ある恋の話

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初演日:0/0 作者:ひよこ大福


ある恋の話。

ぼく 彼女の恋人。
彼女 ぼくの恋人。
彼  ぼくと同じ境遇。
先生 彼女の担当医師。性別不問

●ト書き






ぼく 余命3年。それが彼女に下された宣告だった。病の名は、恋煩い。
   この場合、それは文学的な比喩や、恋に悩み苦しむ事を指す言葉ではない。
   この病を患った者は、ある感情を内に秘める事によって激しい胸の痛み、動悸の乱れ、
   呼吸不全、食欲や身体機能の低下など、さまざまな症状を併発する。
   そして、それは徐々に重度なものになり、最終的には命を落とす。
   それの引き金となる感情は、恋。故にそれは恋の病と呼ばれていた。
   
   ……治療法はまだない。


●僕が歩いて来て扉の前に立つがノックを躊躇う。

ぼく …………(入るのをためらう)
彼女 (ぼくが入ってくるのを待っている)
ぼく (まだためらう)
彼女 ……ねえ。(しびれを切らして扉越しに声をかける)
ぼく えっ?
彼女 いつまで立ってるの? はやく入んなよ
ぼく ……

●ゆっくりとドアを開ける。

彼女 やっほ。
ぼく よくわかったね。まだノックもしてなかったのに。
彼女 足音で分かっちゃうよ。私がどれだけこの日を楽しみにしてたか教えてあげよっか?
ぼく そっか。……うん、そうだね。久しぶり、元気だった?
彼女 …………(少し笑った後にむっとする)
ぼく ど、どうしたの?
彼女 駄目。20点。
ぼく は?
彼女 4ヶ月ぶりに会ったんだよ?なのにテンション引くっすぎ。もっとさぁ、喜びを表現してよ。
ぼく ひ、ひさしぶり。元気だった!?
彼女 40点。声が小さい、もっと笑って。
ぼく ひっさしっぶりー!
彼女 ぷっ
ぼく あのなぁ
彼女 あはは、うん。合格。久しぶり!
彼女 っ。会いたかったよ(苦しさを隠しながら)
ぼく ……僕も、あいたかった。
彼女 ほら、こっちきてよ。あれ、だいぶ髪の色抜けたねぇ
ぼく そっちは少し会わないうちに髪が伸びたね。今年は切らないの?春になるといつも短くしてたのに。
彼女 ばっさり切るのって結構覚悟いるんだよ?だから今年はもうちょっと伸ばしてみようかなって。
   あ、もしかしてポニーテールとか期待した?
ぼく 別に、興味ないし。僕はどんな髪型でも好きだよ。あ、ツインテールなんてどう?
彼女 やらなーい
ぼく 残念。
彼女 でもホント、長いよね。長過ぎる。
ぼく え、やっぱり切りたいの?
彼女 ちがーう髪じゃない!面会日!一年にたったの3回だよ?年頃のカップルをまるで遠距離恋愛よろしくって感じに引き離してさ。
ぼく それは……うん、ホントにそうだ。
彼女 だよね〜、私はこんなに元気なのに病気が酷くなるから絶対に会っちゃ駄目、なんて。
ぼく あはは……
彼女 笑い事じゃないってば、もう春なんだよ?
   桜はあんなに花を咲かせてるのに私はいつまでここで引きこもってればいいんですかー!って感じ
ぼく そういえば病院の桜、もう満開だったね。去年も一昨年も結構遅咲きだった気がするけど。
彼女 ……あ。ねね、一緒に抜け出してお花見でもしよっか?
ぼく だめだよ。大人しくしとかなきゃ。
彼女 ちぇ
ぼく ほら、窓からでも桜は見えるよ
彼女 ……花見するなら桜は生で見るものってお父さんが言ってたよ。
ぼく 窓開けてあげるから
彼女 屁理屈だー!

窓を開ける。桜が舞い込む。

ぼく うわ、風つよ……
彼女 あはは、花びらだらけだ。
ぼく あーあ……(花びらを払う)
ぼく ……ここ、結構眺めいいね。
彼女 きれいでしょ、この部屋からだと桜並木とか、患者さんがお花見してる景色とかよく見えるんだ。
ぼく ふーん……
彼女 あ、花びら肩についてるよ。とってあげる(僕に近づこうとする)
ぼく ……!(彼女と距離をとる)
彼女 あ……
ぼく あ、ごめん……いや、いいよ。自分で払うから
彼女 ……(悲しそうな表情)
ぼく ごめん。あまり近づくと……よくないと思って。
彼女 ……それぐらい、平気だよ。
ぼく ごめん。
彼女 ……ううん。いいの。
ぼく ………
彼女 ……お花見。
ぼく え?
彼女 来年は、お花見いこっか。
ぼく ……うん。

●沈黙。少し気まずい雰囲気。

彼女 あ〜だめだめ。暗いのやめよ。なんかしんみりするのはヤダよ。
ぼく ……うん。
彼女 ねぇ、ここ座りなよ。そんなとこ突っ立ってないで話でもしよ?
ぼく ……そう、だね。うん、どんな話がいい? 
彼女 そうだね〜 最近あった面白い事とか?
ぼく 面白い事、って言われてもな……
彼女 だって私一日中ここに缶詰で娯楽なんて全然ないんだよ?
   だから今日が唯一のお楽しみだったの。
ぼく ん〜そうだな。あ。
彼女 なになに?

(自由に雑談。あっても無くてもいいです)

ぼく これは面白い話じゃないんだけど……じゃーん。
彼女 あ!それって……!
ぼく そう。お見舞いのプリンです。通販じゃ中々買えない高級品。
彼女 わ、わ、これ私がずっと食べたいな〜って思ってたプリン!なんで?私食べたいって言ったことないのに!
ぼく 食べたいだろうなってものぐらい分かるよ。付き合い長いんだからさ。ほら。
彼女 うわ〜、ちょっとこれ感動物だよ

ぼく これ買うのめっちゃ苦労してさ。まずお店に連絡して(話を遮られる)
彼女 はやく!食べよ食べよ!
ぼく わかったわかった。急かすなって。
彼女 ほら、早く食べさせて。あーん。
ぼく ………(食べさせていいものかどうか戸惑う)
彼女 ?
ぼく 自分で食べなさい。
彼女 私病人で患者さん。君はお見舞いに来てくれた彼氏さん。ならする事は決まってるよね?
ぼく そういう事を言ってるんじゃなくてさ……また前みたいに
彼女 ……あー
ぼく また前みたいなことになったらって考えたらさ。
彼女 その節はご迷惑おかけしました。
ぼく 笑い事じゃないよ。
彼女 指を絡めただけで心臓止まっちゃうなんてね。あはは、あの時は流石にショックだったなぁ。
ぼく …………
彼女 私達、もう手を繋ぐ事も出来なくなっちゃったんだな。って思うとさ
   あ、でもこれくらいなら別に大丈夫だよ。触れたり、キスしたり……あーもう、なんか恥ずかしいね。

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