うどんの王様
『うどんの王様』
 
       暗転の中、何処からともなく歌が聞こえる。
 歌「静かな湖畔の、静かな湖畔の、静かな湖畔の森の影から、
   もう起きちゃいかがと、もう起きちゃいかがと、もう起きちゃいかがと、
   郭公が鳴く。
   カッコー、カッコー、カッコー、カッコー、カッコー。
   (以下、2回目3回目と繰り返すにつれて繰り返す部分も段々増えていく。)」
       輪唱に聞こえるよう歌っているが、どう聞いても一人。
       そして明るくなると中央に一人の男
 男「ようこそ皆さん、私の名前はジョニー。今日は私のリサイタルショーにおいで下さってありがとうございます。今宵、しばし皆様の時間を拝借して、私の歌をお聞きください。では、まずはこの歌から」
       と言って、歌い始めたのは同じ歌。
       ひとり輪唱、だんだん盛り上がっていく。
       盛り上がるにつれて、暗転。
 
 ACT 1
 
       卒業の季節。
       二人の男、田中と山本。
 田中「いよいよ、卒業だな。」
 山本「ああ、いよいよだ。」
       それぞれの思いを胸に。
 山本「・・・・・」
 田中「どうしたんだよ。」
 山本「あ、いや、これで学生生活も終わりかと思うと、なんだか、感慨深くてな。」
 田中「なあ、お前は卒業したらどうするんだ?」
 山本「俺か?俺は東紡加工に決まったよ。」
 田中「ふーん」
 山本「そういうお前はどうなんだよ。」
 田中「俺か?ふ、驚くなよ。俺はすごいぜ。100億万円ためて大金持ちになるんだ。」
       どうだ、という態度。
 山本「・・・・。」
 田中「ふふふ、おどろいたか。俺にはお前とちがって将来に壮大な計画が待っているのだ。」
 山本「いや、100億万っておまえそれいくらだよ。」
 田中「ばかだなあ、100億万っていったら・・・」
       そういって数え始める。
 田中「一、十、百、千、万、十万、百万、千万、一億、十億、百億、千億、一兆、十兆、百兆、千兆・・・」
       それ以上わからなくなってしまった。
 田中「ははーん、さてはお前、俺が100億万円長者になるのが気に入らないんだな。」
 山本「いや、別に、そんなことは・・・」
 田中「むりすんなよ、顔に書いてあるぜ。」
 山本「え。」
 田中「俺が100億万円長者になっても落ち込むなよ、じゃあな。」
       田中、去る。
 山本「田中。」
       山本、ひとり残る。
 山本「あれから十年、田中とはあれ以来会っていません。」
       山本、舞台をぐるっと回ると10年が経過する。
       山本、今やサラリーマン。
 山本「ただいま。」
       ドアを閉める。
 山本「お帰りなさい。」
       沈黙。
       黙々と服を脱ぎ始める男。
       ズボンを脱ぐとその下にはストッキングが・・・
 山本「・・・うおーーー、俺は変態じゃなーい!!」
       と、そのままの格好で客席へ。
       客の一人をつかまえる。
 山本「俺は変態じゃ無い。わかるだろう。俺がこんな格好してるのもすべては仕事、仕事の為なんだ。判るよな、判ってくれるよな、な、な。」
       少し、気を取り戻して。
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