夏と戯曲と幽霊部員

(なつとぎきょくとゆうれいぶいん)
初演日:2010/8 作者:新堀 浩司
夏と戯曲と幽霊部員

作・新堀浩司



人物

井川ユウキ
海老原セイコ
堀内ヒトミ



        
第一場

舞台はとある高校の特別教室。放課後は演劇部のための練習場所になっている。井川ユウキが居る。
服装は制服。椅子に座って窓の外をぼんやり眺めている。放課後を示すSEなどあると良い。そこに、海老原セイコが入ってくる。セイコはすでにジャージに着替えている

ユウキ  「よっ」
セイコ  「…来てたんだ」
ユウキ  「元気だった?」
セイコ  「まあ、ぼちぼち。久しぶりじゃん。随分」
ユウキ  「ん、そうかな?」
セイコ  「こないだ来たのは三月でしょ。今は七月。」
ユウキ  「そっか。そう言われてみると久しぶりか」
セイコ  「もう来ないのかと思った」
ユウキ  「あれ、寂しかった?」
セイコ  「別に」

       
セイコ、練習のための準備を始める。(椅子や机を動かしスペースを作る)
準備が終わるとストレッチを始める。

ユウキ  「そっかー、寂しかったか。ごめんねー、あたしもちょくちょくこようとは思って
るんだけど、これでも結構忙しくてさ。あ、ところでさ。どう?部活の調子は?」
セイコ  「どうって、何も変わりないよ」
ユウキ  「新入部員、入った?」
セイコ  「何も変わりない、って言ったでしょ?」
ユウキ  「てことは…ゼロ?」
セイコ  「ゼロ」
ユウキ  「今年も?」
セイコ  「今年も」
ユウキ  「えー、マジで?おもしろい新入部員とか入ってるかなって期待してたのに」
セイコ  「残念だったね」
ユウキ  「セイコさあ、ちゃんと勧誘活動とかやったの?」
セイコ  「やったよ」
ユウキ  「どうせあれでしょ?地味なポスター貼ったりとかしかしてないんでしょ?」
セイコ  「…まあそうだけど」
ユウキ  「ダメダメ。ただでさえ地味なんだから勧誘活動はもっと派手にやらないとさ。ただでさえ演劇部は『なにやってんのかわかんない部』って言われてんだから」
セイコ  「演劇部なんだから演劇やってるに決まってるじゃない」
ユウキ  「まあそうなんだけどさ。ほら。うちみたいな田舎だと『演劇』自体がなじみが薄いからよくわかんないって思われちゃうんじゃん?」
セイコ  「そんなもんかな」
ユウキ  「とにかく、地味な文化部は地味な勧誘やっても駄目ってこと。」
セイコ  「随分偉そうだね。3ヶ月以上もこなかった癖に」
ユウキ  「だからそれは悪かったってば」
セイコ  「大体、今更頑張ってもおそいよ」
ユウキ  「なんで?」
セイコ  「だって今七月だよ。部活やりたい人はもうどっか入ってるだろうし、やる気のない人は勧誘したって意味ないでしょ?」
ユウキ  「いや、そうとも限らないよ。本当は部活やろうと思ってたけど、どの部に入るか迷ってるうちにタイミングを逃して入部し損ねた人とかいるかもしれないじゃん」
セイコ  「まあねえ」
ユウキ  「あるいは、入学したのはいいものの学校行くのが面倒くさくてさぼりまくってて、最近になってやっと通学始めた人とか」
セイコ  「そんな横着な人に入部されたらかえって困るような気がするんだけど」
ユウキ  「入学直後に教師を殴って停学になってた人とか」
セイコ  「そんな怖い人とは係わり合いになりたくないんだけど」
ユウキ  「なに言ってんの。どんな人間だっていないよりマシでしょ。枯れ木も山のにぎわ
いってね。今からでも遅くないから、やってみようよ、勧誘」
セイコ  「…じゃあ、ユウキはたとえばどんな勧誘すればいいと思うわけ?」
ユウキ  「やっぱりね、正攻法じゃ駄目なの。こう反則ギリギリの方法で攻めるのがポイントだね」
セイコ  「反則ギリギリって、やだよ、校則違反の方法とか。あたしこう見えても優等生で通ってるんだからね」
ユウキ  「大丈夫。ギリギリセーフだから」
セイコ  「…言ってみて」
ユウキ  「まず、睡眠薬を用意するよね」
セイコ  「やっぱ聞きたくない」
ユウキ  「なんで?」
セイコ  「だって絶対セーフじゃないもん。」
ユウキ  「わかんないでしょ?きめつけないでよ。全部聞いてから判断してよ」
セイコ  「…じゃあ」
ユウキ  「用意した睡眠薬を、比較的おとなしそうな新入生にかがせて意識を奪った所を部室に連れて行くの。
で、意識がもどったところで、演劇部の良いところを延々と聞かせてマインドコントロールをする!」
セイコ  「はい、アウト!」
ユウキ  「えー?ギリギリセーフじゃない?」
セイコ  「ぶっちぎりでアウト。校則どころか刑法に違反してるよ。拉致監禁・脅迫だから」
ユウキ  「駄目かあ。」
セイコ  「新入生を演劇部に入れる前に、私が牢屋に入れられちゃうよ」
ユウキ  「お、うまいこというね。座布団一枚」
セイコ  「いらない」
ユウキ  「山田くーん」
セイコ  「うちの部に山田君はいない」
ユウキ  「分かった。じゃあこういうのは?金に物を言わせて入部させる」
セイコ  「そんなお金ないよ」
ユウキ  「その辺は部費から…」
セイコ  「うちの演劇部が、金に物を言わせられるほど部費もらえてると思う?」
ユウキ  「…思わない」
セイコ  「でしょ?」
ユウキ  「確か去年は三千円って言ってたよね?」
セイコ  「そうね。古典部・科学部と並んでワーストタイだった」
ユウキ  「今年は?」
セイコ  「九百五十円」
ユウキ  「ついに千円を切ったか」
セイコ  「単独最下位よ」
ユウキ  「世知辛いね。やっぱ不況の影響?九百五十円でなにしろっていうのかね。ていうか九百五十円って随分半端じゃない?
いっそ千円にしてくれてもいいと思うんだけど。たった五十円の節約が学校にとってどれだけ意味あんのって話じゃない?」
セイコ  「まあしょうがないよ。去年も今年も新入部員は入らなかったし。廃部にならないだけまし。」
ユウキ  「まあね。でもさあ…」
セイコ  「それにさ。別に部員が多けりゃいいってもんじゃないよ。少ない人数でも不自由はないよ」
ユウキ  「でもさ、やっぱ人数いないと色々不便じゃない?たとえばさ、忠臣蔵をやろうと思ったら最低四十七人は必要なわけじゃん。どうすんの、そういう場合は」
セイコ  「忠臣蔵はゼッタイやらないから心配ない」
ユウキ  「まあ、忠臣蔵はやらないにしても…」
セイコ  「いいんだって。あたしは、ユウキと二人でも別にかまわないよ」
ユウキ  「…」
セイコ  「だから、もうちょっと頻繁に部活来てよ」
ユウキ  「…まあ、それは努力するけど」
セイコ  「じゃあ、おしゃべりはここまでにして。せっかく来たんだし、やろうよ」
ユウキ  「いいよ」

セイコ、台本を取り出す。

ユウキ  「この間はどこまで稽古したっけ?」
セイコ  「覚えてないよ」
ユウキ  「じゃあ頭からでいっか」
セイコ  「そうだね」
ユウキ  「台詞覚えてる?」
セイコ  「うーん、多分頭に入ってると思うけど、久しぶりだから最初は持つわ。」
ユウキ  「じゃあ、半立ちで。私の立ち位置って下手でいいんだっけ?」
セイコ  「うん、そう。じゃあ、はじめよう」

ユウキ、セイコによる劇中劇の開始。台本を持ちながらのたち稽古。

ユウキ  『ああ、愛しいロミオ様。どうしてあなたはロミオなの?』
セイコ  『ふっふっふ。まんまと騙されたなジュリエット』
ユウキ  『え、なに?どういうこと?』
セイコ  『俺は実は、ロミオじゃない』
ユウキ  『ちょっと待って。何よそれ、聞いてないわよ。どうしてあなたはロミオじゃないの?』
セイコ  『おれは、ロミオの双子の兄、レミオだ』
ユウキ  『双子?なるほど、双子じゃ区別がつかなくてもしょうがないわね。じゃあレミオ。あなたの目的は一体なに?』

そこに、堀内ヒトミが登場。セイコは気づかない。ユウキは気づく。

セイコ  『決まってるだろう。男として生まれてきたからには目的はひとつ。世界征服だ』
ヒトミ  「あのー」
ユウキ  「あのさ、セイコ」
        
気づかないセイコ。ヒトミはセイコに近づく。

セイコ  『とりあえず手始めとしてキャピレット家とモンタギュー家を支配下におく。そしてゆくゆくは世界をとびこえ宇宙へ進出…』
ヒトミ  (大声で)「あの!」
セイコ  「わっ!…だれ?いつからそこに?」
ユウキ  「さっきからいたよ」
ヒトミ  「お取り込み中すいません。ここで演劇部の練習してるって聞いたんですけど」
セイコ  「確かにそのとおりですけど…なにか、御用ですか?」
ユウキ  「セイコ。これって、あれじゃない?」
ヒトミ  「私、一年四組の堀内ヒトミって言います。今日は演劇部さんの見学をさせていただきたくて伺いました。よろしくお願いします!」
ユウキ  「やっぱり!」
セイコ  「ええと、それは入部希望ってことですか?」
ヒトミ  「はい。あ、でもまだ入ると決めたわけではなくてですね。私、3つほど興味のある部があって、どれにしようかまだ決められないんで。とりあえず見学ってことでお願いします」
セイコ  「ちなみに興味のある他の2つの部って?」
ヒトミ  「古典部と科学部です」
ユウキ  「どれもマイナーだね」
セイコ  「マイナーな部がすきなの?」
ヒトミ  「いいえ。ただ単に古典と科学と演劇に興味があるだけです」
セイコ  「そうなんだ。ええと、立ち話もなんなんで、座って、ください」
ユウキ  「なに緊張してんのよ」
ヒトミ  「ありがとうございます」
        
ヒトミ、座る。

ヒトミ  (見回す)「この教室が部室なんですか?」
セイコ  「あ、ううん。部室は別にあるよ。でも部室だと狭いし、練習しにくいからね」
ヒトミ  「なるほどー。そうですよね。演劇部って大声出しますもんね」
セイコ  「ああ、発声練習ね」
ヒトミ  「よく放課後、あーとかうーとか言ってますもんね」
セイコ  「うん、まあ」
ヒトミ  「クラスでもよく話題になってますよ。『演劇部は毎日毎日あーとかうーとか奇声をあげてるけど、一体なにやってんだろうって』
セイコ  「あれ、あなた演劇嫌い?」
ヒトミ  「え?そんなわけないじゃないですか。なんでそんなこと言うんですか?」
セイコ  「いや、なんか今の一連の発言に悪意を感じたから」
ヒトミ  「そんなあ。嫌いだったら見学に来ませんよ」
セイコ  「そう、だよね。ごめんね、変なこと言って」
ヒトミ  「いいえ、気にしないでください!」
ユウキ  (セイコに)「ちょっと変わってるね」
セイコ  「あの、堀内さん。」
ヒトミ  「はい」
セイコ  「素朴な疑問なんだけどどうして今の時期に見学に?」
ヒトミ  「え?駄目なんですか?」
セイコ  「いや、だめではないけど。もう七月じゃない?どうして今まで見学来なかったのかなあと思って」
ヒトミ  「ああ、私最近まで学校休んでたんです」
セイコ  「え、そうなの?」
ユウキ  「それはなんで?」
セイコ  「もしかして…学校に来るのが面倒くさかったから?」
ヒトミ  「いいえ。私学校大好きですよ」
セイコ  「じゃあ、教師を殴って停学になってた?」
ヒトミ  「先生を殴ったりするような人間に見えます?私」
セイコ  「ううん、ごめん」
ヒトミ  「殴ったりしたら手が痛くなっちゃうじゃないですか」
ユウキ  「え、そういう問題?」
ヒトミ  「攻撃するなら、キックですね」
ユウキ  「攻撃することには抵抗ないんだ」
セイコ  「じゃあどうして今まで休んでたの?」
ヒトミ  「実はですね、私入学直前に水疱瘡になりまして」

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