お狐さま
『お狐さま』

一人で黙々と勉強する男が一人。(女でも可)

狐「えーっと、社会科は終わりっと。次は国語だ」
ものすごいスピードで本を読み進める。数冊を数秒で読破。
狐「よし、終わった。次は数学。えーっと、Xにこれを代入してっと。ん?これグラフどうなるんだ?あーはいはい。上に凸っと。あれ、こっちの問題わかんないや。ん?これ背理法か?数学的帰納法か?証明問題って苦手なんだよなー」
ものすごいスピードで書く。
狐「よし、こんなもんだろ。次は英語っと。あー英語かー。英語って苦手なんだよなー。日本人なら日本語だけ喋ってればいいじゃん。でもまあ、勉強しなきゃどうしようもないもんな。ええっと、I wish I were a bird .……ワーって……一人称なのにワーって。しかも過去形。ん?仮定法?わからん。英語のルールがわからん。よし、英語はとばそう。次は……理科だ。これなら簡単かなー。あーはいはいはい、相対性理論ねー。これが、こうなってと。んー、基本概念は楽しいんだけど、式で説明しろって言われると途端にやる気なくすんだよなー。理科って言うか物理だよなこれ。化学もやらなきゃ。シュレーディンガー方程式、書けるけど意味は知らない。だー!」
勉強道具を投げ捨てて寝転がる。
狐「飽きた。勉強飽きた。もーやりたくない。限界。ていうかセンター前だってのになーんで俺はこんな宿題やってんだ?あーどっか旅行行きたいなー。海いいな海。沖縄行きたい。でも海外は怖い。ていうか県外行きたい。県外。ていうか俺この町から出たことねー。それ以前にここ最近外に出てねー。あー太陽の光に当たりたい」
上手から女1がいなり寿司を持って登場。男の近くに置くと手を合わせる。
狐「お、差し入れだ。これこれ、やっぱりお稲荷さんがないとやる気出ないんだよねー。ありがとう。いっただっきまーす」
女1「どうか息子がセンター試験でいい点が取れますように」
狐「あーはいはい。お母さん、僕もねこれでも結構がんばってるんですよ。やっぱり結果って奴は今までの本人のがんばり次第だと思うんだよねー。後は時の運。だからさ、別にそんなに気を張らなくてもさ、ね」
女1二礼二拍手。
男も頭を下げる。
狐「ああ、これはどうもご丁寧に」
女1はける。
狐「これごちそうさまでーす」
男1が下手から現れる。カラカラと鈴を鳴らして手を叩く。
男1「神様、どうか息子が大学に合格できますように」
狐「ああ、お父さん、そんなに力まなくても。神頼みもわかるけどね。僕もね、一生懸命やってるんですから。きっといい結果を残せると思いますよ」
男1「ああどうか、何とぞ、何とぞどうか、お願いを!!」
男1お金を投げ込む。
狐「ああどうもどうも。おだちんかあ、これもらえるとやる気出るんだよねー。お、お札もある。お父さん、奮発したね!」
男1「何とぞ!何とぞ!」
狐「ああはいはい。任せときなさいって」
男1頭を下げてはける。
狐「いやはや、この時期はタイヘンだねえ〜。俺もがんばらないとね」
男、勉強を再開。
上手から女2登場。
狐「お、新しい人かな」
女2「なんかぁ、あたしぃ、学校でぇ、宿題とか出たんだけどぉ、ちょーだるくてぇ、ちょーうざくてぇ、ちょーありえなくなくない?ていうかぁ、カレシと遊ばないといけないしぃ、ていうかぁ、ぶっちゃけ学校行きたくないしぃ、ていうかぁ、代わりに宿題やってくんない?みたいな」
狐「ちょちょちょ……ちょっと待って。お姉さん、まずその言葉使いなんとかならないの?」
女2「ていうかぁ、あたしぃ、ちょーかわいいしぃ、ちょーモテるんだけどぉ」
狐「知らねえよ」
女2「それでぇ、あたしぃ、いろんな男に言い寄られてぇ、ちょーこまってんのー」
狐「あのね、うちは恋愛相談所じゃないからね」
女2「今のカレシはぁ、結構優しいしぃ、かなりお金も持ってるしぃ、ちょー かっこいいんだけどぉ、最近ちょっとマンネリ化してきたっていうかぁ」
狐「訊いてねえよ。ていうかぁ、その喋り方どうにかなんないの?みたいなぁ」
女2「だから最近ー、ちょーうざいとか思ってだけどぉ、言い寄られるのもぉ、悪くないかなとか思ってぇ、ちょーウケる」
狐「だからね、うちは恋愛祈願とか縁結びとかそういうのはやってないんだから。参ったなー」
女2「そういうわけでぇ、あたしぃ、ちょー忙しくてぇ、宿題やって欲しいんだけどぉ」
狐「そう、うちは学業専門!他はノータッチなの!」
女2「じゃあ後はよろしく、みたいな?」
女2ノートを投げ込む。男の頭に当たる。
狐「いてっ。なんなんだよこの女はー」
女2「じゃあー、お礼にぃ、これあげるからぁ」
女2何かを貼る動き。
狐「プリクラを貼るな。賽銭箱にプリクラを貼るな」
女2「ちょーかわいいんだけど」
狐「全然かわいくないんだけどっ。帰れ!お前とっとと帰れ!」
女2「ちょーウケる」
女2はける。
狐「くそ、最近の若者はみんなああなのか?ああ!誰だぁ、ビックリマンチョコ貼った奴は!」
一生懸命はがす。
狐「くそ、取れない!ちくしょー賽銭箱をなんだと思ってんだー。プリクラ手帳じゃねえんだぞー。ここでメアドを交換するな。ホモダチ募集するな。神主ぃ〜掃除してくれよぉ〜。一応俺んちだぜ。俺神様だぜ」
剥ぐのを諦めて立ち上がる。
狐「だいたいさぁ、最近の人はなんでこう他力本願な人ばっかりなんだろうね。そのくせお供え物のいなり寿司も賽銭も持って来ない、御守りも買わないしおみくじもしない。これじゃあさあ、うち潰れるぞ。お稲荷さんないと俺やる気出ないぞ」
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