farewell time

(フェアウェルタイム)
初演日:0/0 作者:江出秋楓
登場人物

・青木悠人(あおきゆうと)……二十六歳。百合の恋人。ラジオネームは『黒いカルピス』。十四歳から祖母の家にお世話になっていたが、一昨年、その祖母を亡くしている。
・天ヶ崎百合(あまがさきゆり)……二十六歳の外科医。悠人の恋人。天ヶ崎家の一人娘。実家の天ヶ崎病院に勤めている。ラジオネームは『白いコーラ』。ボルシチが大好物。
・ユリ……記憶喪失の女性。百合にそっくり。
・小山瞳子(こやまとうこ)……三十三歳。悠人の母の妹。つまり叔母にあたる。悠人に『おばさん』と呼ばれることに不満を感じている。
・小山幸子(こやまさちこ)……二十八歳。瞳子の妹。こちらも悠人との続柄は叔母に当たるが、年が近いためか、悠人からは『さっちゃん』と呼ばれている。
・池田久(いけだひさ)……二十六歳。悠人と百合の友人。バーテンダー。ラジオネームは『ウォッカとウィスキーのカクテル』。
・天ヶ崎健次郎(あまがさきけんじろう)……天ヶ崎病院の医院長。百合の父。
・三上司(みかみつかさ)……三十二歳。天ヶ崎病院に勤める医者。百合の婚約者。
・真島(ましま)……天ヶ崎家の使用人。
・メライ……ラジオ『オールボワール』のパーソナリティ。

※小山紀子……悠人の母親。十二年前に夫を殺している。





 舞台前方スポット。悠人が立っている。

悠人「深い、深い、微睡みの中。暗く冷たい、石の階段。ああ、そうだ。これは夢だ。いつもの悪夢だ。一段一段、ゆっくりと下りていく僕は、この先の出来事を、夢の結末を知っている。階段の半ばに差し掛かるころ、十四段目の段差に足をかけると同時に、僕の体は宙を舞う。そのまま真っ暗な闇へ、一直線に落ちてゆく。
 これは夢だ。ただの夢だ。分かっている。分かっているのに……なぜ、僕はこんなに恐いのだろうか。僕はいったい、何を恐れているのだろうか。その答えにたどり着く前に、僕の体は、また、闇へと……」

 照明フェードアウト。同時に舞台後方にスポット。メライがラジオの生放送をしている。

メライ「きっと報われることのないみなさん、ボンジュール。世界の様々な『さようなら』に思いを馳せるラジオ番組『オー・ルボワール』のお時間です。初めましての方は初めまして。また会った方にはお久しぶり。どうも。狂言回し、もといパーソナリティのメライです。前回の放送から、なんと三週間もたってしまいました。いやはや、リスナーの皆さん、長らくお待たせいたしました。今回でこの番組も五十回目の放送ですね。いやー、無事迎えられてよかった。いつも聞いてくれている皆さん、本当にありがとうございます。
 さてさて、それでは早速、お便りのコーナーから行ってまいりましょう。今日のお便りは……なんと三通! ふむ。いつも通りですね。きっといつもの方々でしょう。ええと?今回のお便りのテーマは……あ、そうそう。最近見た夢の話、でしたね。よし。では最初の方。
 ラジオネーム『黒いカルピスさん』から
 メライさん、お久しぶりです。五十回目の放送おめでとうございます。
では、本題に入ります。最近、こんな夢を見ます。冷たい石の階段を、一歩ずつ、一歩ずつ下りていき、最後には突然、暗闇に落ちてしまう。これが一度ならいいのですが、何度も何度も、同じ夢を見ます。これって何か意味があるんでしょうか……なるほど。
 まずは挨拶からですね。『黒いカルピス』さん、お久しぶりです。第三回から欠かさずにお便りありがとうございます。これからも頑張ってまいりますので応援よろしくお願いします。
 さてはて、古来より夢というのは何かしら意味があるのではと考えられてきました。その意味を探る方法として、夢占い、というものがあります。では、ここはひとつ、そうですね、その夢占いとやらで、『黒いカルピス』さんの夢について読み解いていきましょう。
 まずはじめに、階段、というのは昔からそれにまつわる奇奇怪怪な話が数多く存在するように、神秘的な側面を持っています。そのため夢占いにおいても、階段が出てきたとなると、そこに意味を見出すことが多くなります。
 さて。今回注目すべきは、『黒いカルピス』さんが、冷たい石の階段を『下りている』こと、最後に暗闇に『落ちてしまうこと』ですね。まずひとつめ、石の階段を下りていること。これは『これまで持っていた目標や目的を、近い未来、諦めざるを得ないこと』を意味します。これは、そうですね、決して逃れることは出来ません。その目的を目指す道そのものがなくなってしまうことすら意味していると言えるでしょう。そしてふたつめ、暗闇に落ちてしまうこと。これは、近い将来に、人間関係がダメになることを意味しています。友人関係、仕事関係、恋人関係。どれかは分かりませんが、そのどれか、あるいは全てがダメになるかもしれません。
 ……まあ、こんなもの、所詮は占い。当たるも八卦、気の持ちようですから。気にしすぎると、かえって失敗しますよ。所詮、夢は夢。起きれば消えて、ほとんどが記憶にすら残らないもの。誰もが抱く幻ですよ、ってお便りのテーマが『夢』なのにこんなこと言っちゃだめですね。失敬失敬。
 さて、では気を取り直して次の方。ラジオネーム『白いコーラ』さんから。ああ、この方も第三回から常連さんですね。では。
 メライさん、お久しぶり。五十回目の放送おめでとう。これからも頑張ってね。
では、お題である夢の話を。最近恋人が同じ夢を見て、毎晩うなされています。どんな夢かというと、冷たい石の階段を、一歩ずつ一歩ずつ下りていき、最後には突然暗闇に落ちてしまう夢です。これって何か意味があるのでしょうか……かぶってますよー!?お二人さん、投稿がかぶってますよ!?っていうか、え?『黒いカルピス』さんと『白いコーラ』さんって恋人同士だったのか!?放送五十回目にして衝撃の事実!今頃二人で肩を並べて、仲良く聞いてくれてるのかな?そうだったらいいですね。
 こほん。
 気を取り直して……お久しぶりです、『白いコーラ』さん。どうもありがとうございます。そうですね、とりあえず、次は百回目の放送目指して頑張ります。
 さて、夢の意味については……先ほど言ったのでいいですよね?では、次の方。いってまいりましょう。
 ラジオネーム『ウォッカとウィスキ―のカクテル』さんから。

 ゴジユウ オメデト

 電報か!しかもご丁寧に全部カタカナで!でもありがとうございます。おそらく唯一この番組を第一回から聞いてくれているのはあなただけですよ。でもね、今度からは、できればお題に沿ったお便りも欲しいですすねぇ。
 はあ……では気を取り直して。次のコーナー行ってみましょう。リクエストのコーナーです。
 さあて、今日のリクエストはこの曲。○○○○!毎度おなじみ、本日二回目の『ウォッカとウィスキーのカクテル』さんからのリクエスト。『私の青春の曲』だそうです……前回のリクエストでも同じこと言ってたなぁ。まあ、いいや。それではお聞きください。△△△△で○○○○」

 暗転。



 久の店。店内には久と百合の二人のみ。二人とも、酒の入ったグラスを持っている。(以下、《》内はラジオの音声)

メライ《……さてと。そろそろお別れのお時間です。次回の放送は来週になるか、再来週か、それともさらにその先か。しかし、不定期とはいえ、いつかは放送されますので、どうぞお楽しみに。
 それではみなさん、また会う日まで。オー・ルボワール》

悠人、登場。

悠人「ごめんごめん、打ち合わせが長引いちゃって」
百合「遅い!」
久「気にするなよ。大事な会議だったんだろう?」
悠人「まあね。久、僕はアルコールが入ってないのを」
久「オーケー」
百合「悠人。はい、あーん」

 百合、チョコレートを取り出し、悠人に食べさせる。

悠人「あむ。これは?何のチョコ?」
百合「遅くまでお疲れ様のチョコよ」
久「はいよ、悠人」

 久、カクテルを作って悠人に渡す。

久「それでは、百合ちゃんの研修医としての研修期間修了を、あとついでに『オー・ルボワール』五十回放送を祝して、乾杯!」
悠人「乾杯!」
百合「乾杯!」
久「ついに百合ちゃんも一人前の医者か……あんなにツンツンしてた娘が、今ではこんなに立派になって……」
百合「ちょ、ちょっと、別にツンツンはしてなかったでしょ?」
久「いやいや、かなりツンツンしてたよ。なあ、悠人」
悠人「ああ、そうだね……百合。僕が初めて話しかけたとき、キミ、なんて言ったか覚えてる?」
百合「……さ、さあ?」
悠人「部活の帰り道で偶然会って挨拶したら、キョトンとした顔で『誰、あなた?』って言ったんだよ」
百合「そ、それは、あまりクラスメートの顔とか覚えてなかっただけよ」
久「で、そのあと悠人がクラスメートの青木悠人だって名乗ったら『ああ、あのいつもへらへらしてるグループの』って言ったんだよな」
百合「……。」
悠人「覚えられてなかった上にいつもへらへらしてるって言われて、かなりへこんだなぁ」
百合「そ、そんな昔のこといまさら持ち出されても困るわ」
久「そうだよね。そんな二人も今ではこんなにラブラブに―」
悠人・百合「ラブラブじゃない!」
久「あ、そう。まあ、そう言うことにしておいてやろう。それにしても、奇妙な縁だよな。俺と悠人はともかく、百合ちゃん天ヶ崎病院の御令嬢だろ?それが普通の公立高校に通ってたのが驚きだったよ」
百合「あの頃は、ほら。反抗期だったから。高校も、『お父さんが決めたところなんていやだ!』って、無理言って公立に通わせてもらってたの」
悠人「あの頃は絶対医者になんてなるもんですか、って感じだったよね」
百合「そうね。そんなことも言ってたわね……でも、いまではお父さんのことも尊敬してるのよ。いつかはあんな風に、立派な医者になってみせるわ」
久「それにしても、喧嘩ばっかりしてたよな、二人とも。それに付き合うときだって、ずっと両片思い状態で、俺があのとき―」
悠人「わああああ!!ストップ!ストップ!」
百合「え、なになに?」
久「いや、なに。こいつがヘタレでなかなか告白しなかったから、ちょっと焚き付けたんだよ」
悠人「久、ストップ!」
百合「悠人は黙ってて。それで、どうやったの?」
久「『お前が告白しないんなら、俺が百合ちゃんに告白するぞ』って言ったんだよ。それで、そのあとちょっと取っ組み合いの喧嘩もしたりして、やっと悠人は百合ちゃんに告白したってわけ」
百合「へぇ……だからあのとき怪我してたんだ」
悠人「……。」
久「いまでも一つ後悔してるのは、あのとき教室にカメラを仕掛けてなかったことだな」
悠人「そんなことしてたらキミとは絶交してたよ」
久「いや、あのときだけじゃないな。悠人と百合ちゃんの痴話喧嘩をしっかり録画しておいて、それを二人の結婚式で流したりできたらな……っと。そう言えば、こうやって聞くのもなんだけど、二人はいつ結婚するんだ?」
悠人「……。」
百合「……。」
久「……え?しないのか?」
悠人「い、いやいや、そう言うわけじゃないんだけど。ただ、ちょっと問題が……」
久「問題?」
百合「実は、まだお父さんに話してないの、悠人と付き合ってること」
久「……笑えないジョークだ」
悠人「残念だけど、事実だ」
久「なんで話さないんだよ」
百合「それは……」
悠人「キミも知ってるだろ、久。僕の母親のこと」
久「母親って言っても、お前が小学生の頃に離婚してるんだろ?」
悠人「でも血のつながった母親だ。その母が人を殺した、だなんて。そんなことが知られたら、きっと……」
久「……悠人、百合。お前たちが言い出しにくいのは分かる。分かるけど、せめてお前たち二人が付き合ってることくらいは報告したらどうだ?別に、悠人の母親のことは隠したままでもいいじゃないか。それに、いつか結婚するつもりがあるなら、どのみち避けては通れないはずだ」
悠人「それは、そうなんだけどね」
久「お前の母親のことは関係ないよ。気にすることでもない。たとえ母親がどんな人間でも、お前自身はとてもいいやつじゃないか。そんな下らないこと気にしてないで、もっと胸を張って、堂々としてろよ」
悠人「そうだね。よし、百合。近いうちに報告しに行こう」
百合「そうね……」
久「なんだ、浮かない顔だな」
百合「いえ、なんでもないわ」
久「そうか?ならいいけど。さあ、この話題はこれで終わりにしよう。せっかくのお祝いだ。そっちの話をしようぜ。あとついでにメライのラジオの話もな」
悠人「そういえば、そっちのお祝いも兼ねてたね」
百合「五十回か……私も悠人も二回目の放送から、聞き始めたのよね」
久「俺は第一回から聞いてるけどな」
悠人「ウォッカとウィスキーのカクテル、か……なんでこんなラジオネームにしたんだい?」
久「父親がいつも飲んでたんだよ」
悠人「え、そんな変なものを?」
久「それに、変なラジオネームって言ったら、二人もだろう」
百合「私のは、ほら。一時期あったでしょ?白いコーラ」
悠人「僕は……百合に合わせて考えたから」
久「はいはい、カップルカップル。」
悠人「なにそれ的確にむかつく」
久「まさか、こんなに続くとは思ってなかったけどな。そもそもあの周波数勝手に使ってるだけだし」
悠人「え、そうだったの?」
久「知らなかったのか?昔はどっかの廃墟で放送してるって噂がたったこともあったんだ」
百合「それで、実際は?」
久「それは……誰にもわからない」
悠人「え、でも手紙を送ってる住所は?」
久「そこに住んでるのはメライじゃなかったんだよ。昔、一度そこに行ったことがあるんだけどな。別の人が住んでたんだ」
悠人「わざわざ行ったのか……」
百合「なんで違うってわかったの?」
久「だって、そこに住んでたの七十歳くらいのお爺さんだったから」
悠人「一緒に住んでるとか?」
久「一日張り込んだけど、その人以外はいなかったし、近くの人に聞いても、その爺さんは独り暮らしだって」
百合「よく聞けたわね……」
久「まあ、謎に包まれてるってことだ。あ、百合ちゃん。次、なに飲む?」
百合「ええっと、カルヴァドスをトニックで割って」
久「つまり、同じやつね。了解。悠人は?」
悠人「ノンアルならなんでも」
久「オーケー」

 久、お酒をつくり始める。
照明、ゆっくりとフェードアウト。


スポット、メライ。

メライ「世の中の大抵の人たちが、意識的に、あるいは無意識に、自分が幸せになれる方向へと進んでいく。それが結果として大きな幸せに結びつくのか、あるいは小さな幸せで終わってしまうのか、それは誰にもわからないが。でも、たとえどれだけ手を尽くしても、どれだけ知恵を絞っても、悲劇というものは、ふとした拍子に現れるものだ。そして、大抵そいつらは、新たな悲劇を、もっと大きな悲劇を、連れてくる」




 時計の針の音、しばらくして、目覚ましの音が鳴る。
 照明、フェードイン。
 悠人と百合の部屋。悠人が弁当の準備をしている。
 百合、登場。

悠人「おはよう」
百合「おはよう、悠人」
悠人「朝ごはんはどうする?」
百合「お腹すいてない……」
悠人「じゃあせめて野菜ジュースとかだけでも飲んで行きなさい」
百合「はーい……」
悠人「昨日も夜遅かったし、しっかり着替えたことだけは褒めてあげよう」
百合「なにその上から目線……」
悠人「じゃあ、はい。これ飲んで、さっさと顔洗ってきなさい」
百合「はーい。なんだか最近悠人がお母さんみたいになってる……」
悠人「キミが加速度的にだらしなくなってるからじゃないかな」
百合「気を付ける……」

 百合、退場。
 悠人は引き続き弁当の準備。
 しばらくして百合が戻ってくる。

悠人「しかし、土曜日なのに大変だね。はい、お弁当」
百合「ありがとう」
悠人「はい、鞄」
百合「ありがとう。今日は瞳子さんと幸子さんが来るんでしょう?私も会いたかったわ」
悠人「一日早い誕生祝いだって。二人とも、百合に会いたがっていたけど、明日は百合ちゃんに開けておくから、って」
百合「そう。じゃあ私は明日、しっかり祝うわね。あ、そうだ。悠人。明日の晩御飯はボルシチにしましょう」
悠人「それ。キミが食べたいだけだよね?」
百合「いいじゃない。せっかくの誕生日なんだから」
悠人「うん、僕の誕生日なんだけどね……まあいいや。この前食べたばかりだけど。また作っておくよ、ボルシチ」
百合「ありがとう!あ、はい。悠人。あーん」

 百合、チョコレートを取り出して、悠人に食べさせる。

悠人「このチョコレートは?」
百合「いつもありがとう、のチョコレートよ」
悠人「じゃあ、どういたしまして。気を付けてね」
百合「うん。それじゃあ、行ってきます」
悠人「はい、行ってらっしゃい」

 百合、退場。

 しばらく準備していると、インターフォンが鳴る。

悠人「はーい」

 悠人、瞳子と幸子を招き入れる。
 瞳子、幸子、登場。(二人それぞれプレゼントを持っている)

瞳子「久しぶり、悠人」
幸子「久しぶりー」
悠人「久しぶりって、一ヶ月前に会ったと思うけど(三人、椅子に座りながら)」
瞳子「一ヶ月も会ってなかった、でしょう?久しぶりだと思うけど」
幸子「そうだよ、悠人だって、百合ちゃんと一ヶ月も会えなかったら寂しいでしょ?」
悠人「なんで百合で例えたんだよ……僕とあんたらは恋人か」
瞳子「とりあえず、はい。一足早い誕生日プレゼント」
幸子「私も、はい」
悠人「ありがとう、おばさん、さっちゃん」
瞳子「オイ」
悠人「はい」
瞳子「おばさんって言うな。せめて瞳子さんと呼べ」
悠人「はい、瞳子さん」
瞳子「よろしい」
悠人「関係的にはおばさんであってるのに……」
瞳子「幸子だって続柄はおばさんでしょ?」
悠人「さっちゃんは、ほら。歳が近いから」
幸子「お姉ちゃん、もうアラフォーだから……」
瞳子「まだ二年あるわ!」
悠人「逆に言うと、あと二年でアラフォー……」
瞳子「アラフォーアラフォーうるさい!……いい加減にしないと埋めちゃうぞ?」
悠人「ごめんなさい瞳子さん」
幸子「心から反省しております」
瞳子「ふむ。よろしい」
悠人「ねえ、これ開けていい?」
瞳子「どうぞどうぞ」

 悠人、箱を開ける。
 幸子のプレゼントはセットのワイングラス。
 瞳子のプレゼントは腕時計。

幸子「百合ちゃんがワイン好きだからねー」
瞳子「ほら、悠人が持ってる時計って、千円の安物ばっかりだったから。ちょっとは高いの着けときなさい」
悠人「さっちゃん、おばさ―」
瞳子「あん?」
悠人「瞳子さん」
瞳子「うむ」
悠人「ありがとう。早速明日から使わせてもらうよ」
瞳子「ん。それで?」
悠人「うん?」
幸子「最近どうなの?」
悠人「どうって……?」
瞳子「じゃあ、直球で聞くけど。いつするの、結婚」
悠人「……そのうち」
幸子「悠人さあ……なんか隠してるよね?」
悠人「い、いや、別に隠してなんか」
瞳子「悠人。洗いざらい、全部吐きなさい」
悠人「……黙秘権は?」
瞳子・幸子「ない」
悠人「ですよね……」
幸子「さあ、何があったの」
悠人「……実は、まだ話してないんだ」
瞳子「話してない?」
悠人「うん。僕と百合が付き合ってること。百合のお父さんに、まだ話してないんだ」
瞳子「馬鹿か」
幸子「悠人にはがっかりだよ……」
悠人「いや、返す言葉もないんだけど、でもさ。やっぱりちょっと怖くて」
瞳子「何をそんなに気にして……もしかして、紀子姉さん……悠人のお母さんのこと?」
悠人「うん……」
幸子「いまどき、そんなに気にしなくてもいいと思うけどなぁ」
悠人「どうだろう。相手は大病院の院長だからね」
幸子「でも、気にしすぎだって。ねえ、お姉ちゃん」
瞳子「……。」
幸子「お姉ちゃん?」
瞳子「うん?あ、うん。どうだろう。でも、案ずるより産むがやすしって言うから……どちらにせよ、結婚するつもりなら、避けては通れない道だけど?」
悠人「それは、分かってるんだけどね……」
瞳子「まあ、それは悠人だけじゃなくて、百合ちゃんと一緒に考える問題だと思う」
悠人「……うん。そうだね」
幸子「ところで悠人。この前言ってた悪夢はもう見てないの?」
瞳子「ああ、あの階段の?」
悠人「階段の夢……あのあと、またしばらく続いたんだけど、最近見てないね」
幸子「なんだ。だったらいいんだけど」
瞳子「悠人」
悠人「なに、瞳子さん」
瞳子「悪夢で見た階段の上には、何があったの?」
悠人「上?い、いや、分からないけど……それが、どうかした?」
瞳子「……いや、ちょっと気になっただけ。特に意味はないよ」
悠人「そう?」
幸子「悠人」
悠人「なに?」
幸子「お腹すいた」
悠人「……。」
幸子「何か作って」
瞳子「ああ、そう言えば食べてなかったね、朝ごはん」
悠人「分かったよ、何がいい?」
幸子「何でも。強いて言うならお肉がいいな」
悠人「朝から?」
瞳子「私はお酒があれば何でも。強いて言うならワインがいいな」
悠人「いや、朝から飲ませるわけないだろ!」
瞳子「百合ちゃんはいつ帰ってくるの?」
悠人「えっと、今日はできるだけ早く帰るって言ってたから、七時か八時くらいかな」
瞳子「じゃあそれまで飲むか」
幸子「おおー!」
悠人「帰れ!」

 照明、フェードアウト。

悠人「なんて、馬鹿なやり取りをしていたのだけれど。だけどその夜。百合は帰ってこなかった」




 悠人と久が百合を探している。

悠人「おかしい。メールの返信もないし、電話もつながらない!」
久「いま病院に問い合わせたら、七時半には病院を出たそうだ」
悠人「どうなってる……」
久「何か事件とか事故に巻き込まれてなきゃいいけど……」
悠人「それだったら警察か病院から連絡が……」
久「真っ先に行くのは、百合ちゃんの実家じゃないか?」
悠人「まさか……行こう、久」
久「ああ」

二人、退場。

天ヶ崎宅。
百合と健次郎、そして司がいる。

百合「いったいどういうつもりよ!」
健次郎「司くん、二階の部屋に閉じ込めておきなさい。さっき病院から連絡があったよ。どうやら彼、百合を探しているようだ」
百合「当たり前でしょ!」
司「さあ、行きましょう、百合さん」
百合「いやよ!」
司「……従ってもらえませんか?手荒な手段は、できれば取りたくないので」
百合「ふざけないで」
健次郎「ふざけているのはお前だ。何度も言うが、彼との交際、あまつさえ結婚など認めん。さあ、早く連れて行きなさい、司くん」
司「分かりました」
百合「まって、お父さん!」
健次郎「全部終わった後で、ゆっくり話を聞こう」
百合「待って!お願い!」

 司、百合を連れて行く。

健次郎「まったく。分からん奴だ……」

 真島、登場。

真島「健次郎さま」
健次郎「ん?どうした、真島」
真島「例の男とその友人が訪ねてまいりました」
健次郎「通せ」
真島「承知いたしました」

 真島、退場。
 その後、悠人と久、登場。

健次郎「何の用だ」
久「初めまして。池田久といいます。百合さんの友人です。こっちは」
悠人「初めまして。青木悠人といいます。百合さんとお付き合いさせていただいている者です」
健次郎「何の用だ、と聞いたんだが?」

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