あなたはだあれ?
「あなたはだあれ?」
舞台はどこにでもある公園である。中央にはベンチがあり、その近くには吸殻入れが設置されている。
明転。ベンチに座っている男1。新聞を読んではいるものの、どこか落ち着かずそわそわしている。


男1(腕時計を確認し)「後5分…。はぁ、もうそんな時間か…。やばいぞ、これは実にまずい。ひとまず煙草でも吸って落ち着こう」


煙草を吸い始める男1。しかしやはり落ち着かないらしく、所在無さげにその辺をうろつき始める。


男1「落ち着け、落ち着け俺。リハーサルは十分にこなした。寝起きはバッチリ、快便で歯磨きもこれでもかってくらいしてきた。そして今日のおとめ座の運勢は1位。ついでにこの前買った宝くじも当たってた。…まぁ300円だけど。ともかくだ、今日の俺はついている。失敗なんてするはずがない、自身を持て、自信を持つんだ」


ぶつぶつと呟き続ける男1。気づくと傍に女1が立っている。


男1「大丈夫…大丈夫…」
女1「あのぉ」
男1「うまくいくに決まってるさ…」
女1「すみませーん」
男1「でも不安だなぁ、あぁ俺の小心者め…」
女1「もしもーし」
男1「いっそ日を改めるべきだろうか、いやでも今日という機会を逃すわけには…」
女1「……」(ベンチにあった新聞を丸め男1の頭を思いっきりひっぱたく)
男1「痛い!一体何だっていうんだ!」(振り向く)
女1「……」(目が合う)
男1「……」(目が合うがすぐに逸らす)
女1「……」(両手で男1の頭をがしっと掴み、無理やり目線を合わせる)
男1「…おはようございます」
女1「はい、おはようございます」
男1「あの、手を」
女1「え?」
男1「その、割と痛いので外して貰ってもいいですか…?」
女1「でもそうするとあれでしょう?」
男1「何です?」
女1「ほら、あなたまた私を見てくれなくなるかもしれない」
男1「さっきのは事故というか、不意の出来事に対応しきれなかっただけといいますか…、とにかくもう大丈夫ですから」
女1「そう?ならいいのだけれど」(頭から手を放す)
男1「ふぅ…、意外と力ありますよね」
女1「淑女の嗜みです」
男1「そうですか…」
女1「さ、立ち話もなんですから座ってお話ししましょう?」(ベンチに座る)
男1「そうですね」(ベンチに座る)
女1「しかしあれですね。人の目を見ないというのはいけないことです」
男1「すみません、失礼でしたよね…」
女1「それもありますけれど、人を見るということにはもっと大事な意味があります」
男1「と言いますと?」
女1「あなた、自分をどんな人間だと思います?」
男1「え?急に何です?」
女1「いいから考えてみて。1つや2つくらいならすぐに思いつくでしょう?」
男1「そうですね、…心配性で生真面目、って感じかなぁ」
女1「そうね、あなたは確かにそんな感じの人間だわ。それで?そうしてそう思ったの?」
男1「どうして?どうしてって言われてもなぁ、昔から人によくそう言われたし、自分でも他の人に比べて確かにそうだなぁって思うから?」
女1「そう、つまりはそういうことなの」
男1「え?」
女1「人の個性ってのはね、自分で決めるものじゃない。他者との相対的な評価を元に下されるものなわけ。他の人より優しいからあの人はいい人。他の人よりいじわるだからあの人は悪い人。こんな風にね」
男1「はぁ、そんなものですか」
女1「あなた、シュレーディンガーの猫は知ってる?観測者に観測されることによって事象は初めて固定され成立するって話」
男1「まぁ、そんな詳しくは無いですけれどその程度の理解でいいのなら」
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