決闘
  決闘

小次郎   ううむ。遅い。武蔵はまだか。いつまで待たせれば良いのだ。・・・おい、本当に武蔵に果たし状を渡してきたのであろうな。
立会人   それはもう、ばっちりでございます。(ポーズ付きで)
小次郎   ちゃんと本人に手渡してきたのであろうな?
立会人   いやっそれはちょっと。
小次郎   ちょっと何だ。
立会人   実は私、武蔵殿の顏を存じませんで・・・。
小次郎   何?お主今ばっちりって言ったであろう。こんな振りまで付けて。(ポーズ付きで)
立会人   いや、ちょっと違いますな。
小次郎   何が違うのだ。ばっちりと言ったであろう。
立会人   いやもうちょっと右手がこう・・・。
小次郎   そっちかよ。振りなぞどっちだって良いわ。
立会人   そうはいきませぬ。右手がこうなのとこうなのとではばっちり度が違ってきますゆえ・・・。ほら、こうばっちりなのとこうばっちりなのとでは、いささか違いがございましょう?
小次郎   そう自信を持って言われると、そのような気もしてきたかもしれぬな。ああ、しかし武蔵に渡さず誰に渡してきたのだ。
立会人   はっ飛脚に・・・。
小次郎   飛脚?信用出来るのであろうな?
立会人   御安心を。私のじいさまの代から御用達の飛脚でございますから。
小次郎   よぼよぼではないか。ぜんぜん安心できぬわ。本当に生きておるのか?武蔵の所にたどり着けるのかどうかさえ不安だ。
立会人   ばっちりでございますよ。(さっきの駄目な方のポーズ)
小次郎   ・・・それはどのくらいのばっちり度だ。
立会人   偏差値にして54くらいのばっちりでございます。
小次郎   微妙なばっちり具合じゃのう。しかもあまり良くないような気がするのだが。
立会人   まあ、ばっちりはばっちりでも色々なばっちりがございますので・・・。でも54くらいなら真ん中から数えて6番目くらいです。
小次郎   ますます微妙ではないか。本当に武蔵は果たし状を読んでいるのであろうな。もう、とうに一刻は過ぎておるぞ。もし武蔵が来ないようなことがあると、お主分かっているであろうな?
(小次郎、立会人につかみかかる)
立会人   あわわ。
(立会人の裾から手紙が落ちる)
小次郎   んっ、何か落ちたぞ。なんだそれは?手紙のようだが・・・まさかお主・・・。
(立会人あわてて拾い、隠す)
立会人   いやっめっそうもございません。そんな・・・私が果たし状を渡しそびれるなど・・・ははは。
小次郎   それにしても、さっきから随分汗をかいておるようだが?
立会人   そ・それはー。私最近目方が増えて参りまして、減量をしておるんですが・・・ほら今話題のカプサイシン。これが新陳代謝を良くし、発汗作用を増大させるというのではまってまして、先程も唐辛子を生で19本食べたばかりで・・・。やはり男子たるもの弱点があってはいけませんからな。女人にも嫌われますゆえ。
小次郎   女人?ほう、さてはお主惚れたおなごでもできたか。
立会人   なっ・・・。
(立会人ものすごく動揺)
小次郎   なっ・・・てえらい驚きようだな。ふふふ図星か?
立会人   佐々木様にはかないませんな。実は、これはそれがしの恋文にございます。出そう出そうと思いながらもいっこうに出せず終いで、もう早や10年になります。
小次郎   長っ。早く出せよ。それにしても、そんなに長く思い続けているとは、どこのおなごじゃ?
立会人   はい、それが2度しかお会いしたことが無いのですが、心を奪われてしまいました。
小次郎   ほう、よっぽど器量の良いおなごだったのだろうな。
立会人   ええ、あれは最高の盗賊でした。
小次郎   なるほど、盗賊だけに金品のみならず、心まで奪われました、か・・・お主本当に馬鹿な男じゃのう。
立会人   身ぐるみはがされ、けつの毛まで抜かれてしまいました。その女盗賊の私めを汚くののしる言動と、けつの毛を抜かれる時のこう震えるような感じが忘れられませぬ。
小次郎   先程2度会ったことがあると言っておったが、2度も襲われたのか?
立会人   (嬉しそうに)10年前に初めて襲われたときには、それこそ盗賊に襲われるのも、女人に心を奪われるのも、けつの毛抜かれるのも初めての体験でしたのでなす術もなく、やられたい放題だったのですが、(悔しそうに)3年前の時には偶然通りかかった武人にすんでの所で助けられまして、何事もなかったのです。
小次郎   話の内容とお主の表情が逆のような気がするが、何事もなく良かったではないか。
立会人   しかし、その武人のおかげで、運命の再会を果たしたというのに、名前すら聞き逃してしまったのでありますぞ。
小次郎   そうか、名前も分からぬのなら恋文を渡そうにも無理であるな。
立会人   (にまにましながら)それがですな、ついに所在を突き止めたのです。
小次郎   何?まことか。どこにいるんだ。
立会人   は、それがなんと武蔵殿と同じ宿に泊まっているらしいのです。
小次郎   武蔵と!!なぜそんなことが分かる。
立会人   はっ、じいさまの代から御用達の飛脚から、私の描いた人相書きで発見したと昨日連絡がありました。
小次郎   お主の人相書きはそれほど似ておるのか?
立会人   はっ、そっくりであったと。
小次郎   ちょっと、見せてみろ。
立会人   恥ずかしいですけど。はいっ。
(立会人 人相書きを取り出す。下唇からあごの部分を顔全体に見えるように描いてある)
(小次郎 超下手な人相書きを見て)
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