ソウルマン・ハッピーエンド・オトギトリッパー

(そうるまん・はっぴーえんど・おとぎとりっぱー)
初演日:2016/3 作者:本間稜
『ソウルマン・ハッピーエンド・オトギトリッパー』

シンデレラ…………童話「シンデレラ」主人公。控えめで内向的、いつも「我慢」している。作中「灰かむり」表記。
オオカミ……………多くの童話に登場する獣。狡賢く怠惰で「嘘つき」。
メロス………………小説「走れメロス」主人公。怒りっぽく「直情」的。
ピーター・パン……戯曲「ピーター・パン」主人公。いつも遊んでばかりで「子供っぽい」。
赤ずきん……………童話「赤ずきん」主人公。「好奇心」旺盛。
怪物…………………小説「フランケンシュタイン」の怪物。口数少なく「落ち込み」がち。
宮澤治奈(ハルナ)…みやざわ はるな。文芸研究会。小説家志望の女子大生。
津島修(ツシマ)……つしま おさむ。男。文芸同好会部員。
富山栄(トヤマ)……とやま さかえ。女。文芸同好会部員。
安藤清(セイ)………あんどう せい。男。文芸同好会部長。
ストーリーテラー…謎の男。




 ストーリーテラーとハルナが立つ。ハルナは原稿用紙を、テラーは本を所持している。
 以下、セリフに合わせキャラクターが舞台上に上がる。

ハルナ 「私は、子供の頃から本が好きだった。童話、小説、昔話。漫画も図鑑も大好きだ」
テラー 「遊び相手は、いつも本の中。ページをめくれば知らない世界が待っている。
     本に育てられたといってもいいぐらい、いろいろな本の影響を受けてきた」
ハルナ 「小さい頃に好きだったのは、シンデレラ。嫌なことがあっても、我慢していれば、
     そうすれば誰でもいつかはお姫様になれる、幸せになれると思っていた」
テラー 「童話なら赤ずきんもたくさん読んだ。いつだって、あれを読んだ日は
     お母さんを質問攻めだ。ちょうど、赤ずきんが色々聞いていたように」
ハルナ 「赤ずきんといえば、私は小さい頃オオカミが嫌いだった。赤ずきんも子ヤギも、
     みんな騙してしまうから……」
テラー 「でも、頭がいいなあと感心したのも事実だ」
ハルナ 「初めてピーター・パンを読んだのは、小学校の頃。あの頃は、
     『永遠の子供』とかの意味はよくわからずに、ただただ楽しそうと思っていた」
テラー 「今は?」
ハルナ 「ちょっと羨ましい」
テラー 「教科書で読んだ『走れメロス』。あのまっすぐさを、友達とバカみたいだと嘲笑った」
ハルナ 「でも、家では一人、ああ生きてみたいとも思っていた」
テラー 「タイトルだけは知っていた、フランケンシュタイン。意を決して図書館で手に取り、思わず泣いてしまった高校時代」
ハルナ 「理不尽で、不器用で。まるで私を見ているみたいだった」
テラー 「他にも、たくさんの本に触れた」
ハルナ 「たくさん笑ってたくさん泣いて、たくさんの本に影響されて……」
テラー 「そして、今」
ハルナ 「私は大学生になった。今は文芸同好会に所属して、物書きの真似事をしているけど、本格的に『本』の世界を目指している」
テラー 「これは、そんな一人の女の子の、ごくありふれた、でも、少し不思議なお話」
テラー・ハルナ「「ソウルマン・ハッピーエンド・オトギトリッパー」」




 図書館と思しき場所。「御伽話の登場人物」達が、各々動いている。
 少し離れたところにはストーリーテラー用のスペースがあり、彼はそこで本を読んでいる。
 ハルナとツシマ登場。口論をしている様子。

ハルナ 「なんでやってきてないの?」
ツシマ 「だから忘れてたんだってば」
ハルナ 「期限、今日までって言われてたよね?」
ツシマ 「はいはい」
ハルナ 「何その返事」
ツシマ 「へーい」
ハルナ 「あなたがサボったせいでみんなに迷惑かけてるの、理解してる?」

ピーター「あーもう、まったく」
オオカミ「また喧嘩か」
怪物  「喧嘩は良くない」
赤ずきん「ねえねえ、なんで喧嘩しているの?」
ピーター「おおかた、またアイツが原稿の期限守らなかったんだろ」
オオカミ「またかよ。俺も大概だけど、アイツはちょっと嘘つきすぎだよな」
ピーター「な。やる気あんのかって感じ。おちおち遊んでもいられないっての」
メロス 「言うな、人を悪く言ってはならぬ」
オオカミ「怒りっぽいアンタがそれ言う?」
メロス 「何?」
ピーター「落ち着け二人とも。ほら、メロス、出番じゃないのか」
メロス 「よし」

 メロス、前に出る。口論中のハルナとメロスの動きが重なる。

メロス 「いいか! 私が最も嫌いなものは、人を疑う事と、それから、嘘をつく事だ!」
オオカミ「出た出た」
赤ずきん「ねえ、あれどういうこと?」
ピーター「約束守れバカ野郎、ってこと」
メロス 「私なら約束を守るぞ。信じられないなら、よろしい、明日だ!
     お前の代わりに私がその仕事、明日までに仕上げてやろう!」
オオカミ「おいおい、聞いたかお前ら」
怪物  「人間は誰にでも自由な発言の権利がある」
ピーター「いや、そうじゃなくてさあ。今引き受けたの、いつまでっつった?」
赤ずきん「明日?」
ピーター「無理だろ! ただでさえ今、どんだけ仕事抱えてると思ってんの!?」
オオカミ「学生文学コンクールの提出作品」
赤ずきん「サークル作品集の編集」
テラー 「新聞部のコラム」
ピーター「こんなんでいつ遊ぶんだよ。おい、メロス!」
メロス 「うるさい! ええい、離せ!」
ピーター「あーもう、オオカミ!」
オオカミ「しょうがないな」

 メロスを退けてオオカミが前に出る。オオカミとハルナの動きが重なる。

オオカミ「いーから、絶対できるって。俺はお前と違って嘘つかないんで?」
ピーター「よく言うな、嘘しかつかないくせに」
オオカミ「俺はこれが仕事なの。遊びしか能のないガキが偉そうなこと言うんじゃねーよ」
ピーター「なんだと!」
オオカミ「食っちまうぞ」
ピーター「ていうか何で引き受けてんだよ!」
オオカミ「俺はやらないし。シンデレラにでもやらせろよ」
メロス 「呆れた獣だ! 生かしておけぬ!」
ピーター「何でアンタが出てくるんだよ」
赤ずきん「ねえねえ、遊びしか能がないの?」
ピーター「やかましい!」

 騒ぎの中、ツシマ、帰っていく。今度は喧騒を眺めていたカイブツと、
 肩を落とすハルナの姿勢とが重なる。

怪物  「はあ……何で俺はいつもいつも……」
ピーター「あ……あーあ」
オオカミ「また始まった」
メロス 「呆れたヤツだ」
ピーター「おーい、そんな落ち込むなって」
オオカミ「いいんじゃねーの。後悔させとけよ」
ピーター「いや、だってこんなんじゃ遊べないじゃん」
赤ずきん「ねえねえ」
ピーター「何?」
赤ずきん「遊びしか能がないの?」
ピーター「うるさいな! 俺は遊びたいの!」
メロス 「だがこうなると遊んでいる暇はないぞ」
ピーター「は?」
赤ずきん「どうして?」
メロス 「明日までに、私たちは題材を考えて文にしなければならないんだぞ」
オオカミ「うーわ、面倒くせ」
ピーター「いや、お前ら二人が勝手に決めたんだろ。俺はパスだ、パス」
灰かむり「だめだよ」
オオカミ「おっ」
ピーター「何だよ、シンデレラ。今まで黙ってたくせに」
灰かむり「我慢しなきゃ。やることはやらないと」
メロス 「よく言った! そうと決まれば行くぞ、シンデレラ!」
灰かむり「え、どこに?」
メロス 「向こうの部屋だ! 記憶を片っ端から掘り返して、ネタ探しをするぞ!」
ピーター「よくやるなあ」
オオカミ「まったく」
ピーター「だからお前が決めたんだからお前は手伝えよ」
怪物  「おい」
メロス 「よし! 怪物、お前も私と来い!」
怪物  「え?」
メロス 「落ち込んでいる暇はないぞ、人手は多い方がいい」
怪物  「……わかった」
メロス 「オオカミとピーターパン、赤ずきんはあっちの部屋からかかれ」
オオカミ「マジかよ」
ピーター「俺も?」
怪物  「何か問題があるか?」
オオカミ「あーあー、分かったよ」
ピーター「そんなすごむなよ、こえーよ」
怪物  「いつも通りだ」
メロス 「よし、そうと決まれば行くぞ! まだ陽は沈まぬ!」

 騒ぎながら一同はけていく。

テラー 「これが彼らの仕事だ。文芸同好会の女子大生、宮澤治奈。彼女の中の感情であり、人格である、彼らの仕事」




 現実、図書館。トヤマがやってきて本を探す。そこへハルナがやってきて原稿を広げる。

トヤマ 「お疲れ様でーす」

 ハルナ、返事はない。トヤマ、舌打ちをしてその場を離れる。
 キャラクターらは本を探して作業中。そこへセイがやって来る。

セイ  「お疲れ様」
ハルナ 「……」
セイ  「宮沢? ハルナちゃーん?」
ハルナ 「わ。安藤先輩……お疲れ様です」
セイ  「どうした? ぼーっとして」
ハルナ 「すみません、ちょっと考え事を……」
セイ  「あー、コンクールの原稿?」
ハルナ 「はい」
セイ  「この前の続き?」
ハルナ 「あ、はい」
セイ  「うーん……そうだなあ、この前、俺が言ったことは覚えてる?」
ハルナ 「あ、えーと……確か……」
赤ずきん「何だったっけ? オオカミさん」
オオカミ「知らねー。ピーター・パン」
ピーター「俺に聞くなよ」
オオカミ「ガキはモノ知らないからな」
ピーター「お前、俺なんだから覚えてるだろ」
オオカミ「お前もな」
メロス 「やめろ、二人とも」
オオカミ「じゃあアンタは覚えてんのか?」
メロス 「確かこの日の記憶の……あった、これだ」
灰かむり(メロスが散らばした本を棚へ戻す)
ハルナ 「心情変化の、脈絡がない……ってやつですか?」
セイ  「そう。まだ弱いな」
ハルナ 「そうですか」
セイ  「例えば……ここ、まだ大したイベントも起きてないのに、
     ページをめくった瞬間に主人公の気持ちがガラッと変わってる」
ハルナ 「はい」
セイ  「これじゃあ伝わらないな。読者に響かない」
ハルナ 「……」
セイ  「もうちょっとだけ、練り直しが必要だな」
ハルナ 「……考えてみます」
セイ  「まあ、コンクールの締め切りまではあと七日あるし……」
ハルナ 「……はい」
セイ  「……本当に大丈夫か?」
ハルナ 「え?」
セイ  「無理してないか、最近忙しいだろ」
ハルナ 「……大丈夫です」
セイ  「津島の作業も代わりにやったって聞いたぞ」
灰かむり「いえ、私がやればいい話なので」
セイ  「富山は? ここで本を探してるって聞いたんだけど」
ハルナ 「あ、さっき一瞬来てたような……何か用事ですか?」
セイ  「宮沢と同じ。原稿の直しだよ」
ハルナ 「私、手伝えることあります?」
セイ  「え? 宮沢がか?」
ハルナ 「はい。何かできることがあれば」
セイ  「別に」
ハルナ 「え?」
セイ  「疲れてる後輩に任せられるような仕事はないな」
ハルナ 「そんな……」
セイ  「それ、作品集の編集、俺がやっておくから。貸して」
ハルナ 「……えっと……」

 舞台上、ピーター・パンが面白い本(記憶)を見つけ周囲に見せる。
 怪物とシンデレラ以外ははけてしまう。セイの言葉に、怪物が話そうとするのを
 シンデレラが制する。シンデレラとハルナの動きが重なる。

灰かむり「大丈夫です」
セイ  「……本当に?」
ハルナ 「はい」
セイ  「わかった。無理だけはするなよ」
ハルナ 「……はい」
セイ  「それで体調崩されても、こっちが困るからな。じゃ、お疲れ様」
ハルナ 「お疲れ様です」

 セイ、はける。怪物とシンデレラが残っている。

怪物  「何するんだよ」
灰かむり「駄目だよ、迷惑かけちゃ」
怪物  「迷惑?」
灰かむり「大変なのは私たちだけじゃないんだよ」
怪物  「しかし……」
灰かむり「先輩だってコンクールの出展あるんだから」
怪物  「ごめん」
灰かむり「ううん。さ、話のネタ、探さないと」
怪物  「ああ。俺はあっちを探してみる」

 怪物、ほかのキャラクターとは反対へはける。

灰かむり「……我慢しなきゃ」

 舞台袖からピーター・パン、メロス、オオカミらの笑い声が聞こえる。

灰かむり「余計なこと思い出してる場合じゃないっていうのに!」




 ピーター・パン、オオカミ、メロスが何らかの番組を真似てコントをしている。傍らで本を読む怪物。
 ハルナは原稿に行き詰っている。体調も芳しくない様子。
 そこへ隣の部屋から赤ずきんとシンデレラが大量の本を抱えて戻って来る。

オオカミ「おー、戻ってきたか」
赤ずきん「ねえねえ、何しているの?」
怪物  「ああ、」
メロス 「いや、これを見つけてな」
灰かむり「これ、先週の記憶?」
オオカミ「そうそう! ほら、この日の【番組名】! めちゃくちゃ面白かったじゃん」
メロス 「これを思い出してな」
灰かむり「昨日から余計なこと思い出してばっかり。そんな場合じゃないでしょ、もう」
赤ずきん「どうして?」
灰かむり「コンクールの締切まであと六日しかないんだよ」
オオカミ「いいじゃねーか、昨日ひと仕事終わらせたんだから」
ピーター「誰かさんが引き受けた余計な仕事をな」
オオカミ「あ?」
ピーター「なんだ?」
メロス 「やめろ、二人とも」
オオカミ「お前には言われたくねえ」
ピーター「そうだぞ、元はといえばアンタが」
メロス 「なに、何を言う、私のせいだと言っているのか?」
オオカミ「そう言ってんだよ」
ピーター「アンタら二人の、な」
灰かむり「だからそんな場合じゃないって。我慢して」
オオカミ「我慢我慢って、よく我慢ばっかしてられるな」
灰かむり「だって……私が我慢すればいいだけの話だもの」
オオカミ「おあいにくさま。俺は楽がしたいの」
灰かむり「楽って……」
赤ずきん「あれ?」
メロス 「どうした?」
赤ずきん「ねえねえ、この本、どうして途中が抜けているの?」
ピーター「え? お、本当だ。このページだけない」
メロス 「抜けているな」
オオカミ「ああ、たまにあるんだよな、ページが抜けてる記憶」
赤ずきん「忘れてる、ってこと?」
オオカミ「そういうこと」
メロス 「あまり重要ではない記憶なのだろうな」
オオカミ「そうそう、どうでもいい記憶ってことだろ、どうせ」
ピーター「そんなことよりさ。あっちの部屋でまた懐かしい記憶見つけたんだよ」
赤ずきん「何を見つけたの?」
ピーター「よっちゃんって覚えてるか?」
赤ずきん「イカ?」
ピーター「ちげーよ馬鹿」
オオカミ「小学校の同級生のか?」
ピーター「お、覚えてたか。いやこれが傑作でさあ……読みに行こうぜ」
メロス 「よし! ならば行くとするか。まだ陽は沈まぬ!」
ピーター「赤ずきんと……おーい、怪物」
怪物  「ん?」
ピーター「そんなつまんねー記憶ばっか思い出してないでさ、お前らも来いよ」

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