夏の海のエチュード

(なつのうみのエチュード)
初演日:2014/9 作者:三島かすい
夏の海のエチュード


好川 湊(よしかわ みなと) 2年生

悠里(ゆうり)       2年生

真純(ますみ)       1年生

ともか           1年生



         時代劇っぽい音楽とともに開幕。

         ここは県立晴丘南(はるおかみなみ)高校視聴覚室。演劇部の活動場所である。
         机は適当な位置に追いやられ、部員のカバンと畳まれた制服が置かれている。
          黒板かホワイトボードなどあれば置き、演技の幅を広げるために用いる。
         下手側の床の隅には歴代部員の衣装や忘れ物や端切れの布などが入った箱が置かれている。
         上手側の床の隅にはCDプレイヤーといくつかのCDが置かれ、その脇に悠里とともかが座っている。

         舞台中央で刀を構えた真純が真剣な表情で立っている。
         悠里とともかはその様子をなんとなく眺めている。いかにも、「頼まれたから見てます」といった具合だ。
         3人は体操服姿で、真純はその上から時代劇用の羽織を着ている。
         真純が演じているのは、演劇部の去年の代が演じた時代劇「吉崎剣豪心中」の一場面である。(自由に演じてください。)

真純    やいやいやい!お代官様がたよお。ずいぶん威勢が足りねえぜ。元気出していこうじゃねえか。
      多勢に無勢だあ?そいつがどうした。故郷を捨てたあの日より、死ぬまで俺は一匹狼。これが真の男の生き様よ。
      俺は侍、名は吉崎。剣とともに生き、剣とともに死ぬ男。ここで死ぬならまた本望。
      無傷で帰れるとは思わねえでおくんなせえ。斬られる覚悟のある奴から、かかって来い!!
      …イイイイィィーーーァァアアーーーシャアーーーッ!!
悠里    はい!やめー!(手を叩く)
真純    メェェエエエンャアアアアーーーーーーーーーーーッ!!
悠里    真純ー!おわり!おーわーり!
真純    コテエェェェェエエエエーーーーーーーーーーイイィ!!

         物凄い気迫で素振りを続ける真純。

悠里    真純いー!いい加減やめろーっ!!
真純    何でしょうか?
悠里    何でしょうか?じゃない。もう何度も言ってるけど、また剣道になってる。
真純    エェ!?
悠里    ヤー!程度でいいんだって殺陣なんだから。
真純    え?でも、侍ですよ?ヤーだと気迫足りなくないですか?
悠里    舞台で剣道の奇声出すほうがキモいでしょ!?とにかく、時代劇は却・下!
真純    もう一回だけお願いします!
悠里    だめ。

         CDプレイヤーのボタンをいじるともか。時代劇っぽい音響止まる。

悠里    ありがとうね、わざわざ。
ともか   いえ、せっかくなんで使ってみたくて。
悠里    「時代劇音楽集」…。よく見つけたね、こんなの。
ともか   他にもいろいろ借りてきたんですよ。何が使えるか分からないので。
悠里    うん、一刻も早く使いたいよね。

         悠里の声色は若干苛立っている。その苛立ちは到着の遅い湊に向けられている。

真純    後生です、続けさせてください!この後のシーンも暗記してるんです!
悠里    いや…なんで暗記してんの…。すごいけども…。
真純    3年の先輩方の演技、ほんっと良かったんで!
ともか   すみちゃん、大好きですもん。「吉崎剣豪心中」。
真純    ゆう先輩、もう一回だけ!
悠里    だーめ。真純が剣道強いのは分かったんだけどさあ。
ともか   すみちゃんは中学の頃剣道で中央大会に進んだくらい強かったんですよ!(真純に)ね。
悠里    なんでともかが得意げなの。あのね…何回も言ってるでしょ?去年の代は部員数多かったし、男子も沢山いたから時代劇も出来たけど、
      今年は人数少ないうえに全員女子だから、時代劇は無理。やるなら来年の新入部員を沢山入れること!
      あと、一番の問題だけど…剣道と殺陣は土台は似てても全然別物だから!そこの違いが分かってないうちは時代劇はムリだよ。
真純    はーい…。

         真純は羽織を脱いで道具箱に入れる。

悠里    それも預かります。こっちなら練習中に振ってもいいよ。

         悠里は真純から刀を取り上げ、その辺に落ちてたピコピコハンマーを渡す。

真純    ………。(ピコハンを手の平に打ち付けてピコ!と鳴らしてみる)

         上手から湊が来る。

湊     やあやあ!待たせたねー。
ともか   あ、みーな先輩。
悠里    遅い!!早く着替えて。もう発声もストレッチも終わってるから。

         机にカバンを置く湊。
         湊は体操服の上から制服を着ている。上着の中やスカートの下から体操服が覗いていて妙ちくりん。

湊     はいはい〜っと…バッ!!(ともかにむけて制服の上着を露出狂のように開く)
ともか   きゃーーーーー。(心がこもってない)
湊     (悠里と真純のほうにくるっと振り返って)実は中に着てたのでした〜!
悠里    知っとるわ。見えとるわ。
真純    何回目ですか、この流れ。
悠里    ともか、イヤだったら怒っていいんだよ。
ともか   はーい。(楽しそうに笑ってる)

         上着を脱ぎ机に置く湊。スカートはなぜか脱がない。

悠里    湊、いくらなんでも遅すぎ。なんで連絡しないの?
湊     服装の件で、式の直後にムラコーにつかまって説教されてた。
悠里    …あんた、まさか終業式からその格好だった?
湊     式が終わったらすぐ部活やりたくて。
悠里    ばかじゃないの。ばか?そんで結局遅れてるしね!
湊     ごめんなさい。
悠里    もう。あんまムラコーに目付けられないでね。柴田先生が困るから。
湊     柴っち、超苦笑いしてた。ははは。
悠里    ばか。笑い事じゃない。先生今年から1年の……、
真純    3組です。
悠里    あそうだ、1の3。今年から初担任で忙しいんだから、もう前ほど演劇部に構ってる暇ないんだよ。余計な気使わせないでよね。
湊     はーーい。
真純    (ともかに)柴っちって呼んでみない、今度。
ともか   えー。まだ早いでしょ。(ニヤッ)
湊     つか、ねえ!終業式って言えばさ!
悠里    (パンパン)はい、雑談おわりー!ミーティングやるよー!
湊     まってまってまって、これだけ!あのさ、校長の話のさ…!(思い出し笑い)
ともか   あ、わかった…。あれですよね?(笑い)
悠里    も〜〜〜〜。(堪えきれない笑い)
真純    え、なんですか?
ともか   すみちゃん、寝てたから。
湊     勿体ないぞー、あれ聞き逃してるの。
悠里    真純、2年とこからも見えてたよー。よだれ垂らして爆睡。
真純    (ムッ)たらしてませんよ。よだれなんか。
湊     たれてたたれてた!タリ〜って。
ともか   たれてたよすみちゃん。
悠里    たれてたよ。(笑う)
真純    たら!して!ません!!
悠里    う、うん…まあそれでいいけど。
湊     校長がさ、終業式でSNSの話してたんだけど、発音がめっちゃ変でさ。
ともか   あははは!
湊     (ぷるぷるしながら)「えー、今日はー、若い人の間で話題のぉー、えー、エシュエヌエシュッ!についてぇー、」
悠里    もう、まんまこんなん。つーか、その後のツイッターの発音もおかしかった!
湊     「トゥ、トゥイッター!」
ともか   あはははは!
悠里    カタカナ語にめっちゃ弱いよねえ、うちの校長。
湊     無理して話さなきゃいいのにね。絶対、SNSが何の略かすら分かってないって。    
悠里    そういうあんたは知ってんの?
湊     えっ!?………えーーと…『すごく、生々しい…下ネタ』…?

         沈黙。

湊     ………。
悠里    ……うわぁ…。
真純    …えぇーーー………。
湊     ………ま、真純ー!SNSって何の略だーっ!!(ビシ!)
真純    うえぇ!?…えー、す…『好きな人の、謎にまみれた、私生活』。
悠里    おお〜。
湊     ともかーーーっ!(ビシ!)
ともか   んんーっ…!『親しい、仲間との、青春』!
湊     …なかなかやるな、1年生。
悠里    で、本当は何の略だ。
湊     『すまん!何の略か!知らない!』
悠里    (軽くあしらって)はいはい。SNSは「ソーシャルネットワーキングサービス」の略ね。
      インターネット上のコミュニケーションツールのこと。
湊     ええー。ふつうー。つまんねー。
悠里    つまんねーって言われてもなあ。
湊     明日には忘れてそう。
悠里    んー。まあ、わざわざ覚えとく必要は無いと思うけどさ。
湊     少なくともあの校長には難しすぎるね。
      (ぷるぷる)「えー、エシュエヌエシュッ!とはぁー、ソーシャルゥー、ネットォー、えー、なんだっけぇー、」
ともか   あはははははは…!
湊     テュイッタァー。………エシュエヌエシュッ!!
ともか   やあ…あはははははっ…!
悠里    真純めっちゃ損してる!

         大盛り上がり。真純は面白くない。

真純    ゆう先輩!ミーティング!
悠里    あ、ごめん。…はい!じゃあ地区大会の脚本の話し合いします。もう時間ないんだから!
湊     とてもそうは見えなかったけど。
悠里    今のは湊のせいでしょ!とにかく、一刻も早く大会の脚本を決めなきゃなの。もう終業式が終わっちゃったんだよ?
湊     え、そしたら何なの?
悠里    何なのって…今日からもう夏休みじゃん!何にも決まってないのに、もう夏休みになっちゃったんだってば!
湊     …あ〜…。

         沈黙。遠くにじわじわ蝉の声。

湊     …あっっつ。アイスとか食べたくない?
悠里    ちゃんと聞いてよ!!
湊     うーん。聞いてるよー。ところでさ、クーラーまだ壊れてんの?
真純    さっき動かしてみたんですけど、なんかめっちゃ水垂れてきたんすよ。
悠里    クーラーは仕方ないじゃん。付けるなって言われてるし。

面白いと思ったら、続きは全文ダウンロードで!
御利用機種 Windows Macintosh
E-mail
E-mail送付希望の方は、アドレス御記入ください。


ホーム