ペンキ屋さん

(ぺんきやさん)
初演日:1999/4 作者:酒井一成
ペンキ屋さん

作 酒井 一成

       ペンキ屋が塀にペンキを塗っている。しばらく塗っていると、男の子が
       現れ、その様子を見ている。ペンキ屋はそれに気づかず、ペンキを塗り
       続ける。男の子は次第に近づいてきて、おいてあるペンキ缶に指をつっ
       こもうとする。

ペンキ屋  やめろ。

       男の子、驚いて飛び下がる。と同時に、指が引っかかってペンキ缶が倒
       れる。

ペンキ屋  ば、ばか。

       ペンキ屋、あわてて缶を起こすが、すでにペンキは道路に流れ出てし
       まっている。

ペンキ屋  あああ、お前、どうするんだよ、このペンキ。
男の子   拭けばいいじゃん。
ペンキ屋  拭いてもだめなの。コンクリートの上についた油性のペンキは、そう簡
     単には落ちないの。
男の子   おじさん。
ペンキ屋  なに?
男の子   おじさん、ペンキ屋ってやつ?
ペンキ屋  見りゃ、わかるだろ。
男の子   ペンキ屋って、初めて見た。
ペンキ屋  そんなこと言ったって、流れたペンキは戻らないの。
男の子   おじさんさあ、
ペンキ屋  誰のことだよ、おじさんって。
男の子   めちゃくちゃ汚いよね。
ペンキ屋  ほっといてくれ。
男の子   で、おじさん、これどうしようか。
ペンキ屋  オレはおにいさんだ。
男の子   そうか。
ペンキ屋  ほう、素直だな。
男の子   じゃあ、おじさん、
ペンキ屋  おまえさ、
男の子   なに?
ペンキ屋  人を、おじさん、おじさん言うなよ。
男の子   だって、きたないじゃん。
ペンキ屋  それとこれとは関係ないだろ。
男の子   お兄さんってのは、かっこいい人に向かって言う言葉なの。
ペンキ屋  まあ、いいよ。だけどお前、このペンキだけは何とかしろよ。
男の子   どうやって?
ペンキ屋  知らないよ。

       男の子、少し考えてから、ペンキ屋が首にかけているタオルを奪い、
       地面を拭き始める。

ペンキ屋  おい、やめろよ。

       ペンキ屋、タオルを取り戻す。

ペンキ屋  これは、オレが汗を拭くタオルなの。
男の子   雑巾かと思った。
ペンキ屋  確かに汚いけどな。汗と涙とペンキがしみこんでいるんだ。
男の子   じゃあ、もうちょっとくらいいいじゃん。

       男の子、素早くタオルを奪い取って、再び地面をこすり始める。

ペンキ屋  そんなことしたって、落ちないだろ。
男の子   ほんとだ。

       男の子、指につばをつけてこすってみる。

男の子   ちょっと落ちるよ。
ペンキ屋  お前、ずっとなめてる気かよ。
男の子   やだ。

       男の子、少し考えて、近くにあったベンチを引きずってきて、地面に
       広がったペンキの上に置き、そこに座る。

男の子   ほら、これで目立たない。
ペンキ屋  そうだな。

       ペンキ屋、男の子の隣に座る。

ペンキ屋  ああ、疲れた。
男の子   朝からずっとやってるの?
ペンキ屋  そうだよ。ずっと立ちっぱなし。背伸びしたりかがんだり。

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