五月蠅なす

(ロングバージョン)

(さばえなす)
初演日:2014/5 作者:麦生
『五月蠅なす』
              作・麦生



☆登場人物
  
  拓郎・・・・・
  女・・・・・・
  由美・・・・・
  母・・・・・・
  漫画家・・・・
  霊能者・・・・
  編集者・・・・
  住人・・・・・













   【1】

             ダンボールが積みあがった、アパートの一室。
             拓郎が荷物の入った段ボール箱をいくつも持って入って来る 

拓郎      とりあえず、こんなもんかな。

             ケータイが鳴る。

拓郎      はいはい。なんだ・・母さんか。
        もしもし。うん。・・・だいたい片付いたよ。隣の人への挨拶?さっき行って
        来たけど留守だった。・・うん。また後で行くよ。
        はいはい、切るよ。
        あ、そうだ。母さん。父さんは?・・・そう。・・・ごめん。
        うん。じゃね。連載が始まったら、雑誌送るから。

             ケータイを切る。

拓郎      さて・・・原稿、原稿。

             拓郎、原稿の紙を取ろうとダンボールの方へ行き、箱を探す。
             ふと、一冊の古いノートが見つかる。
             意味ありげに中をめくる。

拓郎      ・・・母さん。

             ケータイが鳴る。

拓郎      もう、母さん。なんだよ・・・。
        はい。・・・っあ!松下さん。すみません。母からの電話かと。
        次回の読み切りですか。もうすぐ上がります。
        あ、そうだ、次の連載の話なんですけど、ストーリーの構成ができたので・・・。
        ええ、そうなんです。また打ち合わせの時に詳しくお話しますね。先にちょっとだけ言うと・・・
        え・・・。分かりました。はい。読み切りの方のネームは今日明日中には・・・。はい。

             ケータイを切る。
     
拓郎      なんだろう。今から来るって・・・。
        やばいな、まだネーム仕上がってないのに・・・。
        えーっと、原稿入れたダンボールは・・・。

             拓郎、誤って積んでいたダンボールを倒す。
             音。             

拓郎      あっちゃー。

             ドンドンドン。隣の部屋から壁を叩く音。

拓郎      あ、すみませ〜ん!・・・怒らせちゃった。隣の人、帰ってきてたんだ。      
        ああ!今日明日中にネームを仕上げないと!えっと、原稿入れたダンボール、どれだったっけな・・。

             ダンボールをあさる。

拓郎(声)   確か全部まとめて入れておいたんだけどなー。
        あー、あったあった、これだこれだ。

             ダンボール箱を持ってきて、ちゃぶ台の前に座る。
             原稿を広げる。

拓郎      …。
        ……。
        ………。
        …………。

             鉛筆が進まない。頬杖をついたり、指を鳴らしてみたり、鉛筆で遊んだりする。

拓郎      話が膨らまねーなー。

             拓郎、退屈そうにする。



                【2】

             拓郎の後ろ(上手)ダンボールの山から、幽霊の女が静かに現れる。
             拓郎が見ていないことをいい事に、後ろでいろいろしている。
             拓郎の真似をしてみたり、シャドウボクシングをしてみたり
             突然、踊り出したり。
             拓郎、気配を感じて振り向くと、女、しゃがむを2・3回繰り
             返す。
             拓郎、アイデアが浮かばず、仰向けに寝転がる。女と目が合う。

拓郎      わあーーーーーっ!!!
女       きゃーーーーーっ!!!

             沈黙。

拓郎      どうも。
女       こんにちは。

             沈黙。

拓郎      はじめまして。
女       はじめまして。

             沈黙。

拓郎      あなたは?
女       幽霊です。

             沈黙。

拓郎      誰だーーーーーっ?!
女       きゃっ!
        もう!いきなり大きな声出さないで下さる。失礼しちゃうわ。あ、紅茶でよろしくてよ。
拓郎      あ、はい。…って、何でですか!
女       ティーバッグでいいわ。どうせそれしかないんでしょ。
拓郎      よけいなお世話です。
女       砂糖は一つ。
拓郎      だから何で・・・。
女       砂糖は一つ。
拓郎      ・・・はい。

             拓郎、ぶつぶつ文句を言いながら、ダンボールをあさり、一セット見つけると上手の台所へ入っていく。
             女、我が物顔でくつろぐ。拓郎、湯呑みに紅茶を持ってくる。

拓郎      どうぞ。
女       なんですのコレ。湯呑みじゃない。信じらませんわ!
拓郎      じゃあ、飲まないで下さい。
女       飲みますわよ。あっつ〜い!
拓郎      あ、熱いですよ。
女       そういうことは早く言いなさいよ。
        ・・・あー、お安い味。
拓郎      悪かったですね。
女       あら、意外に美味しい。リプトンね。
拓郎      ブルックスです。
女       そうだと思ったわ。あなた、通ね。
拓郎      うちにあったのを持ってきたんです。
女       でも、砂糖が入っていませんわ。
拓郎      砂糖は持ってきてませんでした。
女       使えませんわね。
拓郎      ・・・あの・・・あなたどなたですか?
女       幽霊です。
拓郎      はぁ?
女       だから、幽霊です。
拓郎      はぁ!?
女       ゆ・う・れ・い!
拓郎      いつ入ってきたんですか!?
女       ずっといましたわ。
拓郎      だから、いつから?
女       ずっとそこにおりましたの。
拓郎      ダンボール?
女       うふ。
拓郎      ちゃんと答えてください。
女       ねえ、なにか甘い物はありませんの?
拓郎      ありません!
女       ケチな方。
拓郎      もういいから、早く出て行って下さい!
女       も、ちょっと〜。まだ飲んでるでしょう!

             拓郎、女を無理やり立たせると、玄関へ追い立てるようにして連れていく。

拓郎      ったく、一体誰なんだあいつは。どこから入ってきたんだよ。
        〆切も近いのに。

             女、部屋の奥から甘納豆を持って入って来る。

女       なんだ、甘い物あるじゃない。これでよろしくてよ。
拓郎      うわーっ!!
女       冷蔵庫には何にも入っていませんでしたわ。
拓郎      まだ電源も入ってません。
女       それもそうね・・・。これ、何ですの?
拓郎      しるこサンドです。
女       ふ〜ん。お安そうなお品ね。こんなのがお好きなの?
拓郎      大好物です。
女       庶民ね。
拓郎      どうせ庶民ですよ。
女       あらこれも意外に美味しい。
拓郎      勝手に食べないでください。
        ・・・どこから入ってきたんですか?
女       あっち。
拓郎      どうやって?
女       だから、さっきから言ってるでしょう。あたし、幽霊なんですの。
拓郎      台所の窓の鍵が開いてたのかな。
女       そんなところから入れるわけがないでしょう。
拓郎      あのねえ、これ、不法侵入って言って、れっきとした犯罪ですよ。
女       ま、失礼しちゃうわ。
拓郎      泥棒と一緒ですよ、泥棒。
女       あら、これ何ですの?
拓郎      勝手に触らないで下さい。
女       漫画を描いてらっしゃるのね。 
拓郎      ええ、まあ。
女       あ、分かった。同人誌ってやつですわね?
拓郎      プロです。
女       へー、売れてらっしゃるの?
拓郎      ・・・。
女       売れてらっしゃらないないのね・・・。
拓郎      これからなの!
女       不憫・・・。
拓郎      不憫って言うな!
女       ちょっと見せて下さらない。
拓郎      嫌ですよ。
女       いいじゃないの、ちょっとくらい。どうせ雑誌に載ったら日本中の人が見るんでしょ。
拓郎      まあ、そうだけど。
女       じゃあ、いいじゃない。『君の瞳にイリュージョン』・・・うふふ、面白い、ギャグ漫画ね。
拓郎      恋愛ものです。
女       あ・・・そうだと思ったわ。
拓郎      もういいだろ、返して下さい!



                【3】

             チャイムの音。

女       お客さん。
拓郎      分かってるよ。…だれだ?どいつもこいつも…。

             拓郎、玄関のほうに行く。

拓郎(声)   あ、松下さん!
編集者(声)  お邪魔するよ。どう、引越しの方は。順調?
拓郎(声)   ええ、荷物は全部運び込めたんですが、まだダンボールに入ったままで・・・。
編集者     まあ、困ったことがあったら、何でも言ってね。

             編集者、拓郎、入って来る。

編集者     あ、これシュークリーム。もし良かったら食べて。

             編集者、シュークリームをちゃぶ台に置く。

拓郎      松下さん、さっき大事な話があるって・・・。
編集者     ああ、その話はまたあとでゆっくり。
拓郎      連載の話ですか?
編集      う・・・ん・・・そうなんだけどね・・・
拓郎      さっきも電話で少し話そうと思ったんですけど、大体の構想がまとまったので聞いてもらおうと思って。
編集者     ほんとに?
拓郎      そうなんです。この間、掲載してもらった読み切りの主人公の豆太郎。
        彼がヒロインと恋をするところから物語が始まるんですけどね。まず主人公が・・・
編集者     ああ、あの犬が人間になる話ね。
拓郎      そうなんです。その豆太郎が、なぜ犬から人間になったかっていうのが・・・
編集者     その話ね、またあとでゆっくり。
拓郎      ?・・・そうですか。
編集者     うん。それより、次の読み切りの方はどう?ネームの〆切近いけど。
拓郎      あ・・・今、描いてるところです。もう少しで上がります。
        それより、変な女がうちに上がり込んできて…。

             この会話の間に、女、編集者がちゃぶ台に置いたシュークリームを貪り食う。
             編集者、女の足の間に座る。

編集者     なに、ストーカー?売れる前から大変だね。
        あ、紅茶を入れてくれてたの。ありがとう。頂くよ。…湯呑み?
拓郎      いや、・・・あの・・・。
編集者     そうだ、シュークリーム食べよう。この近所なんだけど、結構有名な洋菓子屋さんでね。美味しいんだ。
        ・・・・・。 
女       (口いっぱい頬張っている。)
拓郎      こら!
編集者     別にさ、食べちゃいけないわけじゃないいなだけどさ、ちょっと失礼だとは思わないのかな〜?
        せっかく一緒に食べようと思っていたのに・・・。
拓郎      いや・・・、それは・・・。
編集者     ん?なに?
        あ、これが次回の短編だね、どれどれ。
拓郎      あの・・・松下さん?女が・・・。
編集者     その話はもう聞いたよ。今まで君の住んでいたところと違って、こっちは物騒だからね。鍵を開けっ放しになんかしてちゃ駄目だよ。
拓郎      鍵はちゃんとかけてます。いや、そうじゃなくて・・・女が・・・。

             拓郎、編集者の後ろに回り込む。

拓郎      女がここに。

             女、編集者の後頭部を思いきり叩く。

編集者     痛っ!急に何をするの!?
拓郎      いや、俺じゃないですよ!
編集者     君じゃなかったら誰がいるの。
拓郎      だからさっきからいるじゃないですか、後ろに。
編集者     何を言ってるんの、君は。
拓郎      ・・・。
編集者     とにかく、ふざけるのもいい加減にしなさい。

             編集者、再び原稿に目を移す。拓郎、不思議そうにちゃぶ台の    
             向かいに座る。

編集者     うーん、ちょっと展開が強引だな・・・。

             編集者が湯呑みに手を伸ばすと、女が湯呑みを移動する。
             ちらりと見るが、また原稿に目を移し、再び湯呑みに手を伸ば 
             すが、女がまた移動させる。
             今度は甘納豆に手を伸ばすがそれも女が移動させる。

編集者     ・・・君、僕に喧嘩を売っているのかい・・・?
拓郎      違いますよ。僕じゃないんですって!!
編集者     君以外、誰がいるっていうんだい。まったく・・・。

             編集者、再び原稿に目を移す。女、編集者の耳に息を吹きかける。

編集者     なーっ!いい加減にしなさい!
拓郎      だから!・・・見えないんですか?
編集者     見えるよ。
拓郎      本当ですか?
編集者     君の気持ちは前からうすうす気づいてはいたんだよ。それならそうと早く言ってくれれば僕にも心の準備があったのに、実は僕も君のことが・・・。
拓郎      そんな趣味ないですよ!
編集者     ・・・疲れてるんじゃないのかい?そんなことだから、連載の話も流れるんだ。
拓郎      え?

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