Next One

(ねくすとわん)
初演日:0/1 作者:霧雨 鳳馬

『NEXT ONE』

        ガタゴトと列車の音。やがて止まり、しばし無音。
        発車を知らせるベルがなり、再びガタゴト。
        徐々に明るくなる。

   
        列車の中、向かい合った座席に中年と老人、医者が座って話している。
        上手より少年が入ってくる。

医者   (少年を見つけて)おや、……ああ、新しいお客さんですか。ほら、久し振りに新しい人が来ましたよ。

        老人、中年、少年の方を向く。
        三人、三者三様に少年を見つめる。

中年   なんだ、しけたツラしやがって。
老人   まあ、そういうな。ここに来たばかりの時は皆、同じ様なものだ。お前さんだってここに来たばかりは…
中年   いやだねえ、年寄りは。すぐに昔のことを引っ張りだす。過ぎ去った栄光にしがみつこうと必死だね。
老人   フン、年長者を敬う事を知らん、体だけの大人め。頭の中は子供のまんまじゃな。昔にすがっているのは、ここにいる者皆じゃろ。
医者   はいはい、二人共そこまで。あんまりやってると、彼が本気にするでしょう、「中年」さん。彼はまだ、ここがどこかも分からないんだから、いきなりおどすようなまねはやめて下さい。
老人   やーい。おこられてんの。
医者   おじいさんもです。あまり、余計な事は言わないで下さい。
中年   やーい。おこられてんの。

            老人と中年、にらみ合う。

少年       あの、ここは…。ぼくは…。
医者   あなた、お名前は?
少年   「少年」
医者   いい名だ。ああっと、すみません、申し遅れました。私「医者」と申します。これから、よろしく。
少年   …はあ。
医者   で、あちらの御老人が「老人」さん。
老人   よろしくな。
少年   …はあ。
医者   そして、

            中年、少年に歩み寄り、手を差し出しながら、

中年   「中年」や。よろしゅうな。
少年   …はあ、(手を握らず)よろしくお願いします。
中年   (強引に手をつかみ)よろしくな。

            中年、手をふりはらい、不愉快そうに席に戻る。

医者       気にしないで下さい、少し乱暴だけど本当はいい人なんですよ。
少年   あの、ここは…。
医者   ああ、そうでした。ここの事についてお話ししましょうか。まあ、立ち話もなんですからあっちで座って話しましょうか。

            医者、元の席に戻る。少年戸惑いながら、後に続く。
            医者の横に座る少年。

医者   さて、何から話しましょうかね。
老人   一番古株のわしが話そうか。
医者   そうですね。私が知っている事はみんなおじいさんから教えて頂いた事ですからね。
中年   無駄に長生きしているからな。
老人   うるさいのはほっといて、話を始めようか。まず、まわりをみて、ここがなんの中かわかるかね。
少年   列車…ですか。
医者   そう、正解。
老人   列車といっても、普通の列車じゃない。この列車は魂を運ぶ列車なんじゃ。
少年   魂?
老人   そう、窓から外をみてごらん。奇麗じゃろ。
少年   星が、いっぱい。
老人   そう、ここは、宇宙じゃよ。生きている時に辛い事や悲しい事があると、魂も傷つき、弱ってしまう。そこで、そんな魂はこの列車に乗り、この広い宇宙に抱かれて傷を治して又、生まれ変わる。そういう場所なんじゃよ。
医者   魂の病院みたいなもんですね。病んだ心をカウンセリングで治すように、疲れ果てた魂を、美しい宇宙が癒してくれるというわけですよ。
中年   列車に乗り、宇宙を旅して、それで心ゆくまで満足したら、列車を降りて生まれ変わるってわけだ。
老人   まあ、中には、生まれ変わりもせんと、ずーっと列車に乗ったまんまの奴もたまにはいるがな。
少年   列車に乗ったまま…?そうするとどうなるんですか。
   
            下手より車掌現れる。

車掌   乗ったままだと、当然生まれ変わる事なくずっとこの宇宙に抱かれたままです。ずっと、ずっと…。

            少年、車掌の方をみる。

少年   あなたは。
車掌   車掌です、この列車の。皆様に食事の用意ができた事をお知らせに参りました。
医者   ああ、もうそんな時間ですか。
老人   長いことここにいると時間の感覚が狂う。食事の知らせだけが時間を教えてくれる。
医者   本当ですね。
中年   そんな事より、早く行こうぜ。俺は、もうこれだけが楽しみなんだから。早く行かねえと、食いっぱぐれるぜ。
車掌   いつもそうおっしゃいますね。ご安心下さい。あなたが五〇人いても十分すぎるほど用意していますから。
老人   悪い冗談はよしてくれ。こんなのが五〇人もいたら、はあ、考えただけで倒れそうだ。
医者   たしかに。
中年   お前まで一緒になってじいさんにつきあうんじゃねえよ。
老人   さーて、食事、食事。
医者   そうですね、行きましょうか。
中年   おい、無視すんじゃねえよ。

            三人、下手の少年を振り返り、

医者   あ、あなたはどうします。
少年   僕、あんまりお腹すいてないから。
医者   そうですか。でもお腹すいたり、何かあったら私達の所に来て下さい。ここであったのも何かの縁です、仲良くしましょう。

            医者消える。すぐに戻ってきて、

医者   ああ、そうそう。食堂車の場所や、この列車の事で分からないことがあったら、その車掌さんに聞くといいですよ。あたりまえですが、私達よりも詳しいですから。

            外から中年の声。

中年   はやくしねえとお前の分も食っちまうぞ。
医者   呼んでるみたいなんで、それじゃあ。

            医者、消える。

少年   ……。
車掌   どうかしましたか。
少年   いえ、別に。
車掌   どうしてあの人達はあんなに楽しそうなんだろう。
少年   !
車掌   そう、思っていましたか。
少年   …。
車掌   長いこと、この列車で車掌やってますからね。今のあなたみたいな顔をしている人を何人、何十人とみてきましたから。
少年   …。
車掌   あなたと同じ様に現世をはかなんで…
少年   止めて、下さい。思い出したくありません。
車掌   そうですか。すみませんでした、余計なことを。
少年   …いいえ、僕の方こそ。
車掌   しかし、あなたは運がいい。
少年   僕が?
車掌   ええ、この列車に乗ってあの人達と出会えたのですから。
少年   あの人達と、出会えた事が?
車掌   ええ、今はまだ分からないかもしれませんが、あの人達との関わりがあなたを大きく成長させるのではないか、そんな気がするんです。
少年   長年の勘ですか?
車掌   そんなものです。まあ年寄りのたわごとだと思って聞き流して下さっても結構です。
少年   はあ…。
車掌   さて、これからどうされますか。彼らと一緒に食事にされますか。
少年   …。
車掌   それでは寝台車の方に御案内しましょう。その道すがら食堂車の場所もお教えします。こちらです。

            車掌上手へ。少年、戸惑いながらその後について行く。
            暗転。


            少年座って窓の外をみている。悲しげな目。
            上手より上機嫌で中年入ってくる。鼻歌まじり。
            少年は気付かない。中年、少年に気付き声をかける。

中年   おっ、ボーズ、元気してっか。
少年   …。
中年   (少年の前に座り)元気ですか?
少年   (視線をそらす)…。
中年   かあー、可愛気もくそもねえガキだな。俺が子供ん時は、大人にそんな事したらなぐられてたぞ。
少年   僕が子供の時には、怖いおじさんには目を合わせるなっていわれました。
中年   返事したかと思ったらなまいきいいやがって。まだひよっこのくせに。
少年   何か用ですか。
中年   用がなきゃ話しかけちゃいけねえのか。
少年   用がないのなら放っておいて下さい。
中年   本当、お前可愛くねえなあ。せっかく俺が話しかけてやってんのに。
少年   用もないのに話しかけないで下さい。
中年   お前さあ、そんな人生で楽しいのか?
少年   楽しく…なかった。楽しくなかったからこんな…
中年   大変だなお前も。そんなに他人が信用ならないかい。
少年   何ですか急に。
中年   いや、俺は、お前みたいにいじいじした奴みてると何かこう、はがゆくてさあ、黙ってみてらんないんだよ。
少年   黙って、そして見ないで下さい。
中年   そういうとこ、そういうとこなんだよね、俺が気になんの。何があったんだ一体、お前の人生、っていうか前世ていうか。
少年   関係ないでしょう、あなたには。
中年   関係ねえからこそ、言えることってないのか。
少年   …。
中年   一人でうじうじしてっと、心底腐っちまう。一人で悩むより、俺みたいに頼りになるおじさんに話してみねえか。なっ。
少年   あなたよりあの二人の方が頼りになりそうです。
中年   本当、可愛くねえな、お前。
少年   可愛くないんなら放っといて下さい。
中年   そうもいえねえんだよ、こちとら一ぺん気になったらとことんって性分なんでな。お前が心おきなく生まれ変われるようにおじさんがカウンセリングしてやろうっていってんだ。さあ、何でも話せ、分かんない事なら何でも聞け。お前みてえなひねくれ小僧は俺が真人間にしてやる。
少年   …。
中年   どうしたい。
少年   何で、あなたは生まれ変わらないんですか。
中年   どうした、急に。
少年   聞けば、あなたたち三人はずいぶん長い事この列車に乗ってるみたいですけど、どうして生まれ変わらないんですか。さっきだって駅に停まった時何人か降りていくのをみました。でもあなたたちは降りてない。どうしてですか。
中年   それは…お前、あれだ。あれ。
少年   何ですか。
中年   大人の事情ってやつだよ。
少年   何ですか、大人の事情って。
中年   お前には関係ないよ。
少年   関係ないからこそ言える事だってあるんでしょう。
中年   …。
少年   だいたい自分が生まれ変わる心構えもできていないくせに、他人を生まれ変わらせようとするなんてとんでもない。
中年   生まれ変わる気はあるんだ。
少年   じゃあ、何で。
中年   …。
少年   どうして生まれ変わらないんですか。
中年   …。人、探してんだよ。
少年   人?
中年   そうだよ。
少年   誰ですか。
中年   誰でもいいだろ。
少年   教えて下さい。
中年   いやだ。
少年   一人で悩んでてもいけませんよ。
中年   本ト、可愛くねえな。
少年   可愛くなくていいです。
中年   …。俺のかあちゃんだよ。
少年   お母さん?
中年   違う。…嫁さんだよ。
少年   奥さん。
中年   そう。
少年   へえ。意外と純情なんですね。
中年   うるせえ。
少年 でもなんで奥さん探しているんですか。
中年   それはよう、車掌の奴が…。
少年   車掌さんが?
中年   やめた。こんな話しに来たんじゃねえ。
少年   逃げる気ですか。
中年   うるせえ。風呂だ、風呂。

            中年去る。

少年   何なんだ全く、勝手に騒ぐだけ騒いで。

            中年戻ってきて、

中年   何か言ったか。
少年   いえ、何も。
中年   どうだか。言っとくけどな、女探してんのは俺だけじゃないぞ。
少年   他に誰か。
中年   じいさんのほうはどうだか知らんが、あいつも女探してるって言ってたぞ。
少年   奥さんですか。
中年   そこまでは知らねえよ。
少年   あなたの奥さん、どんな人ですか。
中年   うるせえ。

            中年再び去る。
            少年微笑んでいる。

            暗転。


            医者、一人たたずんでいる。
            窓の外をながめている。
            ため息。
            老人上手より、

老人   あんたの探しとるものは、あの星達の中にあるのかい。
医者   !
老人   あんたももう長いことこの列車に乗っとるが、そろそろ自分を開放してやってもいいんじゃ…
医者   まだ、だめなんです。まだ…。
老人   …。
医者   私はどうしても彼女に会わなくてはいけないんです。
老人   じゃが、その人が列車に乗るとは限らんじゃろ。駅のホームに座っているのかもしれん。もう生まれ変わったのかもしれん。
医者   でも、この列車に乗ってくるかもしれません。
老人   もう、他の列車に乗ってるかもしれんじゃろ。

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