超短編「背中」
(夕日の差し込む小さな部屋に、AとBがいる。)
(Aは壁にもたれかかり、漫画を読んでいる。)
(Bは薄い布団にくるまって、雑誌をめくっている。)
(遠くで犬が鳴いている。)
(長い沈黙。そののちふいに、)

B「背中がかゆい」
A「そう」
B「背中、掻いてくれる?」

(Bはそう言うと、Aが何も答えないうちに、布団の中からコンビニ袋を取り出す。)

A「何これ」
 
(Aはコンビニ袋を受け取る。)
(ずっしりと重い。)
(Aは袋の中を覗き、中から白くてぶよぶよした塊を取り出す。)

A「……何これ」
B「背中」

(Bはそうつぶやいて雑誌をめくる。)
(Aは袋の中から、白くてぶよぶよした塊を何個か取り出す。)
(どれもこれも同じに見えるが、やがて一つだけ蚊にさされた跡が残っているものを見つける。)

A「……これかな」

(Bは何も言わない。)
(A、白くてぶよぶよした塊を掌に乗せ、蚊にさされた跡を爪の先で軽く掻いてみる。)


「……あ、そこ」

(Bは小さな声でそう言うと、気持ちよさそうに目を閉じる。)
(A、白くてぶよぶよした塊を掌に乗せて、蚊にさされた跡を爪の先で、軽く掻き続ける。)
(Bはいつの間にか寝息を立てている。)
(A、白くてぶよぶよした塊をそっと床に置き、Bを見つめる。)
(そしてBの体をくるんでいる布団をそっとめくろうとする。)

A「……」

(A、めくりかけた布団を元に戻し、白くてぶよぶよした塊に目を戻す。)
(Bの寝息だけが静かに響いている。)
(A、白くてぶよぶよした塊を掌に乗せ、少しだけ揺らしてみる。)
(Bが眠りながらぴくりと反応する。)
(Aは思わずくすりと笑い、白くてぶよぶよした塊をそっとコンビニ袋に戻し、漫画に戻る。)
(遠くで犬が鳴いている。部屋に夕日が差し込んでいる。)

<了
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