ハロウィンの夜

(はろうぃんのよる)
初演日:2015/11 作者:稲月P
−登場人物−
代議士  佐竹敬三(さたけけいぞう)(=山田権三郎)五六歳 政治家
秘書   向井三徳(むかいみつのり) 三三歳 素直な馬鹿
医者   神部智彦(かんべともひこ) 六七歳 常識人
看護師  黒沼佳代子(くろぬまかよこ)(婦長)三六歳 不器用なかわいいメガネ
看護師  砂羽かなで(さわかなで)(婦長の側近)三一歳 時期婦長を狙う
看護師  池田さち(いけださち)(森の友達)二八歳 男勝り
看護師  森 早苗(もりさなえ)二五歳 若い娘
看護師  中村大輔(なかむらだいすけ) 二四歳 若い男
執事   八木笛太(やぎふえた)  七三歳 屋敷に尽くして幾星霜
佐竹の妻 佐竹雪乃(さたけゆきの) 五二歳 影の支配者
松岡会の若頭 勝俣勇次(かつまたゆうじ) 四八歳 案外いい奴な 理知的
     

第1場 逃げてきた男(十月二九日夜)

場所は、郊外の山奥にあるサナトリウムの一室(この施設では最も高級な部屋)
舞台にはベッドと、それなりの机・椅子のセット、サイドボード・テレビなど、スツールが数個。
舞台奥には、廊下につながる出入り口。下手は浴室につながる。

黒沼  いいですか。これは、異例のことなんですから。そこのところだけは、よく肝に銘じておいてくださいね。

佐竹(山田)、荷物をベッドに置き、上手側の窓などを覗いている

黒沼  ここには、三十名の入所者がいらっしゃいます。くれぐれも問題など起こさないようにお願いします。

佐竹  ・・・・ 

砂羽  山田さん!聞いているんですか?

佐竹  (不機嫌に)聞こえてるよ。しかし、一番上等の部屋といっても、知れてるもんだな。

黒沼  贅沢を言わないでください。

佐竹  この(独特の)臭いも・・・(好きにはなれん)。人が死ぬときにはいつもこの臭いだ。

黒沼  ここは療養所です。

砂羽 (黒沼になにやら耳打ち)

黒沼  (砂羽に)今?・・・(佐竹に)コホン、最初に聞いておいたらと思うのですが、・・・。

佐竹  何だ?

黒沼  山田さん・・・その・・・独身の息子さんとかいらっしゃいます?・・

佐竹  息子はいないが。

砂羽  ちっ(舌打ち)。

佐竹  (砂羽の顔をうかがいつつ)娘は・・・。

砂羽  (怒)娘はどうでもいいんです。

黒沼  そうですか。ともかく、いいですか。突然やってきて、入所させてくれなんて話は聞いたことがありません。

佐竹  ああ。

黒沼  院長のご厚意で、こうして部屋にお通ししましたけれど。本来なら、それなりの病院からの紹介を受けた方のみが、この・・

佐竹  (砂羽に)しかし、もっとましな部屋はないのか。

黒沼  ありません!偉そうに。

佐竹  奥は洗面所?

砂羽  ええ、浴室も備えつけています。

黒沼  ビジネスホテル並みの装備は、かね揃えています。ロビーは先ほど通られたからわかると思いますが、談話室が・・

佐竹  説明はいいよ。いかないから

黒沼  (ムッとするが)コホン、診察が毎朝十時から始まりますので、その時間には、奥の治療棟に来て・・・

佐竹  その必要はない。

黒沼  あなた、療養所にいるんですよ。わかってます?診察もしないでなにするんですか?

出入口から神部医院長が入ってくる。

神部  まあ、いいじゃないか。黒沼君。

黒沼  院長!

神部  私の昔馴染みだ。私に任せて。砂羽君も

黒沼  しかし!

神部  大丈夫だから。君は仕事に戻りなさい。さあ。

黒沼  そうですか。でも、ちゃんと施設の入所費用はいただきますからね。

佐竹  ああ。

黒沼 (砂羽に)いきましょう。

出入口から黒沼・砂羽出ていく。

神部  相変わらず、態度のでかい男だな。(血圧の道具をだしつつ)

佐竹  なあ、ここしか部屋は空いてないのか?もっと人のこないような・・。

神部  なにいってるんだ。ここはホテルじゃないぞ。贅沢いうな。血圧図るぞ。

佐竹  治療はいらん。

神部  まあそういうな。

佐竹  あの、喧々した看護師が、ここの担当か?

神部  黒沼君だ。この棟の婦長だ。喧々してるのは、お前の態度が悪いからだ。
 
佐竹  いくつだ。

神部  しらんよ。

佐竹  じゃあもうひとりの方は?

神部  あの子は砂羽君だ。婦長の助手みたいなもんだ。いつも一緒にいる。

佐竹  いくつだ。

神部  しらんよ!(おい動くな!。)

佐竹  ・・・・

神部  この部屋の担当は別の子だよ。その子が、職場恋愛ってやつだな。・・今度結婚が決まってな、それで婦長の黒沼くんもカリカリしてるんだ。

佐竹  ふん。しょうもない。でここの担当は?

神部  なんだ。やけに看護師が気になるんだな。

佐竹  そんなんじゃないが。

神部  ここの部屋の担当は、森君といって・・・(血圧計)165の102 高いな。

あわてて森 が、出入口から部屋に入ってくる。

森   あれ、院長。いらしてたんですか。

神部  これ!部屋に入るときは?

森   あっ、すいません。(入口にもどり)失礼します。・・・えっと新入りの・・

神部  新入りとか言わない。この子だ。この部屋の担当は。

森   新しく入所された・・・・山田さんですね。

佐竹  ああ、私だ

森   この部屋を担当しています。森です。よろしくお願いいたします。

神部  ここは、まだいいよ。私がいるから。

森   そうじゃなくて。これこれ。ジャン!(マントと帽子・羽メガネをだし)パーティーの衣装・・・うふふふ・・・(佐竹に)はい、明後日パーティーがあるのでこれを着てホールに集合してください。夜六時に、あれ、七時だっけ?

神部  知らんよ

森   とにかくそのくらいの時間に、下のホールにご集合ください。では。(といって部屋を出ていこうとするが)

佐竹  ちょっと、なんだこれ?

森   タキシード仮面ですよ。セーラームーンの。

佐竹  タキシード?

森   良かった似合いそうで。明後日衣装来て劇をするんですよ。

森、言い残すや否や、急ぎ足で部屋を飛び出していく。

佐竹  一体なんなんだ。 

神部  明るい子なんだよ。無邪気というか、純粋というか。

佐竹  こっちの意思は無視か

神部  あれでも、可哀想な娘なんだ。早くに母親を亡くし、つい先日、父親もこの施設で亡くなった。そう、ちょうど、この場所、いつもそうやって座ってたなあ。

佐竹  おいおい。(気味悪くなりベッドを降りる)

神部  はっはっは。彼女のたっての希望で、この部屋での親の世話をさせてやったんだ。なあに、私立の療養所だからそのへんは融通が利く。

佐竹  部屋をかえて(くれないか)・・

神部  無い。

佐竹  ・・・で、パーティーってなんだ?

神部  ハロウィンパーティーをするんだそうだ。ここに入所している人は、普通に見えても皆、体や心の病を抱えている。それを和らげるために、色々、催しをやるんだ。明後日も、みんなで劇をするんだそうだ。

佐竹  バカバカしい(衣装を浴室の方へ放り投げる)

神部  おいおい。(床に落ちた衣装を拾い。シャワー室の中に置きながら)お前が、苦しんでいるのは、わかるよ。ある意味、病を抱えてる患者かもしれん。だから、この施設で受け入れたんだ。

佐竹  迷惑をかける。

神部  佐竹・・・いや、佐竹代議士か。・・・

佐竹  今は山田だ。

神部  偽名なんて使って・・・なんで逃げてきた。本当に後ろめたいことがあるのか?

佐竹  ・・・それは、取りようだ。

神部  ・・・事務所の方では、大騒ぎになっているんじゃないのか。

佐竹  俺は病院に入っていることになってる。まだ居なくなったことは、バレてないはずだ。秘書にそう指示を出しておいた。

神部  まったく。で、秘書はここにいることを知っているのか?

佐竹  言っていない。じゃないと一人でこんなところにくるもんか。

神部  こんなところって・・・で、なんでここに来た。

佐竹  ・・・どうせ、隠れて、療養するんだ。都会も田舎も変わりない。それに昔なじみの顔も見たかったしな。

神部  (呆れたような笑い)くっ。にしても、こんな山奥の療養所に来るんだ・・・(何か思い当たるところがある)本当にそれだけか?

佐竹  ・・・なんだ、まだ他に理由が必要か?

神部  ・・・いや、それならいいんだが、これまでにもマスコミに叩かれることはあったが、今回に限ってどういう風の吹き回しかなと思ってな。そんな変装までして。

佐竹  (メガネ・付け髭をはずし)これで、ここの職員にはばれなかった。

神部  彼女たちは大丈夫だ。ニュースをゆっくり見る暇もない。それに、見るのは大概恋愛ドラマだ。

佐竹  なるべく、迷惑はかけないように努める。

神部  そうしてくれ。偽名に変装、長くは隠しきれんだろう、それに、お前さんを長く隠すと、この施設もただじゃすまん。

佐竹  ・・・受け入れてくれて、感謝する。

神部  ・・・(なにか言いたそうだが)まあ、とにかく二・三日ゆっくりしていくといい。

佐竹  (出ていこうとする神部に)神部・・・すまない。

神部、出ていく。佐竹、見送った後、机の上のバッグから手紙とロープを取り出す。

佐竹  ・・・(手紙をひとしきり確認したのち、ロープを見つめ)迷惑はかけない・・・か。

廊下より、向井の声

向井  どこです?あそこ?先生!先生!

佐竹は、ロープを隠し、手紙はポケットへ入れる。そこへ慌てて向井が飛び込んでくる。

向井  (疲れている様子)はあ、先生!なにやってるんですか。こんなところで!

佐竹  なにって。静養中だ。(といって、ベッドに上がる)お前こそどうして。

向井  もう、大変なんですから。ちょっと下りてくださいよ。帰りましょう、すぐに。

黒沼・砂羽が、飛び込んでくる

黒沼  ちょっと、山田さん。困ります。面会は受付で手続きしていただかないと。

向井  山田?

佐竹  向井くんちょっと!

黒沼  山田さん?

佐竹  (手で黒沼を制し上手側に向井を誘導し小声で)今は山田ってことになってる。

向井  なんでですか?だって?

佐竹  いいから!(黒沼の方を気にしながら向井の耳元でなにやら囁いている)

向井  ・・・わかりました。・・・・・(佐竹を指し)山田さんです。

黒沼  わかっています。

佐竹  いやあ、お見舞いに来てくれてね。向井君も忙しいのにすまんね。

黒沼  さっき、先生と?

向井  ・・先生?・・・そう学校の・・・恩師の佐竹、山田先生。(佐竹に)先生もいつまでもお元気そうで

佐竹  元気だったら、こんな所には、居ないがな。まあ、掛けたまえ。(といってベッドに上がる)

黒沼  佐竹山田??・・・ちょっと、向井さん?でしたか。面会は受付をしていただかないと困ります。

向井  あ、そうですね。あとで必ず行きます。

黒沼  あとじゃ、ダメなんです!必要事項をこれに書いて身分証を添えて提出してください。

向井  ちょっと(待ってください)・・・

黒沼  (さえぎるように強い口調で)これはルールです!

佐竹  向井君も、泊めてもらったらいい。もう夜も遅い。

黒沼  (佐竹に)何を勝手な!・・

砂羽  (何やら黒沼に耳打ち)

黒沼  あの、・・・ちょっとお伺いしますが

佐竹  独身だよ。彼は

砂羽  よし

向井  え?

黒沼  独身ですか・・・

向井  (驚きつつ)ええ・・・(佐竹に)駄目ですよ。みなさんに迷惑をかけてもあれだし。

黒沼  いいえ。全然大丈夫です。

向井  えっ!

黒沼  この際、ゆっくりご滞在ください。ちょうど、四階のベッドが空いております。私が担当していますし・・・(砂羽に)ねえ。

砂羽  (うなづく)

向井  いやいやいや。

佐竹  (向井と黒沼を見ながら)おや、二人は、ちょっとお似合いじゃないかな。

向井  はあ?

黒沼  まあ、お似合いだなんて。(嬉しそう)

向井  なんで、あんた照れてるんですか。

黒沼  でも、独身なんでしょう。(独身に異常に喰いつく黒沼)

向井  ええ、独身です。なんで、そこに喰いつくんですか。

黒沼  私も独身なんですよ。こんな偶然あるんですね。

向井  結構あるとおもいますけど。

砂羽  運命です。

黒沼  運命

向井  何言ってんだあんた

黒沼  あの、私、黒沼佳代子といいます。

向井  はあ・・・とにかく、あとで受付に行きますから。

黒沼  はい。お待ち申し上げております。では、失礼いたします。ごゆっくり。

黒沼、礼儀正しくお辞儀をし出ていく。砂羽も

向井  (佐竹に)なんか、態度が急変しましたね。

佐竹  単純なやつだ。

向井  先生、で、どうするんですか。

佐竹  マスコミには?(ばれてないだろうな)

向井  そのへんは、金指(登場しない別の秘書)さんがうまくやってますけど、先生も自粛していただかないと。

佐竹  ほかには、誰にも言ってないだろうな。

向井  ええ、もちろん。秘書の秘は秘密の秘ですから。

佐竹  で、誰に聞いた。

向井  は?

佐竹  私がここにいるということを誰にきいた?

向井  松岡会の勝俣さんです。連絡がありました。

佐竹  (苦々しく)勝俣か・・・・あの悪党、どこからそれを。

勝俣が、部屋に入ってくる。

勝俣  我々の情報網を甘く見てもらっては困りますな。

佐竹  勝俣!

向井  いっしょに来ました。

勝俣  ご無沙汰しております佐竹先生。いや、ここでは山田先生か。・・・

佐竹  何しに来た。

勝俣  先生も、大変な立場に置かれてますなあ。大臣目前とまで言われた方が、今や、党の除名処分候補だ。トカゲのしっぽ切りってやつですな。まあ、皆さん一蓮托生だ。そんな勇気は無いでしょうが。

佐竹  本当に、お前たち以外は、私がここにいることを知らないのか?

向井  本当です。信じてください。奥様には連絡を入れましたが、それ以外は。ああ。奥様も留守でしたので、執事の八木さんに伝言しました。

佐竹  こいつ(あきれて頭を抱える)

勝俣  しかし、佐川開発も立ちの悪い話を持ちかけたもんですね。見え見えの利権ねらいの贈賄だ。

佐竹  話を受けたのは私じゃない。

勝俣  分かってます。しかし、いまだに汚職まみれとは、代わり映えしませんなあ。指示したのは、佐久間?・・いや是沢先生か?・・・。

佐竹  !!お前、どこまで知ってる!だれから聞いた?

勝俣  (向井を示し)来る途中に
 
佐竹  (うなだれて)向井・・・秘書の秘は

向井  (自信たっぷりに)秘密の秘。

佐竹  (感情的に)出ていけ!

向井  ええ!・・

佐竹  いいから、出ていけ! 

向井  (怯えつつ)はっはい。・・・じゃあ、書類かいてきます。

向井、慌てて出ていく

勝俣  大丈夫ですよ。私は口は堅い人間です。

佐竹  どうだか。

勝俣  そうでないと、ここまで生きて来られなかったでしょう。

佐竹  ・・・・

勝俣  また、先生には、ちょっとお骨折りをいただきたいのですが。

佐竹  (今の)私の立場を分かってるだろう。

勝俣  収賄疑惑?、マスコミを逃れ、体調不良で入院中?・・・それがどうしました。政治と金はつきものです。これまでも、似たような事件はたくさんあった。

佐竹  それで、潰れた奴もたくさんいる。

勝俣  おっしゃる通り。まあ、先生には、まだ、働いてもらわないと・・・・これまで、先生には、我々もかなりの投資をしてきましたし、私も随分汚い仕事もやってきた。まあ、それで、稼がせてもらってたわけですが。

佐竹  知らんな。

勝俣  それで結構。先生は、なにも知らない話です。・・・

佐竹  ・・・(間)・・・

勝俣  しかし、思い出しますなあ。先生のお仕事を初めてさせていただいたのは、まだ私が二十代のころでした。先生は、岡山先生の地盤をついで出馬された、選挙戦のまっただ中。

佐竹  ・・・・

勝俣  岡山先生は、おしいことをしました。まだまだ、これからと言う所で、人の命ははかないものですなあ。大切にしないと・・・

佐竹  貴様には言われたくないな。

勝俣  まあ、秘書にあなたのような優秀な方がおられたことは運が良かったというべきでしょうな。奥さんは資産家だ。

佐竹  さっきから、何が言いたい!

勝俣  愛人問題・・・・相手方には、よだれの出るようなスキャンダルでした。もし、知れたらそれこそ、あなたは、あの選挙に勝てなかった。

佐竹  くっ・・・・(なにかに気付き)あの手紙は、お前が?

勝俣  なんのことです。

佐竹  なんでもない。

勝俣  じき奥さんも見えられるでしょう。・・・忘れないでいただきたい。今のあなたがあるのは、我々、影となって働く善良な市民がいたからだということをね。

佐竹  今になって私を脅すつもりか?

勝俣  いいえ。めっそうもない。ただ、スキャンダルをもみ消した我々の苦労も忘れないでいただきたいだけです。

佐竹  何が望みだ?

勝俣  言うまでもない。駅前の再開発計画の仕切りを我々に任せていただく、そのために先生には関係団体への口利きをお願いしたい。

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