曹達水の夏逝けば
「曹達水の夏逝けば」・・作 結城 翼
                        原作 宮沢賢治『銀河鉄道の夜』


ジョバンニ・・・・・・自意識の強い少年
カムパネルラ・・・・・大人びた少年
女車掌・・・・・・・・待合い室の人々
ザネリ・・・・・・・・同 ジョバンニの同級生。
大学士・・・・・・・・同 地質学者。
助手・・・・・・・・・同 その助手。
マヤ・・・・・・・・・同 蠍座の少女。
鳥捕り・・・・・・・・同 時計のコレクター。
母1・・・・・・・・・ジョバンニの母
母2・・・・・・・・・カムパネルラの母

            
      

Ⅰケンタウルス祭の夜

        夏の終わりの夜がある。
        曹達水の夏の音が聞こえ、重なって楽しげな、けれどどこかせつないケンタウルスの祭の音楽が聞こえる。
        ケンタウルス、露を降らせ。ケンタウルス、露を降らせ!の声が切れ切れに聞こえ、烏瓜の明かりを持った人々が通る。
        お祭りのように人影が舞台をつくっている。
        中央に大きな砂時計と一体になった星座盤が登場し、その下に十二の星座が描かれた六角形のサイコロ状の椅子がおかれる。
        ジョバンニは途中から登場し、あちこちのぞいたりちょっかい掛けたりして祭を楽しんでいる風。
        人々は作り終わると椅子に座り、烏瓜の明かりを持ったまま静止する。音楽は続く。
        カムパネルラの「ジョバンニ待てよ」という声がして、ジョバンニが振り返る。

ジョバンニ :ああ、夏ももう終わりだね。カムパネルラ。もう一度曹達水を飲みたいね。

        ああ、そうだねと言う声。

ジョバンニ :明日では遅すぎる。そう思うだろ。曹達水は夏しか飲まない。それが正しい飲み方というものだよ。そうだね。・・カムパネルラ映       画会憶えてる。あれこそ夏というものだね。手に手に曹達水のコップを持つ。折り畳み椅子をあの露台に向けてならべる係りがいる。       白い布を手すりに帆のように張る係りもいる。映写機が用意され、やがてキセノンランプのかすかな音がして、映写機は回りはじめ       る。僕らは曹達水の氷の音に耳傾けながら、夏を楽しむ。乾杯!

        乾杯!とカムパネルラが飛び出てくる。

カムパネルラ:あ、もう八時過ぎてるよ。
ジョバンニ :うん。
カムパネルラ:教室に砂時計まだあるかな。
ジョバンニ :あればいいけど。
カムパネルラ:ザネリも勝手なことするんだから。
ジョバンニ :帰って、見たら無かったんだ。
カムパネルラ:あの砂時計、大切なんだろ。
ジョバンニ :うん。父さんのだよ。北の漁に行くとき、僕にくれたんだ。

        ケンタウルス、露を降らせ。
        人が通っていく。人々は、適度に通りまた静止する。

ジョバンニ :あっ。ザネリだ。
カムパネルラ:川へ行くんだろうか。
ジョバンニ :後で行こう。烏瓜流すんだ。
カムパネルラ:そうだね。
ジョバンニ :ザネリ、烏瓜流しに行くの?

        ザネリ、「ジョバンニ、お父さんからラッコの上着が来るよ」。人々、「ジョバンニ、ラッコの上着が来るよ」。
        はっとする、ジョバンニ。痛ましげなカムパネルラ。

ジョバンニ :・・ザネリはどうして僕がなんにもしないのにいつもあんなこと言うんだろう。

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