十三畳の修学旅行

(じゅうさんじょうのしゅうがくりょこう)
初演日:0/0 作者:三島かすい
十三畳の修学旅行


千晴(ちはる)  演劇部

明日花(あすか) 演劇部 班長

まこ       演劇部

文(ふみ)    文芸部

英理(えり)   帰宅部



         明るく楽しい音楽と共に開幕。
         ダンスホールのように華やかで綺麗な照明。

         2月中旬。県立鹿央(ろくおう)高等学校2年生の修学旅行、3泊4日の3日目。
         ディズニーランドへ体験学習という名の思い出づくりに出発する直前である。
         下手からコートを着た5人の少女たちが、期待に満ち溢れた様子で走ってくる。

全員    いええーーーーーーーーーーい!!

         音楽に合わせてOPダンス。
         千晴がセンター。喜びを抑えきれない少女たち。
         千晴に至ってはミッキーの耳まで装着し、大変に気が早い。

千晴    レッツゴー!
全員    ディズニーラーーーーン!!
千晴    レッツエンジョイ!
全員    東京修学旅行ーーーーーっ!!(この辺はアドリブ)

         ダンス終了。華麗にポージング!
         突如、華やかだった照明が消え、全てをかき消すような雷鳴が轟く。続けて豪雨。

全員    ああああーーーーーーーっ!!!

         絶望の悲鳴を上げる少女たち。
         舞台袖からは「中に戻れー!」「急げー!」「走れー!」など教師の怒号が飛び交う。
         少女たちも散り散りに退散するが、千晴は唖然とした表情のまま動かない。

         千晴をのぞく全員下手ハケ。
         下手袖でコートを脱ぐ。

千晴    そ…そんなああああーーーーーーーーーーっ!!

         千晴に独サス。
         膝から崩れ落ち、その場にべちゃっと倒れる千晴。
         溶暗。豪雨の音はますます大きくなり、やがて遠ざかる。
         明日花、文、上手袖へ移動。

         明転。
         少女たちの宿泊部屋。
         上手袖側が玄関で、下手袖側が洗面所・クローゼット。正面客席側が窓。
         中央に長机が置かれ、辺りに各自の荷物や座布団が散らばっている。
         机の周辺にまこと英理が適当に座っている。
         千晴は倒れた時の状態のまま、動かない。
         上手から明日花と文が、お菓子の入ったビニール袋を提げて入ってくる。

明日花   ただいまー。
まこ    おかえり。どうだった?
明日花   ごめん、ポテチ探したんだけど、全滅だった。あんまいいの無いかもだけど。
まこ    どれ。(明日花から袋を受け取る)え!全然いいじゃん!いい感じじゃん!ごちでーす☆
明日花   おごりじゃねえーーよ。一人300円!
まこ    あーい、あとで渡す!

         袋の中身を順番に出していくまこ。観客席に向けて見せるように。
         会話は流れるようなテンポで。

英理    売店、結構人いた?
文     うん。他のお客さんもいたけど、ほとんどうちの生徒…。すごい混んでたよ。
まこ    おー、ブルボンプチ。…2本!私このシリーズ結構好き!
英理    やっぱみんな同じこと考えるんだ。
明日花   森永先生もいたよ。おつまみっぽいの買ってた。
英理    酒盛りする気満々じゃん。
まこ    パイの実!いいね〜、いいチョイスだね〜!
明日花   他にやる事ないしね、そりゃ酒も飲むよね。
英理    いいの?引率が酒飲んで。
明日花   さあ。(笑う)
まこ    チーかま。(にやっ)
文     みんな暇そうだったね。生徒も、先生も…。
明日花   あ、森永先生から聞いたけど、男子の部屋で、TVゲーム機の持ち込みばれて没収されたとこがあるって。
英理    …テレビに挿すタイプのやつ?
明日花   TVゲームだからね。挿すやつ。こんな…でかい。(手で四角を作る)
英理    馬鹿じゃないの。
まこ    えっうそ!じゃがりこあるじゃん!でかした!最高!!
文     荷物重かっただろうね…よく持ってきたね…。
明日花   先生も許せばいいのに。こんな非常事態なのに頭固いよね。
英理    自分らは昼から酒飲むくせに。

         袋の残りをテーブルにあけ、満足げな表情のまこ。

文     あ、あとね、ラウンジのとこで告白してる人、いたよ…。
他の3人  えええっ!?
文     (びっくり)ほ、ほんとに…。
まこ    誰!?えっ、男子?女子?
文     女子…。ごめん、名前は分かんない…。
まこ    えええー、そこ分かんないとなあー!
文     ごめんなさい…。(しゅん)
まこ    や、全然いいけど。あーやっぱ私も下行っときゃ良かった!超面白そうじゃん。
明日花   けど人多すぎてほとんど身動き取れなかったよ。
英理    そんなに来てたんだ。
明日花   うん。もう、イモ洗い状態…。まあこんな事態だしね。
文     みんな、誰かと話がしたかったんじゃないかな。
まこ    …だからって、こんな時に告白せんでもなあ(どっ)
英理    完全におかしいでしょ、タイミング。
明日花   ねー、なんで今告ろうと思ったんだろ。ははは。

         つとめて明るく笑う4人。やがて力なく途切れ、深く大きな溜息に変わる。
         豪雨と雷の音がぼんやり聞こえる。浮かない顔で窓(客席)を見やる4人。
         これまで、誰もが「ディズニーランド行き中止」という事実に触れないようにしてきた。
         音響フェードアウト。

まこ    ………いつまで凹んでんだっ!!
千晴    ぎゃん!

         丸めた「修学旅行のしおり」を持ってずんずん近づき、千晴を叩くまこ。

千晴    い、い、痛い…!
まこ    起きろよいい加減。泣いたってディズニーランドに行けるわけじゃないんだから。
千晴    だって…だってぇ…。(さめざめと)
英理    千晴、コートかけてきなよ。皺になるよ。
千晴    ……。

         死人のような足取りで下手へハケる千晴。

明日花   …みんなが言わないようにしてたこと、言ってもいい?
まこ    (机へ戻りながら)おーいいよ。言っちゃえ言っちゃえ。
明日花   ………ディズニーランドの代わりが戦争学習って!!

         一瞬にしてお通夜のような空気。
         あからさまにため息をつくまこ。うつむく文。死んだような顔の英理。

英理    ……最っ悪。
明日花   ただでさえディズニーに行けなくなって落ち込んでる時に…傷口に塩塗るようなものじゃん!
      …こういう事言うと、不謹慎かもだけど…。
文     戦争学習に対して文句言うと不謹慎っぽくて、言いにくいよね…。
まこ    不謹慎なもんか!だって、戦争体験談は昨日ちゃんと聴いてるんだからさ。
      この機会にもう一回戦争学習させれば生徒の為になるなんて考えてるんだよどうせ。
文     先生方は毎年引率で東京に来てるから…。
      こっちにとっては一度きりの修学旅行だけど、そういう認識が薄いんじゃないかな…?

         この間、下手袖でコートと耳を置いた千晴が、音もなく元の場所へ戻り、再び死体になる。

英理    え、ていうか、戦争学習って、もう一回あの体験談を聞くってことなの?
明日花   あ、うん。そうみたい。昨日お話ししてくれた林田さんが同じホテルに泊まってて、雨で足止めされてるからって。
英理    それで、もう一回同じ話するの?…(独り言のように)うっそでしょ…?
まこ    昨日のうちに帰ってくれてりゃ良かったのにねっ!
明日花   こら。(まこを叩く)それは失礼。
まこ    みんな思ってること、言っただけじゃん。
英理    …だめだ、やっぱ結構ショックかも。
文     そりゃそうだよ…みんなディズニー行くの、楽しみにしてたもん…。
明日花   楽しみにしてたのに…。

         重苦しい沈黙。突然わめきだす千晴。

千晴    …うわああぁーーーーーーーん!!
まこ    うるせーーっ!
千晴    ディズニイイーーーーーーーッ!!
まこ    泣くなっつってんだろ!

         あ〜あ…みたいな空気。

明日花   仕方ないよ…千晴、一か月くらい前からディズニーのことばっか言ってたし。
まこ    そうだけど、泣いたって解決しないじゃんか!
千晴    だって……ディズニー……楽しみに……ずっと……!(嗚咽交じりで)
文     千晴ちゃん…かわいそう…!
英理    いやいや、ディズニー行けないのはみんな一緒だから。
千晴    …もうやだぁ…うちの代だけだよ…!せっかくの修学旅行なのに…明日は地元に帰る日なのに…!
      この、十三畳一間に缶詰めにされて…二日連続で戦争体験聞かされる代なんて…私達だけだよーーー!!
まこ    (千晴の頭を無意味に叩いて)そうだよ、私達だけだ!
千晴    へ…?
まこ    ちょっとは考えてみなよ。ディズニーランドを楽しみにしてたのは千晴だけじゃないんだからさ。
      鹿央高校の2年生全員が、「なんでまた戦争学習なんかやんなきゃなんねーんだ!」っていう、同じ思いを共有してるんだよ。
      …これってすごいことだと思わない?体育祭や文化祭だって、学年全体が団結するわけではないでしょ。
      今この瞬間、私らの学年はかつてない一体感に包まれてるんだよ!?
千晴    …まこちゃん…!

         ドラマチックに手を取り合う千晴とまこ。即興劇のよう。

英理    また始まった。
まこ    どうしようもないことでくよくよしたって仕方ないじゃん。大事なのは、こんな状況の中で、どう過ごしていくかでしょ!
千晴    うん…雰囲気悪くしてごめんね、まこちゃん…!私もう、うじうじするのやめる!
まこ    分かればいいんだよ!よーし、千晴!明日に向かって走れーーーっ!(客席の方向を指さす)
千晴    おーす、コーチ!!

         その場でランナーのように走る演技をする千晴。

英理    すごいよね、演劇部って。(興味がある訳ではない)
明日花   うーん、あはは…。
千晴    鹿央高校ー、ファイ、オーーーー!いっち、にー!いっち、にー!

         即興劇を続ける千晴を放置して机に戻り、しおりを広げて読むまこ。

千晴    千晴選手、全校生徒の期待を一身に背負って走ります!夢のゴールまであと少し!
      見えてきました!シンデレラ城です!あこがれのディズニーランドがすぐそこに!
      ミッキー達が手を振って待っています!千晴選手、いま、ゴーールイーーーーン!!(ガッツポーズ)
      ミッキーーーー!ミーーニーーーー!!

         即興劇をやめ、肩で息をしながら後ろを振り向く千晴。

千晴    ……………あのさ、まこちゃん。
まこ    ん?何。(しおりから目も上げずに)
千晴    途中で放置するの、やめてくれない。
まこ    や、もう立ち直ったっぽいし、いいかなって。
千晴    よくないよ。私だけ一人で続けてたらばかみたいじゃん。
まこ    だって面倒臭いんだもん。
千晴    ひどいよ、まこちゃんの意地悪!
文     けど千晴ちゃん、元気になってくれて良かった。
明日花   そうだよ、千晴ずっとあのまんまだったから、心配したよ。
千晴    それはそうだね…。みなさんご迷惑をおかけしました。(お辞儀)
      確かにまこちゃんの言う通り、起きたことをくよくよしても仕方ないからね!
      これから楽しい修学旅行にしていけるように頑張るよっ!がんばって楽しい思い出残すぞーー!
英理    あんだけ落ち込んどいて、なんでそんな急に元気なの。
明日花   まあ、千晴はこういう子だから。
まこ    そんで、明日花。この後の予定ってどうなってんの。
明日花   あー。じゃあ、今ざっくり説明しちゃうね。

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