波、果つるまで。
『波、果つるまで。』

作:岩本憲嗣



■登場人物
  寺澤千鶴(てらさわちづる・♀・17歳・小島藩目付役の一人娘)
  横山新吾朗(よこやましんごろう・♂・24歳・浪人)
  秋山伊縁(あきやまいより・♀・27歳・小島藩側用人筆頭の妻女)
  尾野秀勝(おのひでかつ・♂・30歳・千鶴の叔父)
  安達菊乃(あだちきくの・♀・19歳・千鶴の友人)
  岡崎寂扇(おかざきじゃくせん・♀・40歳・山寺の尼僧)
  秋山鷹千代(あきやまたかちよ・♂・8歳・伊縁の息子)
  平田実奉(ひらたさねとも・♂・20歳・秀勝の部下)
  寺澤玉緒(てらさわたまお・♀・35歳・千鶴の母)



     プロローグ
     慶応元年・年末。小島藩。清見潟の砂浜に一人佇む玉緒。辺りには穏やかな波の
     音。そこに秀勝がやってくる。

玉緒  随分待たせるのですね。秀勝。

秀勝  姉上……此度は姉上に折り入ってお願い致したき儀がございます。

玉緒  かように人気のないところで……ですか。

秀勝  それは……。

玉緒  構いません。続けなさい。

秀勝  どうか某(それがし)と約束して頂きたい。金輪際、討幕などという愚かしい考え
    を捨て、藩内で同志を募るような真似はなさらぬと。

玉緒  ……それは秀勝が願いですか。それとも……側用人筆頭であられる秋山様の?

秀勝  ……いかにも。

玉緒  そうですか。時に、伊縁様は元気にしておいでですか。

秀勝  ……。

玉緒  未だに信じられません。まさか伊縁様が秋山の家に輿入れなさるとは。

秀勝  お願いです姉上!どうか某の願いを……。

玉緒  聞けぬ……そう答えたならどうします。

秀勝  ……聞いて下され。姉上は……某に……実の姉まで手かけろと仰るのですか。

     ゆっくりと刀を抜く秀勝。

玉緒  やはり主人を殺めたのは秀勝でしたか。

秀勝  藩を!!……姉上を守る為仕方なきこと。

玉緒  責めるつもりはありません。そう、それも一つの生き方。秀勝、貴方は舟です。こ
    の時勢に流されながらも必死に進むべき道を探す舟。
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