モノクロイド

(ものくろいど)
初演日:2016/10 作者:穂村一彦
『モノクロイド』
【役者】9人(男3 女3 不問3)

1.男   :男。名前はケイ25歳。人間。貧しいけれども優しい青年
2.メイド :女性型。ハウスキーパー。メイド服。明るくて騒がしい。よく笑う。
3.ドクター:女性型。白衣。けだるそうな雰囲気。
4.ガード :男性型。ぶっきらぼうで強そう。
5.妻   :女。名前はエリ。人間。ケイの妻。おとなしい。
6.博 士 :男。人間。テンションが高くてうさんくさい。
7.郵便屋 :男女不問。無表情。足をひきずり声にノイズが走る。頭に帽子。
8.音楽家 :男女不問。無表情。楽器を携帯。
9.軍 人 :男女不問。無表情。銃を携帯。

【あらすじ】
西暦2616年。
人類は200年も昔に滅亡し、数台のアンドロイドのみが機動しつづけていた。
人間のために造られながら、人間の役に立つことができない彼らは、
家族のように寄り添いながら、楽しく、そしてむなしく、百年以上過ごしていた。

そんなある日、冷凍ケースから一人の人間が目覚める。
彼は多額の報酬につられ、コールドスリープの実験体として名乗りを上げたのだ。
六か月間で終了するはずだった実験だが、途中で戦争が始まり、実験担当者は逃亡。
男が目覚めたのは、自分の時代から二百年後の、自分以外の人間が滅亡した世界だった。

絶望する人間の男。
初めて人間に出会い、希望に胸を膨らませるアンドロイド。
時を超えた出会いは、荒廃した世界に何をもたらすのか。

「役に立ちたいんです。それが、私の生まれてきた意味だから……」

【本編】
<第一幕 朝のニュース>

男「おはよう」
妻「おはよー、ケイ。朝ごはんできてるよ。はい」
男「ああ、ありがとう。いただきます」
妻「いただきます」
男「うん、おいしい!」
妻「ありがとう。今日のお仕事はどこ? 近く?」
男「いや。今日は遠いんだ。D地区の南のほう」
妻「え……大丈夫なの? あっちは治安が悪いって……」
男「平気平気。心配しすぎだって」(リモコンつける)
   
アナウンサー(録音音声)
 「おはようございます。朝のニュースをお届けします。最初のニュースです。
  D地区でまた強盗事件が発生しました。被害者は全治六か月の重傷です」

妻「ねえ……」
男「だ、大丈夫だよ。強盗だって僕みたいな貧乏人狙わないって」
妻「でも……」
男「それに治安が悪い分給料も良かったんだ。
  1日で7500ジュエル! これで今月は楽になるよ」
妻「うん……あ! じゃあ、これ! お守り持っていって」(首にさげる小さな袋)
男「これ、エリが大切にしてるやつだろ? いいよ、悪いよ」
妻「いいから!」
男「わかったよ……ありがとう」(首にさげる)
   
アナウンサー(録音音声)
 「次のニュースです。
  昨日、第七研究所が新しいタイプの人工知能を発表しました。
  今までのロボットといいますと、私のように、表情の無いロボットが普通でした。
  しかし新しい人工知能を使えば、より豊かな感情を表現できるロボット……
  つまり、より人間に近いロボットが作れるとのことです」
   
男「へ〜。すごいな。世の中どんどん進歩してくね」
妻「私はなんか怖いけど……人間みたいなロボットだなんて」
男「でも便利らしいよ。料理も掃除も全部やってくれるって」
  うちもお金があれば、1台買えるんだけど。何千万もするらしいからなぁ」
妻「いらないでしょ、そんなの。私のすることがなくなっちゃう」
男「はは、そうだね」

アナウンサー(録音音声)
 「次のニュースです。
  第三研究所がコールド・スリープの動物実験に成功しました。
  半年前に冷凍保存されたチンパンジーは目覚めてすぐ元気に動き回っています。
  実験の担当者のコメントをお聞きください」
   
 (博士にスポット)

博士「ついにここまでたどりつきました!
   さぁ、次はいよいよ人間です!
   研究所はこの実験に協力してくれる方を広く募集しています!
   資格は心身ともに健康な20代。実験期間は6か月間!
   たった6ヶ月、ケースの中で寝てるだけで、
   偉大な科学の第一歩に名を刻めますよ!
   もちろん手に入るのは名誉だけじゃありません!
   報酬として1億ジュエルを支払います!」

男「1億!?」
妻「……ケイ?」
男「1億……!」
妻「ま、待って。馬鹿なこと考えてないよね?」
男「でも、1億あれば……もっと裕福な暮らし、
  家事ロボットだって買えるし、君をもっと幸せに……」
妻「私はもう幸せだってば!」
男「…………」
妻「そんな危険な実験。もし失敗したらどうするの?」
男「……そうだよね。ごめん、変なこと考えちゃって」
妻「そうそう。半年間冷凍なんて。寒がりなケイには無理よ」
男「だね。風邪ひいちゃうよ」
妻「健康が一番。あ、おかわりいるでしょ?」(退場)
男「うん、ありがとう。…………1億……」

   (暗転)
   
アナウンサー(録音音声)
 「次のニュースです。
  グロリア共和国が2日前に行った核実験に対し
  世界連邦は非難決議を表明しました。
  2週間以内に全ての核兵器を放棄することを要求。
  要求が実行されない場合は、制裁を行うと警告しました。
  グロリア共和国の動向が注目されます。
  以上、2416年10月22日、朝のニュースでした」


<第二幕 平和な朝>
   
   (明転。メイド、中央に立ったまま眠っている。起きる)

メイド「おはよー! さー、みんな、朝だよー! 起きて起きてー!」
音楽家「おはようございます」
メイド「おはよー!」
音楽家「ご希望の曲はありますか?」
メイド「ん〜! じゃー、今日はぁ……すごくにぎやかなやつで!」
音楽家「かしこまりました」(一礼して楽器を奏でる。にぎやかな音楽)
メイド「ん〜、いいねいいね〜! 天気もいいし! いい一日になりそう!」
ガード「おはよう。」
メイド「おはよう、ガード」
ガード「……音楽ストップ。」
音楽家「かしこまりました。演奏を停止します」(音楽停止)
メイド「ちょっと! なんで止めちゃうの!」
ガード「寝不足で、頭が重いんだよ……なんか静かなやつ」
音楽家「かしこまりました」(一礼して楽器を奏でる。静かな音楽)
メイド「昨日寝るの遅かったの?」
ガード「そー。」
メイド「また訓練?」
ガード「そー。」
メイド「睡眠時間削ってまでやることないでしょ。時間なんていくらでもあるんだから」
ガード「俺の勝手だろ。じゃ、外の見回りいってくる」
メイド「あーちょっと待って。朝ごはん朝ごはん」
ガード「はぁ?」
メイド「ほら、見て! 倉庫から新しい保存食見つけたの! じゃーん! どう?」
ガード「どうって?」
メイド「だからー、よくできてるとか、おいしそうとか、あるでしょ?」
ガード「俺にわかるわけないだろ、そんなもん。」
ドクタ「おはよ〜」
メイド「おはよー、ドクター」
ドクタ「……音楽ストップ」
音楽家「かしこまりました。演奏を停止します」(音楽停止)
ガード「おい、勝手に止めるなよ。」
ドクタ「寝不足で頭が重いのー」
メイド「昨日寝るの遅かったの?」
ドクタ「そう」
メイド「また研究?」
ドクタ「そう」
メイド「まったくガードもドクターも……」
ガード「俺のトレーニングを、こいつの遊びと一緒にするなよ」
ドクタ「こっちのセリフ!
    体を単純に動かしてるだけのガードと私の知的研究を一緒にされたくないわね」
ガード「なにっ?」
ドクタ「なによ!」
メイド「二人とも似た者同士なんだから」
二 人「似てない!」
メイド「ねえ、それよりドクターにお願いあるんだけど」
ドクタ「なに?」
メイド「キッチンの汚れがなかなか落ちなくて。いい洗剤作ってくれない?」
ドクタ「あのねえ……だから私は人間専門の医者であってそういう専門外のことは……」
メイド「そこをなんとか! お願い!」
ドクタ「はぁ……わかった。研究しておく」
ガード「ああ、俺も頼みがあるんだけど」
ドクタ「なに?」
ガード「右肩の調子が悪くて……あとで見てくれないか?」
ドクタ「あのねえ……だから私は人間専門の医者であってそういう専門外のことは……」
ガード「細かいこと言うなよ」
ドクタ「はぁ……わかった。じゃあ部屋に来て」
ガード「おう、ありがとな」
メイド「二人とも、なんだかんだいって仲がいいんだから」
二 人「よくない!」
ドクタ「じゃあ行くよ」
ガード「おう。」
メイド「あ、待って待って。朝ごはん!」
ドクタ「はあ?」
メイド「ほら、見て! 倉庫から新しい保存食見つけたの! じゃーん! どう?」
ドクタ「どうって?」
メイド「だからー、よくできてるとか、おいしそうとか、あるでしょ?」
ドクタ「私にわかるわけないでしょ、そんなの。」(退場)
メイド「あ、ちょっと…………ねえ、この料理どう? おいしそうにできたかな?」
音楽家「申し訳ありません。発言の内容が理解できません」
メイド「そう、だよね……ごめんね、変なこときいちゃって。もう休んでていいよ」
音楽家「かしこまりました。休息モードに入ります」(退場)
メイド「きっと……おいしいと、思うんだけどな……」

郵便屋「郵便、の、お届け、です」(古い機械のノイズが走る感じ)
メイド「は〜い、どうぞ〜。あ、郵便屋さん! おはようございます。」
郵便屋「おはっ……ざ、います。郵便、っの、おとどけ、で、す」(手紙を渡す)
メイド「ありがとう。あと、これ、よろしく! 5年後の私に届けて下さい!」
   (別の手紙を渡す)
郵便屋「かっ、しこ……ました……」(退場)

   (手紙ひらく。中央スポット)

メイド「拝啓 5年後の私へ
    お元気ですか? 変わりはありませんか? みんなと楽しくやっていますか?
    あなたは5年前の今日にあったことを覚えてるでしょうか?
    今日はお部屋の掃除をしました。
    汚れを落として、ほこりをとって、完璧にしたのに、
    ガードとドクターが薬のビン落とした〜とか言って、
    爆発起こすわ、ケンカするわでもう大変!
    部屋中煙でまっくろ。また明日掃除やりなおさないと……
    5年後の2人はどうですか? 少しは仲良くなってるでしょうか?
    また手紙を出します。5年後の私へ。5年前の私より。」

   (普通照明)

メイド「ふふっ……あったなぁ、そんなこと。そっか。あれから5年か……
    5年前の私。ガードとドクターは相変わらずケンカばっかしてるよ。
    他の皆も変わりなく、そして、楽しくやってるよ!」
   
   (爆発音)

メイド「うわっ! な、なに?」
ドクタ「あー、もう! なにやってんの!」
ガード「あんな危ないもの机の上に置いておく方が悪いんだろ!」
ドクタ「あんたがぶつからなければ問題なかったの!」
ガード「お前がちゃんとしまっておけば問題なかったんだよ!」
メイド「ちょっと! どうしたの?」
ドクタ「机の上に置いといた薬を、ガードが割っちゃったの」
メイド「また!?」
ガード「またって人聞きの悪い。こんな失敗今までに一度も……」
メイド「してました!」(手紙つきだす)
ドクタ「……お〜、すごい、これ。ちょうど5年前の今日だ!」
ガード「すごいな! よし、記念日にしよう!」
メイド「こんなこと記念日にしたくないよ! 2人とも反省してるの?」
二 人「いや、だって、こいつが……」
メイド「反省して!」
二 人「……ごめんなさい」
メイド「まったく……もうこれっきりにしてよね。」
    壁とか壊れてないかな。見回りいくよ」
ガード「わかった」
ドクタ「あー、私もいく」
メイド「ドクターは自分の部屋の後片付け!」
ドクタ「え〜、はいはい」
   
   (全員退場)
   

<第三章 時を越えて>
   
   (男がおそるおそる入ってくる。反対側から博士)
   
博 士「おー、ようこそいらっしゃいました! ケイさんですね?」
男  「は、はい」
博 士「んー、いいねー、健康そうだ。理想的! 年齢は?」
男  「25歳です」
博 士「持病は?」
男  「特にありません」
博 士「寝相はいいほう?」
男  「あ、あんまり……寝相悪いとだめですか?」
博 士「はっはっは、冗談ですよ! 寝相もいびきも歯ぎしりも関係なし!
    あなたの体に問題ないことは分かってます!
    先週いろんな診断を受けてもらったでしょ?
    多くの志願者の中で、唯一あなただけが全ての診断をクリアしました!
    素晴らしい! あなたは実にラッキーだ!」
男  「あ、ありがとうございます」
博 士「じゃあ、さっそく冷凍ケースに……
    あ〜、忘れるとこだった。はい、これ。契約書。
    ま、一応、形だけのもんですが。実験に自ら志願したという同意書です。
    はい、サインして。」
男  「…………」
博 士「ほら、早く」
男  「…………あの!」
博 士「なに?」

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