こちら松長市役所婚姻課!

(こちらまつながしやくしょこんいんか!)
初演日:2015/8 作者:愛島知香





こちら松長市役所婚姻課!
         作:愛島知香


登場人物
●秋山穂香:28歳。松長市役所婚姻課職員。
●広岡健人:24歳。婚姻課の新人職員。
●宮本康秀:40歳。婚姻課課長。
●秋山優司:31歳。秋山穂香の夫。
●東川純:22歳。脱走妻。
●福石武夫:45歳。福石運送株式会社社長。

他・・・結婚式の新郎新婦、結婚式の参加者、ヒーローショーの客の子ども、見張り、デモ隊、刑務官等。


●オープニング


結婚行進曲が流れる。中央に新郎新婦が現れる。祝福する友人たち。

新郎「本日は私たちの結婚式にご参加くださり、本当にありがとうございます」

参加者、はやし立てる。

新婦「私たちは、病める時も健やかなる時も、支え合っていくことを誓います」

参加者、盛り上がる。

友人1「ねえねえねえ、二人が出会ったころの話聞かせてくださーい!」
友人2「えー、それ聞いちゃう?」
友人1「いいじゃんいいじゃん、定番の質問でしょー」
友人2「それもそっかー」
友人3「よーし、言っちゃえ言っちゃえ!」

参加者、言っちゃえ言っちゃえとはやし立てる。照れる新郎新婦。

新婦「どうする、あなた?」
新婦「いいんじゃない、それくらい」
新婦「それもそうね」
友人3「おっ、いいぞいいぞ!」

静かになる会場。

新郎「では、一番初めから・・・僕たちの出会い、それは」
新婦「国家婚姻管理法によるものでした」
全員「婚姻の国家による管理に関する法律、通称国家婚姻管理法」
友人1「これは未婚人口の増加と早期の離婚によってもたらされた少子高齢化による様々な弊害に直面する日本国において、その解決を図る法律である」
友人2「日本国民は例外なく、女性は22歳、男性は25歳になった時点で最も相応しいとデータベース上で判断された人物と結婚しなければならず」
友人3「離婚やそれ以外の人物との結婚は許されない」
友人4「この法律は、少子高齢化を解決することが主目的であり、この法律は、日本国の末永い繁栄と日本国民の末永い幸福を祈るものである」

一拍置く。

全員「繰り返す。この法律は日本国の末永い繁栄と日本国民の末永い幸福を祈るものである!」
新婦「信州大学劇団山脈二週間公演」(各公演の名称に変更してください)
全員「こちら松長市役所婚姻課!」


●婚姻課


松長市のとあるスーパー。駐車場でヒーローショーが行われている。

宮本「はっはっはー、俺は怪人モテナイン。日本中の男性をモテなくして日本を滅亡させてやるのだあ!」

男性が現れる。隣には彼女。

広岡「愛してるよ、花子」
秋山「私もよ、太郎さんっ」
広岡「花子・・・結婚しよう!」
秋山「まあ、嬉しいわ!」
宮本「あれは・・・リア充ではないかあああ!許せぬ!断じて許せぬ!!こうなったら必殺モテナインビーム!!」

怪人モテナインのビームをくらう男性。その場に膝をつく。

広岡「ぐああああああ!」
秋山「やだあ、この人今までかっこよくて素敵な人だと思ってたけど、何か臭うし服のセンス無さすぎだしプロポーズの仕方も全っ然ロマンチックじゃないし、結婚できないー」

女性、男性のもとから去っていく。

広岡「ま、待ってくれ!そんな・・・あんまりだよおお」

男性、気絶する。

宮本「ぐふふ、吾輩の思惑通りじゃわい。このまま日本中のカップルを別れさせれば、日本に子どもがいなくなり、そしてこの国は滅亡するのだあ!!!」
秋山「待ちなさい!」

突然、魔法のステッキっぽいものを持った女性が乱入。

宮本「む、お前は誰だ!?」
秋山「聞いてチャーミー、見てチャーミー。私は愛の戦士ラブラブンよ!あんたの悪事は全部お見通しなんだから!」
宮本「はっはっは。お前さんのような小娘が、吾輩を止められるとは笑止千万よ」
秋山「ふっふっふ、笑っていられるのも今のうちよ!これを見なさい!!」
宮本「ん?・・・それは!」
秋山「そう!これは「国家婚姻管理法」の条文よ!」
宮本「や、やめろ!」
秋山「結ばれるべき人間は結ばれるべきよ!くらえ、必殺ラブアタック!」

条文が書かれた巻物から神々しい光が発せられる。

宮本「う、うぎゃああああああ!!!」

怪人、苦しみながら退場する。

秋山「大丈夫?」
広岡「は、はい・・・あなたは?」
秋山「名乗るほどの者では無いわ・・・彼女さん、いや、奥さんのこと、大事にしなさいよね?」
広岡「へ?」
秋山「チャオ!」

愛の戦士退場する。

広岡「彼女はいったい・・・」
秋山「太郎さーーーーん!」

女性が飛び込んでくる。

秋山「太郎さん、私、あなたのこと全然分かってなかった。やっぱりあなたのこと愛してるわ!!!」
広岡「!・・・花子!!!」

ハグをし合う二人。

宮本「こうして、今日も日本の平和は守られたのだ。頑張れ、愛の戦士ラブラブン。万歳、国家婚姻管理法!」(録音した音声で)
子ども「つまんなーい!」

会場からゴミが飛んでくる。慌てる二人。

宮本「おらおら!何すんじゃーーー!」
広岡「宮本さん、落ち着いてください!」
宮本「馬鹿野郎、これで落ち着いてられるか!」
秋山「子ども相手なんですから仕方ないですよ」

会場から「もう帰ろーよ」などと声が聞こえる。ぞろぞろと人が去っていく。

広岡「あーあ、今日も失敗、ですかね」
宮本「そう認めざるを得ないな」
広岡「なーにカッコつけてんすか。怪人モテナインさん」
宮本「おい、その名前で呼ぶな!」
広岡「だって脚本を書いたの宮本さんじゃないですか。いじられて当然ですよ」
宮本「他人が一所懸命書いたものを茶化していいとお前は学校で習ったのか?ええ?」
秋山「どうでもいいですけど、愛の戦士ラブラブンって名前変えてくれません?」
宮本「ん?なんでだ?」
秋山「いや、どう考えてもダサすぎるでしょう。既婚の28歳が愛の戦士ラブラブン名乗ってたら普通ひきません?」
宮本「俺だって既婚の40歳で怪人モテナインだ。お前も頑張れ」
秋山「どういう論理なんですかそれ・・・」
広岡「とりあえず、片付けだけして帰りましょう」

三人、散らばったゴミを回収していく。

秋山「私の名前は秋山穂香。ここ松長市の市役所の「婚姻課」というところで働く28歳だ。この年齢なのでもちろん既婚である。今見てもらったのは私たち婚姻課の仕事の一環で、婚姻の国家による管理に関する法律、通称「国家婚姻管理法」の意図を広く市民に知ってもらうための広報活動だ。と言っても、私たち婚姻課に割ける予算も限られていて、こんなチープなヒーローショーをお届けするほかないというのが現状だ。私たちに残された道はただ一つ、何の「事故」もなくこの制度を運用していくことだけだ・・・」
宮本「おい、そろそろ行くぞ」
広岡・秋山「はい」

三人、ゴミを回収すると、市役所へと帰っていく。


●秋山家


夫婦がテーブルを挟んで食事している。

優司「でさあ、お得意様周りの最中にスーパーの前通りかかったら、君らがヒーローショーやってるものだから・・・ふふふ」
秋山「ちょっと、そこまで笑わないでよ」
優司「ごめん、ごめん。でも「聞いてチャーミー、見てチャーミー」って決め台詞は無いよ」
秋山「あれは課長が小さい頃観てたアニメのセリフもじったんだって」
優司「どおりで古臭い訳だ」
秋山「私としては「愛の戦士ラブラブン」の方を変えてほしいけどね」
優司「えー、僕はそれ、可愛くてそこそこいいと思うんだけどなあ」
秋山「あなた、出会った時から思ってたけど、他人とちょっとズレてない?」
優司「えっ、そう?」
秋山「秋山優司はここ松長県の北にある野崎温泉村出身の31歳。出会いといっても、もちろん国家婚姻管理制度によるものなんだけど・・・でも私は、田舎出身の純朴なこの男と仲よく暮らせているし、それが、私がこの制度を支持する大きな理由でもある」(録音した音声で)
優司「でさ、なんで三人でヒーローショーやってたの?他の職員も呼べばもっと盛り上がる話になると思うよ?」
秋山「婚姻課、宮本課長と、春に地域振興課から来た広岡君、それに私で全員なのよ」
優司「ええ?こんな大事な制度を運用してるのに?」
秋山「だって、誰と誰が結婚するかはコンピューターが決めるし、広報活動くらいしかすることがないんだもん」
優司「「脱走妻」とかはいないの?」
秋山「ああ、昔はたくさんいたらしいけどね。今じゃ松長市では年に一人か二人・・・それにすぐ保護できるから楽よ」
優司「やっぱり、今愛してる人以外とは結婚できません!みたいな理由?」
秋山「そうそう、捕まえた時にはみんなそう言ってる。あとは同性愛者かな」
優司「それって愚かだよなあ・・・だってさ、コンピューターが最も相応しい人を見つけてくれるっていうのに、自分の不安定で非科学的な直観に頼って結婚しようだなんてさ」
秋山「まあ、そうよね」
優司「データが実証する最も相応しい人と死ぬまで幸せに暮らして、子どもを作れば日本にだって大きな利益がある。誰もが幸せになる唯一の方法が、この制度だってのに」
秋山「・・・」
優司「あっ、ごめんね。食事時にこんな熱弁ふるっちゃって」
秋山「いいわよ、私も同じ思いだし・・・」
優司「それならよかった。僕と君がこうして一緒に居られるのは、あの法律のおかげだからね、どうしても熱くなっちゃうんだ」
秋山「ふふふ、それなら嬉しいわ」
優司「うん、よかった・・・あっ、薬は?」
秋山「うん、これから飲むけど」
優司「僕が取ってきてあげるよ」

優司、隣の部屋に薬を取りに行く。すぐに戻ってくる。

優司「はい、どうぞ」
秋山「ありがとう」
優司「仕事、忙しいだろうけど、昼もちゃんと飲まなきゃダメだからね?」
秋山「大丈夫、ちゃんと朝・昼・晩と飲んでるから」
優司「早く良くなるといいんだけどね」
秋山「精神の問題だし、そんな一朝一夕に解決する問題じゃないでしょ」
優司「・・・そうだよね、じっくり治していこうね」
秋山「うん」
秋山、錠剤を飲む。少し苦しそうな顔をする。

秋山「もう少し美味しい薬って作れないのかしらね」
優司「ははは、それは贅沢な悩みってもんだよ」
秋山「そうね、我慢するわ」
優司「あっ、皿洗いは僕がやっておくから、君は休んでなよ」
秋山「いつも悪いわね」
優司「いいよ、夫婦の基本は助け合いさ」
秋山「あなたと結婚できてよかったわ」
優司「ふふっ、それはどうも」

秋山、隣の部屋に行く。微笑みを浮かべつつそれを見送る優司。彼女がいなくなった後、二人分の皿を持ってキッチンへ向かう。


●とあるアパート


暗いアパートの一室。女性が部屋の真ん中で小さく座っている。けたたましいノックの音。

宮本「東川さーん、松長市役所婚姻課の宮本です!いらっしゃいますかあ?」
東川「・・・」

ノックの音。

宮本「東川さーん、いるのは分かってるんですよー!!!」
東川「・・・」

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