょっと道を……えっ!
    え、ええ。そうですね。私も驚きました。他人のそら似というものでしょうか。
    あ、はい……それでは、ごきげんよう……
    まっ、待ってください! あ、あの、貴方様にお願いがございます。
    一日だけで結構です。どうか……私の代わりに……
    どうか、私の代わりに、王女になってくれませんか?」

(普通照明)

王 女「と、いうわけなのです」
妹  「え〜っと…………つまりだ……
    あなたは私の知っているお姉ちゃんじゃなくて、顔がそっくりな別人だと」
王 女「はい」
妹  「しかも外国のお姫様だと、そういうことなんだ?」
王 女「はい。急なお話にもかかわらずお姉さまには快く交替していただいて……
    本当に感謝しております」
妹  「ば……」
王 女「ば?」
妹  「ばっっっかじゃないの!」
王 女「え?」
妹  「もー! そんな変な嘘考えてる暇あったらバイトの面接の練習でもしなよー。
    もー! ばか! バカ姉!」
王 女「いえ、だから私はお姉さまじゃ……あ、テレビのニュースを見てください!
    本当のお姉さまが私の代わりとして映されているはずです」
妹  「ニュース〜?」(客席に向かってリモコン。テレビをつける)

TV(録音音声)「次のニュースです。さくじつ来日されましたポルテ王国の
         ナツノ王女のニュースです」

王 女「あ、あれです! あれ、お姉さまですよ!」
妹  「ん〜? あ〜、確かに似てるかも。
    でもだからってそんな馬鹿げた話、あるはずが」

T V「こちらがナツノ王女の会見の様子です」
姉の声「サクラ〜」

妹  「っ!?」

姉の声「お〜い、サクラ、兄さん、見てる〜? じゃ、そういうことだからよろしく〜。
    こっちはこっちで適当にごまかしておくから〜」

T V「などと、意味不明なコメントを残し、周囲を混乱させています。
    それでは次のニュースです。昨日未明動物園で、」

妹  「………………」(TV消す)
王 女「あー、よかった。ね? 今のがお姉さまで」
妹  「申し訳ございませんでしたーっ!」
王 女「ええっ?」
妹  「違うんです! 私、あの、姉だと思ってたから!
    馬鹿だとかアホだとか、決して王女様に言ったわけではー!」
王 女「ちょっ……おやめください。
    私のほうこそ、私のわがままでこんなことに巻き込んでしまって。
    あなたやあなたのお姉さまに何と謝罪していいか」
妹  「いいんです! どうせ馬鹿姉は時間持て余してるただのニートですから!
    家にいたところでいいともとごきげんよう見ながら
    モンハンとかドラクエとかやってるだけですから!」
王 女「ああ、ドラクエ!」
妹  「え?」
王 女「お姉さまが言っていました。もしも家でやることなくて暇だったら
    私の代わりにドラクエのレベル上げ?というのをしておいてほしい、と」
妹  「王女様に何を頼んでるのよ、あの馬鹿は!」
王 女「いえ、無茶な頼みをしているのは私ですから。どうかお願いします!」
妹  「わ……わかりました! どうぞ好きなだけこの家にいてください!」
王 女「い、いいんですか?」
妹  「そりゃもう! あのどうしようもない姉が
    生まれて初めて人の役に立っているのですから!」
王 女「ありがとうございます! あ、あとお兄様がいらっしゃるんですよね。
    ぜひご挨拶を」
妹  「あ、お兄ちゃんは今会社で、たぶんもうすぐ戻ってくると思いますが……
    そうか、お兄ちゃんがいたっけ。
    う〜ん……でも、お兄ちゃんに挨拶するのはどうかな〜」
王 女「ダメなのですか?」
妹  「兄は変な所マジメなもんで、真相を知った瞬間王室に連絡してしまうかも……」
王 女「ええっ? そ……それは困ります。せっかく入れ替わりましたのに」
妹  「……わかりました! うまくごまかしましょう!
    王女様はミユキお姉ちゃんのふりをしてください」
王 女「え! だ、騙すんですか?」
妹  「ちょっとの間、本当のことを言わないだけですよ」
王 女「無理です! だって私嘘なんてついたことありません。私にはできませんよ!」
妹  「大丈夫ですって。うちのお兄ちゃん、結構抜けてて、ま、マヌケというか」

兄  「ただいまー」
妹  「うわあっ!」
兄  「あ? どうした、サクラ?」
妹  「な、なんでもないよ、お兄ちゃん! そう、お兄ちゃん。あなたはお兄ちゃん。
    名前は佐藤アキヒロ。私たち3兄弟の一番上」
兄  「何言ってんだ、お前?」
妹  「な、なんでもない、なんでもない」
王 女「おかえりなさいませ、お兄様」(正座して礼)
兄  「は?」
王 女「本日もお勤めお疲れ様でございました」
兄  「なんだ、それ。気持ち悪い」(頭を叩く)
妹  「わー!」

(妹が兄をふっ飛ばし、王女に駆け寄って頭をかばう)

妹  「だ、大丈夫ですか! お怪我は! お兄ちゃん、なんてことするのっ!
    王……お、女の子に対して!」
兄  「え……いや、いいだろ。頭叩くくらい。なぁ?」
王 女「はい。全てを受け入れるという覚悟のもと私は来ております。
    どうぞ、いかようにも」
兄  「……お前、大丈夫か? 熱でもあるんじゃ……」(額に触ろうとする)
妹  「わー!(兄をふっ飛ばす)もう! あんまベタベタ触らないの!」
兄  「お、おう……どうしたんだ、お前ら二人とも。俺をからかってるのか?」
妹  「どうもしてないよ! いつも通りの私! そしていつも通りのお姉ちゃん!」
兄  「まぁ、いいけど……」(スーツを脱ぎ始める)
王 女「きゃあ!」(目をおおい、顔をそむける)
妹  「うわー!(兄をふっ飛ばす)もう、ばかー! ここで脱ぐなー!」
兄  「いや……だっていつもここで着替えてたろ、俺」
妹  「今日からは、やめて!」
兄  「ちぇっ……じゃあもう夕飯にしようぜ」
妹  「そうね。夕飯……夕飯!? 夕飯、もしかして私が作るの?」
兄  「だってお前の役目だろ?」
妹  「無理無理無理! 荷が重すぎる!」
兄  「いつもお前が作ってただろ!」
妹  「今日はさー、その……お寿司でもとらない?」
兄  「なんで! 今日なんかの記念日?」
妹  「ほら……お姉ちゃんもいるし」
兄  「こいつ毎日いるだろ! ニートなんだから!」
王 女「サクラさん、私からもお願いします。どうか御夕飯作っていただけませんか?」
妹  「うっ……いい、の? お、ねえちゃ、ん。その、一般庶民の夕食です、だよ?」
王 女「ええ、ぜひ」
妹  「ふぅ……わかった。じゃ、作ってきます……
    あ。お兄ちゃん! お姉ちゃんと二人きりになるけど、その……」
兄  「なんだよ」
妹  「え〜っと……変なことしちゃだめだよ」
兄  「するか!」

(妹、退場)

兄  「なんか、変だよな、お前ら二人とも」
王 女「そ、そんなことはないですよ……!」
兄  「だからその喋り方が既に……ああっ! もしかして!」
王 女「……!」
兄  「敬語の練習か? 就職に向けての!」
王 女「えっ?」
兄  「なっ? そうだろ、当たりだろ!」
王 女「え、えっと……はい」
兄  「おおお〜! とうとうお前もその気になってくれたかー! うん!
    働くことはいいことだぞ! 給料も入るが、何よりも達成感、自立心、
    そして人とのつながりが生まれるからな!
    あー、じゃああれは?」(左手を出す)
王 女「はい?」
兄  「ほら、あれ」
王 女「……?」(立ち上がり、兄の左手に右手を乗せ、スカートをつまんで会釈)
兄  「いや、違くて……履歴書だよ、まだ書いてないのか?」
王 女「は、はい。まだ」
兄  「そっか。っていうか、どこに勤めたいとか、どういう仕事したいとか、
    もう希望は決めてるのか?」
王 女「……希望?」
兄  「そうだよ、希望」

(中央スポットライト)

王 女「希望……私の希望……私が生まれる前から敷かれていた人生のレール。
    そこからはみ出すことは許されず、それが私にとっても当たり前だった……
    何になりたいか、何をやりたいかなんて、私は……
    今まで一度も考えたことすらありませんでした……」

(普通照明)

兄  「いや、考えろよっ。一日中家にいるんだから、それくらい考えられるだろ!」
王 女「もしかしたら私は逃げていただけなのでしょうか……」
兄  「逃げてる逃げてる! めっちゃ逃げてる! ん……まあ、いい!
    時間はかかったけど今日それに気づいてくれたんだからな! 兄は嬉しいよ!」

妹  「ねえ、なんか騒がしいけど大丈夫!? なに話してるの?」
兄  「おう! 二人でいろいろ話してたんだけどな。ミユキがちょっと変わってたよ」
妹  「そ、そうかな〜? お姉ちゃんはいつも通りだと思うけど」
兄  「いや、なんかちょっと立派になってた」
妹  「……ちょっとどころじゃないんだよ、本当は!」
兄  「あ! そういやサクラの働いてる店で、バイト募集してるって言ってたよな!」
妹  「ん〜。してるよ〜。ティッシュ配りの簡単なバイトなんだけど、
    予定してた人が三人も辞めちゃってさ〜。困ってるの」
兄  「それ、ミユキにもできるか?」
妹  「お姉ちゃん?」
兄  「そう」
妹  「お姉ちゃんって、このお姉ちゃん?」
兄  「他にいないだろ」
妹  「無理無理無理!」
王 女「やはりわたくしには無理でしょうか……」
妹  「いえ、お姉ちゃんのせいじゃないんですよ? ただ、そのー、お姉ちゃんの手を
    わずらわせることもないかなと。今は人手が足りていますので!」
兄  「さっき困ってるって言ったろ」
妹  「ぐっ」
兄  「ミユキはどうだ? バイト。まったく知らないところより、
    サクラがいる職場のほうが心強くていいんじゃないか?」
王 女「でも、私にできるでしょうか?」
兄  「大丈夫! できるって!」
王 女「余計なことをして人様に迷惑をかけるくらいなら、外に出ず、
    籠の中の鳥のように、大人しくしていた方がいいのでは……」

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