サンタクロースが恋をした

(さんたくろーすがこいをした)
初演日:0/0 作者:真北 優唯
『サンタクロースが恋をした』
※2013年作成

【キャスト】
黒臼 ニコル (くろうす ニコル)   サンタクロース
井安 桐十  (いやす きりと)    元サンタクロース・カフェオーナー
田槙 尊      (たまき たける)    大学生
高沢 彩子  (たかさわ あやこ)   喫茶店店員
森谷 ルカ  (もりたに るか)    喫茶店アルバイト
桐馬 権蔵  (きりま ごんぞう)   喫茶店店主・彩子の親戚
冴木 隆介  (さえき りゅうすけ)   なつひの幼馴染 
芹沢 慶司  (せりざわ けいじ)   隆介の後輩
千早 なつひ (ちはや なつひ)    隆介の幼馴染

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

   今からずっと未来。クリスマス。喫茶店のような場所。
   黒臼ニコルが、カウンター席に座っている。
   手をそっと掲げ、空を見上げる。

ニコル  私は、サンタクロース。プレゼントを贈る。遠く離れたあの人へ。時間さえも
     超えて。私は、サンタクロース。愛を贈る。愛をプレゼントする、サンタクロ
     ース。

   掲げた手を降ろし、溜息。コーヒーを飲む。
   ポケットから一枚の写真を取り出し、見つめる。
   カウンターの向こうに、井安桐十がやって来る。サンタの帽子を被っている。

桐十   マイハニー。来るなら来るって連絡してよ。迎えを寄越したのに。
ニコル  近くまで来る用があったんで、そのついでに。お久しぶりです、係長。
桐十   久しぶり、マイハニー。相変わらずプリティね。周りの男が放っておかないで
     しょう。
ニコル  そうでもないですよ。一番しつこかった上司も、引退していなくなりましたし。
桐十   あら、言ってくれるじゃない。
ニコル  たくさん迷惑こうむりましたからね。良かったです、係長がいなくなって。
桐十   手厳しいところも相変わらずね。でも、元気そうで良かったわ。
ニコル  係長も、お元気そうでなによりです。
桐十   ハニー、その呼び方はやめて。私はもうあの頃の私じゃないの。引退して、お
     店を開いて、生まれ変わったの。今の名前は、キリィ。
ニコル  キリィ、ですか。
桐十   井安桐十の「井」と「桐」を取って、キリィ。だから、ハニーもキリィって呼
     んで。もしくは、キリちゃん。
ニコル  考えておきます。
桐十   恥ずかしいのね、わかるわ。でもね、ハニー。恥ずかしいのは最初だけなの。
     こう、思い切って飛んじゃえって思ってやってみると、意外に飛べちゃうもん
     なの。私みたいに。
ニコル  遠慮しておきます。
桐十   恥ずかしがっちゃって。かわいい。もう、食べちゃいたい。
ニコル  私は女ですよ?
桐十   ハニーは特別よ。昔からずっと求愛してたじゃない?
ニコル  でも、あの頃はノーマルだったじゃないですか。いつからその、何ていうか、
     複雑に?
桐十   私たち、職業柄いろんな愛のカタチを見てきたじゃない?それで、いつしか思
     ったの。ちょっと勇気を出せば、世界を変えることができるんだって。それで、
     勇気の出し方を間違えたら、こうなったの。人生って何が起こるかわからない
     ものね。
ニコル  そうですね。
桐十   私のことはいいから、ハニーのことを聞かせてよ。
ニコル  私のことですか?
桐十   わざわざ、うちに来てくれたんだもの。何か話したいことがあるんでしょう?
ニコル  …やっぱりすごいです、係長は。なんでもわかっちゃうんだもん。
桐十   キリィ。
ニコル  (写真を示して)実は、これなんです。
桐十   ツーショット写真ね。あら。ハニーの隣の子、イイ男。
ニコル  彼の名前は、田槙尊。私が研修のときに初めて担当した人です。
桐十   研修って言うと、まだ新人サンタの頃ね。今や優秀なサンタと名高い、黒臼ニ
     コルの原点。あの頃のあなたは失敗ばかりしてたわね。
ニコル  ええ。本当に失敗ばかりで、周りの助けなしでは何もできないひよっこでした。
桐十   それで、その彼がどうしたの?
ニコル  今日、上から査問されたんです。私と、彼の間にあったことについて。話次第
     では、私はサンタでいられなくなるかもしれない。
桐十   ちょっと待って。あなたが彼を担当したのは、もう随分前のことでしょう?そ
     れが今になって問題にされるなんておかしいわ。
ニコル  私たちは普通のサンタじゃない。愛をプレゼンするサンタです。そのサンタで
     ある私が、過去にとは言えども一般の異性と親しくなっていた事実を度外視す
     ることはできない、というのが理由だそうです。
桐十   あてつけね。正攻法じゃハニーに勝てないから、ハニーを引きずり下ろすため
     にでっちあげたんだわ。それで、ハニーはどうしたいの?
ニコル  どうしたいって?
桐十   組織と戦うの?それとも、サンタを辞めたいの?
ニコル  実のところ、迷ってるんです。私にとって、サンタであることは当たり前でし
     た。だから、サンタを辞めても、係長のように新しい人生を歩める気もしない。
     でも、そろそろ引き際なんじゃないかとも思うんです。サンタでいるのも限界
     じゃないかって思うんです。
桐十   限界?あなたほど優秀な子は他にはいないわ。それに、あなたはまだ若いじゃ
     ない。何だってできるのにどうして?
ニコル  違うんです。私が限界だと思うのは、そういう理由じゃないんです。
桐十   聞いてもいいかしら。あなたが何を抱えてきたのかを。
ニコル  …私は死なせてしまったんです。あの人を。

   ニコルが空を見上げる。

ニコル  今から七〇〇年ほど前の時代、二〇XX年。私は初めての研修にドキドキしな
     がら、喫茶店のドアを開きました。そして、出会った。それがすべての始まり
     だったんです。

   ニコルと桐十が去る。

   過去。桐馬権蔵の営む喫茶店。
   カウンターの中では、この店の店員である高沢彩子が、ハンドミルでコーヒー豆を
   挽いている。カウンター席には、田槙尊。
   アルバイト店員の森谷ルカが、お冷をお盆に乗せて運び、尊に差し出す。

ルカ   (お冷を置いて)はい、水。
尊    …ありがとう。
ルカ   ご注文は?ホットにする?アイスにする?それとも別の?
尊    ホットで。
ルカ   ホットひとつね、了解。(去ろうとする)
尊    待って。
ルカ   何?ちゃんとオーダー取ったよね?
尊    そうですけど…。
ルカ   だったら、いいでしょ。仕事の邪魔しないで。彩子ちゃん、ホットひとつー。
彩子   はーい。
尊    (ルカに)ちょっと待って。
ルカ   だから、何?ホットひとつでいいんでしょ?
尊    いいけど、ちょっと待って。
ルカ   彩子ちゃん、ホットキャンセルでー。
彩子   はーい。
尊    (彩子に)違う。キャンセルじゃないです。ホット飲みます。
ルカ   待てって言うから、取り消したのに。
尊    注文はいいんです。
ルカ   だったら、何?他に問題でも?
尊    態度ですよ、態度。昨日までいかにもバイトらしい親しみのある接客してくれ
     てたのに、なんで今日はそんな素っ気ないんですか。僕、何か嫌われるような
     ことしましたか?
ルカ   してないよ。
尊    だったら、なんでそんなにフランクなんですか。
ルカ   強いて言うなら、お近づきになったしるしかな。常連さんで、年下の君に心を
     許したアピールみたいなもん?
尊    そんなアピール要りません。
彩子   (ホットコーヒーを尊に出しながら)あら、私もお近づきになれたと思ったの
     に、残念ですね。
尊    彩子さんはいいんです。それなのに、ルカと来たら…。
ルカ   こら。年上のお姉さんを呼び捨てにしない。ちゃんと、ルカさんって呼びなさ
     い。
尊    これですよ。
彩子   いいじゃないですか。仲良さそうで、私は羨ましいなって思います。
尊    そうですか?
ルカ   ねえねえ。そんなことより、聞きたいことがあるんだけど。
尊    何ですか、いきなり。
ルカ   さっき、何数えてたの?
尊    え、なんのことですか。
ルカ   ケータイ。ずっと見ながら、数えてたでしょ?何数えてたの?
尊    別に。なんでもいいじゃないですか。
ルカ   えー、いいじゃない。教えてよ。
彩子   ルカ。お客様のプライベートに突っ込みすぎるのは良くないよ。
ルカ   毎日来てるんだし、ちょっとくらい良いじゃない。それに、彩子ちゃんも気に
     なるでしょ?
彩子   気になりません。
ルカ   うそ、そんなに興味ないの?まあ、私も死ぬほど知りたいかって言われたら、
     そうでもないんだけどね。
尊    だったら、もういいでしょ。この話は終わりです。
ルカ   えー、教えてよ。
尊    ダメです。それに、死ぬほど知りたいわけじゃないんでしょ?
ルカ   わかった。死ぬほど知りたい。死ぬほど知りたいから。
尊    じゃ、死んでください。社会的に。
ルカ   仕方ない。ちょっと冷蔵庫入ってくる。
彩子   ルカ、馬鹿なことはやめて。
ルカ   冗談に決まってるでしょ。それに、これは尊くんが教えてくれないのが悪い。
彩子   だったら、私に聞けばいいじゃない。だいたいの検討はついてるんだから。
ルカ   本当に?さすが、彩子ちゃん。教えて、教えて。
彩子   彼がケータイを見ながら何かを数える日は、ここへ来る前にあることがあった
     日なの。
ルカ   あること?
彩子   実は…。(耳打ちする)。
ルカ   えー、尊くんまたフラれたの?
彩子   メールの数を数えてたんでしょう?ここへ来る前に告白して断られた子との。
ルカ   うっわ、女々しい。(尊に)それで、今回はどんな子にフラれたの?
尊    別に。普通に大学で出会った子ですよ。今度こそいけると思って、デート誘っ
     たら断られたんです。そういうつもりじゃなかったって。
ルカ   あー、またそのパターンか。尊くんも、懲りないね。これで何連敗?
彩子   9連敗ですよね。
尊    あっちが、ずるいんですよ。思わせぶりな態度とるから。
ルカ   なるほどね。女の子の優しさをはき違えちゃったわけか。わかるよ。でもね、
     尊くん。君はいい加減学習したほうがいいと思う。その勘違いで、何回玉砕したの?
彩子   7回ですよね。
尊    なんで知ってるんですか。
彩子   常連さんですから。
ルカ   そろそろ本気で彼女捕まえなきゃ、やばいんじゃない。どう?良かったら年上
     のお姉さんたちが付き合ってあげるよ。
彩子   ルカは彼氏いるじゃない。それに、さりげなく私も巻き込むのはやめて。
ルカ   ばれたか。
尊    もういいんです。僕のことは放っておいてください。

   そこへ、桐馬権蔵がやってくる。

桐馬   いや、放っとけへんな。
彩子   おじさん。どこに行ってたの?
桐馬   ちょっと駅前までな。新しい台が入ったらしくて試し打ちや。そしたら、出る
     出る。もう、おじさんビックリしてもうたわ。
彩子   私もビックリしてます。お店放り出して、パチンコだなんて。
桐馬   わしかて、行きとうて行ってるわけやないねんで。ほら、うちの店、売上がえ
     えわけやないやろ。となると、オーナーのわしがなんとかして資金繰りせな、
     自分らも働くとこ失ってまうわけやん。せやから、しぶしぶ行ってるだけで…。
彩子   だったら、お店で働けばいいでしょ。そのほうがよっぽどお店の売上に貢献で
     きます。
桐馬   そない怒らんでええやん。ほら、勝った分で彩子ちゃんの好きな小さいサイズ
     のぬいぐるみ、買って来たったさかい堪忍してや。(とぬいぐるみを取り出す)
彩子   こんなもので私が許すと…。(ぬいぐるみを見つめて)許すと…。
尊    どうしたんですか、彩子さん。
彩子   …小さいの可愛い。
桐馬   許してくれたみたいやな。
ルカ   彩子ちゃん小さいぬいぐるみに目がないもんね。権蔵さん、私には?
桐馬   ちゃんと買うてきたで。ルカちゃんには、欲しい言うてた小説。
ルカ   わー。ありがと、権蔵さん。
桐馬   どういたしまして。それで、尊くん。
尊    僕にもくれるんですか?
桐馬   アホなこと言いなさんな。客にプレゼントするほどわしは羽振り良うないで。
     でもな、その代わり言うたらなんやけど、自分には女の子の落とし方っちゅー
     のを教えたる。
尊    マスターが?
桐馬   簡単なことや。女の子っちゅーのはな、3高が好きなんや。知ってるか、3高。
     高身長、高学歴、高収入や。でもやで。身長なんて今更どうにもならんし、学
     歴も然りや。となるとや、残りはなんや?
尊    高収入。
桐馬   エクセレント。その通り。銭や、銭。つまりや、女の子落とすには金持ってな
     いとあかん。まめにプレゼントしたり、女の子の財布に負担かけへんとするそ
     の心意気と諭吉さんに女の子は惚れるんや。
尊    なるほど…。
桐馬   自分、運命とか信じる?
尊    なんですか、いきなり。宗教の勧誘ならお断りですよ。
桐馬   そんなんちゃうわ。ええから、信じるか信じひんかどっちや?
尊    …まぁ、信じたいですね。
桐馬   あかんな。そんなん信じやんと、自分の力を信じんと。せやないと、女の子と
     お付き合いなんていつまで経ってもできん。ええか、既成事実作ったらええね
     ん。押し倒して、その気にさせてしまえばこっちのもんや。お互いの合意の元
     や。文句は言わさんくらいの気がないとあかんで。
尊    それはさすがに…。
桐馬   男は本能に生きなあかんのや。運命なんて待ってたらあかん。運命の赤い糸言
     うけどな、そんな赤いもんあったらめちゃくちゃ目立ってすぐわかるっちゅー
     ねん。

   そこへ、ニコルがやって来る。サンタの格好をしている。

ニコル  こんばんはー。
桐馬   ほらな、赤いのんは目立つ…って何者や。
彩子   いらっしゃいませー。
ニコル  あの、違うんです。私はお客さんとかじゃなくて…。
桐馬   お客さんやない?
ルカ   じゃあ、何?

   一同、沈黙。

ニコル  (ポーズをとって)どーも、こんばんはー。呼ばれてないけどやって来た、サ
     ンタクロースちゃんです。こちらに失恋した残念な男がいると聞いて、はるば
     る来ちゃいましたー。

   沈黙。

ルカ   え?なに?どういうこと?
桐馬   すまんな、お嬢ちゃん。理解が追いつかへん。
ニコル  あれ?ダメ…ですか?私もこういうの初めてで、どうしたらいいか…。
ルカ   初めて?ていうかあなた、何しに来たの?そもそもその格好、なんでサンタ?
ニコル  えっと、それは私がサンタだからです。
ルカ   どういうこと?
ニコル  私はサンタなので、この格好が正装です。
ルカ   ごめん、理解が追いつかない。
桐馬   なんや、怪しいなあ。お嬢ちゃん、もしかして強盗か?
尊    強盗?
ニコル  違います!
桐馬   や、強盗やな。わしがパチンコで勝ったん見て、奪ったろ思て後つけてきたん
     やろ。
ニコル  違います。私、そんなことしません。
桐馬   やったら、証拠を見せてみい。
ニコル  証拠ですか?
桐馬   そや、あんたが怪しいもんやないっていう証拠や。
ニコル  それなら、この服が証拠です。この赤と白の織り成すナイスなサンタ服には、
     怪しさなんて微塵も感じないはずです。
桐馬   むしろ、怪しい。そもそも、それのドコをどう見たら怪しないって判断できる
     ねん。
ニコル  (ドコかを示して)…ココとか見たらどうですか?
桐馬   …エクセレント。
ニコル  恥ずかしいです…。
ルカ   茶番はそこまでにしてくれる?
桐馬   わし、もう死んでもええ。
ルカ   死んでるよ。社会的に。

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