MEISO TRIP

(めいそうとりっぷ)
初演日:2016/11 作者:今野裕土
演劇脚本MEISO TRIP著・今野裕土

■ 第1幕 ■

暗闇の中、「ガタンゴトン……」という電車の走る音が聞こえてくる。
きしむ車体。おんぼろな電車は暗闇の中をひたすら走ってゆく……

――明転
舞台中央に4人掛けの座席が浮かび上がる。窓際の座席に少年Aが、
そしてその反対側の座席(通路側)においぼれた老人が座っている。
なお、少年Aは爆睡。老人はのんびり新聞を読んでいる。

少年A  ふぁっ?! トマト20個で1380円?! 破格!!

突然目を覚まし、慌てて起き上がる少年A。
老人、思わず手に持った新聞をその場に落とす。
「あぁ??」という表情で少年Aを見上げる。

老人   おめえ……頭大丈夫か……?

老人の言葉で、はと我に帰る少年A。一瞬ここが何処だかわからない素振りをするが、
徐々になんとなく、静かに今の状況を把握してゆく。

少年A  夢……だったのか
老人   ……。
少年A  おい、何さっきからジロジロ見てんだよジジィ
老人   ……トマトとは何ぞや
少年A  あ?
老人   じゃから、トマトとは何ぞやと聞いておる
少年A  なんでジジィがそのこと知ってんだよ
老人   聞いたからじゃ
少年A  どこで?
老人   ここでじゃ
少年A  いつ?
老人   今ついさっきじゃ
少年A  ジジィてめえ……人の心の中にでも入れんのかよ

老人爆笑。咳込んで死にかける。

老人   (呼吸荒いまま)やめろ、中二病はやめろ、キモイ
少年A  てっめ! おいこらクソジジィ! 慣れ慣れしく喋ってんじゃねーぞゴラァアアアアア!

少年A、大赤面して老人の胸ぐらを乱暴に掴む。

老人   おぉ〜怖い怖い。最近の若者は理不尽なことがあると直ぐ暴力じゃ
少年A  ジジィてめえさっき「キモイ」とか言ったな
老人   言っとらん
少年A  あぁ? 舐めてんのかジジィ? 言ったろ!
老人   言っとらん
少年A  言った
老人   言っとらん
少年A  言った
老人   きゃぁ〜! まるで付き合いたてのカップルみたい!

突然、裏声を出して女々しくなる老人。
少年A、ポケットからスリッパを取り出し、無言で、しかも無表情で老人の頭を思いっ切りはたく。

老人   何故……スリッパ……
少年A  あ? あぁ〜さっき居間に大っきなゴキブリがいてさ、もう気持ち悪いし、怖いし、うっとおしいから、
     トイレのスリッパで思い切り叩いて潰してやったのよ。ソレ
老人   貴様――っ!

今度は老人が顔を真っ赤にして、少年Aの胸ぐらを乱暴に掴む。

老人   ソレとは何じゃーっ!
少年A  あ? スリッパだけど?
老人   違う――っ! ゴキブリ叩いて潰したトイレのスリッパで人様の頭を殴るとは何事じゃと聞いておるのじゃ!
少年A  流行り……とか?
老人   流行りな訳ないじゃろがこのクソったれが!
少年A  (完全に話をシカトして)あ。
老人   あ?
少年A  そういや俺……、さっきまでリビングでくつろいでたはずなんだけど……
老人   ……。
少年A  あ。
老人   あ?
少年A  そういやジジィ、お前誰だよ。死神か? 俺はまさかリビングで死んだのか?
     それともこれはまだ夢の中であって、現実世界じゃないとか? え、なに? どういうこと? ここどこよ?
老人   ふんっ!(少年Aの胸ぐらを乱暴に突き飛ばして)やっと気付きおったかこのクソったれめ
少年A  気付いたってどういうことだよ。なに、その通りってか?
老人   違う違う! まぁ座れ

老人、少年Aを無理やり元の座席に座らせると、自分自身もそっと静かに元の座席に戻り、着席する。

老人   暗中模索じゃ
少年A  あ?
老人   じゃから暗中模索じゃよ、暗中模索。なんじゃ、最近の若者は四字熟語もよぉ知らんのか?
少年A  ちげーよ。それぐらい分かるっつうの。そのーあれだろ? 暗闇の中で手探り状態で物を探すみたいに、
     とりあえず何とか問題を解決しようみたいな、そんなとこだろ?
老人   何じゃ、知っておるではないか
少年A  だからちげーって! それがどうかしたのか、って聞いてんだよジジィ
老人   あ? だからここがその暗中模索なのじゃ。何度言えば分かる!
少年A  あぁ? ジジィてめえ、からかうのもいい加減に……
老人   (話を遮って)からかってなどおらん。真実そのものじゃ
少年A  はぁ? 真実?
老人   そうじゃ。真実じゃ
少年A  あーもー訳わかんねーよ! 暗中模索だの真実だの、マジで意味不明過ぎるんだよ!
     ってか、そもそもこの電車は一体何処に向かってんだ? 何あれか、それともただ迷ってんのか? 迷走してんのか?
老人   なんじゃ、つべこべぴーぴーたらたらうるさく言う割には理解できておるではないか
少年A  は?
老人   そう、貴様は今、迷いの中におる
少年A  つまりそれは?
老人   そう、当然ワシも一緒じゃ。ワシも今迷っておる
少年A  ちょっと待て待て待て。話の整理がしたい
老人   ふむ
少年A  今、ジジィと俺は迷ってる。迷いの中にいる
老人   ふむ
少年A  そんで暗中模索してる、電車に乗って
老人   ふむ
少年A  バカバカしい! やっぱこれは夢だ夢! くだらない俺の夢なんだよ。
     電車に乗ってジジィと暗中模索だ? 意味不明、支離滅裂だよ! 俺は悪いけど帰らせてもらうぞ

おもむろに立ち上がり、席を離れようとする少年A

老人   待て!
少年A  あ? だからなんだよジジィ
老人   貴様、どこにいくつもりじゃ?
少年A  自分ん家に決まってんだろ! あー、いや違う違う。現実世界。この夢から覚めるんだよ
老人   ふん。窓を見ろ
少年A  あ?
老人   じゃから、窓の外を見るのじゃ
少年A  はぁ? だからなんでそんなことをしなくちゃなんねーんだよ?
     どーせあれだろ? 窓の外には無数の銀河がっ……?!

少年A、窓にへばりついて(観客席に向かってパントマイムをするような感じで)驚愕する。言葉を無くす。
やがてしばらくしてから、

少年A  真っ暗じゃねーか……
老人   ……。
少年A  真っ暗などころか、闇じゃねーかよ。まるで何もかも吸い込まれちまいそうな究極の闇……
老人   その通り。外は漆黒の闇に包まれておる。今まで多くの者が、果たして何度その窓から身を投げたことか……
少年A  ……どういう、ことだよ? ジジィ
老人   なに、今話した通りじゃ。貴様のように、散々ぴーぴーやかましく喚き立てたあと、
    「ここは所詮、夢だ」と言って、何人もの人間がその窓から身を投げていった
少年A  で? そいつらはどうなったんだよ
老人   どうもこうもない。ただ諦めたのじゃよ。自分の人生を捨てたのじゃ
少年A  自分の人生を……捨てた……?
老人   そうじゃ。あぁ……じゃが、それは自ら死を選んだ、という訳ではない。
    「自分の人生を捨てた」つまり「真面目に生きるのをやめた」ということじゃよ。
     うむ、まぁしかし中には死んでしまった人間もおるじゃろう。とにかく人の人生じゃ。
     その後、彼らがどうなってしまったかなど、ワシには一切関係のない話じゃ
少年A  じゃあ俺は……
老人   だから暗中模索なのじゃ。例え迷いがあっても、迷っていても、
     立ち止まらずに、途中で諦めずに、とにかく光を探して前へ進むのじゃ

少年A、とぼとぼと元の座席に戻り、落胆したように座席に着席すると、深々と溜め息をつく。

少年A  つまり、この電車はあれか、迷いという暗闇の中で、ただひたすら光を目指して進んでる……ってことなんだな
老人   おぉ、なんじゃ、頭悪そうに見えてなかなか読み込みが早いではないか。関心じゃの〜
少年A  「頭悪そうに見えて」は余計だクソジジィ! まぁとりあえず、あんま腑に落ちねーけど
     帰ることは保留ってことにしとく。外の闇とか、ジジィの話聞いてたら気滅入っちまったよ。
     でもさ、何で電車? それだけは理解できねーよ
老人   人は決して人と同じ道を歩まないというのは間違いなのじゃ。確かに人の人生は人の数だけ存在し、
     それぞれが全く異なった人生じゃ。しかし、時に他人と人生を共有することはある。
     人間には必ず共通項というものが存在する。そしてその代表例が「迷い」なのじゃ
少年A  ……はぁ。
老人   迷いの違いはあれども、誰しもが必ず問題解決、悩み解消という名の希望、すなわち光を探しておる。
     それはまるで電車と同じなのじゃよ。乗り降りする駅は違えど、目指している方向は皆同じなのじゃ
少年A  ふーん、なーるほどね。まぁ結局訳わかんねーけど、なんとなく分かったかも。
     でもさ、じゃあ俺たちはこうしてこの電車に乗ってるだけでいいってこと?
     何をすればいいんだよ? 旅行? それとも?
老人   何もしなくて良いとは一言も言っておらん。考えるのじゃ。自分は今ここで、果たして何をすべきなのかを
少年A  うーん……

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