妖怪遺書
妖怪遺書  作 : 青野和也

―きゃすと―  □は男性、◯は女性

きつね(一盃森の長次郎):浅川 宣行
男:清野 和也


 【一場】

 −舞台上に二人。男は客入りから舞台におり、ずっと何かを書いている。トそこに忍びこ
  むように姿をあらわすきつね。人間に変装している。時代は明治。文明開化の音と、洋
  灯の灯りで、妖怪がすっかり姿を消した時代である。

男   寝ずの宵の月の『晩』。(以下『』は台詞を重ねて読む)
きつね 『番』地はここらであってる『かい?』
男   『甲斐』性なしで埋まらぬ原『稿』
きつね 『煌』々輝く外光『灯』
男   『とう』に精根尽き果『てて』
きつね 『手々』を拳に変えてに『ぎり』
男   『義理』人情を捨てて『生き』
きつね 『息』をする『よう』
男   『用』心して『物音を立てぬよう』
きつね 『物音を立てぬよう』
男   生きる
きつね 来(きた)る。コンコン(トドアをノックする音)
男   (確かに聞こえている)こんな真夜中に、なんだ。
きつね コンコン
男   コンコンと、戸を叩く音。
きつね コンコン
男   なんだ…。(少し怯えた様子で)いや、まさか…
    …(恐る恐る戸を開ける。しかしそこには誰もいない。少し安堵して戸を閉める)
きつね コンコン
男   …!(再び戸を開ける。その隙に窓からキツネは中に入っている)
きつね コンコン…
男   …(辺りを見回すが、きつねの姿は見えない)
きつね コンコン…(ト男の見えない位置から)
男   …(その音がした方に歩いて行く)

 −きつね男の背後をついて頭をたたくなどからかうような行動。男はきつねにただ翻弄さ
  れるだけ。きつね、何度かからかい、飽きてきて姿をはっきり男に見せて


きつね こんばんは
男   …誰だ!
きつね 一盃森の長次郎
男   長次郎?
きつね ああ、そうさ
男   知らん(ト、戸を閉めようとして)
きつね おいおいそんなはずはない!
男   (まじまじときつねの顔を見て)知らん!

 −男、戸を締めようとするが、きつねがトンと戸を叩くと妖術で一切閉まらなくなる

男   (観念して怖がりながら)…入れ
きつね ああ、ありがとう
男   長次郎、とか言ったか
きつね ああ、そうさ
男   お前さんだろ。毎晩毎晩、枕元に現れては
きつね さてさて
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