帰宅部
帰宅部
登場人物
矢野信利 (五五)会社員、出世街道から外れた中年社員、ナレータ
坂川浩二 (三二)会社員、営業職のサラリーマン
篠島新司 (二三)会社員、思ったことをすぐに口に出してしまう。
狭川洋子 (四四)会社員、一児の母、夫と離婚
北山孝美 (二七)教員、父兄との対応に苦心している。
島崎有 (一九)専門学校生、ピアノ調律士を目指している
備考 この台本は放送劇用に作った。
○午後九時の城南線のターミナル駅内野
駅のアナウンス。すでに入線した車両にはまだ人影はまばらである。信利は対面四人掛けのコンパートメントの窓際の隅に座っている。
信利(ナレーション風に)「いつもの電車のいつもの座席。私は人生のかなりの部分をこの電車ですごしている。わたしだけじゃあない。遠距離通勤者であれば、誰でも同じことだ。私の楽しみといえば・・・」
裂きイカの袋と缶チューハイをあける音。
信利(ナレ風)「こうして帰りの電車で裂きイカをかじりながら缶チューハイを飲むこと。ちょっと回りの視線が気になったこともあったが、もういまは慣れっこ。ま、少し行儀は悪いとは思うが、わたしの唯一の楽しみなんだ」
信利の座るコンパートメントに狭川洋子と、篠島新司、北山孝美が別々に来て座っていく。
しばらくすると、電車は混み合ってくる。
ボックス席の近くに島崎有と坂川浩二が相次いで入って来て立つ。
有 「ちょっと、すみません。やめてください」
乗客たちは、さっと緊張して有の方を見る。
有 「いい加減にして」
孝美「どうしたんですか」
有 「この人が私に、・・・なんていうか・・・つきまとうんです」
新司「(つぶやくように小声で)ストーカーか」
浩二「な、なにを言うんだ。言いがかりだ。」
洋子「あなた、こういう時は正直に言った方が罪が軽くなりますよ」
新司「(つぶやくように)ややこしくなってきたな」
浩二「罪だなんて、本当に何にもしてないんです。」
有 「だって、ずっとつきまとってきたじゃない」
浩二「なんだって、言いがかりだ」
洋子「正直におっしゃった方がいいと思いますよ」
孝美「(有を見て)何かされたの」
有 「・・・(首を振る)いえ」
浩二「だから、なんにもしてないよ」
新司「(つぶやくように)なんとでも言えるよな」
信利「まあ、みなさん。落ち着いて」
洋子「正直に、正直にね」
有 「だって、ずっと・・・ついて来たじゃない」
浩二「誤解だ」
信利「(今度は少し大きな声で)落ち着きなさい」
皆、信利の気迫に押されて黙る。
信利「あ、すみません。大きな声出して。こういう問題は軽率に扱うと大変な問題になるんです。お嬢さんは、この男がストーカー行為をしていると仰っている。しかし、この方にはそんな事実はないと仰る」
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