ホメテヨ!

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初演日:2013/11 作者:柚子
    『ホメテヨ』

    褒めるとは、ある人の行動に対して口に出して評価を述べること。
    口下手な日本人は、なかなか苦手な行為である。
    面と向かってとなると、言う方も言われる方も何とも照れくさい。
    しかし、言葉にしなければ伝わらない。
    さぁ、勇気を出して言ってみよう、お褒めの言葉を。


    □登場人物

    松山甚太 主役。十年ぶりに娘と再会する。
    大杉奈美 甚太の恋人。喫茶「木の葉」のウェイトレス。
    桜沢ハル QPクラブの人。
    梅宮 萌 甚太の娘。
    竹林 拓 萌のフィアンセ。
    梅宮仁美 萌の母。実は幽霊。


    □舞台設定

    舞台は喫茶店。
    テーブル席が幾つか。(配置と数は現場合わせ)
    店内に出捌け口は三箇所。
    一つは、店の出入り口。外へ出たり、外から入ってきたり。
    出入り口は見えていない。あくまで音で扉の開閉を表現する。
    でないと、仁美(幽霊)が入ってくるときの区別が出来ないから。
    二つ目は、店の奥。コーヒーを淹れたり、物を取りに行ったり。
    こちらは、特に扉はない。
    三つ目は、化粧室。これは扉が見えている方が良いかも。
    それぞれの位置は、フレキシブルに現場合わせ。

    (序)

    カランカラン♪

 奈美   「ありがとうございました。」

    舞台、灯が入る。
    そこは、喫茶店「木の葉」。
    壁に「マッターホルンはじめました」というポップが貼ってある。
    ハル、席に座ってメモを読んでいる。
    テーブルの上には、小さな籠(蓋付)が置いてある。
    奈美、入ってくる。
    すぐに今まで客がいたテーブルを片付け始める。

 ハル   「なっちゃん。」
 奈美   「おかわり?ちょっと待ってて。」
 ハル   「違うよ。あのさ、黒糖ってある?」
 奈美   「黒糖?(考えて)ブラウンシュガーでいい?」
 ハル   「何それ?」
 奈美   「コーヒーにはよく合うんだけど。」
 ハル   「黒いの?」
 奈美   「いちおう。」
 ハル   「貰える、少しでいいから?」
 奈美   「いいですけど。」
 ハル   「ありがと。なんか、それを入れると臭みがまぎれて、飲みやすくなるんだって。」
 奈美   「ハルさん。私の淹れたコーヒーはご不満?」
 ハル   「え?」
 奈美   「別に無理して飲んでいただかなくても結構ですけど。」
 ハル   「ああ、そうじゃないよ。これの話。」
 奈美   「これって?」

    ハル、テーブルの上の籠を示す。
    奈美、中を覗く。
    そして、慌てて離れる。

 奈美   「な、何?」
 ハル   「マムシだよ、知らない?ほら、毒蛇の。」
 奈美   「知ってる。そうじゃなくて!」
 ハル   「大丈夫、動かないよ。なんせ半年何も食べてないんだから。」

    奈美、再び籠を覗く。
    再び、離れる。

 奈美   「動いてる。舌がチョロって!」
 ハル   「え?まあ、そりゃあ生きてるから多少はね。」
 奈美   「なんで?なんで?」
 ハル   「仕事だよ。」
 奈美   「仕事?なんでマムシがマヨネーズに関係あるの?」
 ハル   「あのね、毎回言ってるけど、QPクラブのQPは愛の神・キューピッドだから。マ
     ヨネーズとは全く関係ないから。」
 奈美   「そうなの?」
 ハル   「恋愛に関する、ありとあらゆるトラブルを速やかに解決する。それが我がQPク
         ラブ。」
 奈美   「てっきりマヨネーズの営業だと思ってた。」
 ハル   「毎回言ってるよ、毎回。いい加減憶えてよ。」
 奈美   「でも、だからって、なんでマムシ?」
 ハル   「マムシ酒を作るの。草食な彼氏の肉食化を望む女性からの依頼で。」
 奈美   「本気で?」
 ハル   「もちろん。そのためにこうしてマムシも調達して、作り方もネットで調べて。あ、
     出来たら、なっちゃんにも分けてあげようか?」
 奈美   「結構。」
 ハル   「遠慮しないで。美容にも効果があるって書いてあるよ。」
 奈美   「結構!」
 ハル   「あ、そう。」
 奈美   「早く持って帰ってくださいよ。」
 ハル   「それは無理。」
 奈美   「無理って、なんで?」
 ハル   「実は、別件でこれからここでクライアントと待ち合わせを。」
 奈美   「じゃあ、これは?(籠を指す)」
 ハル   「当然、打ち合わせが終わるまでここに。」
 奈美   「勘弁してよ。」
 ハル   「大丈夫だって。動かないんだから。」
 奈美   「動いたわよ。」
 ハル   「ちょっとじゃない。」
 奈美   「嫌いなんですよ、そういう系。」
 ハル   「気にしなけりゃいいんだよ。言うまで気付かなかったんだから。」
 奈美   「気付いちゃったんだから、もうダメ。」
 ハル   「絶対に逃げないし、逃がさないから。神に誓って。だから、ね。」
 奈美   「ダメです。ここは飲食店なんだから。生き物の持ち込みは禁止です。」
 ハル   「そんな。」

    カランカラン♪

    (一)

    カランカラン♪
    甚太、入ってくる。
    ネクタイを二本持っている。

 甚太   「奈美さん!」
 奈美   「どうしたの、甚ちゃん?」
 甚太   「ちょっといいかな?」
 奈美   「いいけど。」
 甚太   「相談があるんだ。」
 奈美   「何?」
 甚太   「あのね、これとこれ、どっちがお父さんかな?」

    甚太、奈美へネクタイを二本見せる。

 奈美   「え?」
 甚太   「どっちだろ?」
 奈美   「どっちって言われても。」
 ハル   「実に興味深いね。」
 甚太   「あ、ハルさん。どうも。」
 ハル   「どちらかがお父さんなの?」
 甚太   「僕が考える限り、この二つのうちのどちらかだと思うんです。」
 ハル   「なるほど。」
 甚太   「(奈美へ)どっちかな?」
 奈美   (困惑)
 ハル   「なっちゃん、ちゃんと答えてあげないと。」
 奈美   「答えろって言われても。」
 ハル   「いいじゃないか。犬がお父さんの家族もいる。ネクタイがお父さんで何が悪い?」
 甚太   「どっちだと思う?」
 奈美   「私には何とも。」
 甚太   「たしかに、どっちでも大して変わらないとは思う。思うけど、でも、出来るだけ第
     一印象は良くしたいんだ。」
 奈美   「え?あ、ああ、そっか、そういうこと。(全てを理解)そうだね。ええとね。」
 ハル   「分かるの、なっちゃん?」

    奈美、二本のネクタイを見比べる。

 奈美   「こっちかな。」
 甚太   「こっち?」
 奈美   「うん。今日みたいな日は、渋めの方が落ち着いて見えていいと思う。派手だと若作
     りしてって思われちゃうかもしれないし。」
 甚太   「そっか。じゃあ、こっちで。」
 奈美   「うん。」

    甚太、ネクタイを締める。

 ハル   「ねえ、何?何かあるの?」
 奈美   「甚ちゃん、これからデートなの。」
 ハル   「デート?」
 奈美   「しかも若くて可愛い子と。」
 ハル   「おいおい、それは穏やかじゃないよ。何、二人は破局?」
 甚太   「違いますよ。奈美さん、余計なこと言わない。」
 奈美   「だって、本当だもん。」
 甚太   「デートじゃないでしょ、デートじゃ。」
 奈美   「みたいなもんじゃない。嬉しそうに、私のときよりオシャレしちゃって。」
 甚太   「また、そういうことを。」
 ハル   「何かあるの?」
 奈美   「ネクタイ、捻じれてるよ。」
 甚太   「奈美さんが変なこと言うから。」
 奈美   「ひとのせいにしないの。やってあげる。」
 甚太   「いいよ、自分で出来るから。」
 奈美   「やってあげるって。」
 甚太   「いいってば。」
 奈美   「いいから。」

    奈美、甚太のネクタイを締めてあげる。

 ハル   「何かあるの?」
 甚太   「あのですね。(答えようと動く)」
 奈美   「動かないの。」
 甚太   「だって。」
 奈美   「だってじゃないの。」
 甚太   「だって。」
 奈美   「いいから、動かない。」
 甚太   「だって。」
 奈美   「もうちょっとだから。」
 甚太   「もうちょっと?」
 奈美   「じっとしてて。」
 甚太   「分かった。」
 ハル   「だから!」

    甚太と奈美、ハルの声に驚き動きが止まる。
    結局、ネクタイは中途半端な状態。

 ハル   「何かあるのかって聞いてるんだけど?」
 甚太   「あ、すいません。」
 奈美   「甚ちゃんね、これから娘さんと会うの。(甚太へ)ね。」
 ハル   「娘と会う?」
 甚太   「ええ、実はですね、僕、バツイチなんですよ。」
 ハル   「知ってるよ。」
 甚太   「知ってるの?」
 ハル   「十歳のときの初恋の子と二十歳で駆け落ちして、すぐさま妊娠。なし崩しに結婚す
     るも、三十で離婚。ひとり娘は妻に取られ、結局、四十で独身。見かけによらず波
     乱万丈だよね。」
 甚太   「なんで?」
 奈美   「喋っちゃった。」
 甚太   「そうなの?」
 奈美   「だって、年中居るんだもん。だからつい。まずかった?」
 甚太   「いや、いいんだけど。」
 ハル   「それで?」
 甚太   「それでって、まあ、そのときの子供が女の子で。」
 ハル   「萌ちゃん。」
 甚太   「知ってるの?」
 ハル   「その萌ちゃんも、思春期を迎えるとすっかり会ってもらえなくなり、寂しいまま現
     在に至る。」
 甚太   「その通りです。(奈美へ)あんまり僕のことをネタにするのはちょっと。」
 奈美   「ゴメンね、つい。(笑顔)」
 甚太   「いいんだけど。(笑顔)」
 ハル   「問題はだ、その萌ちゃんと今になって、どうして会うことになったのか。言いだし
     たのは君?」
 奈美   「ううん。向こうからメールで。(甚太へ)ね?」
 甚太   「奈美さん。(笑顔で咎める)」
 奈美   (てへペロな感じ)
 ハル   「理由は?」
 甚太   「特に。ただ会いたいとしか。」
 ハル   「心当たりは?」
 甚太   「さっぱり。」
 ハル   「さっぱり?」
 甚太   「だって、最後に会ったのは中二の夏休みだから(計算して)六年ぶり?六年ぶりで
     すよ。その間ずっと没交渉で、年賀状やら誕生日やら事あるごこに、こっちらから
     はメールしてるのに向こうからは何ひとつ寄こさない。だから、理由を考えように
      も材料がないんですよ。」
 ハル   「六年ぶりの再会か。どんな魂胆があるんだろ。」
 奈美   「だいたいの想像はついちゃうけど。」
 甚太   「そうなの?何、教えて。」
 奈美   「二十歳だよ、萌ちゃん。成人になったお披露目。そんなとこじゃない。」
 甚太   「あ、そうか。」
 ハル   「鈍いな、君は。とすると目当てはご祝儀か。相当せびる気だな。いいの?」
 奈美   「望むところです。リクエストにお応えしてあげますわ。」
 甚太   「奈美さん、ありがとう!」
 ハル   「あれ、なっちゃんは行かないの?」
 奈美   「どこへ?」
 ハル   「親子の対面。」
 奈美   「なんで私が?」
 ハル   「なんでって、フィアンセでしょ。いちおう挨拶しといた方がいいと思うけど。」
 奈美   「そうかな。」
 ハル   「ちゃんと仁義を通しておかないと、あとでいろいろ言われるよ。」
 奈美   「いろいろって?」
 ハル   「娘が母親にチクるんだよ。パパの付き合ってる女って礼儀知らずのブス女みたい。
     パパかわいそう。とかなんとか。」
 甚太   「萌は、そんなこと言わない。」
 奈美   「甚ちゃん、どう思う?」
 甚太   「え?」
 奈美   「挨拶した方がいいかな。」
 甚太   「いや、萌はあんなこと言わないよ。大丈夫。」
 奈美   「それは、そうだけど。」
 甚太   「あ、でも、もし奈美さんが良いなら一緒に行っても、それは(歓迎)。萌にもちゃ
     んと紹介したいと思ってたから。」
 奈美   「そうなんだ。」
 甚太   「行く?」
 奈美   「でも、お店があるし。」
 甚太   「閉めちゃえば。ハルさんだけだし。ハルさん、今日は帰ってもらえます?」
 ハル   「それは無理だよ。これからここでクライアントと打ち合わせをするんだから。」
 甚太   「別に、ここじゃなくても。」
 ハル   「あのさ、ここへ連れて来るってのは?どうせ、どこかでお茶するんでしょ?」
 甚太   「まあ、そのつもりですけど。」
 ハル   「だったら。」
 奈美   「待ってよ。何、勝手に決めてるの?」
 ハル   「これがベストだって。(甚太へ)ねえ?」
 甚太   「僕は、奈美さんが良ければ。」
 奈美   「そんな。だって何の準備もしてないし。何時だっけ、約束。」
 甚太   「三時だけど。いいよ、別に何もしないで。」
 奈美   「そうはいかないわよ。あと、三十分しかない。ああ、もう!」

    奈美、慌てて奥へ行く。

 甚太   「いいのに。」

    甚太、ネクタイを調え始める。

 ハル   「聞いていいかな?」
 甚太   「何です?」
 ハル   「離婚の原因って、何だったの?」
 甚太   「え?」
 ハル   「いや、仕事柄、ちょっと気になってさ。」
 甚太   「仕事柄って、離婚がマヨネーズに関係あるんですか?」
 ハル   「あの女。」
 甚太   「どうしました?」
 ハル   「いや。で、原因なんだけど、なっちゃんもそのことは教えてくれないんだよ。」
 甚太   「それはそうですよ。奈美さん、知りませんから。」
 ハル   「あ、何か言えないようなデリケートな話なの?」
 甚太   「そうじゃなくて。分からないんですよ、僕にも。突然切り出されて、何がなんだか
     分からないうちに離婚してたんで。それほど悪い旦那じゃなかったと思うんですよ
     ね。当然、浮気もしてないし。思い当たらないんですよ、原因らしい原因って。」
 ハル   「そうなんだ。」

    携帯の着信音♪
    ハル、携帯を取り出し、電話に出る。

 ハル   「はい、QPクラブの桜沢。竹林さん?え、迷った?どちらに?分かりました。今、
         行きますから、そのまま。はい。は〜い。」

    ハル、電話を切る。

 甚太   「ねえ、ハルさん。もしかしてマヨラーって離婚の原因の一位とか?」
 ハル   「え?ああ、まあ、その辺はまた今度。ちょっと出るけど、すぐ戻るから。」
 甚太   「分かりました。」
 ハル   「あと、この籠。絶対に触らないでね。」
 甚太   「分かりました。」

    ハル、竹林を迎えに行く。
    カランカラン♪

    (二)

    甚太、籠を見つめる。

 甚太   「ああ言われると、気になるな。」

    甚太、悩んだ末に籠を手に取る。
    仁美、店に入ってくる。
    彼女は幽霊だからカランカランは鳴らない。
    結果、甚太は仁美が入ってきたことに気付かない。
    甚太、まさに籠の蓋を開けようとする。
    仁美、声を掛ける。

 仁美   「甚太。」
 甚太   「うあ!」

    甚太、驚いて籠を落とす。
    このとき、ヘビが逃げて行く設定。

 甚太   「ひ、仁美?」

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