わんちゃん〜One more chance〜

(わんちゃん わんもあちゃんす)
初演日:2015/10 作者:穂村一彦
『わんちゃん 〜One more chance〜』

【配役】7人(男4女3)
・先生 :男。インチキ霊媒師。和装とか巫女服とか数珠とか変な衣装。
・助手 :女。先生の仲間。客には丁寧だが実際は口が悪い。幽霊が見える唯一の人間。
・千恵子:女。飼い犬の幽霊。見た目は普通に人間の少女。無邪気で元気。
・兄  :男。長谷川ユウイチ。先生を呼んだ金持ち。人がいい。
・妹  :女。長谷川レイカ。15〜17歳くらい。千恵子の飼い主。落ち込んでいて暗い。
・執事 :男。丁寧な物腰。
・コック:男。心配事を抱えていてオドオド。

【上演時間】約90分

【舞台】
 一幕物。金持ち宅の応接室。
 最低限必要なものはソファ(椅子を並べて布をかけたものでよい)
 花瓶(中に拳銃が隠してある)

【あらすじ】
 インチキ降霊術で金儲けをたくらみ、金持ちの家にやってきた偽霊媒師たち。
 しかし、その家には本当に飼い犬の幽霊がいた!
 幽霊の姿は普通の人には見えない。もう一度飼い主と会いたいと訴える幽霊。
 だが、その家には飼い犬が生前撃退した強盗も潜入していて……

 飼い犬(わんちゃん)に残された One Chance(わんちゃん)!
 はたして最後の願いは叶えられるのか?
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【開幕】

(上手スポット:妹 下手スポット:千恵子)
   
妹    う〜ん……何がいいかな〜? う〜ん……あなた、何がいい?
千恵子   ハンバーグ!
妹    無難に……ぽち?
千恵子   ん〜?
妹    パトラッシュ
千恵子   ん〜?
妹    フランダース!
千恵子   ん〜?
妹    …………あ、千恵子!
千恵子   ちえこ?
妹    お母さんが言ってたの。
    もし私に妹ができてたら千恵子っていう名前をつけようと思ってたって。
    あなたは、今日から私の妹になるんだもん。だから千恵子!
千恵子   ちえこ……千恵子!
妹    よしっ、気に入った?
千恵子   うん!
妹    これからよろしくね! 千恵子!
千恵子   うん! よろしくね! レイカ!
   
(暗転)
(執事に案内されて、助手が入ってくる)
   
執事   どうぞこちらで。もう少々お待ちください。じきに旦那様が参ります。
助手   はい。先生も、もうすぐ来ますので。

    (執事退場。助手電話をかける)

助手   もしもし、山田か? てめえ、今どこだよ! 私はもう着いてんだぞ?
    あ? 寝坊? 何やってんだ、バカ! 大仕事だっていうのに!
    報酬わけてやんねえぞ! あ? ああ、そうだな。
   (きょろきょろしながら)すっげえ豪邸。これ相当の金持ちだよ
    よし。もう一回確認しとくぞ
    ええっと、対象者の名前は長谷川千恵子。15歳。
    趣味は散歩。好きな料理はハンバーグ。
    いつも元気で、明るい性格だったそうだ。ちゃんと覚えておけよ!
    あ……(耳すます)そろそろ来るみたいだな。じゃ、とにかく急げよ!
    それまでなんとか場をつないでおくから!

    (電話切る。兄、上手より登場)

兄    お待たせしました。長谷川ユウイチです。
助手   あ、助手の清水と言います。すみません。
    先生が遅れてまして、あと10分ほどで着く予定なんですが
兄    いえいえ。こちらこそお忙しい中申し訳ない
助手   あと、それと……このたびはご愁傷さまです
兄    ……はい
助手   亡くなられた妹さんなんですけど……
兄    あ、千恵子は私の妹ではないんです。
    血はつながってなくて、しかし実の妹同然にかわいがってきて……
助手   そうだったんですか……まだ15歳だったんですよね。
兄    はい……
助手   いつも明るく元気な方だとお聞きしました。
兄    ええ。散歩が大好きでね。
    いつもはしゃいで私の周りをぴょんぴょんと飛び回ってました。
助手   そうですか
兄    ボール遊びが大好きでね、
    私がボールを投げると嬉しそうにキャッチするんです。口で。
助手   口で!?
兄    はい。
助手   ち、千恵子さん、すごいですね
兄    あとはフリスビーも好きでしたね。
    私が投げると、タタタっと走って、キャッチするんです。口で。
助手   それも口で?! そうですか、そんなに元気な方だったのに……
兄    はい……風邪をこじらせて、15歳で……医者からは老衰だと言われました。
助手   そんなことはないでしょう!?
兄    まぁ犬としては長生きしたほうかと思いますが……
助手   ……犬?
兄    はい。何か?
助手   いっ、犬!? あ、あの……もしかして、千恵子さんって犬、なんですか?
兄    そうですよ。言ってませんでしたっけ?
助手   あ……あ〜、えーと……! すみません、ちょっと先生に電話を……!

    (先生、下手より登場)

先生   すっ、すみません、遅くなりました!
兄    おお、先生! お待ちしておりました! 
    はじめまして、長谷川ユウイチと申します
先生   はじめまして。インドの山奥で30年の修業を積んだ奇跡の霊媒師!
    神無月阿弥陀丸です。
兄    今日はよろしくお願いします。
先生   お任せください。千恵子さんの魂を、呼び出してみせましょう。
助手   先生、その前にちょっとお話が……!
先生   後にしなさい! ご主人だって早く千恵子さんに会いたいんだ。
助手   いや、だから、その千恵子さんなんですけど……!
先生   それでは口寄せを開始します。う〜ん、なむあみだぶつ、なむあみだぶつ……
兄    え? それ、成仏させるほうじゃ……?
先生   …………えー……エロエムエッサイム エロエムエッサイム。
    われは求め、訴えたり。 えーと……かーごめかごめ、鶴と亀がすべった、
    ポコペンポコペン誰が最後につっついた、ポコペン!!
   (一度意識を失ってから起きあがる)
    ……ううん……ここは……?

兄    ち……千恵子か?
先生   ……そう。わたし、千恵子よ
兄    お前……いつ日本語がしゃべれるようになったんだ?
先生   えっ!? …………イエス。マイネーム イズ チエコ。
兄    英語もしゃべれるのか?
先生   ええっ!? ………………ジュテーム。
兄    お前あの世でどんだけの言語をマスターしてるんだよ!?
    会話なんて全くできなかったのに!
先生   ええ!?いや…違うの。あの、天国ではね、こう、魂の存在だから
    言葉の壁とかそういうのはないの。意思さえ通じ合えば伝わるっていうか。
兄    そうなのか……うん、千恵子と言葉をかわすことができて嬉しいよ
先生   うん、私もうれしい
兄    今はどうしてるんだ?
先生   うん、天国で何不自由なく暮らしてるわ。安心して。
兄    そうか、天国に行けたんだな
先生   ええ。神様に天国行きを認めてもらえたのよ。
    今までいっぱい良い行いをしてきたからって
兄    あー。宝石店に押し入った強盗をやっつけたりしたもんな。
先生   えっ!? あ、うん。そうなの。うん、あのときは我ながら頑張ったよ!
兄    どんな感じでやっつけたんだ? 教えてくれよ。
先生   えーと……まずは、犯人のみぞおちに正拳づきを一撃。
兄    正拳づき!?
先生   で、犯人がひるんだところを、コブラツイストで
兄    コブラツイスト!? お店の人からは犯人の腕にかみついたって聞いたけど
先生   あっ、ああ、うん! 最終的にはね!
    だからこう、技をいろいろかけて、とどめが噛みつき。
兄    なるほど……あ、宝石店といえば、千恵子に聞きたいことがあったんだ。
先生   な、なに?
兄    ほら、この写真を見てくれ。
先生   これは……指輪?
兄    そうだ。見覚えあるだろ?
先生   あ、ああ〜うん、ある、あるよ。いや〜懐かしいな〜
兄    懐かしくはないだろ
先生   懐かしくはないな〜。
兄    つい先週だよ。おまえこれおもちゃだと思って、どっかに隠しちゃっただろ
先生   えっ!? あ、う、うん、そうなの、ごめんなさい。
    おしゃれだったから、ついつけたくなっちゃって。
兄    つけるの!? 千恵子が!?
先生   ご、ごめんなさい。まだ早かったよね?
兄    いや、早いというか……
    千恵子が指輪をつけたがってるなんて全く知らなかったな。
    知ってれば、もっと安いものを買ってきたのに。
先生   こ、これ、やっぱり高かったの?
兄    ああ。これ、50カラットの最高級ダイヤで時価10億円するんだよ
先生   えええー!?
兄    まったく、お前はそんなのをどっかへやっちゃって。
先生   ごっ、ごめんなさい!
兄    で? どこに隠したんだ?
先生   えーと、その……どこだったかな……ほら、私がいつもいるところ。
兄    いつもいるところ?
先生   そう! どこだっけ? どわすれしちゃったな〜。ほら、あの〜〜
兄    ああ、犬小屋か?
先生   そう、犬小屋! ……犬小屋!?
兄    違うのか?
先生   ち……ちがくないよ? そう、そこ。そこに隠した、かな、確か……
兄    そうか、あとで探してみるよ。
先生   う、うん。
兄    いや〜よかった。見つからなくて困ってたんだ。
    よし、お礼に何か御馳走してあげよう。何が食べたい?
先生   ハンバーグ!
兄    おお、やっぱりな。千恵子、ハンバーグが大好きだったもんな。
先生   そう、私、ハンバーグ大好き!
兄    そういうと思って用意しておいたんだ! お〜い!

    (コックがハンバーグ持ってくる)

コック   お待たせしました。山形の最高級和牛をふんだんに使った
    地中海風クリームソースハンバーグでございます。

    (床に置いて退場)

先生   わ〜、おいしそ〜! 普通にうれしい!
兄    さぁ好きなだけ食べなさい。
先生   うん! えっと……箸は?
兄    お前、箸使うの!?
先生   つっ、使わないよ! 使わないよね! えっと……ナイフとフォーク……
兄    ナイフとフォーク!?
先生   もっ! 使わないよね! 使わない! ええええっと……スプーン?
兄    何言ってるんだ? 食事のときに道具なんて使わなかっただろ?
先生   ええっ?! あ、うん、だよねーえっと、じゃあ……いただきます(手づかみ)
兄    手を使うの!?
先生   手もだめなの!? えっ、じゃあ、どうやって……
兄    いつもそのままかぶりついてただろ
先生   えええっ!? う、うん……だよね……じゃ、いただきます……(食べる)
兄    おいしいか?
先生   う、うん
兄    そうか、千恵子が喜んでくれると私も嬉しいよ
先生   ……あのさぁ。私って、本当に愛されてた?
兄    何言ってるんだ、愛していたさ!
先生   う、うん……ならいいんだけど……
兄    天国では走り回ったりしてるのか?
先生   う、うん、まあね
兄    千恵子は走るのが好きだったからな〜
先生   うん、私走るの大好き!
兄    どうだ、ここで走ってみてくれないか? また千恵子の元気な姿を見たいんだ
先生   わかった!(立ち上がり全力疾走)ふぅ……これでいい?
兄    ……お前……いつから二足歩行できるようになったんだ!?
先生   ええっ!? お、おかしいの!?
兄    おかしいだろ! 犬が立ち上がって走っちゃったら!
先生   ……犬? い……いぬっ!?
兄    犬だろ?
先生   あ、ああ〜っ! そうか! そ、そう! 私は犬よね! じゃなくて犬だワン!
兄    何で急に語尾が変わってるんだ?
先生   気にしないでほしいワン! それより私を呼んだ理由を教えてほしいワン!
兄    ああ、うん。わかってるだろ。
先生   ま、まあね。わかってるよ……
兄    妹のレイカのことだ。
先生   あ〜、だよね〜! うん! だと思った! そうそう、レイカ! 私の妹!
兄    いや、私の妹だよ。
先生   えあっ!?
兄    まあ、でも子供のころからずっと一緒にいたし……
    千恵子にとっても妹みたいなもんか。
先生   そう! そう! そういう意味!
兄    ただそのレイカがな、千恵子が死んでからずっと元気ないんだよ。
    学校にも行かず、ずっと引きこもってて……なんとか元気づけてやりたくて、
    こうして霊媒師の先生に頼んで、千恵子の魂を呼び出してもらったんだ
先生   な、なるほど〜
兄    いま、レイカ呼んでくるからな。
先生   わかったわん!
兄    待て!
先生   わん!(待てのポーズ)

    (兄退場。見届けてから先生立ち上がる)

先生   ふぅ……おい! 千恵子って犬かよ! 教えとけよ、先に!
助手   教える暇がなかったんだよ!
先生   おいおい、俺むちゃくちゃ言っちゃったぞ。あやしまれてないかな
助手   そのかっこの時点で、だいぶあやしいけどな。なんなんだ、その服?
先生   ああ。昨日ユニクロで、霊媒師っぽい服を探してきたんだよ
助手   ユニクロなんでもあるんだ……あと、神無月阿弥陀丸って?
先生   かっこいいだろ?
助手   お前の名前、山田マサルだろ
先生   霊媒師っぽい名前を考えてきたんだ
助手   霊媒師っぽいかなあ?
先生   まぁ、あとは妹さんを元気づければ仕事終わりか……
    元気づけるって何すればいいんだ?
助手   犬だからなぁ……一緒に散歩するとか。
先生   おー。女の子と一緒に散歩かあ……
助手   首輪つけて。
先生   やだよ! それじゃ俺完全に変態じゃねえか!
助手   金をもらえるんだから我慢しろよ
先生   首輪つけて、よつんばいになって、女の子に野外歩かされて、
    それでお金もらったら、もう俺、完全に違う商売の人じゃねえか!

コック   あの〜……
先生   は、はい!
コック   千恵子さん、なんですよね?
先生   う、うん! そうだわん!
コック   あの……俺のこと、覚えてますか!?
先生   えっ!? …………えっと、その……う、うん……覚えてる、よ……?
コック   …………ああああっ!!
先生   ええ!?
コック   まさか! まさか覚えられていたなんてえっ!!(泣き叫び)
先生   あ、あの、覚えてるって言っても、ほんと、おぼろげに、少しだけ、
    ほとんど忘れてるっていう……
コック   千恵子さん!!
先生   はい!
コック   その節は、本当にどうもすみませんでした!
先生   いや、だから、その……
コック   許して下さい!
先生   え、え?
コック   許して下さい!
先生   う、うん! 許す! 許すわん!
コック   おお……ありがとうございます!
先生   う、うん!
コック   それで……例のものなんですが。
先生   れ、例のもの?
コック   はい。例の。あのとき、千恵子さんが口にくわえて持っていってしまった、
    アレです。どこへ隠したんですか?
先生   あ、ああ、あれね。あの……おいしい……
コック   ……?(顔をしかめる)
先生   い……くは、ない……あの……丸い……
コック   ……?(顔をしかめる)
先生   い……くもない。あの……あれは、その……確か……庭に埋めた、かな?
コック   庭ですね! わかりました! ありがとうございます!
    良かった……もしこのまま見つからなかったら、
    もう警察に行くしかないと思ってたところです。
二人  ええ!?
コック   じゃ、さっそく探してきます!(退場)

助手   いや、ちょっ、その……! お、おい! これやばくないか!?
先生   例のアレって何だろうな?
助手   しらねえよ。それより警察呼ばれたらまずいだろ。私達免許とか持ってないし。
先生   え、霊媒師って免許いるの?
助手   そりゃあ……どうだろ?

執事   失礼します。お茶をお持ちしました
先生   え、ああ、どうも……
執事   ……えっ? せ、先輩?
先生   は?
執事   山田先輩ですよね?!
先生   ……おお! 田所! うおお、久しぶりだなー!
助手   え、し、知り合い?
先生   おお、中学の時の後輩だよ! 卒業以来だな! いま何やってるんだ、お前?
執事   みての通りです
先生   もしかして執事? へー。
執事   先輩は?
先生   みての通りだよ
執事   ……大道芸人ですか?
先生   なんでだよ。俺は霊媒師だよ。
執事   え、もしかして今日千恵子さんの霊を呼び出すために来たのって先輩……?
先生   おお、そうだよ!

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