英加総合大学の事件簿
~あの男編~
英加総合大学の事件簿 『あの男』 編
                               作:魚谷肴


北条 静 (ほうじょう しずか)
   英加総合大学 心理学部心理学科所属 三年生
渡辺 純 (わたなべ じゅん)
   同大学 文学部文芸学科所属 一年生

礼度(れいど) 教授
   同大学 心理学部准教授 「現代犯罪から読み解く犯罪心理学」ゼミの担当教授
波戸 宗次 (はど そうじ)
   同大学 経済学部経営学科所属 四年生

安曇川 藍李 (あどがわ あいり)
   同大学 文学部人文学科所属 四年生
加瀬 史奈 (かせ ふみな)
   同大学 医学部教授


モブ
 女子生徒A
 女子生徒B
 准教授

ガヤ
 サイエンスサークルの男性
 演劇部員A
 演劇部員B

  渡辺が一人パソコンを開いている。

渡辺  皆さんは、シャーロック・ホームズをご存知だろうか。シャーロック・ホームズは十九世紀後半に活躍したイギリスの小説家、コナン・ドイルが創作した推理小説の主人公を務める架空の探偵である。ホームズは類い稀な推理力と観察眼を持っていたというのは、かの作品を拝読したことのある者ならば誰もが知っているだろう。しかし、こうも思ったはずだ。ホームズは所詮、創作の中の人物であり、彼のような特技を持ち得る人間というものは現実にそうそう存在するようなことはない、と。
かくいう私も、その一人だった。しかし、私のその型にはめられた常識というものは、彼女に出会ったことによってことごとく打ち砕かれたのだ。
彼女の名前は、北条静。都内のとある大学に通う、はたから見ればおおむね一般的な大学生である。しかし、今回私がここに記(き)するのは、冒頭紹介したシャーロック・ホームズを連想させる彼女の推理力。及びそれによって解決された、学内のある珍事件についてだ。

  場所、大学内ゼミ室。

渡辺  ふぅ……書き出しはこんな感じかな。
北条  随分と集中しているようだね。渡辺君。
渡辺  わっ! ほ、北条さん?!
北条  私が入ってきたことにも気づいていないようだったが、随分と力の入った書き物のようだ。何かのレポートかな?
渡辺  え、ええと、そ、そんなところですかね。あはは……
北条  ……なるほど。何か私に手伝えることがあれば言うといい。
渡辺  は、はい! その際は是非!!

  北条、ゼミ室内の椅子に座り、スマホを見ている。

渡辺  言えるわけがない。あなた自身をネタにしたブログを書いているのだ。なんてこと。しかも無断で。

  渡辺の一人語り。

渡辺  そういえば、ご挨拶もなくすみません。改めて、初めまして。私の名前は渡辺純。ここ英加総合大学、文学部文芸学科の一年生です。そして彼女が、私が心の中で和製ホームズと呼んでいる、北条静さんです。心理学部所属の三年生で、このゼミのチームリーダーを務めています。私はひょんなことからこのゼミにお世話になることになったのですが……。あ、ひとまずは私と北条さんの出会いについてご説明した方がよさそうですね。


渡辺  あれは、私がまだ新入生と呼ばれていた春先のお話です。

  舞台は授業後の教室。焦った様子の渡辺。

渡辺  あれ…? ない? ……ない? ないっ!? やばい、まさか……落とした? あのノートの中身。人に見られでもしたら……
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