人間に一番大切なもの
『人間に一番大切なもの』

飲み屋で語り明かす男が二人。下手に席。向かい合って座り、側面を客席に見せる。今井下手側、高下上手側。
高下、タバコを吸いながら酒を飲む。

高「酒も飲まない、タバコも吸わない、ギャンブルも女遊びもしない。お前さあ、何が楽しくて生きてるの?」
今「え?」
高「なんかさあ、楽しいことがないと生きていけないじゃん、人生って。お前の楽しいことって何?」
今「いや、特には」
高「ダメだよ、そんなの。何か楽しいこと見つけなくちゃ。ストレス発散できるようなものに出会わなきゃ」
今「じゃあ、お前の楽しいことって何?」
高「俺か?女だよ」
今「女?」
高「そう、女。女はいいぞ女は。嫌なことを全部忘れさせてくれる。女と触れ合っている瞬間にだけ、ああ俺は生きてるんだなって実感できる」
今「女って……面倒臭くないか?」
高「面倒?お前ってガキだなあ。何お前、童貞?」
今「(俯いて黙る)……」
高「おいおい、いまどき21にもなってやったことねえの?あーあ、お前の人生ってほんとにつまんないなあ」
今「そういう言い方ないだろ。今までそういう機会が、なかったんだよ」
高「ダメだぞ、機会は自分で作らなきゃ。そうだ、今度女紹介してやる。女子大生、社会人、女子高生、なんでもあり。よりどりだぜ?」
今「お前って、なんていうか、すごいな」
高「こんなの普通だって」
今「あのさ、女って何がいいの?」
高「ばあか。決まってんだろ、そんなの」
今「(息を呑む)」
高「セックスだよ」
今「…………」
高「セックスなくして男も女も語れないって。人間はな、セックスする為に生まれてくるようなもんなんだよ。いわゆる『本能』ってやつだな」
今「そんなもんなのか?」
高「そんなもんなんだよ」
今「なんていうか、それだけってのはちょっと」
高「はあ?なに純情ぶっちゃってるの?理性が邪魔をするってか?そんなもんはな、捨てちまえ。人間だって、所詮動物なんだぜ?気持ちよければ、それでいいんだよ。肝心なのはな、開き直りだ」
今「開き直り?」
高「そうだ。俺はただの男なんだ、そう認識して開き直っちまえば楽しいぜ?だいたいな、お前は何でも力が入りすぎなんだよ。もっと肩の力を抜いて楽に行こうぜ、なあ」
今「…………」
高「燃えろよ、もっと。あ、あの子、かわいい。お姉さん、胸でけー。声かけちゃおっかなー」
今「(怪訝な顔)……」
高「もう一度聞くぜ。お前は酒も女もやらなくて、何が楽しいんだ?何が楽しくて生きてるんだ?」
今「…………」
高「はっ、つまんねーやつ」

高下、酒を飲み干し、立ち上がる。

今「あ……」
高「いいよ、ここは俺のおごりで。(カウンターに)マスター、ごちそうさま(お金を払う)。ああ、ボトルはキープしといて。それじゃあな、若者よ。ふふん♪(鼻歌を歌う)」

高下、ふらふらしながら下手にはける。

今「そうか、俺、つまらない奴なんだ」

暗転

メイド喫茶で語り明かす男が二人。上手に席。向かい合って座り、側面を見せる。長上手側、牛島下手側。
牛島、キモイオタクキャラでコーヒーを飲む。

牛「アニメも見ない、マンガも読まない、エロゲもネットもしない。お前さあ、何が楽しくて生きてるの?」
長「え?」
牛「なんかさあ、楽しいことがないと生きていけないじゃん、人生って。お前の楽しいことって何?」
長「いや、特には」
牛「ダメだよ、そんなの。何か素晴らしい作品を見なきゃ。人生変わるような名作に出会わなきゃ」
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