月を待つ人

(つきをまつひと)
初演日:2015/5 作者:岩本憲嗣
『月を待つ人』


■登場人物
 横路軍平(よこみちぐんぺい・♂・32歳・新選組隊士)
 白川茂慶(しらかわしげよし・♂・40歳・兼鴇藩剣術指南役)
 島嵜美弥(しまざきみや・♀・27歳・薬種問屋の娘、晋衛の妻)
 白川綾音(しらかわあやね・♀・15歳・白川の娘)
 白川つる(しらかわつる・♀・36歳・白川の妻)
 斎藤平太郎(さいとうへいたろう・♂・30歳・白川の門下)
 加川まさ(かがわまさ・♀・56歳・兼鴇藩の筆頭侍女)
 宮田克之進(みやたかつのしん・♂・25歳・美弥の実弟、元彰義隊の関宿藩士)
 赤木修太郎(あかぎしゅうたろう・♂・25歳・元彰義隊の関宿藩士)
 木原敏信(きはらとしのぶ・♂・28歳・長州藩士)
 石野文蔵(いしのぶんぞう・♂・27歳・長州藩士、木原の部下)
 石野はる(いしのはる・♀・24歳・長州藩士、木原の部下)
 立川基頼(たてかわもとより・♂・30歳・新選組隊士)
 島嵜晋衛(しまざきしんえ・♂・32歳・元彰義隊の関宿藩士)


     プロローグ
     白川道場。白川がやってくる。ふと月のない夜空を見上げる。

白川  朔月……月のない晩……ですか。

     白川、懐から書簡を取り出し開く。

白川  今にしてみればかように思いし候。貴殿が月であるならば、私はその輝くを遮りし
    厚く重い雲であったのではなきやと。己が勝手は承知の上。されども願わくば頼み
    たき儀がありし故、かように筆をとりて候。我が願いにつきて語るが為は……(手
    紙から視線を外し)そう、出会い……いや、それより前のことから語る必要がある
    のかもしれませんね。あの日……上野が戦火に包まれた日のことから。

     慶応4年5月15日、上野寛永寺近く。辺りは雨。銃撃の音が鳴りやまない。
     そこに刀を手にした宮田と赤木がやってくると物陰に隠れる。

宮田  くそっ!!一向に近づけない!!

赤木  銃なんか使いやがって!そんなの武士って言えるのかよ!

宮田  そうだ!だからこそ俺らが負けるワケない!武士でないものなどに俺たちが……。

赤木  やめとけ!今出てったら……。

宮田  止めるな赤木!

     宮田、赤木の制止を振り切り物陰から飛び出す。しかし銃声は止んでいる。

宮田  ……あれ?

     そこに晋衛が駆けてくる。

晋衛  何をボーッとしてやがる!

赤木  晋衛さん!ひょっとしてこれ……。

晋衛  バンバン煩せぇ連中は叩っ斬った……けど、まだ死に足りねぇってか!

     そこに政府軍の兵士が刀を手に現れる。斬りかかってくるのを晋衛はみるみる
     蹴散らす。しかし一人逃がしてしまう。

晋衛  逃がしたか。

宮田  流石は義兄上!ならばこのまま敵陣を……。

晋衛  命令だ!てめぇらはさっさと逃げろ。残念だがこりゃ負け戦だ。

宮田  義兄上がそんなこと言ってどうするんですか!義兄上は彰義隊の!関宿藩士の!

晋衛  口答えすんな!いいか、こっちは上の連中がなっちゃねぇ。勝てっこねぇんだよ。

宮田  そんなのやってみなければ……。

晋衛  やって全滅しちまったらどうなる?薩長の連中の思うがままだ。んなの認めねぇ。
    必ずやり返す。だからお前らは生きて明日に志を繋げ!

赤木  晋衛さんは?

晋衛  他の連中の退路を創る。志を繋ぐ路だ。

     晋衛が走り去る。

宮田  義兄上!!くそっ!俺は……。

赤木  行こう、宮田。晋衛さんの言葉を……。

宮田  納得いかねぇよそんなの!!

     そこに政府軍兵士がやってくる。刀を手にしている。

赤木  ここは俺が……。

宮田  格好つけてるんじゃねぇよ!!

     赤木、宮田が政府軍兵士に斬りかかる。しかし数で劣る為防戦一方。
     後から銃をもった兵士がやってくる。

赤木  しまった!!

     美弥がやってくる。銃兵を背後から一刺し。すると手にした仕込み杖で政府軍兵
     士に斬りかかる。政府軍を蹴散らす美弥。肩で息をする美弥。

宮田  姉上!?どうしてここに……。

美弥  あの人は……晋衛さんはどこに?

宮田  ダメだ……教えられない。

     美弥、宮田の首筋に刀をつきつける。

美弥  教えなさい。

宮田  (逆方向を差して)向こうに。今は退けと……。

美弥  貴方に嘘は向きません。

     美弥、刀を降ろすと宮田の差すのと逆方向に走り去る。

宮田  姉上!!

     追おうとする宮田。直後大砲の爆音が連発。宮田を止める赤木。

赤木  ダメだ!!晋衛さんの言葉を……せめて俺らだけでも。

宮田  ……くそぉぉぉっっっ!!!

     赤木、宮田が晋衛たちとは逆方向に去る。
  
白川  それは実に一方的な戦でした。蓋を開けてみれば政府軍の圧勝。そう、それから数
    日した頃でしたね。その地を訪れられたのは。

     軍平と基頼がやってくる。軍平の手には風呂敷包み。

基頼  千駄ヶ谷から上野……寄り道の範疇を超えているんじゃないですかね、軍平さん。

軍平  すまない。けれど同じ志の元で散っていった者たちの魂を身に刻み……。

基頼  違いますよ、同じじゃない、ここで死んだのは弱かった連中です。彰義隊しかり、
    原田左之助しかり。

軍平  原田さんを愚弄するか!

基頼  原田さん?勝手に隊を抜けて勝手に負け戦に乗って死んだ男のことでどうしてム
    キになるんです?あぁ、そうか。軍平さんは武士の死に美しさでも見出しているん
    ですか。使いに行ってきた死にかけ一番隊長さんのことも随分ご執心だったし。

軍平  沖田さんまで、立川!!

基頼  しーっ。寺で声張り上げてどうします。

     基頼、足元にお守りが落ちているのに気づく。

基頼  これは……お守り?

軍平  いいか、次同じようなことを言えば許さないぞ。

基頼  これは気を付けないといけないですね。さ、鎮魂なりなんなりさっさと済ませて下
    さい。悲しいかな今や江戸は薩長が牙城。俺らの素性が知れたら実に面倒なことに
    ……って、何やってるんですか。

     軍平、風呂敷から隊士服を取り出すとそれを羽織り手を合わせている。

軍平  原田さんの御霊に顔を合わせるんだ。これを纏うのは当然。何をしている立川もこ
    れを羽織って……!?

     気が付くと二人を浪人たちが囲んでいる。あとから木原、文蔵、はるがくる。

文蔵  はっはっはー!見ろよはる!俺の勘ピーンのガーッと来てみりゃドバァだ!!

はる  分かります兄様。ヤバイ今ものすごく厠に行きたい。尿意がガーッと来てて今にも
    ドバァしてしまいそう……ですね。

木原  文蔵!!……漏らしたら斬るぞ。

文蔵  いやいや違います!!

基頼  ほら言わんこっちゃない。

木原  彰義隊の残党狩りに来てみれば……意外な輩が釣れたな。

はる  木原さん。早く殺っちゃいましょう。兄様がドバァしてしまいます。

木原  文蔵、はる……参るぞ!

     木原・文蔵・はると浪人たちが軍平・基頼に斬りかかる。軍平・基頼ともに強く、
     多勢を相手に互角以上に渡り合う。しかし二人のコンビネーションは最悪。

文蔵  んにゃろぉ!

軍平  なかなかだ。しかしまだまだ弱い!!

文蔵  弱い?んだとコンニャロウオーーーー!!

はる  分かります。もう我慢出来ない。否、むしろ少し勇み足してしまった。こんなの
    木原さんに見せられない。

木原  見せるな。

文蔵  違います!

はる  だから……こうしましょう。

     はる、懐から銃を取り出し基頼に向ける。それに気づいた基頼、軍平を引き寄せ
     て盾にする。軍平、咄嗟にかわそうとするも肩口を撃たれてしまう。

軍平  立川……お前……。

基頼  そんな目で見ないで下さい。偶然ですよ偶然。おっと!

     軍平、基頼に向かう太刀を受けると応戦。手負いながらみるみると敵を蹴散らす。
     とうとう敵は木原・文蔵・はるのみになる。木原に斬りかかる軍平。しかしこれ
     までのようにはいかない。軍平に向かう木原の太刀を今度は基頼が受ける。

基頼  手負いでどうにかなる相手じゃないですよ。先に行ってて下さい。例の場所で落ち
    あいましょう。

軍平  ……分かった。

     軍平が去る。

文蔵  待てよおい!!

     文蔵、はるが追う。木原が追おうとしたところを基頼が遮る。木原、基頼に斬り
     かかる。二人、互角の戦い。

基頼  なかなかに手練れですね。誰です貴方?

木原  長州藩士、木原敏信。桂先生の懐刀……とでも言えばよいかな。そういうお前こそ
    何者だ。奴と同じ新撰組か?

基頼  俺ですか?俺は立川基頼……戦の好きな男……ですかね!

     基頼が木原に斬りかかる。またしても互角の戦い。距離が出来た隙をついて軍平
     とは逆の方向に走り去る基頼。それを追う木原。
     寛永寺近くの通り。平太郎と綾音がやってくる。何かを探している様子。

平太郎 綾音さん、そろそろ戻りましょう。

綾音  戻りません。美津の為にお薬を作って下さる美弥さんへのご恩返し。何が何でもみ
    つけなくてはなりません。

平太郎 お守り袋……ですよね。

綾音  はい。中に琥珀玉が入っていると仰っていました。

平太郎 しかし何故そんなものをこんなところで落とされたのか……。

綾音  確かに長屋から寛永寺までは随分遠いですが……きっとご事情がおありなのです

平太郎 し、しかし日もだいぶ落ちてきました。この辺りは物騒だと聞きますし……。

綾音  心配せずとも兼鴇藩(かねときはん)剣術指南役の娘である私が守り……。

平太郎 うわっ!!

     肩口を押えながらフラフラとやってきた軍平、倒れてしまう。

綾音  怪我を……しているのですか?

平太郎 この羽織……新撰組?どうしてこんなところに?

綾音  平太郎さん、この人をウチまで運びましょう。

平太郎 え!?けれど我が兼鴇藩は……。

綾音  何をしているんですか。父上なら……父上ならこんな時何と仰ると思います。

平太郎 白川先生……。

白川  助けましょう。
平太郎 助けましょう。
綾音  助けましょう。

白川  ……えぇ、私なら間違いなくそう言ったでしょう。例え相手が何者だったとしても。

     綾音、斎藤が軍平を背負って去る。

白川  そしてそれはあの子も同じでした。そんな判断をしたあの子を私は何よりも誇り
    に、大切に思っています。何よりもかけがえのないと。そうそう、思い出しました。
    君が担ぎ込まれてきたあの晩、君とあの子たちを見守ってくれた月は……曇りな
    きそれはそれは美しい望月でした。

     白川の背後に美しい満月が浮かぶ。
     オープニング


     1場
     白川道場。軍平が辺りをキョロキョロしながらやってくる。

軍平  ここは?私は上野で撃たれて、それで……。

     そこに木刀を持った綾音がやってくる。

綾音  平太郎さんから訊きました。貴方は新撰組という人斬りの仲間なのでしょう。

軍平  もしや、私を助けて頂いたのは……。

綾音  人斬りと知っていれば助けませんでした。え?

軍平  (頭を下げて)この通り感謝致します。しかし今は急ぎの身。私の刀と羽織をお返
    し頂きたいのですが……。

綾音  人斬りに刀など渡すとお思いですか。もしや、江戸で人斬りを……させるワケには
    行きません!

     綾音が木刀で軍平に斬りかかる。軍平、それをかわし続ける。

軍平  違います。私はただ戻らねばならぬ場所が……。

     白川がやってくる。軍平に刀を放る。軍平、刀の鞘で綾音の木刀を叩き落とす。

綾音  きゃっ!!

白川  実に無駄のない。成る程、あの羽織は偽りのものではなさそうですな。

綾音  父上!?何故この者に刀を……。

白川  綾音には分からないか?この方には殺気と言うものが一切ない。

軍平  私を助けて頂いたようで(頭を下げて)この通りお礼申し上げます。口だけでなく、
    きちんとお礼致したいところなのですが、生憎持ち合わせが……いずれまたお伺
    いしてその際こそは。それと、私の着ていた羽織は……。

     つるが羽織二着を持ってやってくる。

つる  これのことかい。着てたのも持ってたのも随分と汚れてたので洗っといたよ。

軍平  かたじけない。

     羽織を受け取ろうとする軍平。つる、羽織を高く掲げる。軍平が腕を伸ばす。す
     ると傷口が痛み蹲ってしまう。

つる  やっぱり。銃で撃たれるなんて、一体何があったのかは知らないけど、その傷が癒
    えるには有に10日はかかるだろうね。主人は何て言うか知らないけれど、あたし
    ゃこの家から出ていくなんて許す気ないからね。

軍平  しかし……。

白川  言う通りにしておいた方がいい。つるはおっかないですから。

つる  ちょいとアンタ。

白川  まぁ、何です。こう見えて医者の娘でしたから、診立てに間違いはないでしょう。

軍平  医者の娘……。

つる  それにしても平太郎さん遅いね。

綾音  美弥さんのところにお薬を頂きにいくだけなのに……一体何が?

軍平  美弥?

白川  近くの長屋に住んでいる娘さんでして。なんでも実家が薬種問屋だったと。

つる  そういや名前をまだ訊いてなかったね。

軍平  横路軍平。新選組隊士です。

つる  軍平さん、おなか空いているんじゃないかい。準備しようかね。

軍平  そんな、お気になさらずに……。

つる  勘違いしないどくれ。これは命令だよ。怪我人はちゃんと食べて養生するんだよ。
    綾音、手伝っておくれ。

綾音  ……はい。

     つる、綾音が去る。

白川  はははは騒がしいものでしょう。本当はもう一人美津って娘がいるんですがね、流
    行り病をこじらせてしまって今は川越の親類筋で療養させてるんですよ。この美
    津がまた騒がしくて……。

軍平  あの……やはり私は……。

     白川、綾音の落とした木刀を拾うと軍平に殴り掛かる。軍平、咄嗟に払おうとす
     るが痛みで遅れる。軍平の眼前に木刀をつきつける白川。

白川  どうです横路殿。せめて武士として刀をきちんと握れるまで、ここでゆっくりと。

軍平  ……わかりました。

     白川に促されて去る軍平。


     2場
     白川道場近くの長屋。美弥がやってくる。夜空に浮かぶ月を眺める。
     そこに宮田がやってくる。

宮田  姉上?

美弥  克乃進ですか。おかえりなさい。

宮田  また月を眺めておられたのですか。

美弥  えぇ。……欠けてしまいました。あの人の大好きだった望月。

宮田  義兄上……俺たちはまた……すみません。

美弥  ……駄目だったのですか。

宮田  和田と三宅……生きていると噂を聞いて行ってみたのですが……恐らくは話に聞
    く彰義隊の残党狩りに遭った後で……くそっ!薩長の奴ら、未だに俺らのこと血
    眼になって探してやがる。このままじゃいずれここだって……だから姉上。せめ
    て姉上だけでも戻って……。

美弥  戻る?一体どこにです。

宮田  そりゃ関宿まで……。

美弥  私の戻れる場所があるとするならば、それはあの人の元のみでしょう。

     そこに赤木が慌ててやってくる。

赤木  た、たたたたた、大変だ!!

宮田  馬鹿!大声出す奴があるか!!

赤木  すまねぇ。で、でも一大事なんだ。木原を……木原を見た!!

宮田  本当か!?どこでだ!?

赤木  烏森稲荷の近くの蕎麦屋にいるのを……。

宮田  馬鹿野郎!!何で斬らなかった!!

赤木  無茶言うな!奴は凄腕の剣客って話だろ?

美弥  烏森ならば遠くはありません。克乃進、赤木さん、参りましょう。あの人の志を
    継ぐ為に。また……月を満ちさせる為に。

     美弥、宮田、赤木が去る。


     3場
     烏森稲荷近くの通り。平太郎が慌ててやってくる。躓いて転んでしまう。

平太郎 痛っ!しまった!た、た、助けて下さい!!

     後からまさがやってくる。

まさ  無駄ですよ。助けを乞うたところで誰も来るワケは……観念なさい。

平太郎 ひ、ひぃぃぃっ!!

     平太郎、どうにか立ち上がり逃げようとするが、まさ、その腕を掴むと思い切り
     引き、平太郎を背後からガッチリとホールドしながらセクハラ三昧。

平太郎 ちょ、ちょちょちょ!どこ触ってるんですかまささん!!

まさ  どこだって構やしないでしょうが。それより人の顔見るなり逃げるってのはどう
    いう了見ですかね。

平太郎 だ、だ、だって随分と酔ってらしゃったので、こりゃみつかったら面倒だな……あ。

まさ  誰が面倒だって!

平太郎 そうじゃなくてその……そう、一人蕎麦屋で飲む姿、実にイキでイナセで画になる
    なと。私などが声をかけてしまってはその美しい画を汚してしまうのではと……。

まさ  分かってるじゃないですか。流石は白川殿の一番弟子!

平太郎 そ、そんな私は一番弟子などではありません。門下でも剣の腕は一番……。

まさ  違いますよ。あの人が惚れてるのはあなたの(頭を差して)ここ。

平太郎 まさか。

まさ  ちなみにあたしが惚れてるのはですね……。

     平太郎を至近距離で凝視するまさ。

平太郎 近い!近いですまささん!!

     そこに軍平がやってくる。腰には刀、手には風呂敷包み。それに気づく平太郎。
まさを振り払い近寄る。

平太郎 あ!!あなた!!もう大丈夫なんですか、お怪我は!?

軍平  え?……あ……そうかこの方も。その……此度は助けて頂き有難うございました。
    お蔭様で傷も大したことないとのことでしたので。

平太郎 大したことない?そんな筈ないですよ。治るのにはだいぶかかりそうだと。ですか
    ら私は美弥殿のところにお薬を貰い行く途中で……。

軍平  つる殿曰く診立て違いであったと。それではこれにて……。

     立ち去ろうとする軍平。その腕を掴むまさ。

まさ  どこ行くんですかね。これでも女だてらに藩内随一とも言われた剣士。気づかない
    とでもお思いですか?その顔……まさか貴方?

平太郎 あ、そ、そ、その彼は……。

まさ  (軍平をまさぐりながら)なかなかのいい男なんじゃないですか。ほらどうせ暇な
    ら、一杯付き合うといい。そこの斎藤平太郎は下戸でどうしようもなくてね。

軍平  なっ!ど、どどどどどどどこを触っているのですか!?

まさ  どこって……言わせるんですか。恥ずかしいっ!

     そこに基頼がやってくる。

立川  あらら。どこへ行ったかと思えば女子とくんずほぐれつですか。

軍平  (まさを振り払い)なっ!違う!!そうではなくて……。

立川  確かに。女子でなく元女子だ。

まさ  誰が元女子だって!!

軍平  違うと言っているだろう。この方たちは私を助けてくれた……。

立川  そうですか。しかし可哀想に。どうも貧乏くじを引いてしまったようですね。

     刀を抜く基頼

平太郎 ひゃっ!!

立川  お人よしの軍平さんのことだ。彼らに何を話してしまったか分からない。

軍平  何を考えている!

まさ  ったく。二人して取り合いなんて……私も罪な女だね。

平太郎 な、ななな何呑気なこと言ってるんですか!!

     そこに木原、文蔵、はるがやってくる。

文蔵  やっぱり昨日の奴だ。今度こそダーッでザクッしてギャーだこんにゃろう!

はる  分かります。お前らを見つけてしまったから天ぷら蕎麦を食べかけできちゃった
    じゃないかこんにゃろう。きっと戻っても蕎麦は伸びきって天ぷらはフニャフニ
    ャだ。どうしてくれるんだ、弁償しろ馬鹿っ……ということですね。

文蔵  違ぇよ……けど合ってるよこんにゃろう!

木原  文蔵!!……次から天ぷらは別皿で頼め。

立川  あらあら。また会いましたか。

木原  やはり合流したか。つけてきた甲斐があったというもの。

平太郎 長州の木原様!?

文蔵  んっ!あーっ!このババア!兼鴇藩邸にいつもいる!

はる  分かります。一目会ったその日から。忘れられないその笑顔。胸のドキドキとまら
    ない。どうしてくれるんだ、返しやがれよ俺の……心。ですね。

まさ  何と!?本当ですか!?

木原  文蔵!!……がんばれ。

文蔵  違います!!

はる  でもなんでこんなところに。

木原  勤皇派である兼鴇藩士を斬ろうとしていたと、そんなところかな。

軍平  違う!私たちは斬ろうなどとは……。

基頼  何言っても無駄ですよ。ここはひとまず……引きましょう!!

文蔵  待てこんにゃろう!!

     基頼、軍平の腕を引いて去る。文蔵、はるがそれを追う。

平太郎 待って下さい!あの方は怪我を……。

木原  怪我?お前ら奴に襲われていたんじゃないのか?

平太郎 それはその……。

     そこに白川がやってくる。

平太郎 白川先生!?どうしてこちらに?

木原  白川?貴方が兼鴇藩剣術指南役の白川茂慶?お初にお目にかかります。私は長州
    藩士・木原敏信。こちらのお二人が新撰組に襲われているのを助けた次第です。

まさ  それより追わなくていいんですかね。江戸で新撰組だなんて物騒で仕方ないです
    よ。さっさと始末して頂きたい。

木原  確かに。

白川  助けて頂きましたことお礼申し上げます。

木原  なに、それについては別件でお返し頂きたいと思っている。また会いましょう。

     木原が去る。

平太郎 白川先生!大変なんです!

白川  知っています。だから家にいろと言ったのに。

まさ  また面倒ごとに首突っ込んだんですか。本当に好きですね。

白川  えぇまぁ。とにかく横路殿を連れ帰さないとつるに何と言われるか。ははははは。

まさ  一人で何でもやろうとしなくていいんです。私で出来ることがあれば……。

     白川をホールドしてセクハラ三昧のまさ。

白川  言ってることとやってる事が合っていませんが。平太郎君、まささんを任せました。

平太郎 でも白川先生は!?

白川  行ったでしょう。つるにどやされてしまうと。

     白川が去る。平太郎、グデングデンのまさの肩を抱いて去る。
     路地。宮田と赤木がやってくる。

赤木  あれ?おかしいな、確かこっちだった筈なんだけど。

宮田  お前は昔からこうだ。ねぇ姉上!!あれ?姉上は……。

     そこに立川がやってくる。後から文蔵とはる。

赤木  おわっ!!アイツら!木原といつも一緒にいる連中だ!!

文蔵  あん?なんだよてめぇらは?

宮田  成る程。そこの御仁、助太刀致す! 赤木!

     宮田、赤木が文蔵たちに斬りかかる。しかし文蔵・はるの方が腕前はずっと上。

宮田  強い……おい、アンタだけでも逃げろ!

基頼  まったく。見ていられないですねこりゃ。強い?こんな奴が?

文蔵  あんだとてめぇ!!

     文蔵が基頼に斬りかかる。基頼、咄嗟に刀を抜きそれを受ける。続けざまに反撃。
     文蔵を圧倒する基頼。はるが銃を構えるもすぐさま懐に入り込み刀を突きつけ
     る。はる、尻餅をついてしまう。

はる  ひゃっ!!な……なにそれズルイです!!

文蔵  くそっ!ここは一旦ダーッだ。

はる  分かります。尿意の限界なんですね。

     文蔵、はるが去る。

赤木  強ぇ……強ぇなアンタ!すげぇよ!!

宮田  しかしその腕がありながらどうして逃げてた?

基頼  逃げる……というより引きつけただけですよ。手負いの連れの為に。

赤木  なぁ。アンタに頼みがある。この近くに木原っていう長州の大物がいるんだ。そい
    つを斬るのをひとつ手伝っちゃくれないか。

宮田  赤木!?

赤木  だってそうだろ。この人の腕前なら、木原だってきっと。

基頼  ……えぇいいですとも。戦いましょう。同じ志の元。ねぇ。

     基頼、赤木、宮田が去る。
     路地。木原がやってくる。

木原  おかしい。確かに走る人影を見た筈なのだが……ん?女子?

     そこに美弥がやってくる。

美弥  長州藩士・木原敏信。間違いありませんね。

木原  いかにも。して、私に何用かな。

美弥  晋衛さんの残して下さった想い。この太刀に込めて……今こそ!!

     美弥、仕込み杖を抜くと木原に斬りかかる。木原、応戦。

美弥  くっ。

木原  一体なかなか。よもやお前……噂に聞く仕込み杖の女か。

     美弥も奮闘するが次第に木原に押され、ついに尻餅をついてしまう。

木原  沈黙即ち肯定ということか。ならば丁度いい、同志の仇!!

     木原が美弥に斬りかかる。そこに軍平がやってくるとその太刀を弾き返す。

美弥  晋衛……さん?

木原  自ら現れたか、新撰組!!

軍平  この場を離れて下さい。

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