喫茶アメリカ

(きっさあめりか)
初演日:0/0 作者:今野洋二朗
【喫茶アメリカ】


登場人物

 松岡(45) ・・・・・ マスター
 村田(42) ・・・・・ 常連客
 かおり(27)・・・・・ 店員
 井上(38) ・・・・・ 犯人
 貴子(25) ・・・・・ マスターの娘
 浩司(30) ・・・・・ 貴子の夫
 小池(40) ・・・・・ 警察官A
 馬場(24) ・・・・・ 警察官B
 洋子(44) ・・・・・ 看護師
 京香(35) ・・・・・ タレント
 恭子(41) ・・・・・ マスターの妻


○店内

 アメリカを意識した店内。
 カウンターにはマスターの松岡。
 かおりが出てくる。

かおり「(客席に向かって)ここは喫茶アメリカ。ジャッキーチェンの鼻みたいな峠の途中にぽつんとおったっている、隠れ家的な喫茶
    店。タンスの裏のコンセント的な喫茶店。田舎の小さいスーパーの第2駐車場的な喫茶店。・・・うん。やっぱり隠れ家的な喫
    茶店。かすれたアメリカ国旗風の看板と、かすれたアメリカ国旗風の店内。そして、かすれたうえにきったないアメリカ国旗風
    のバンダナをした、アメリカンドッグみたいなマスター。あとアメリカという名前のアメリカンショートヘアーが一匹。マスタ
    ーはアメ公って呼んでます。それからアメリカザリガニが一匹。あと切りがないんでやめますがアメリカにまつわるいろんな無
    駄な物が置いてあります。まあ要するに、一言で言うと・・・アメリカっぽくなっております」

 村田が店に入ってくる。

村田「どうもー」
マスター「あ、いらっしゃい」
村田「(カウンター席に座り)アメリカン一つね」
マスター「はい、アメリカンね」

 村田、黙って鼻をほじくる。

かおり「(客席に向かって)この人は常連の村田さん。村田さんはアメリカンのどこが美味いのか、疑問を感じながらも毎回アメリカン
    を注文し、そして鼻くそをほじります。とった鼻くそはその辺に捨てます。そのことでマスターとよく揉めるのですが、結局鼻
    くそがどこにいったかわかんないからもういいか。というような話で終わります。あと突然『ヨッシャー』と、声に出して喜ん
    でる時があるのですが、それは鼻くそと一緒に鼻毛が取れたときです。鳥つくねみたいな・・・・・ええと・・・ごめんなさい。
    下品で。・・・(注文したアメリカンがくる)注文したアメリカンが来ると、今度は6年前だか7年前だかのアメフトの雑誌を
    読み始めます。読んでるフリをします。実際は読んでません。実際はアメフトの雑誌の中のたまたま写り込んでしまった金髪チ
    アガールを見ているだけでございます。はい」

村田「マスター。またダラスカウボーイズ(やたらカウの部分を強調したイントネーション)負けたね。ディフェンスが悪いわ、ディフ
   ェンス」
マスター「そうなんだよ。俺も同じこと思ってたんだよ。なんだろ、やっぱりデフェンダーの当たりが弱いのかな。うん、違うか、違う
     な。ま、要するにディフェンスだね」
村田「まあ、あのボール投げる人があれしたからっていうのもあるよね。怪我したからっていうのもあるよね。やっぱ彼がいなきゃだめ
   でしょ。ダラスカウボーイズは」
マスター「彼がエースだからね。エースじゃないか。エースじゃないな。ま、野球でいったらエースか。確か肩やっちゃったんだっけ?」
村田「いや、腰じゃないかな。え、膝?・・・・・まあ、それはさておいて、やっぱりディフェンスだよね」
マスター「うん、間違いないね。最終的にはディフェンスなんだよ」
村田「そうそう、なんていうんだろ、タックルする人がさ。うん、もうちょっとこう、(マスターの顔色を伺いながら)ガーンって? 
   強めにガーンっていった方が? いい? と俺は? おもうな。え?」
マスター「いや、何にも言ってないけど」

かおり「(客席に向かって)このように、ろくすっぽアメフトのことなど知らないくせに、知ってるような会話をして楽しむことで、な
    んとなくアメリカに近づいた気持ちになるのです。そう、ここに来る人はみんなアメリカに近づきたいんです。みんなアメリカ
    が大好きなんです。アメリカが大好きな自分が大好きなんです。・・・これはそんなアメリカ好きなおっさんマスターとそのア
    メリカ好きなマスターと同じくらいアメリカが好きな、常連客の村田さんと、実際アメリカに行ってアメリカが嫌いになったも
    うひとりのおっさんを取り巻く、ちょっぴり過激で、ちょっぴりアメリカンな物語です。そうです。みんなおっさんです。店員
    の私以外だいたいおっさんです。爪でいったら透明な部分がおっさんで、先っちょの白い部分が私です」

マスター「なあ、かおり」
かおり「え?」
マスター「ちょっとさ、アメ公が外出て戻ってこないんだけどさ、見てきてくれない? あいつパイプカットしたからって怒ってんのか
     な?」
かおり「えさが生肉だから怒ってるんじゃない? 普通キャットフードでしょ。トラじゃないんだからさ」
マスター「肉食だろ? トラはネコ科であいつもネコ科なんだから、肉でいいんだよ。最近草食系が多いからな。やっぱり男は肉食系で
     しょ。バッキンガム宮殿っしょ。パイプカットしたけど」
かおり「・・・意味がわかんない」
 
 かおり、両手を挙げてあきれながら退場。
 店に電話が鳴る。
 リリリリン。・・・・・リリリリン。(アメリカっぽく、リリリリンとリリリリンの間が妙に長い)電話に出ようとするが、なんだ切
 れたのか、いややっぱり切れてない。というリアクションを何度か繰り返すマスター。

村田「マスター、でよう。うん。そんなことやってるうちに本当に切れちゃうよ」

 マスター、電話に出る。

マスター「はい、喫茶アメリカ。・・・そうです私ですけど。・・・・ええ!貴子? ・・・・・・・・・・・え、今から? いやそれ
     はちょっと・・・ほら今店閉めちゃってるからさあ・・・・」

 島崎夫妻(派手な服装で)登場。
 貴子、携帯で電話している。

貴子「やってんじゃん!」
マスター「ええ? 今からって本当に今? 今から行くって、普通今から家出るっていう意味じゃないの?」
貴子「なんで嘘つく? ねえ。せっかくかわいい娘が帰るっつってんのになんで嘘つく?」
村田「娘?」

 島崎夫妻、ぶっきらぼうな感じで席に座る。

マスター「いやあ、なんて言うの? ほらお父さんにもいろいろ準備ってものがあるから。トイレにお花飾るだとか。トイレのウンチこ
     びり付いたの取るだとか。あとトイレットペーパーをこう、ふんわりしたやつに換えるだとか」
貴子「トイレばっかじゃん。とりあえずなんかお酒ちょうだい。浩司は?」
浩司「ああ、ビール」
マスター「ビールね。貴子は? 貴子はあれかい。ファジーネーブルみたいな、ピンクシャワシャワみたいな、そういう、かーいらしい
     カクテルがいいかな?」
貴子「カクテルなんかあるの?」
マスター「あ、ないか。ないね」
貴子「ないなら言うなよ。ビールはあんの?」
マスター「うん。ある」
貴子「(高飛車に)じゃビールでいいよ。とりあえずビール2つ持ってきて」
マスター「はい、よろこんで」

 かおり、突然出てきて、

かおり「(客席にむかって)さあさあでました。このいかにもな夫婦。マスターの娘夫婦なのですが、少々訳ありでございます。遡る事
    3年前。いややめましょう。話が長くなるんで。長いし悲しいし卑猥だし、第一あんまり面白くないんで割愛させていただきま
    す。まあ、一言で言うと、絶縁状態だったわけです。で、3年ぶり?くらいに戻ってきたのはいいのですが、なにか理由があっ
    てのことなのでしょう。ちなみに貴子さんの母親、つまりマスターの奥さんは3年前、ちょっとコインランドリーに行って来ま
    す。と言って出て行ったっきり、戻ってきません。アフガニスタンとかバクダットとか、そっちの方のコインランドリーに行っ
    てしまったのかもしれませんね」

 マスター、ジョッキを持って島崎夫妻のテーブルへ。

マスター「はい、おまたせ。バドワイザー」
浩司「バドワイザー?」
マスター「ええ、うちはバドしかないんで」
貴子「バドって言うなよ、気持ち悪い」
浩司「バドワイザーまずいでしょ」
マスター「いやあ、そんなことないですよ。バドワイザーは世界で一番売れているビールですよ。アメリカが誇る世界一のビールですよ。
     まずいわけがない。飲んだことないけど」

 浩司、ちょっと飲む。

浩司「やっぱまずいわ。飲めねえよこんなの」
マスター「そんなことないでしょ。世界一のビールですよ。世界一のビール」
浩司「・・・(マスターにビールを差し出す)はい」
マスター「どれどれ」

 マスター、ちょっと飲む。

マスター「・・・」

 マスター、椅子に座り

マスター「・・・(神妙な感じで貴子に)で、話ってなに?」
浩司「感想は?ビールの感想は?」
貴子「(タバコ吸いながら)ああ、ピストル預かってほしいの」
マスター「・・・・ぴすとる。ピストルねえ・・・ん?ぴすとるってなんだっけ? ああ、ピストルっていったらあれか、こうバンバン
     ってマジかっ! マジかっ! な、なんで? いやその前にお前の口からピストルって!」
貴子「ちょっと興奮しすぎ。ちょっとの間、預かってくれればいいから」
マスター「え、ちょっとって、どんくらい?」
貴子「一週間。一週間後に取りに来るから」
マスター「一週間・・・んん、なが! いやみじか! いや、わからん!」
貴子「ちょっと旅行に行く間だけ預かっててほしいの。一週間で帰ってくるからさ」
マスター「なんでここなの? うち、ピストル屋さんじゃないんですけど」
貴子「他に預けるとこがないのよ。飛行機乗るのにピストル持っていくわけに行かないでしょ?」
マスター「ま、それはそうだけどね。だったら家に置いて行けば」
貴子「家はまずいのよ。その、なんていうの? ま、いろんな事情があってね」
マスター「・・・ど、どんな事情?」
浩司「とにかく預かってくれればいいんだよ。な? そんなに難しいことじゃないだろ?」
マスター「ええと・・・いやあ」
浩司「(アタッシュケースをがさつにテーブルの上に置いて)くれぐれも大事にな。傷とかつけんじゃねえぞ。大切に、カブトムシの幼
   虫を扱うみたいに、大切に保管しておいてくれな」
マスター「・・・え、カブトムシ?」
貴子「ちょっと。わかったの?」
マスター「はい、よろこんで・・・」
貴子「別に中開けなくていいんだからね。そのままどっかに保管してくれればいいから。押入れの奥とかさ」
マスター「・・・そ、そうだね」
浩司「で、ビールの感想は?」
マスター「え?」
浩司「バドワイザーだよ。世界一のビールを飲んだ感想はどうだったって聞いてんだよ」
マスター「ああ・・・・・ま、まずいっすね」
浩司「だろ? そうなんだよ。日本人には合わねえんだろうな。ああいうアメリカのなんていうんだ?」
マスター「いやピストルが」
浩司「ピストルかい! まあいいや。そんじゃそれ頼むな。素人が勝手に使うんじゃねえぞ」

 と言って席を立つ。

貴子「(席を立って)じゃたのむね。バイバーイ」
マスター「・・・」

 島崎夫妻、退場。

 マスター、村田の方を見る。

村田「・・・(顔を背ける)」

 マスター、かおりの方を見る。

かおり「・・・(顔を背ける)」
マスター「一つ聞いていいかな?」
かおり「・・・」
村田「・・・」
マスター「なんかやばくない? アメリカっぽいところから、急にアメリカになっちゃったんじゃない? 確かに店の名前はアメリカだ
     けれども。アメリカ好きだけれども。ニューヨークに行きたいかー?って言われたら、行きたいです。っていうタイプの男だ
     けれども」
かおり「マスター。誰に言ってるの?」
村田「おれ、全部聞いちゃったわ。だって、近いんだもん。すぐ横よ。すぐ横でやばそうな拳銃の話なんかすんなっつって! で、どう
   すんの? そんなやばそうな拳銃」
マスター「どうすんのって・・・どうしようか。いやどうしようかっていうか、もう預かっちゃってるけどね」
かおり「一週間どこかに隠しておけばいいんでしょ? そんなに難しいことじゃないじゃん」
マスター「んまあね。そういう、女の子的な角度から見ればね。でも違う角度? おじさん的な角度からからみればどえらいことですよ、
     これは。この拳銃を狙って誰かが店にやってきて、『拳銃をよこせ』って拳銃で脅してきたらどうする? わあ、もうあれだ
     わ。本格的にアメリカだわ。CIAの世界だわ」
かおり「考えすぎじゃない?」
村田「とはいえ、どうも匂うな。どうも粉くさいな。裏がありそうだな。裏が匂うな。裏がアレだな。マスターの娘さんとはいえ、あん
   な雰囲気の二人だ。絶対なんか悪いアレが絡んで、アレしてるに違いない」
かおり「・・・全然わかんない。なに悪いアレって。なに裏がアレって」
村田「(マスターに)とりあえず中みてみよう」
マスター「・・・・・いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや」
村田「いやいやいやが長いわ!」
かおり「ところでマスター。アメリカ探したけどいないよ」
マスター「アメリカ? アメリカはいいよもう。今はさアメリカどころじゃないでしょ。アメリカ探したけどってアメリカ中探したみた
     いに言うなよ。あいつはもうほっとこう。生肉出しときゃ戻ってくるから。それよりもこのピストルが入ったケースだよね」
村田「中みようよマスター。本物のピストルみせてよマスター。いいじゃん見るだけだからさマスター」
マスター「うん、なんかうざいからやだ」
村田「いいじゃん。見るだけだからさあ。たのむよ」
マスター「・・・みるだけ?」
村田「みるだけ」
マスター「本当に見るだけ?」
村田「本当に見るだけ・・・・・で、ちょっと触る」
マスター「・・・いやいやいやいや」

 そこに突然、拳銃を手に井上が店に入ってくる。

井上「よし、みんな動くな! 手を挙げて動かない! そう、手を挙げる、そう」

 一同、両手を挙げて動かない。

井上「店長だれ? あんた?」
マスター「いやいやいやいや」
かおり「そうです。この人店長」
マスター「いやいや・・・店長です」
村田「あのう、ぼく関係ないんで。ただの客なんで。ゲオでDVD延滞してるんで。・・・帰ります」
井上「だめだ。動くな!」
村田「はい」
かおり「(マスターにこそっと)さっそく例のピストルとりにきたんじゃない?」
マスター「まさかこんなに早くくるとはな。くそお、娘から預かったピストルをそう簡単に渡すわけにはいかない」
井上「何をごちゃごちゃ言っている?」
マスター「これはな、絶対に渡さんぞ。娘から頼まれたんだ。3年ぶりに会った娘との約束なんだ! でも君が本気で撃つ気だっつんな
     ら渡してもいい!」
かおり「なにそれ」
井上「よくわからんが、お前らこっちにこい。ここのテーブル席に座れ」
村田「マスター、そんなのさっさと渡しちゃいなよ。やばいって」
マスター「そうだな。渡そう」
かおり「早いな。ちょっとは考えれよ。悩めよ」

 マスター、アタッシュケースを井上に渡す。

マスター「はい」
井上「ん?なんだこのケースは。余計なことすると撃つぞ」
マスター「いや、例のものが入ってますけど」
井上「例の物? そんなもんいらん! あ、なめてるな。お前らなめてるな。俺が撃たないと思ってなめてんだろ」
マスター「とんでもない。撃つと思ってるからこそ、これを渡すんです」
井上「だからいらないって! そんなものを取りにきたんじゃない。俺はな」
マスター「え? 違うの? え、じゃあなんで?」
かおり「お金?」
マスター「はいはいはい、お金ですよね。了解。お金でしたらレジにありますので、今取りに」
井上「金じゃない!」
マスター「え?」
かおり「じゃあなに?」
井上「お前達は人質だ」
村田「ひ、人質?」
かおり「・・・で、何が目的なの?」
井上「お前達にはキョンキョンが10キロ太るまで人質になってもらう」
一同「・・・・・(キョトンとしている)」
井上「キョトンとしているので、もう一度言う。お前達にはキョンキョンが10キロ太るまで人質になってもらう」
マスター「キョ、キョンキョン? キョンキョンって言いました? なんか突然すぎてよくわからなかったんですけど」
井上「ああ、キョンキョンって言ったよ。知ってるだろ、キョンキョン」
マスター「ええと、キョンキョンですよね。知ってます。僕が考えてるキョンキョンがあなたのキョンキョンだとしたら、知ってます」
かおり「まさか拳銃持ってる男の口からキョンキョンって言葉がでるとは思わなかったけど」
井上「俺はキョンキョンにもっとこう、ぽっちゃりしてもらいたい。もうキョンキョンっていうか女性芸能人全員各々10キロ太ってほ
   しい。でもそんなことは無理だから、キョンキョンに10キロ太ってもらう。キョンキョンが10キロ太ったらものすごくかわい
   らしくなるだろう」
村田「僕もそう思います。今の女性はダイエットしすぎなんです。痩せるイコール美しいと勘違いしてるんでしょう。でもキョンキョン
   は10キロも太らないと思います」
かおり「確かに」
井上「・・・だったらお前達は死ぬまで人質だ」
村田「(あらたまって)我々がなんとかしましょう。ね、マスター」
マスター「いや無理でしょ。無理無理。どうやって? だいたいどうやって10キロも太らせるの?」
井上「(ポケットから紙を出し)ここにキョンキョンの事務所の電話番号がある。これに電話すればいい。電話してキョンキョンに10
   キロ太るように説得するんだ」
マスター「ん〜・・・すいません、一つだけ言わせてもらっていいですか?」
井上「なんだ?」
マスター「バッカじゃねえの!・・・以上です」
井上「お前撃たれたいんだな。よしわかった。じゃあ望みどおり」
マスター「うそです。キョンキョンに10キロ太るように全力で説得させてください」
井上「よし。じゃあこれに電話するんだ(メモを渡す)」

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