溶ける
「溶ける」 作・東 詩依




【登場人物】

 男1
 男2




   舞台は公園である。
   舞台中央にベンチが置かれており、そこは木陰となっている。


◯公園(夕方)


   夏の終わりの公園。
   夕方になり、暑さも多少引いてきた頃。
   ひぐらしが鳴いている。
   1がベンチで涼んでいる。


   2が下手からやって来る。
   休める場所を求め、1の隣に座る2。
   鞄から凍った飲料が入っているペットボトルを取り出し、口に含む。


2 ふぅ……。
1 今日も暑いですね。
2 え? ……あぁ、そうですね。だいぶマシにはなってきましたが。
1 えぇ、そろそろ秋も近いでしょう。
2 そうだといいんですけど。(飲む)
1 涼しげでいいですね。
2 これですか?
1 はい、凍らせてるんですか?
2 えぇ、妻がこうしたほうがいいって。
1 なるほど、愛の氷というわけだ。
2 (笑って)何ですかそれ、恥ずかしいことを言うのはやめてくださいよ。
1 いえいえ、日常のふとした気遣い、そういったものにこそ愛が宿るというものです。
2 何だか含蓄がありますね。
1 ただの経験論ですよ。
2 なるほど……じゃああなたの奥さんも愛に溢れた方なのでしょうね。
1 えぇ、当時はたくさんの愛をいただきました。
2 当時……?
1 もう随分と前に先立たれてしまいまして。まぁそれも仕方がないことなのですが……。
2 そうでしたか……。
1 昔の話ですから、そうお気になさらず。
2 でも、だいぶお若く逝かれてしまったのでしょう……?
1 いえ? 米寿も迎えましたし、大往生と言ってもいいのではないでしょうか。
2 米寿って……八十八ですよね……?
1 あぁ、若い方には馴染みが薄かったですね。そうですよ。
2 若い方って、あなたもそうでしょうに……。いったい歳の差いくつだったんですか?
1 同い年です。
2 え?
1 幼馴染だったんです、彼女とは。

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