プツリ

(ぷつり)
初演日:2013/6 作者:ながみねひとみ
第6ボタン ドラマ×ダイニング ゲキウマvol.3+@
   リーディング公演企画「プツリ」作・ながみねひとみ
   
   基本的に男と女がストーリーテラーなので本を持ち芝居をする。
   
   ―オープニング―
   
■ある日のデート 女子編。

    ―M1―

女    たぶん、私は彼を許さない。今度こそ許さない。そうだ、許してはいけない!
こんな気持ちに毎回、毎回させられて、なんで平気な顔して駅前のカフェで、いかにも楽しそうに今週あったことのアレやコレやを話さなきゃいけな
いんだ。一時間くらい前は、まだ彼に会うのが嬉しかった。
だから、きょうは、ちょっと背伸びをした。普段履かないスカートなんて
履いて、メイクも眉毛を書くだけじゃなく、ファンデもぬって、
今、流行っているとかいう「シャーベット色」のシャドーいれて、
チークなんかもして!まつ毛もあげた!あ、あと!ボディ・ミスト!
香水よりケバくないうっすら香るやつもつけた!もう、完璧。
でも、彼が駅の改札口に現れたのは約束していた時間の30分後。「ごめん」も言わず「なんか今日違うね。」とも言わず…。
男    あー。お疲れー。いこっか。
女    「いこっか…。」なぜ、そこで「なんで遅刻したの?」と聞けないんだ…私。
…30分たってでも来てくれた安心感の方が勝ったから。情けない…。
これが、本当、毎度のように続いて2年。
昨日も夜遅くまで仕事をしていたということは知っている。そのわりには、ひげもそってきてるし、コンタクトもつけてきてるし、出かける格好をしてきてくれている。でも…それって出かける!って約束したんだから当たり前の範囲だと思う…。あー…えー…もとい!確かに、私も仕事帰りに会うときはパンツだったり、スニーカーだったり、髪の毛ボサボサで、すっぴんだったりと、そりゃぁ、まぁ!普通の女子にしてみたら、女子力が低かったかもしれないけど…。遅刻を毎回、繰り返すとかはない。彼はワックスで直した寝癖を指でつまみあげながら、わりと速足で歩いていく。

男    眠い…。
女    眠い人の歩く速さではないと思うのだが…彼はそのまま駅前のカフェに
    入りカウンターのメニュー表を眺め。
男    席とっといて。俺、持っていくから何飲む?
女    と、聞いてくれた…。お金も何も言わずに出してくれる。自分の分だけで
    なく、私の分の砂糖のスティックもスプーンも、ちゃんとカウンターから
    持って来てくれる。こういうところはいいんだけどなぁ…。でも、そう
    思ったのもつかの間。気持ちが落ち着くはずのお飲み物の代表
    「カフェ・オレ」を二口飲んでやっぱり許してはいけないと思った。
    彼は眠気覚ましのブラックコーヒーを飲みながらタバコをふかし、
    フロアーの奥に座っている女子大生がキャッキャしている声に耳を傾け
    ニヤニヤしている。私のことは眼中に入っていないのが、まるわかりだ。
男    「まだ、俺も女子大生とかいけちゃうかもしれない。」
女    とか思っている。絶対に思っている!ばっかじゃないの?いけるわけない
    じゃん?「はぁ?ダサーイ、キモーイ」とか言われて凹む!そして私に。
男    若い子はもう無理だな。
女    とか、報告してくるに違いない。どうしようもない!マジで、どうしよう
    もない!
男    何、どうしたの?
女    ほら、どうした私!いってやれ、この阿呆に一言、物申してやれ!
    心の中で自分に発破をかける。「なんで30分も遅れたの?」よし!
    よぉし!いってやった!
男    …何分前の話ししてんの?
女    は?
男    過ぎたことでしょ。
女    過ぎたこと?
男    眠みぃ〜…このあと、どうするの?映画いく?俺、寝ちゃいそうなんだけど。
女    遅刻以外は別に問題ないからいいんだろうか…。デートのたびに毎回、
    毎回「もしかしたら来てくれないかも?」なんて不安になってしまう
    気持ちを抱えてる2年てどうなんだろうか…?一緒に過ごした後、一人
    部屋に戻ったら「こんな彼氏でいいのか?」なんて考えてしまうんじゃ
    ないの?また「小さいことじゃん。気にしない。」と返ってくるのはわかって
    いるけど…。私、30分も一人ぼっちで待ってたんだけど。
男    30分くらい、そのへんで立ち読みすればつぶれるでしょ?
    俺だったら待ってるけど。そんな小さいこと気にしないよ。俺は。
女    ほら、やっぱり言った。なんで、どうしてこうなの?俺だったらって…。
    私は遅刻しないし!
男    わかんないじゃん。疲れてたらするかもしれないじゃん。
女    それだったらメールの一通くらい送ってきてよ。
男    急いで準備してたんだから、メールなんか送れないでしょ。
女    何それ!なんなの?
男    怒りすぎだよ。心せまー。
女    あぁ…なんで私…こんな人と付き合うことにしたんだろう。
男    まぁ、まぁ、そんなに怒らないでさ。せっかく会えてるんだからさ。
女    そうだよ。せっかく会えてるんだよ。
男    あ。カフェ・オレおかわりする?
女    こういう話題のはぐらかし方というか…切り替え方が好きじゃない。ちゃんと悪かったことを「悪かった。」と認めて欲しい。一言謝ってくれればいい…次からしないでくれればいい。でも、彼はそういうのが出来る人じゃない。基本的に私のいうことは聞いてない。右の耳から左の耳に流れていく…。
彼に慣れればいいのかもしれない。彼はこういう人だからと思えば楽なのかもしれない。本当にこの人…私のこと好きなんだろうか…。

■ある日のデート 男子編

    ―M2―

男    「女」というのは、どうしても特別に見てもらいたいらしい。もう、すでに
    俺の「彼女」という肩書をもっている…というか付き合っているなら、
    すでに「特別」。好きじゃなかったら基本的に付き合っていない。
    でも、それじゃダメらしい。女の「私はここまであなたのことを思って
    いるんだから、あなたもここまで思ってよ!」というノリが、どうにも
    こうにもわからない。昨日も終電まで資料作りに追われていた。
    社内に、手を貸してくれる人間なんているわけもなく。自分の仕事だけを
    サクッとすませた先輩に連れられて…朝の4時まで飲んでいた。飲んでいる
    時は仕事の話しは基本しない。話したところでどうにかなるわけじゃ
    ないし…どうでもいい話をして先輩を盛り上げて終わる。別にそれが
    辛いとかは思わない。今の仕事が嫌いなわけでもない。それだけでも、
    ありがたいことなんだと思うようにしいている。この会社以上の行き場って
    俺みたいなやつにあるのか?って冷静に考えたら、このご時世…
    まぁ、ないな…という結論に至った。転職を考える労力があるなら、
    今の仕事で少しでも貢献しておいたほうがいい。今の会社が潰れるという
    ことはまずなさそうだし…。でも…。あー休みてぇ。なんか面白いこと
    ねぇかなぁ〜…。その繰り返し。あー仕事うまくいかねぇ〜…。
    こんな小さいこと電話一本で済むじゃんよー。なんで、即効電話してこ
    ないの?意味わかんねぇ〜…その繰り返し。だから、酒を飲むときこそ
    何も考えない。居酒屋で、かわいい店員に話しかけて「先輩と俺どっちが
    タイプ?」とか聞いて、からかって。うまくいけば連絡先とかちゃっかり
    交換する。でも、そこから何があるわけじゃない。飲み会を盛り上げる
    一種のゲームみたいなもんで、1カ月後には、その連絡先なんか消えている。
    仮に、その子から連絡があったところで携帯なんて仕事中は、ほぼ見ない。
    会社の携帯もって外出て…営業かけて…うまくいかないときは車の中で仮眠
    というかサボる。息抜けるところで抜かないと死ぬ。仕事に追われて、
    追われて、あっという間に一週間。下手したら土日もないんじゃないの?
    って状態。金曜の先輩の突然の誘いのせいで途中で切り上げた仕事の資料…。
    まだ出来上がってないんだよな…。月曜は早めに出社しようか悩んでいる。
    そんな中での彼女との待ち合わせ。待ち合わせ場所に30分遅れて行った。
    寝不足がたたって…。まぁ、いつものこと。体が起きてない、
    でも、酒が残ってなくてよかった〜。とりあえず、コーヒーが飲みたいから、
    近くのカフェに連れていく。正直、もう少し、寝たかった。なんで、
    昨日の夜「あぁ…やっぱ、会うの夕方からにしない?」ってメールしな
    かったんだろうか…。カウンターでコーヒーを頼んで、彼女に席を取らせる。
    店の奥に座っている女子大生の話声がやたらうるさい。4人いるうちの薄い
    ○○な服を着ている女がとくにリードして話している。別にそのままでも
    大丈夫であろう顔に、よくわかんないクリームだか、粉だかをぬりたくって
    目の周りを鉛筆らしきものでぐりぐり、よくあんな皮膚の薄いところに
    鋭利なペン先をあてられるなぁ〜。
    目の前の彼女の話しと同時進行で聞いているとどうやら、おととい、
    その女子大生は彼氏と喧嘩したらしい。「ありえなくなぁい?」日本中の
    どこかで必ずどっかの女が発しているであろうセリフを連発している。
    顔がありえない、ファッションがありえない、性格がありえない、体系が
    ありえない、体臭がありえない…。ッカー…想像しただけで、あんなのが
    彼女だったら、ぶん殴ってるか、即効で泣かしてるなぁ〜。なんて思ったら
    笑えた。日本は今日も平和だよ…。小馬鹿にしたように息をふっともらして
    から彼女の顔に視線を戻す。なんだか不満そうな顔でずっとうつむいている。
    何?どうしたの?
女    なんで30分も遅れたの?
男    何を言うかと思えば、もう済んだ話をまた引っ張り出して来て…。睡眠時間削ってデートしに来てるんだし大目に見て欲しい…。楽しくないわけでもない。一緒にいたらいたで、それは、それなりに有意義に過ごしている。
    ただ、彼女に会えなくても、元気そうにしているなら何より。俺の心配とか
    はしなくていい。こっちだって好き勝手やっているし、彼女も彼女で好きな
    ことをしていてくれればと思う。仕事を楽しんでるなら続ければいいし、
    何かしたいなら学校いくでもいい、海外とかに行く!とかいっても止めない。
    正直、こんなに自由のきく男は世の中を探しても俺だけだという自信がある。
    他の男とメールや電話しようが、どうぞだし。飯を食いに行くとかいうのも
    全く問題ない。そこを理解すれば、もっと楽しい付き合いになるはずなのに。
    でも…それじゃダメらしい。まぁ、まぁ、そんなに怒らないでさ。せっかく
    会えてるんだからさ。あ。カフェ・オレおかわりする?
女    いい。しない。
男    なんで、怒ってるの?
女    怒ってないから。タバコ、ちゃんと消さないと。
男    あぁ…うん。彼女は携帯に目を向けたまましばらく黙っていた。もう
    一本タバコを吸ってもよさそうだ。(タバコに火をつけて)あぁー、
    このままボーッとしたい。でも、そんな俺のささいな望みはかなわない…。
    吐いた煙の隙間から、視界にぬっと彼女の携帯の画面が出てくる。

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