ミドリ
「 ミドリ 」
                    作・鎭西弓

登場人物

須田京子(すだきょうこ)  :無職
茂木珠美子(もてぎすみこ) :看護師


  暗転の中で、急ブレーキ、車2台の衝撃音。
  明転。舞台には女が二人。山中の国道。一人は腕組をして立ち、かたや一人はハンカチを口に当てしゃがみ込んでいる。
  少し離れたところには、瓦礫が散乱している。二人の足元に、若葉マークが落ちている。
  ヘッドライトの明かりが横向きに差し込ている。夜明け前の暗闇。

珠美子  大丈夫?
京子  (首を振る)
珠美子 どこか痛みます?
京子 (首を振る)
珠美子 本当に?
京子 (ハンカチを口から外し) 悪い
珠美子 すみません、何て?
京子  悪い、です
珠美子 え、もしかして、吐く?
京子 あたしが全部、悪いんです!

 京子、堰きが切れたように泣き出す。
 珠美子、あっけにとられて。

珠美子 大袈裟でしょう
京子 あたしが、あんなことしなければ!
珠美子 確かに、そっちがセンターこえましたけど、カーブで見通しも悪かったし・・・
京子 違うの、お姉さんはね、何も悪くないの!悪いのは、みーんな、私です!
珠美子 まあ、そういうのは、警察が来てからにしましょう
京子 こんなことになるなんて、思わなかった!
珠美子 そういうのも、警察に、ね?
京子 見ず知らずの人まで、巻き込んで・・・最悪・・・

 京子さめざめ泣く。珠美子、煙草を取り出す。

珠美子 吸いますか?
京子 あ、私、無理
珠美子 吸ってもいいですか?
京子 どうぞ・・・

  珠美子、煙草に火を付ける。

京子 やっぱり、ください
珠美子 どうぞ

  京子、煙草をもらう。ライターが無い素振りをする。珠美子、火をつけてやる。
  その時初めて、ハンカチのない京子の顔を見る。何か気づいて。

珠美子 あ、あんた
京子 (気づかず)すみません、お手数おかけして

  京子、一口吸って、激しくむせる。
  それでも、頑なにもう一口吸って、またむせる。

珠美子  合わないんじゃないですか?
京子 ほんと・・・ホントすみません。つあー、やっぱりダメですね、体が拒絶するんですね。赤ん坊が嫌がるものは
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